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19. 辛さと楽さは反しない

「なぜあんなことを言った! そんなに俺が嫌だったのか?!」


 邸宅に帰ってきた途端、玄関広間(ホール)の地点でこれである。

 当然の反応か。私たちは一緒に寝るほど仲良くなっていたのだから。


「フェリクス様のためっていうのは本心です。ウィルフレド様の仰ることは当然のことですし、王太子殿下に歯向かうなどもっての他ですよ。従うしかないでしょう。だから、これ以上は」

 ダメだと言っておいたのにフェリクスが私を抱き締めた。


「ウィルフレド様を説得することですね」


「そんなことはどうでもいい。君の本当の気持ちを知りたい。俺のことを好きだと言ってくれた、あの言葉は嘘なのか」


 私がフェリクスのものになった日に言った、あのたった一言を覚えていてくれたなんて感激である。


 もう別れることは決まったことだし、ここで告白してしまうのもありかもしれない。

 思い出作り。

 青春の1ページを色恋で埋めるのも悪くない。


「嘘じゃ、ないです」

 向き合い、見上げる。

 推しの顔が目の前にあって今更ながら照れるけれど、生まれて初めての告白を素直にしてみよう。今の私は高校生なのだから。


「初めて見たときからずっと好きでした。一目惚れでした」

 これは、思ったより傷付かない。付き合わない前提だと、辛いけど切ないけど気が楽だ。


「初めて……って……? 南の果て……じゃないか……?」

「はい。そうです(そこから腐りました)」


「それからずっと……?」

「はい。ずっと(ヲタ活歴長いんです)」


 なんなら魔石(ロカルナ)を見たときから「あの中に彼が!」とストーキングしていたくらいだが、それは気味悪がられるので言わないでおく。


「あの時の推しにやっと会えた喜びたるや! それはもう天にも昇る気持ちでして、実物はめちゃくちゃ格好良くて素敵だし、しかも話してみたら優しいし気遣いも完璧! まさにスパダリ! 好き過ぎて死ねる、ていうか尊死! 今までもこれからもフェリクス様一筋に決まってるんですよ! (だてに10年選手やってないわ!)」


 高校生らしくどころか、思わずヲタ語りしてしまった。


 フェリクスは固まって、「そう……そうなのか……」とブツブツひとりごち始めたので、私はその場を離れてメイドさんたちに手伝って貰いながら着替え、いつものように裏口から出て自分の部屋に戻った。


 ストーカー行為を暴露しなくても十分ドン引かれたようだ。


 ********************************


 それからは以前の生活に戻った。


 フェリクスは仕事が忙しくなり、城に寝泊まりする日々が続く。私が女だということも黙ってくれているままで、約束を反故にはされていない。たまに帰ってきた時に言葉を交わすくらいで、こちらの様子を気にしてくれる親切な寮長さん。ドン引きしても変わらず声を掛けてくれるので、本当にイイ男なのだなとしみじみ思う。


 この頃から、ウィルフレドとフェリクスはラルカン国の使節として会談や視察の仕事が増えた。土地が豊かで人口もそこそこ多い隣国"エスカス"と友好を深めるためである。これらの活動は王太子の王位継承への道となるため、二人は多忙な日々を送っていた。


 医療技術と回復魔法のお互いの情報提供と協力体制、および適用範囲についての同盟会議が始まる頃、フェリクスの婚約話が噂され始めた。あまりにも頻繁に隣国へ渡っているものだから、お相手はエスカス国の有力貴族ではないかと噂されていた。

 正式な婚約のことは知らないので、おそらく続編終了後のことになるだろう。この後続編でエスカス国と一悶着あるが、それがきっかけで仲が深まるのかもしれない。イケメンフェリクスもとうとう身を固めるのかと私は寂しいながらも安心した。

 推しと過ごしたあの日々は夢だったに違いない。自然とそう思えるようになった。


(まー今は番外編の真っ最中だし? 本編外れても続編前にはちゃんと元に戻るもんなんねー)


 二度と迎えることのない最後の春を迎え、夏の定期考査を済ませ、祭りに遊びに行って過ごしていたら、あっという間に夏も終わった。


 そして城が騒然となる事件が起きる。

 第二王子ティトの失踪だ。

 魔力の回復したティトは、再び自らの魔力で魔法陣を紡ぎ、突然転移したのである。


 いよいよ物語の続きが始まった。


 ティトが失踪した日、ウィルフレドとフェリクスはエスカス国に滞在していた。絶賛視察中である。


 残った者たちで魔法の足跡を辿ると、世界で一番広い大洋の中へ転移したと推測された。


 王は、第二王子を連れ戻すことを命じた。


 しかし、行き先は海の中なのか陸地があるのか、判然としないし誰も分からない。ティトの転移の陣が敷かれているとはいえ、帰還できるかどうかも分からない未踏の地へ行きたがる貴族は少なかった。第一王子のかつての学友、現大臣補佐の四人が名乗りを上げた程度だ。


 そこで白羽の矢が立ったのが、ミナトである。海の果てに行くのに少しでも戦力はあった方が良い。南の果てでの経験があり、また、成績も優秀なミナトに声が掛かったというわけである。


 ウィルフレド保険は必要なかったようだ。

 私は二つ返事で了承し、果てへ続く転移魔法陣の中へ入った。


(いざ、出陣! 魔法陣だけに!!)


 ********************************

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