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16. 策士策に溺れ手玉に取られる

「フェリクス様。言っときますけど、性的行為は禁止です」

「は?」


 キスの興奮が落ち着いてからミナトが言ったことは、俺には理解しがたいことだった。これから先に進もうとしていたのに何を言っているのか。ミナトはまだ俺の腕の中に居て、これから私室に連れていこうしているところである。


「間違いがあってからでは遅いのです。わかりますね」

「責任は取る」

「そんな軽く考えず、ご自分が王族という自覚を持ってください」

「王族とか平民とか君は気にし過ぎじゃないのか」

「これが普通です!」


 ミナトは年上のように振る舞ってプンスカと説教し始めた。

 彼女に嫌われることは避けたいし、しばらくは二人きりで過ごしたい気持ちもある。そこで、期間を設けてはどうかと持ちかけた。


「三ヶ月?短か過ぎです。僕が卒業するまで待ってください」

「それは長すぎないか?!」


 ぎゃあぎゃあと言い合いになるが、無理矢理というわけにもいかないし、ミナトの言うことも尤もなので、一年間というプラトニックの期間に決まった。

 その間に婚姻の法律を改定することを密やかに決意する。王族と平民との結婚を視野に入れた条文にするのだ。半年で改定し、半年間の婚約中に結婚式の手配を済ませ、一年後には結婚。王族にしてはスピーディーだが、無謀な計画ではない。


 次は、どこまでがプラトニックかで言い合いになる。ところが、俺がどこまで譲歩してもミナトは「うーん……」と唸るばかり。


「何がネックなんだ……正直に言ってくれ……」

「今挙げられたこと全部、僕はいいんですけど、フェリクス様は大丈夫なのかと」

「どういうことだ?」

「例えばキスして、もっとしたくなりませんか? 触れたくなりませんか? 深くつながりたくないですか? 抑えられます?」


 まっすぐに俺を見て疑問点をぶつける。さっきまでキスしていた本人が、俺を求めているかのようなことを。その上、

(今俺が挙げたこと全部していいというのか?! ダメだ、それは確かに俺が我慢できん! がしかし!)


「では、俺が大丈夫なら、問題ないんだな?」

「はい。いくらでも。僕もフェリクス様のこと好きなので」


 好き。

 俺のことが好き?


 ミナトから手を離した。

「……すまない……、今は我慢できそうにない……」

 今すぐにでも押し倒してしまいそうだからだ。


 ミナトは「そうですか」と軽く答え、苦悶している俺を尻目にテーブルにつき、お菓子を食べ始めた。「今日も美味しい!」と悶絶している。


 小悪魔が過ぎる。


 ********************************


 ミナトは相変わらず物置部屋に住み、夜になるとたまに俺の私室へ来るようになった。


「毎日でも来て良いんだぞ」


 本当は夕食も共にしたいのだが、ミナトは夜に自分で食事を作って食べている。浴室だけは気に入ったようで、時々入浴目当てでやって来るのだ。

 一緒に入りたいが、「お互い裸で密着しますが何もしない自信あります?」と心を見透かされてぐうの音もでない。


「毎日だと油断するから。気を抜いてはダメなのです」


 入浴後の石鹸の香りを漂わせたミナトを抱き寄せる。

 二人きりでいる間は俺の用意した服をいつも着させている。茶会以外で会うのは夜なので、ここではいつもネグリジェだ。


 抱き寄せたまま顔を上向かせ、唇を寄せ、ミナトの体の曲線を確かめる。そのまま抱いてベッドに載せる。

 横になり腕枕をして肩を抱く。今夜は朝まで同じベッドで、何もせずにただ睡眠を取る。

 ミナトは俺の首に頭を寄せ、片手を胸に置き、足を絡ませてくる。


 そうしてふっと微笑してこう囁くのだ。

「おやすみなさい、フェリクス様」


(本当にこの小悪魔は俺を翻弄する)


 これが素顔のミナトだった。俺の予想の斜め上を行っている。ボソボソと喋るガリ勉野郎で、本音が顔に出てしまう無邪気な子どもで、俺を魅了させる妖艶な美少女。


 一度「なぜそんなに慣れているんだ。まさか初めてではないのか」と問うと、きょとんとした顔で「この人生が始まってから未経験です」と返ってきたので安心したのも束の間、「僕の初めては全部フェリクス様になるんですよね」と嬉しげに笑ったので、その瞬間理性が飛びそうになった。


「はぁ……」


 果たして耐えられるだろうか。


 ********************************

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