15. 抑え込みは技ありまで
冬が近付き、ミナトを邸内へ入れる理由付けが十分あると考えた俺は、準備を始めた。
ミナトにドレスを贈る。
そして気持ちを伝え、彼女の心を俺に繋ぎ止める。
王族が懇意にしている商会のうちのひとつを呼び寄せ、ドレスを用意するよう依頼した。ドレスといっても普段着で、一人で着脱できるような簡易のものを全て持ってくるようにと。ミナトの着替えを手伝っていいのは俺だけだからだ。
「どうしたんですかこれ」
自分のために用意された衣装だと夢にも思わないミナトは、ドレスに囲まれている俺を不審がっている。俺はミナトのために用意したのだと説明する。
「……僕は男ですが」
(知っている。早く俺のために着て見せてくれ)
渋るミナトを命令という理由で説得し、眼鏡を人質に預かって部屋から出た。ミナトがどの程度で着替え終わるのか分からないので、こまめに声をかけて時間を計った。
着替え終えたと聞いたときは心が逸り、俺らしくもなくドアを開ける前に緊張した。
私服姿のミナトは予想通り可愛かった。どこからどう見ても女の子である。もし正装したとしたら、誰もが俺の妻として相応しいと太鼓判を押すことだろう。
恥ずかしがるミナトが愛らしくて思わず抱き締めた。
「君が好きだ」
「すみません。僕女の子が恋愛対象なのでお付き合いできません」
意外にもミナトは冷静だった。もっと驚くかと思ったのだが、そういえば祭りのときに声をかけていた男たちにも存外冷たかったなと思い出す。
俺もその程度なのか。
だが、俺のものになることは既に決まっている。落胆することはない。
それからも次々と服を選んだが、ミナトが疲れてきたようなので、そろそろか、と最後の服を選んでやることにした。本当はもっと服を着せてやりたいのだが、俺のものになってからでも遅くはないだろう。
先程のように部屋を出て待つ、ふりをする。どのタイミングで部屋に入るかは既に計算済みだ。
そうして宝石を散りばめた髪飾りを手にして、部屋へ入り、ミナトと対面する。
「……ミナトおまえ……女だったのか……」
こんなとぼけた台詞を吐いて驚いた顔を作ってみせた。
(さすがのミナトも唖然としているな。どんな理由があるにせよ、隠していたのだからそれなりの事情があるのだろう。泣いてしまうだろうか。そうしたら慰めてやれば良い。怒ったら宥めてやれば良い。どんな君でも受け入れる)
最初憤怒の表情を見せたミナトは、すぐに下を向き、ぷるぷると肩を震わせ始めた。だがじきに意を決したのか、キッとこちらを向き、ツカツカと俺の前まで来た。そしてその場で両膝をついたと思ったら、手をついて頭を床に下げ、声高に叫んだのである。
「ホンットすぃませんっしたぁぁ!!!!」
俺が唖然とする番だった。
(何をしているんだ?)
それから言い訳をつらつらと述べ始め、挙げ句には泣きながら懇願する始末。
(こんなに饒舌だったのか。それに、声も高い。)
なにより、表情と台詞が一致していることが嬉しかった。やっと本当の彼女を垣間見ることができた。
もう隠す必要がなくなったから素を出したのだろう。
肌を出したままの姿と、「フェリクス様だけ」「何でもします」の言葉を聞いて、俺の理性は切れそうだったが、まだだ、もう少しだ。俺のものにするためにはここで言質を取る必要がある。
ミナトに都合の良いように、俺に都合の良い条件を挙げていく。君のためを思って提案している、という体で、俺の手の中に堕ちてくるように誘導する。
二人きりで過ごせるように、使用人を遠ざけ、俺の部屋に囲い込み、ここにいて当然という理由をつけて、居づらくないように、俺のそばに置いておけるように。
深く考えさせてはいけない。ミナトの頬を優しく包み、俺に相対させる。目を逸らさせないように。
「俺のものになれ」
今の俺は慈愛に満ちているはずだ。頷く他ないだろう?
「わかりました。僕、フェリクス様のものになります」
手に入れた。
もう君を絶対に逃がさない。
そのままミナトに口付けをした。ミナトは抵抗しなかったので、そのまま何度も角度を変えて唇を貪った。
読んでいただきありがとうございます。毎日更新頑張ります。フェリクス側事情はまだ続きます。
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サブタイについてですが、柔道の抑込技は、確か今は「一本」「技あり」だけになってるはず。10秒で技あり、20秒で一本。