14. お茶で潤いお菓子で癒され
親しくなるにはどうしたら良いか。
ミロとトビアスが執務室に来たついでに、訊いてみることにした。二人を足して割ったくらいが丁度良いだろう。
「フェリクスが口説いたって無理でしょ。こんな堅物じゃ怖がられるのがオチじゃん」
「そんなこと言っちゃ可哀相だよミロくん。それに堅物じゃないよ、フェリクスはちゃんと不真面目だよ」
「藪から棒に俺を貶し出してんじゃねえよ」
頭を抱えた。こいつらに相談した俺が馬鹿だった。
「ごめんごめん、でもまずはお茶するとかいいんじゃないかな? ミロくんもそうしてるよね」
「そうだな。いいカフェ紹介しようか。そのかわりその子紹介してよ」
「誰がするか。見たら解雇だし目が合ったら殺す」
だが、茶に誘うというのは妙案だ。ただし彼女を人目に晒すわけにはいかないから、邸宅の庭で茶会を開くとしよう。ミロは「俺への当たり強くない?!」と憤っていた。
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俺は早速庭の東屋にティーセットの支度をさせ、その場にミナトを呼び出すことに成功した。
「参りました。何用でしょうか」
「茶でも一緒にどうかと思ってな」
ミナトは明らかにホッとしたように「そうですか」と小さく答えた。俺に叱責されるとでも思ったのだろうか。ミロの言うことにも多少は耳を傾けて反省せねばなるまい。
だがミナトは席につこうとしない。
「どうした」
「僕は平民ですので、王族の方と同じ席につくというのは……」
「気にするな」
「そうは申しましても……」
ミナトは何かを気にしてまだぐずぐずしている。
「それにだ。俺の前に来ているというのに顔を隠すなど失敬だろうが(早く君に会いたい)」
「隠しては……いませんし……、僕はただ人前に出るのが苦手なだけで……」
と使用人の方をチラチラと気にしている。
ミナトと親しくなりたいと焦っていた俺は、使用人のことまで考えが及んでいなかった。使用人を人間として意識していなかったが、確かに使用人の目にすら触れさせたくはない。ティーセットの説明をさせようと待機させていた、俺の気遣いが足りなかったようだ。
すぐに使用人を下げた。そうしてミナトを再び席に誘うと、今度は席についてくれた。
「これを」
髪留めを渡した。シンプルな金と銀のピン。
「ありがとうございます。頂戴いたします」
ミナトは眼鏡を外してテーブルに置き、前髪を摘まんでくるんとねじると頭の後ろに回して、てっぺんをピンで留めた。
(やはり可愛い)
手ずから紅茶を入れてやり、ミナトの前に差し出す。三段プレートに乗った食べ物を前にしたミナトは目を爛々と輝かせている。
「遠慮はいらない」と勧めると、早速下の段のクロスティーニから食べ始めた。次は上の段の栗とカシスのムース、次は下の段のスモークサーモン、と食べたいものから取っていく。その度に美味しさに身悶える姿がひどく愛おしい。
下の段が食べ終わって、中の段のスコーンを手に取り、クロテッドクリームを塗っているときに、ミナトがはたと俺に向き直った。
「……フェリクス様は召し上がらないのですか?」
菓子に夢中すぎて俺のことにようやく気付いたようである。
「そうだな。では俺はそのスコーンで良い」
「これですか?! ……すみません。僕取ってしまいました」
「そうじゃない。クリームもついているし丁度良い」
ミナトの手首を掴み、自分の口へとスコーンを運んだ。ついでにミナトの指も少し頂いてしまったが、それは事故というものだろう。
「申し訳ありませんでした」
「謝ることではない。遠慮するなと言ったのはこちらだ」
祭りの時とは異なり俺に多少の余裕ができていたため、いろいろと話ができた。
遠慮しすぎなことを指摘すると、平民であることを気にしていたようなので、好機とばかりに色々な制約を課してやった。
ひとつ、俺たちのデートは秘密裏に行うこと。
ひとつ、俺以外の前で素顔を晒さないこと。
ミナトは了承した。こんなに可愛い君を、他の誰の目に晒すことができようか。君は必ず俺のものになるのだ。これは決定事項である。
それから何度か茶会を開き、ミナトとは楽に会話が進むようになった。
ミナトの表情は台詞と合っていなくて、そこも可愛かったのだが、慣れてくると拗ねたり焦ったりすることも出てきて、それも可愛い。
いつか、ミナトの台詞と表情とが合うところを見てみたい、ミナトの本音を言える相手になりたい、と望むようになっていった。
読んでいただきありがとうございます。
クロスティーニは前菜です。薄く切ったパンの上にしょっぱいのが載ってます。
三段プレートは基本下から上に食べて、最後に甘いものを食べるのがセオリーですが、美味しく食べるのが目的なのだから好きに食べれば良いと思うのです。しょっぱいのと甘いのを交互に食べると永遠に食べ続けられるのでおすすめです。
前菜やスコーンがフリーリフィルなところもあるし、最後にデザートプレートが別に出てくるところもあるし、場合によって色々なので、好きな物を好きな順に食べるのが一番です!