11. フェリクス王子の憂鬱
ここからフェリクスが語り部です。
魔石の中にいた頃、俺は常に我が国"ラルカン"の王と共にあった。
外交関連、国内行事への参列、政治に関する議論や決定、裁判や調停の判事、資産の視察や点検、交流や歓談etc。俺は謁見の間にいることもあれば執務室にいることもあれば大広間にいることもあり、王の職務を常に傍らで見ていた。
さすがに長年いれば、外語も理解するし、経理・財務・会計も把握できるし、立ち居振舞いも覚える。だからウィルフレドよりよほど俺の方が政務に詳しく王に近いと自負している。
しかし、同時に王という地位を厭忌してもいた。だから早々に王位継承権は放棄した。
俺は次代国王秘書官になる事を求められ、ウィルフレドの隣で職務を全うする。ウィルフレドと同等の力を持つ俺は、アイツのクソ真面目な暴走を止める唯一の相手と言えるからだ。事情が事情で世間に俺の存在は周知されていないこともあり、影の王子としては丁度良い采配である。
この国は王が直接政務を執っているため宰相はいない。
俺とウィルフレドの他には、四人の大臣がいる。その後継には、先の南の果てから帰還したウィルフレドの学友四人が抜擢された。
「よ! やってるかー?! もうメシ食った?! 行こうぜ!」
またうるさい学友どもがやってきた。コンラドは特にうるさい。声がデカイ。動きもデカイ。図体もデカイ。おまけにノックもしない。
「まだ業務中じゃないですか。それとノックはした方がいいですよ」
アダルベルトが冷静に嗜める。そう言いながらも当たり前のように入室し、一番にソファに座る、コイツは実に慇懃無礼なやつだ。
「あーおつかれー。俺今日女の子とランチなんで、報告終えたらもう行くねー」
「今日っていうか毎日でしょ!とっかえひっかえ!いいかげんひとりに決めなよミロくん!」
「トビアスーそうかりかりするなってー。女の子紹介しようかー?」
「やめてよミロくん!そうじゃないよ!」
相変わらずの好色漢ミロと、それを心配するトビアス。ミロは妙な魔力を持っていて、本気で戦うとどうなるのか実は俺にも分からない、普段絶対本気を出さないやつだ。
トビアスはそんなミロにも分け隔てなく接し、何かと世話を焼いている。 魔力量も常人以上にあるし成績優秀なのに、優しすぎて戦いでは本気を出さないタイプだ。
王太子への報告は常に俺が受けることになるため、俺の執務室はウィルフレドと部屋続きになっていて、ウィルフレドの仕事場イコール俺の仕事場である。つまりこいつらの相手はまず俺が担当することになる。
「おまえら王太子の執務室に来て休憩してんじゃねーよ!!」
俺はウィルフレドのお守りに辟易しながらも、そんな退屈な日常を送っていた。
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ある時、騎士養成学校の学生から手紙が届いた。南の果てで出会った小さい少年、ミナトからだった。内容は学校の制度への陳情。
クソほど真面目なウィルフレドは、こういった小さい事柄にもきちんと向き合うので、いつもの事ながらこの少年との面談を受け入れた。
「僕は平民で、王都に邸宅がないのです」
つまりは寮制度をなんとかしろということだ。今すぐどうこうできるはずもない。
中等部の寮のままで、という提案もしてきたが、中等部は平民を受け入れるときに入寮の有無も考慮して入学させているため、空きが出ないように調整されている。
珍しくウィルフレドが熟考もせずに断わるのを見て、困らせてみようと楯突いてみた。
「だったら俺のところに来るか?」
ウィルフレドはブーブー難癖をつけてきたが、俺はそれを一蹴し、我が家の敷地にある小屋に少年を住まわせることに決まった。
ほんの気まぐれの一幕だった。
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