君は俺みたいな男が好きなだけ
拓海の部屋でふたり、まったりしていると、拓海がいきなり、口走った。
グラスを手に、やさしく決めつけるような口振りで。
「汐里はほんとうは俺が好きなわけじゃないんだよ。俺みたいな男が好きなだけ」
ん?
わたしは自分の彼氏が急にとち狂ったのかと目をパチパチ、小首をかしげた。悲しくなる。泣きたくなる。
「それはいいよ、大いに結構。でもそれも見せかけでしかない。汐里は俺に恋をしている自分が可愛くて仕方ないだけだ」
え?
なになに。拓海さん、恥ずかしくないんですかあなた? そんなことすらすら言っちゃって。
だけど、けれど、言われると図星。バレちゃってる。もしかしてバレてる? 顔にでてるのかなあ。わたしは両のてのひらに頬をつつんで、ぎゅっとした。
必殺、タコの口。ぷくぷく、ぷくぷく。こらこら、墨を出しちゃうぞ。ぷくぷく。タコ墨だぞ、怖くないのかい、拓海くん!
「ちょっと、何してんの? 俺の話聞いてた? やっぱりアホだなあ、汐里は」
片頬を上げながらくすっと鼻で笑う。涼しい目もと。悔しいけれど素敵。ゆらゆらするウイスキーを、人差し指でくるりくるり、からころからころ。
気づけば両手に頬杖をついて夢中でいると、さっと、指が引き抜かれた。途端に、蛇のようにしなやかなその手がすうっとこちらへ。
体育座りのまま、わたしは目をつむって期待する。何をですか? 皆まで言うな。野暮というものです。
手がはがされて。ひとつずつ。唇はおのずと閉じる。ぷっくり熱気でやわらかい。
頬をつかまれる。ぎゅっぎゅっ。ぎゅっぎゅっ、ぷくぷく。え?
ぎゅっぎゅっ、こらこら、ぎゅっぎゅっ、ぷくぷく、はい? ぎゅっぎゅっぎゅううう、こらこらおいおい、ぎゅっぎゅっぷくぷくこらこら、ぴかっ!
わたしは目を見開いた。すぐにパチパチパチパチ。小首をかしげる。拓海はにんまり、わたしの目を見てる、負けないよ。負けません。負けないから。けれど恥ずかしい。パチパチパチパチ、もう見れない。何の話だっけ?
思い出した。
拓海が言ったことにちょっと傷ついていた。でもちゃんと見てくれているのがわかって、やっぱり嬉しかった。だけど悲しかった。わたしはもういちど目をつむる。
ほんのり、ウイスキーが苦くて甘い。大人の味。おとなおとな。こども、おとな。こどもこども、おとなこども、おとな。
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