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キーワードの内容を変更させてもらいました。
目が覚める。時計を見るとまだ目覚ましの鳴る時間までは30分程あって2度寝するか迷うけど、待ち合わせもあるし起きるとするか。
部屋を出て父さん部屋の前に行き、少しだけ扉を開けて覗いて見ると既に空になったベッドが見え、もう仕事に行ったのかと思う。
昨日と同じくパンを焼き、牛乳と合わせて朝食をとり、顔を洗って着替える。早く起きた分だけ準備も早く終わり、手持ち無沙汰になる。
どうしようかと考え、昨日の父さんを思い出し、キッチンで食器を洗い、リビングに置いてある母さんの遺影の前で手を合わせる。
父さんのことが嫌いな訳ではない。母さんが死んでしまってから1人で僕を育ててくれた。どこにも連れて行って貰えず、仕事ばかりで家に居ないし会話もないけど、僕のために大変な目にあっているのは分かるから、不満はあるけど感謝している。
でも、父さんは。
「行ってきます」
母さんに手を合わせながら考えているといい時間になったので家を出る。
通学路を歩き、昨日約束した三島さんの家の前でインターホンを押す。
「はい。三島です」
女の人の声がする。三島さんの家は朝に人がいるんだ。少しもやもやとしながらも三島さんを呼ぶ。
「始めまして、糸巻弘和と言います。この時間に三島さんと学校に行く約束をしていました」
学校での挨拶とは違い目立つ必要がないので、悪印象を与えないよう丁寧に挨拶する。
「あら、そうなの。ちょっと待っててね。栞里〜 迎えがきているわよ〜」
「は〜い、今行く〜」
多分お母さんなんだろう。三島さんを呼んでからこっちに声をかけてきた。
「ごめんなさいね。もうすぐ来るから少し待っててくれるかしら」
「大丈夫です。こちらこそ朝早くにお騒がせしてごめんなさい」
「あら、しっかりしているのね。そんなに気を使わなくてもいいのに」
「いえ、三島さんは友達ですし、そのご家族ならこれからも良いお付き合いをさせていただきたいので」
「偉いわね〜 最近の子はみんなそうなのかしら? 栞里にも見習ってほしいわ」
「どうしたのお母さん?」
インターホン越しに三島さんの声が聞こえる
「栞里、準備は出来たの?」
「うん」
「じゃあお友達が待っているから、早くに行きなさい」
「は〜い。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
三島さんが玄関を開けて出てきた。後ろには三島さんのお母さんらしき人が続いて外に出てきた。
「おはよう糸巻くん。待たせちゃったかな」
「待たせてしまったわね。良かったらこれからも栞里と仲良くしてあげてね」
「おはようございます。はい、こちらこそ宜しくお願いします」
三島さんのお母さんに礼をしてから三島さんと待ち合わせ場所に向かう。
「ごめんね、待ってもらって。先に行って龍くんを待ってても良かったんだよ?」
「家からは通り道だからさ、良かったら一緒に行きたいなと思って。ただ、三島さんが気を使ってしまうならこれからはそうしようかな」
「うん。そのほうが気持ちが楽かな」
「わかったよ」
明日からは1人で待ち合わせ場所に行くことになりそうだ。考えてみれば毎日男が女を迎えに行くってのはちょっと気まずいだろう。考えが足りなかったことを心の中で反省する。
待ち合わせ場所に行くと既に浅沼くんが待っていたので声をかける。
「おはよう〜」
「おう、なんだよお前ら一緒に来たのかよ」
「おはよう龍くん。うん、糸巻くんに迎えに来てもらったんだ」
「たまたま家が通り道だったからね。ただ明日からは普通に行くことになるんだけど、僕も浅沼くんたちと一緒に学校に行っていいかな?」
「いいぞ」
「ありがとう浅沼くん」
その後歩きながら学校の授業のことや、放課後に家に行ってみないかと話をしていると学校に着く。教室の前で三島さんと別れてなかに入る。
「皆おはよう〜」
「おはよう〜」
「はよ〜」
挨拶をすると全員が、というわけではないがちゃんと挨拶を返してくれる。席に着く時にちょうど大島くんも来たのでしばらく3人で話しているとチャイムが鳴り、先生が入ってくる。
「おはようございます、皆席に着いてね〜」
皆が席につくと先生が今日の予定を話し始める。
「今日から授業に入ります。これからは各先生方にしっかりと勉強を教えてもらうから頑張って覚えてこうね。特に国語は必ず覚えるのよ〜」
時間割を確認すると2限目に国語が入っている。
「ホームルームはこれで終わりね。1限目の準備をしておくように」
朝礼が終わり先生が出ていった後、数学の準備をする。
「糸巻、勉強わからないとこあったら教えてくれよな」
「僕も糸巻くんに教えてほしいな」
「良いよ、任せといて」
自信を持って答えておく。少なくとも1年の授業では上位を維持できるだろう。正直2年からは自信が無いから今のうちに評価を上げておかないと。
♪〜♫〜♬〜
1限目はあっさり終った。先生の紹介と教科書を3ページ捲ったくらいで終った。拍子抜けしたが初日ということでこんなものかもしれない。続いて2限目。
「はい皆、ちゃんと教科書は持ってきたかな?」
槙島先生が入ってきた。さっきの振りでわかっていたが担当教科は国語だったようだ。
「自己紹介はもう済んでるから早速授業に入るわね」
数学よりも少しだけ進んだところで授業は終わり、また次の授業に入っていく。
♪〜♫〜♬〜
午後の授業も同じく先生の紹介で終わり、ホームルームの時間に入る。
「明日は部活動の紹介があるから、興味がある活動はチェックしておくように」
1日が終わり、放課後になる。今日は浅沼くんの家を教えてもらって、その後に三島さんも連れて僕の家を教えることになっている。隣のクラスで三島さんを迎えにいき、昨日と同じく3人で帰る。
「2人は何か部活動に入るの?」
「俺は小学校からテニスやってたから、中学でも続けるつもりだぜ」
「私はどうしようかな。小学校では何もやってなかったんだ。糸巻くんは?」
「僕も何もやってないよ。父さんが帰ってくるのが遅いから家のことをやらないとね」
「じゃあ皆でテニスやろうぜ。勉強は糸巻が教えてくれ。代わりにテニスは俺が教えてやるよ」
「もう龍くん、糸巻くんは家のことで忙しいって言ったじゃない」
「そんなん母さんにやってもらえばいいじゃんかよ」
「あ〜 実は母さんはもう亡くなってて、家に住んでるのって僕と父さんだけなんだ」
「えっ?」
「そうなの?! もう龍くん!!」
「すまん糸巻、そんなつもりじゃなかったんだ」
「大丈夫、気にしてないよ」
母さんが死んでしまって寂しいけど、死んでしまったことは受け止めているから、そこは本当に気にしていない。
「えっと、そう、だから糸巻くんは大人みたいに礼儀正しくてなんでも自分で出来るようになったんだね」
三島さんが気を使ってか、僕に話を振ってくる。
「うん、なるべく父さんの負担を減らしたくてね」
「凄いな糸巻は」
「うん、私だったら出来ないや」
「そんなことはないさ。2人もこれくらいならきっと直ぐに出来るようになるさ」
浅沼くんの家の前まで行き、自分の家の前まで歩く。
「ここが僕の家だよ。誰も居ないけど、良かったら入っていく?」
2人を家の前まで案内する。家に入るか聞いてみると入ると返ってきたので玄関を開けて案内する。
リビングで母さんの遺影を見つけた三島さんは遺影の前で手を合わせ、それに続き浅沼くんも手を合わせはじめた。
「ありがとう、母さんも喜んでいるよ」
2人にお礼を言うと、
「いや、これくらいはさせてくれよ。さっきは本当にごめんな」
「さっきも言ったけど、本当に気にしていないんだよ」
「龍くん、糸巻くんがこう言っているんだし、この話はもう終わりにしよ」
その後は部屋に行って、持ってるゲームを浅沼くんに見せて一緒に出来るものを探す。三島さんはゲームはやらないらしく部屋のなかを見渡していた。片付けておけば良かった。
一緒に出来るゲームを見つけ、次の休みに遊びに行く約束をして2人は帰る。玄関まで見送りに行くと、
「何かあったら言えよ。俺が力になってやるから」
気にしていないとは言ったものの、やっぱり気にしているのだろう。その言葉に甘えさせてもらおう。
「うん、その時は宜しく頼むよ浅沼くん」
「あ〜、っと、龍でいいよ。俺もこれから弘って呼ぶから」
「私も栞里でいいよ。私もこれからは弘くんって呼んでいいかな?」
三島さんが浅沼くんとの話を聞いて、自分も名前呼びでいいって言ってくれる。
「ありがとう、これからは龍って呼ぶよ。栞里さんもこれから宜しく」
「栞里でいいよ〜」
栞里さん、栞里はにこやかに言ったあと続けて、
「私も何かあったら力になるからね。龍くんだけだと頼りないから」
と言ってくれた。2人とも会ってまもない僕にここまで言ってくれる。僕はいい友達を持つことができたようだ。
「なんだよ栞里、俺じゃあ弘の助けにならないみたいじゃねえか」
「弘くんみたいにしっかりしていればいいけど龍くんだしね〜」
「大丈夫、もう凄く助けられているよ。ありがとう2人とも」
「礼はいいって、じゃあな弘。また明日学校にいこうぜ」
「じゃあね弘くん、また明日。お父さんにも宜しくね」
帰っていく2人を見送りながら思う。
お父さんにも宜しく、ね。
さっきの会話では父さんは男手1つで子育てし、僕は父さんのために早く一人立ちしようと頑張っているように聞こえていただろう。
母さんが死んでから父さんは僕に何も言わなくなった。片付けなど家での仕事分担はなく、やってもやらなくても何も言わない。前に分担の話をした時、
(何もしなくていい)
とだけ言われた。僕が出来ないと思われているのか、してほしくないということなのか。聞いても答えてはくれなかった。今は会話も最低限でしかなく、そこに居るのに居ないように振る舞っているように見える。
母さんが生きていたころの父さんはいつも生き生きとしていて、少し口うるさいくらいに関わってきたのに。なんで変わってしまったのかをずっと考えて、僕はこう考えた。
(父さんは生きる意味を見失った)
母さんが父さんの生きる意味で、それだけが父さんを支えていた。父さんには親戚は居ない。友達と遊びに行っているのを見たことがない。母さんしか父さんに関わってない。そう結論付けたとき、支えをなくした父さんを弱いと思うようになった。
そしてふと、弱い父さんを目にし、そんな父さんが居なくなったとき、僕は生きて行けるのだろうかと考えてしまった。家やお金ではなく、生きる意味として。
(ない)
怖くなった。生きる意味がない自分が。生きる支えが欲しくて欲しくて、どうすれば手に入るのかと考えた。そして父さんが母さんだけを支えにしていたのなら、僕はたくさんの人を支えにできれば、父さんとは違う強い人間になれるのではと思った。
人は支え合う生き物だという。龍、栞里、2人は大切な友達だ。きっと僕の支えになってくれる。他の皆にもたくさん関わって、頼られるようになって、僕も皆を頼りたい。
僕は皆を支えたい。だから皆も僕を支えてほしい。