if 28 浅沼龍之介
投稿します。
ちょっと忙しくて書く時間が取れず遅くなりました。
生存報告も兼ねて先ずは切りのいいところまで。
ここまでは活き活きしています。
「いいか、もう二度と志保に近づくんじゃねえぞ。あと、撮った写真や映像は全部処分しろよ。もしネットか何かにバラ撒いたらお前の人生もぶっ壊してやっからな」
弘を殴り飛ばす。俺は喧嘩慣れしてるわけじゃないが、大して鍛えてない弘をブチのめすくらいは出来る。
これで、栞里は俺のものだ。
「行くぞ、栞里」
弘に聞こえるよう、栞里に声を掛ける。
「し、おり、まって」
弘が栞里を呼ぶ声が聞こえる。
「しお、ま、て」
俺は今、どんな気持ちでこの言葉を聞いているのか。
(当然、ざまあみろ、だ)
前から弘にはムカついていた。俺は怖かったのに。出来ないと思ってたのに。諦めると思ってたのに。ちゃっかりと栞里と付き合いやがって。
ただ、それが見当違いの気持ちだということは分かってる。結局は俺が逃げただけ。俺から離れていったんだから、栞里が弘とどうこうなっても俺には、というより、あいつらにとって関係ないことだ。
関係ない。そう、関係ない。そう、思おうとした。
♪〜♫〜♬〜
「そっか。栞姉えは浅沼先輩より糸巻先輩を選んだのか。うんうん。賢明な判断だね」
「何が言いてえんだよ」
なんだよこいつ。栞里の知り合いみてえだが、会って早々、人を馬鹿にしやがって。俺はもう関係ない、あいつらだけの問題だ。
「栞姉えも負け犬を選びたくないもんね」
「んだとおいっ!!」
こいつ、いい加減にしろよ。
「振られるのが怖くて逃げた負け犬」
「いい加減にしろよテメェ!!」
巫山戯やがって。人が気にしていることをさっきからズケズケと。覚悟は出来てんだろうな。
「栞姉えのこと、欲しくないですか?」
思わず出そうになった手が止まる。
「本当は栞姉えが好きなんでしょ? 糸巻先輩に取られたくないんでしょ?」
「そんなこと」
そんなことはない。俺は引いたんだ。ああ、そうだよ。俺は負け犬だ。また栞里に振られるのが怖くて、もう、踏み出すことができない。
「このままじゃあ糸巻先輩に取られちゃいますよ。可哀相な先輩。先輩のほうが先に栞姉えを好きになったのに、糸巻先輩に取られてもいいんですか?」
「・・・」
ただ弘を、栞里と一緒にいる弘を羨んでいるだけ。
「大丈夫です。私は浅沼先輩の味方です」
「お前、なんなんだよ」
そうするしかないと、思ってた。
「私? 私は栞姉えの親友で、糸巻先輩に恋する可愛い後輩だよ」
「弘に・・・ じゃあお前は」
弘が好き。でも弘は栞里が好きで。それで、俺は、栞里が、好き、で。
「私は糸巻先輩が好き。浅沼先輩は栞姉えが好き。協力できると思いませんか?」
(それは、悪魔の囁きだったのだろう。2人には関わらないようにして、考えないようにしていた。俺が、まだ栞里を諦めていないことを)
それから、俺は志保と協力関係になった。あいつは栞里を寝取る為に女慣れしとけって同学年の女子達を次々と俺に紹介していった。まったくよぉ、俺のファンクラブなんて立ち上げやがって。俺は栞里にしか興味がねえってのに。
最初は2、3人程。まあ、あんまり可愛くはなかったけど、話をするくらいならいいかと顔を出していた。そうしていく内にどんどん人が増えていって、気付けば下級生の女子の殆どが俺のファンクラブに入っていた。栞里と同じくらい可愛い子も入ってきて、我慢するのが大変だった。俺じゃなかったら耐えられなかったぞ。
(そうして一線は越えないように耐えてたのに、あの日、志保から連絡が来て、それから、俺は)
♪〜♫〜♬〜
「栞姉え、弘和さんの告白、受けるみたいだよ?」
遂に来たか。もう直ぐクリスマス。ロマンチックなことだ。
「・・・なあ? やっぱり、栞里達が付き合う前になんとか出来なかったのか?」
沢山の女子達と交流を持って、気付いたことがある。それは自信だ。志保は、女子達を次々と俺に紹介してきたが、あくまで会わせただけ。交流を持つことが出来たのは俺自身の力だと言っていた。最初は信じられなかったが、ここまでくると認めるしかない。俺はモテると。
それを自覚してから、俺には自信と余裕ができた。弘が栞里に迫っているのを見ても、俺ならもっと上手くやれるのにと、何度思ったことか。今の俺なら充分に栞里を手に入れられると思うんだが、こいつはまだ早いと俺を止めてきやがる。
「まだダメだよ。浅沼先輩にはもっと力を付けてもらわないと」
「つってもよ、これで栞里が弘と付き合ったら、手が出しにくくなるじゃねえか。お前だって、弘を手に入れにくくなるんだぞ?」
恋人になれば相手を優先する。そうなったらいくら俺でもなかなか手が出せないだろう。
「今仕掛けたってどうせ結果は同じだよ」
「はぁ? 今の俺ならイケるって。俺がモテるの知ってるだろ?」
こいつもそれを良く知っている筈なのに、なんでこんなに慎重なんだか。これで結果、栞里を手に入れられませんでした、ってなろうものなら、こいつにはキツい罰をくれてやる。
「・・・ねえ先輩? 明後日、パーティーに誘われているよね?」
「ん? ああ、結構可愛い子もいるし、まあいいかなって思ったんだけど、充からも誘われててな。栞里も来るみたいだし、今回はそっちに行こうかなと」
そうだ。もうそろそろクリスマスだ。ここで俺が栞里に告白して恋人になればいい。それで万事解決だ。
「ダメだよ。さっきも言ったでしょ? まだ早いって」
「だから、俺も言ったろ? もう充分に力を付けたんだって」
本当にこいつは。ここまでくると慎重を通り越して馬鹿なんじゃねえかと疑ってくる。どう見たって俺のほうが弘よりも格好いいし、女の子の扱いも上手い。あの時は自分に自信がなくて引いてしまったが、今なら違う。栞里も、きっと手に入れられる。
「いいから言う通りにして。栞姉えとするときに失敗したくないでしょ?」
「んあ? するときって、まさか」
「はぁ・・・ いい? 明後日行くメンバーはねぇ、本当に先輩が好きな子達なの。私には先輩の何がいいのかさっぱり分からないけど、その子達は先輩と付き合いたいって思ってる」
言い方はなんかムカつくけど、俺を好きな子達が参加するのは分かった。まあ、何度か告白されたこともあるし、それは特に驚くことじゃない。
「だから、先輩には気に入った子と仲良くなって、出来れば付き合って、色んな経験をしてほしいんだ」
「いや、経験って。俺はそういうことは栞里としたいんだって」
だからこれまでの告白も全部断っていた。
「だから、その練習をするんじゃない」
「いや、だから俺は栞里と」
「あのね? 栞姉えが弘和さんと付き合うのは確定。そうしたら栞姉えが今更他の男に靡くなんて有り得ないの。ここまではいい?」
「それは、まあ」
栞里がそんな浮気をする性格じゃないことくらい分かってる。だから今のうちに手に入れないとマズイと言っているんだ。
「だから先輩にはそんな栞姉えの有り得ないことを覆してほしいの」
「は?」
何言ってんだこいつ。有り得ないことを覆す、とはどういう意味だ。
「靡かなければ、縛り付ければ良いんだよ」
「縛り付ける?」
「そう、簡単に言えば先輩には栞姉えを寝取ってほしいんだ」
「・・・寝取る・・・」
もう中学生も半ば過ぎているし、その意味は知っている。
「いや、でも、そんなの無理に決まってるだろ。マンガの世界じゃあるまいし」
そういう情報とかは今の時代、いくらでも調べることが出来る。彼女が寝取られた、なんてものを題材にしたやつなんて調べれば直ぐに出てくるだろう。だが、それはあくまでも創作の世界だ。現実でそんなことがあるはずがない。
「無理じゃないよ。ちゃんと段取りを踏んでやれば、絶対に栞姉えを寝取ることが出来る」
志保は何故か確信を持ったように言う。
「だからその段取りの為に、明後日は皆の方に行ってほしいの。後にちゃんと、私の言った意味が分かると思うから。それに、栞姉えとするときに、下手って言われたくないでしょ?」
「ぐっ・・・」
「どの道栞姉えから離れたのは先輩のほうなんだから、今告白したって受け入れられるわけ無いって」
釈然としなかったが、志保の妙な自信。そして何よりも最後に言われた下手という言葉に怖気づき、志保の言う通り下級生達のパーティーに参加することにした。
♪〜♫〜♬〜
(そんで志保の言う通りパーティーに参加して、告白されて、付き合って、あいつの言う練習とやらをして)
志保の言う通りだった。今ならあいつの言った意味もよく分かる。1度経験した女の味はそうそう忘れるものじゃない。女のほうもそうだろう。1度抱いてしまえば相手に情が移る。栞里と付き合うのが目的だったから、他の娘とは真剣に付き合うつもりは無かった。だが情が湧いたのか、このまま栞里を諦めてしまってもいいのではないかと思ってしまった。そして怖くなった。俺はこの程度の想いしか持っていないのかと突き付けられた気がして、このままじゃダメだと、その恐怖から逃れる為に、初めて付き合った娘と別れた。
俺の心境も知らず、志保はどこか関心したように他の娘も紹介してきた。その調子で色んな相手と練習しろって言われたとき、志保に弱音を吐いた。このままじゃ俺は栞里を諦めてしまうと。
そしてそれを聞いた志保は一瞬呆けたような顔をした後、笑顔になり俺に言った。
(ね? マンガの世界だけじゃないでしょ? と)
そして俺は、そこで初めて志保に恐怖を感じた。志保は俺の感情を全部読んでいるのか。全部、志保の手のひらの上なんじゃないか、と。何度か衝突したことがあるが、もし俺が志保にとって邪魔になったのなら、俺はどうなっていたのか。
そんな志保に次の協力を求められ、俺は断ることが出来なかった。協力関係という形は維持しているが、もうそれに意味は無い。
それからは付き合って、別れての繰り返し。充達からは嫌われて、気持ち距離を置かれたが、もう俺にはどうでもいいことだ。そんなことよりも、より多くの女子達と交友を深めるほうが大事だった。志保のアドバイスを受けながら、経験を積んでいく。全部が上手くいったわけではないが、それでも俺の考えよりも志保のアドバイス通りにしたほうが女子との関係は円滑なものになった。その娘は何が好きなのか、どんな気持ちでいるのか、どうやって後腐れ無く別れられるか。他人をコントロールする志保に、改めて恐怖を感じた。
栞里が弘と付き合って暫くすると、2人の雰囲気が少し変わったことに気付いた。つまりは、そういうことだろう。付き合ってるなら別に普通のことだと知っているが、それでも栞里が弘のものになった事実に怒りが湧いてくる。そう、怒りだ。志保に唆され、多数の女子と関係を持った俺は栞里を忘れないよう、常に栞里のことを考えるようになった。弘に向ける笑った顔、それは俺のものだ。偶に見せる悲しい顔、それも俺のものだ。体も心も、全部俺のものだ。俺の栞里、俺だけの栞里なのに。
直ぐにでも弘から栞里を奪いたかったが、志保に止められた。まだ早い、やるのは私が弘和さんを手に入れるときだと。嫌だったが、志保に逆らうとどうなるか分からない。耐えることに我慢が出来ない気持ちを必死に抑え込む。特にキツかったのは高校に上がってからだ。志保が居ない、目の届かない場所。何度栞里を襲おうと思い、踏み留まったことか。この頃になると、栞里への気持ちを紛らわせる為に他の女子と付き合うようになった。栞里、栞里栞里栞里。膨れ上がる気持ちを抑えつけて、2年に上がり、志保が入学してきた。
そして俺は遂に、栞里を手に入れる為の一歩を踏み出した。志保が立てた計画に従い栞里を犯したときは、頭が壊れるんじゃないかと思う程の興奮と快感が俺を満たした。栞里を脅し、関係を強要する。俺に嫌悪を向ける表情すら愛おしい。それからは時間を作っては栞里を抱いた。家まで呼び出したり、栞里の部屋でヤッたりと場所を変え、優しく、激しく、今までの経験を活かしあの手この手で栞里を抱いた。何処ででも、どんなときでも、俺を刻み付けた。栞里は気付いてないかもしれないが、俺への嫌悪は薄れていっている。あんなに激しかった抵抗も、今は弱々しい。もう直ぐ、もう直ぐだ。やっと栞里を手に入れることが出来る。
だが、思うようにはならなかった。もう抵抗もされないし、体も素直に反応している。なのに、いつまで経っても俺に好きだと言ってくれない。俺を、受け入れてくれない。口を開けば弘くん、弘くん。苛つく。どうすればいい。どうやったら栞里を手に入れられるのか。そこで志保に頼り、新しく計画を立ててもらった。持ち上げてから、落とす。言葉にすれば簡単なことだが、これが決め手になった。崩れ落ちる栞里を抱き締め、弘に対する毒と愛を囁く。栞里はもう、弘の名前を口にしなかった。
(俺は、遂に栞里を手に入れた)
栞里を手に入れた翌日、俺は学校で見せつけるように栞里を側に置いた。弘のじゃない、俺の栞里だ。弘だけじゃない、他の誰にも、栞里は渡さない。
もし、まだ弘が諦めていなかったら。もし栞里が取り返されたらと何度も頭に浮かび、振り払う。後は志保が上手くやる、志保ならきっと、弘を上手くコントロールできる。親友、元親友だった弘。栞里を手に入れた高揚が落ち着くにつれ、弘が怖くなってきた。栞里を手に入れる為に俺が弘にやったことが、どれだけのことだったのかを考えると、復讐されても仕方がない。だから、徹底的にやる。弘が何かをしようとする気が起きないよう、俺の栞里を見せつけて、あいつの居場所を奪ってやる。弘が学校に来ていない今、学校中に知らしめてやる。
(なのに・・・)
「チッ、出ねえ」
週末から栞里と連絡が着かない。何度連絡しても、メールしても、何の音沙汰も無い。
「クソっ、もう遅刻しちまうじゃねえか」
俺の家に来る筈の栞里がいつまで経っても来ない。連絡もつかない。暫く待って遅刻が確定しても、まだ来ない。
結局、待っても来ない栞里を諦めて学校に行く。もしかしたら、栞里が来ているかもしれない。そう思い、教室の扉を開けた。
充分に活き活きしたところで次から転げ落ちてもらう予定です。
分割したので次はあんまり遅くならないようにしたいです。




