if 21 浅沼龍之介
投稿します。
もう少し早く投稿したかったのですが、ちょっと忙しくて遅れました。
すいません。
「え〜 先ず、私はこの場に立つことを、10年前から確信していました」
何を喋ろうか、どうやって緊張しないように喋るか、ずっと考えていた。
「何故なら、2人を1番近くで見てきたのは私だと断言できるからです」
知らない顔があるとどうしても緊張してしまう。だから当日はなるべく視界に入れないようにして、自分を誤魔化すしかないと思っていた。
「それは、今日集まった皆さん方も、よく知っていると思います」
でも、蓋を開けてみれば見知った顔ばかりで、あまり緊張しなくていいと安心した。
まあ、考えてみれば当然か。ずっと一緒に居たんだ。俺からしても、馴染み深いやつばかりなわけだ。
「2人が出会ったのは、中学校1年生。入学した次の日からになります」
あの時は、確か面白そうなやつだと思って声を掛けて、一緒に帰る約束をしてたから、栞里とも会わせたんだっけ。
「2人を出逢わせたのが私だと考えると、友人代表としてここに立つのは私以外に考えられません」
断言すると、皆の顔に笑みが浮かぶ。一部、苦虫を噛み潰したような顔をしているやつも居るが、大体の人にはウケたようだ。
「さて、本来なら、この場では相応しくない話だと分かってます。一生に一度の慶事に何を言っているのかと。しかし、私が今この場に立ち、私達をよく知る皆さんの前だからこそ、私の本心からの祝辞を贈らさせていただきたい」
チラリと弘達を見る。それに気付いた弘がコクリと頷いたのを見て、俺も頷いて感謝を伝えた。
「皆さんも知っての通り、弘和くんと私は、2人とも栞里さんに好意を抱き、互いに想いを伝え、争ったことがあります」
知っている皆は苦笑を浮かべ、栞里の両親は驚いた顔をしている。栞里は話して無かったのか。後で謝っておかないと。
「そして栞里さんに想いを伝え、私は振られ、弘和くんが選ばれました」
何人かの顔が真面目なものに変わる。俺が何を言うのかと警戒したんだろう。
「そんな私が友人代表として立って大丈夫なのかと、不安を抱えている人もいるかと思います」
思った通り、バツの悪い顔をしたやつもいる。
「色々なことがありました。それを踏まえて、改めて言います。今ここに立つのは、私しかいないと」
本当に色々なことがあった。親友と呼び合えるようになった友達ができた。漠然と気になっていた子に明確に好きだと思うようになった。親友に好きな子を取られたくないと思った。好きな子に振られた。不貞腐れた俺を立ち上がらせてくれた親友がいた。悔いを残さずに済んだ。正しく初恋を終わらせることが出来た。
「最も交友を深めてきた私だからこそ言えます。私は誰よりも2人を祝福し、幸せを願っていると」
2人には心から感謝している。きっと2人が居なかったら、何かが違っていたら、俺はきっと腐ったままだっただろう。
「私は中学校から今まで、ずっと2人を見てきました。弘和くんは常にクラスの中心にいて、皆から頼られるリーダー的な存在。そんな彼のなかには常に栞里さんがいて、皆もそれを分かって応援していました」
一途に栞里を想い続けた弘。きっとこれからもそうだろう。
「栞里さんは、昔は少し引っ込み思案なところが目立ちましたが、弘和くんの気持ちに触れ、強い心を持つようになり、今では弘和くんと同じく誰からも頼られ、慕われるようになりました」
栞里は本当に強くなった。もしそれに俺が一役買っているなら誇らしい気持ちになる。
「そんな2人が互いを想い、交際して、高校生、大学生を経て、今日を迎えました」
振り返るとあっという間。考えてみると、ずっと弘達と一緒にいたんだな。
「常に2人は想い合い、愛を育んで来ました。そしてこれからも、その愛は続いていくことでしょう」
多分、俺はそんな2人とこれからも一緒にいるんだろうな。
「2人の親友として、私の心からの言葉を贈らせてもらいます」
感謝と祝福、そして少しの申し訳なさを込めて、結びの言葉を贈る。
「弘、栞里、結婚おめでとう!! これからも幸せに!!」
♪〜♫〜♬〜
「マジで焦ったぞ。なんか余計なこと言うんじゃねえかって」
「全部知ってるお前らの前で取り繕っても意味ねえだろ。弘からも事前に了承もらってたし」
「でも、三島さんのところには謝りに行ってたよな」
スピーチが終わり、急いで栞里の両親に謝りに行った。笑って許してくれたが、近くに座っていた父さんに、帰ったら話があると言われた時は寒気を感じた。覚悟していたが、帰った後を考えると憂鬱になる。
「まあ、それはな。そっちは何とかするとして、久し振りだな」
今はあんまり考えたくないので強引に話題を変える。
「おう、久し振り。結構元気そうじゃん」
「中学の卒業式以来だよな。そっちは元気にしてたのか?」
久し振りに会った充は記憶にある通り軽いところを残しつつ、どこか落ち着いた雰囲気を纏っていた。
「まぁな。色々あったけど、元気だぜ?」
色々、か。やっぱ皆色々あるよな。
「そういや、あっちのグループってどこのやつ?」
充の視線を追うと栞里が友達と話しているのが見える。さっきのスピーチのことで誂われているのかもしれないが。
「あっちは大学だな。そんで、あの向こうにいるのが高校」
今丁度、弘が高校のやつらと話している。やっぱり、大学、高校と遡ってくるにつれて人数が激減していく。中学からなんて、充を含めても数えるほどしかいない。
「ふ〜ん。三島さんってかなり明るくなったよな」
「ああ、弘と付き合った頃からな。お前も知ってるだろ?」
「そんときは受験で忙しくて殆ど見る余裕無かったんだよ」
そういや、こいつ3年になってから凄え勉強してたな。2年のときはあんなに勉強なんて嫌いだって言ってたのに。
「偶に聞いてはいたんだけど、実際に見るとな。やっと俺のなかで、おおっ、変わったんだって感じ」
「ん? 聞いてたって?」
「久し振り、充。元気にしてた?」
向こうの話し終わったのか、弘がこっちに来た。あちこちと動く弘達を見て、披露宴って結構大変なんだなと思う。
「おう、元気だぜ。てか、何が久し振り、だよ。招待状出すの忘れてたくせに」
「ぐっ、すまん」
「咲の方には来たのに、俺には来なかった時はなんて友達甲斐のないやつだって思ったよ」
「本当に悪かった」
謝る弘に、俺は混乱した。何か変だぞ。
「いいって、冗談だよ冗談。男なんてそんなもんだろ。俺だって正直言われるまで忘れてたし」
「そうそう、気にしなくてもいいわよ。充だって逆の立場なら絶対忘れてたから」
新たに会話に入ってくる同年代っぽい女。えっと、誰だったか。
「久し振り、咲。悪いな、そう言ってもらえると少し心が軽くなるよ」
咲、咲。ああ、神崎か。そういやよく栞里と一緒に居たな。
「栞里とは話せたの?」
「ええ、さっきね。喜んでたわよ、やっとあんたと式を挙げることが出来たって」
「栞里は元々卒業したら直ぐに結婚する積りだったからね」
そういやあの時の栞里は荒れてたなぁ。卒業が近くなったときに小父さんが反発して、それに栞里が怒って。弘の家にプチ家出、というか同棲し始めて、結局小父さんが折れたんだっけ。
「式の費用を準備したら結婚を認める、だったわね」
「大学時代からコツコツ貯めてたんだけど、流石に足りなくてね。就職してからも2人で貯めてやっとだよ」
「良いわね、ちゃんと貯蓄出来て。私達はいつになるのかしら?」
「うっ、ま、まあその内な」
(???)
何だ、その会話は。それは、いや、そんな筈はない。充に限ってそんなこと。
「ははっ、じゃあ次は充達だな。意地悪せずに、ちゃんと招待してくれよ」
「分かってるって。そうだ、龍、俺達のスピーチも頼むわ。出来れば弘の時みたいに俺の本心からのって感じでやってほしいんだけど。って龍? 聞いてるか?」
(・・・嘘だろ)
充が結婚、この流れだと神崎とだろう。
友達が結婚するってのは嬉しいこと、の筈、なんだが。
(なんか、すっげえ負けた気になる)
別に充を馬鹿にしてるわけじゃないんだが、想像が付かないというか、なんか裏切られたというか。
「お〜い、龍、聞いてるか?」
「ん、あ、ああ、聞いてる聞いてる。スピーチだっけ? 俺なんかでいいのかよ? お前らが付き合い始めたのって高校に入った後の話だろ? そん時のこと知ってるやつのほうが良くないか?」
「付き合い始めたのは大学に入ってからだけど、そうだな。俺達なら他のやつの方が合ってるか。悪りい龍、ちょっと他あたってみるわ」
「いいって。俺も式には呼んでくれよ?」
「分かってるって。ちゃんと招待状出すよ」
「その前にあんたも弘和みたいにお金貯めなさいよ」
充達の今後の結婚予定について話しながら、俺は言いようのない敗北感を味わっていた。
♪〜♫〜♬〜
予想外のことにダメージを受けてしまったが、そろそろ目的を果たさなければ。
充達と別れて志保を探す。栞里や大学の皆の辺りを探していると直ぐに見つかった。
「よう志保。元気そうだな」
「喧嘩売ってんの?」
1人黙々と料理を食べている志保に声を掛ける。
「ずっと食ってたのか?」
「そんなわけないでしょ。ずっと話し掛けられてたから全然食べれてなかったの」
「今日ってお前の友達とか来てたっけ?」
「大学時代の先輩達。下心見え見えで嫌になる」
「そっか、あいつら」
つい拳を握り込んでしまう。
「他にもチラチラこっちを見てくるやつもいるし、早く帰りたい」
てことは高校のやつらか。志保を目で追ってしまうのは正直分かる。なにせ可愛い。容姿、スタイルともに人目を引く。高校や大学でも人気があった。きっと職場でもそうなんだろう。
だけどこいつはずっと弘、弘といって他の男に見向きもしない。何度も告白されてるのに全部袖にしている。
「なあ、ちょっといいか? お前も多分俺に言いたいことがあるだろうし、向こうで話そうぜ」
「・・・まあ、いいよ」
志保を連れて会場を抜け出す。人目に付かないように離れたところに行き、通路の角を曲がって見えない場所まで歩いたところで話す。
「よし、ここでなら大丈夫だろ」
「そうだね。じゃあ、いいかな?」
「おう、いつでもいいぜ」
「じゃあ・・・さっきのアレは何? 当て付けのつもり?」
一呼吸置いてから志保が喋りだす。
「当て付けなんかじゃない。間違いなく俺の本心だ。俺は2人なら幸せになれると確信している」
スピーチでこのワードを言ったら食い付くと思っていた。呼び出す口実として使ったことは少し悪いと思っているが、本心でもあるので許してほしい。
「言ったよね? 幸せってどういう意味なのか。互いに求め合い、互いだけで完結する。余分なものなんて要らないの。自分にとってのその人が居ればそれだけで・・・」
「そんなの、ただの依存じゃねえか」
「いいじゃん、依存で。それのどこが悪いの? 当人が幸せなら、それでいいでしょ?」
変わってない。始めて会ったときからずっと志保の価値観はそのままだ。
弘が好きだと言って、栞里を奪ってくれと言ってきたときに、志保の価値観を聞いた。その時、俺は断った。弘と栞里の間に立ち入ることはしないと。そんな考えは間違っていると。だが何故それが間違っているのかを、俺はこいつに教えることが出来なかった。じゃあ何が間違っているのかと言われて、言葉を返せなかった。
志保が危険な考えを持っているのは充分に分かっていた。だけど否定することが出来ない俺は尻込みして、志保をそのままにしてしまった。幸い弘が志保に全然靡かなかったこと、志保が直接的な行動に出なかったことで致命的なことが起きずに済んだこともあり、今日まで引き摺っても大きな問題は起きなかった。だが、俺が情けないせいで、弘と栞里に余計な負担を掛けてしまった。そして志保にも。
志保の想いを知りながら何もしなかった結果、志保はここまで来てしまった。ずっと弘を追い掛けて、止まることなく、10年以上も経ってしまった。このまま行けばずっと、これは変わらないだろう。
「良くねえよ」
「は? 何言ってんの?」
「良くねえって言ってんだよっ!!」
そんなことが許せるわけがない。俺が、俺を許せない。最初は弘が好きだと公言し、それを突き進む姿に憧れを抱いた。ただ、それだけだった。
「ちょっと、声が大きい。離れた意味ないじゃん」
「うるせえっ!! それじゃあダメなんだよっ!!」
「はあ? うるさいのはそっちなんだけど。何言ってんの?」
出来ることなら応援したくなったこともある。諦めてしまったとき、どう慰めてやるか考えてたこともある。
「依存じゃあダメなんだ。それじゃあきっと幸せにはなれない」
いつからだろう。それをしたくないと思ったのは。応援なんてしたくない。慰めることもしたくない。ただの良い人で終わることが嫌になった。
「何がダメなのよ?」
「んなもん知るかよっ!!」
「は、はあ? 意味分かんないんだけど。頭おかしくなったの?」
未だにその答えは出せていない。だから、俺はその答えを見つけることは諦めた。代わりに、志保自身が別の答えを出せるよう、力を貸したくなった。いや、俺が、志保に別の答えを出してほしいと思うようになった。
「俺にはその答えが出せなかった。もしかしたら、一生出せないかもしれねえ」
「じゃあ、私の意見が正解だって分かってるんじゃない」
「だから、お前が違う答えを出せ!!」
「・・・あのね、先輩。本当におかしくなっちゃったの?」
「いつまで弘を追い掛けるんだ?」
「そんなの、先輩が知ったことじゃないでしょ」
「ずっとこのままでいるつもりか? 弘達は結婚した。その内子供だって生まれるだろう。人様の家庭にまでちょっかいを掛ける気かよ」
「ちっ、さっきからムカつくことをペラペラとっ。先輩には関係ないでしょっ!! 放っといてよっ!!」
右手を伸ばし、志保の左手を掴む。そのまま持ち上げながら、壁に押し付ける。
「ちょっと、何すんのよっ!!」
「俺じゃダメか?」
「・・・何がよ」
「弘じゃなくて、俺を選んでくれよ」
「・・・先輩、私をそんな目で見てたの? ガッカリした。何だかんだ言って、まだ栞姉えに気があると思ってたのに」
「栞里のことは、もう吹っ切れてる。中学のときからな」
「あっそ、じゃあもういいよ。先輩には何も期待しないから。さっさと離してよ」
「幸せにする」
「巫山戯ないで」
「巫山戯てない」
「さっき、自分で幸せとは何か、分からないって言ったよね?」
「言った」
「そんな先輩がどうやって幸せにしれくれるって言うの?」
「だから言ったろ、お前が見つけろって。俺はそれを手伝う」
「じゃあ栞姉えを寝取ってよ」
「断る。弘にも栞里にも、これには関わらせない。俺が、お前の幸せになりたい」
「話にならない。さっさと離して。本当に人を呼ぶよ」
別に今どうこうしたいわけじゃないので大人しく手を離す。掴まれてた手を擦りながら俺を睨む志保に言う。
「今度は諦めないぞ。俺はお前を振り向かせてみせる」
何も言わず俺の前から立ち去る志保。会場に戻ろうと歩いていく背中に声を掛ける。
「絶対に幸せにする」
聞いてるだろうか。いや、聞いてなくてもいい。
「だから、これからもずっと一緒に」
これはただの決意表明だ。どれだけ時間が掛かっても、俺は志保を手に入れる。弘が結婚した今、志保は揺らいでいる筈だ。ほんの僅かでも隙間ができるなら、誰でもない、俺が入ってやる。
「絶対に諦めないぞ」
幸い、俺の近くにはその道のプロがいる。幾らでもアドバイスはもらえるだろうし、快く協力してくれる筈だ。
(終わったら早速助けを求めるとするか)
かなり不機嫌にさせてしまったし、先ずは話せるように関係を改善していくところからかな。
♪〜♫〜♬〜
「検査結果が出たよ。男の子だって」
「そうか、男の子か。名前、考えておかないとな」
「ふふっ、男の子で良かった」
「おっ、お前も男の子の方が良かったか? そうだよな、女の子だったら大きくなったときに心配で」
「そうじゃなくて、これでこの子は天音ちゃんと結婚できるって考えると嬉しくて」
「えっ・・・? いや、天音ちゃん、もう直ぐ6歳だぞ」
「年齢の差なんて関係ないよ」
「いや、でも・・・ まあ、今はいいか。・・・なあ」
「ん? 何?」
「今、幸せか?」
「・・・ふふっ、どうだろうね〜」
これで栞里救済ルートの話は完結となります。
栞里にとってのハッピーエンドを目指して書かせてもらったので、陰が残らない終わり方を目標とさせてもらいました。
話数は短いものの、投稿期間が開いていたので長く感じてしまいましたが、書ききれて良かったです。
これからも各々の幸せが続くよう祈ってこのルートを完了させていただきます。
さて、このルートはこれで完了、ということで次のルートを書かせてもらいます。
話の空気が90度以上違うので、書くときになかなかくるものはあるのですが、書かせてもらいます。
これもその内投稿するのですが、これは本当に短いと思います。
なにせもう引き返せない人がいますし、栞里の精神が限界なので、長くなるとそのまま・・・ ってことにもなるので。
長くなりましたが、これを読んでくれた方、ありがとうございます。
良ければ次のルートも読んでくれれば嬉しいです。




