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投稿します。
遅くなりました。実績集めるのに苦労して、いえ、すいません。
「えっ? 俺達と同じ大学に入るの?」
一学期も終わりに近づき、次の進路を考える時期になった。俺と栞里は同じ大学に入ることを目指す。まだ具体的には決まってないが、入学金を出してもらう以上、お互い出来るだけ妥協はせずに勉強を頑張ろうと決めている。
「そのつもりだぜ? なんだよ、悪いのかよ」
「いや、俺は、栞里もだけど、一緒に居られるのは嬉しいけど、いいのか? 推薦とか目指さなくて」
あれだけ毎日頑張っているから、てっきりそっちの方を考えているのかと思ってたんだが。
「それも少しは考えてたんだけどよ、正直、全国レベルだと俺はそこそこでしかないし、推薦で行けたとして、じゃあ俺はプロを目指したいかって言われると、なんか違うんだよな」
「違うんだ」
「違うんだよなぁ」
でも、確かに推薦を狙うのは先を考えると難しいかもしれない。スポーツ選手としてやっていける人なんてほんの一握り。推薦で行けても、そこは本当にプロを目指す人達が集まる場所。そのなかで競い合い、もし選ばれなかったら。全てが無駄になるとは言わないが、次の道を探すのは大変なことだろう。
そう考えると、龍が今のうちに進路を変えるのは決して悪いことではないのではないか。
「でも、俺達、結構上の方目指すけど、成績大丈夫なの?」
「教えてくれや。頼りにしてるぜ、親友」
肩を組んでくる龍にため息を吐く。大した親友だよまったく。
「じゃあ、親友として俺を助けてくれよ」
俺が指差す方を見て龍は組んでた腕を離してから、やれやれと首を振りながらジェスチャーする。
「おいおい、俺が何とか出来る訳ねえだろ。それにお前の役目だろ? 頑張れ」
だよなぁ。ため息を吐く。さっきといい、今日は疲れる日かもしれない。
「ダメって言ってるでしょっ!!」
「お願い栞姉えっ!! 1日、1日だけ弘和さんとする時に混ぜてちょうだいっ!!」
「日数の問題じゃないの!! 弘くんは私のなんだからダメっ!!」
今が通学中だってことを分かってるんだろうか。まだ人が少ないとはいえ、大声での会話としては内容が過激すぎる。
「え〜 いいじゃんちょっとくらい。もしかしたら新しい発見とかあるかもしれないじゃん」
「そんなものは無いのっ!!」
「分かんないよ? もしかしたら」
そう言って村瀬は俺の方に寄ってくる。
「弘和さん、どうですか?」
そう言って俺の前に立ち塞がる。無視して通り過ぎるとまた面倒なことになると思い、仕方なく足を止めてから聞く。
「なにが?」
「私、栞姉えより大きいんですよ?」
腕を組み、少し寄せ上げることでそれを強調してくる。
いや、そんなこと言われても。
「俺は栞里が居ればそれでいいから。そういうのは他に好きな人ができたときに言え」
「嫌です。私は弘和さん一筋なので」
左腕に抱き着いてきた村瀬は自分の胸を押し付けながら言った。
それを見た栞里が直ぐに来て村瀬を引き剥がそうとする。
「ちょっと、離れてよっ、離れて〜!!」
「い〜や〜だ〜!!」
怒って村瀬を引っ張る栞里、駄々を捏ねる子供のように俺の腕を引っ張る村瀬、たまに通る人や同じ制服を着た学校の生徒から不快な目で見られる俺、いつの間にか少し離れている龍。
ため息を吐く。やっぱり今日は疲れる日だ。
♪〜♫〜♬〜
「栞里、そろそろ勉強に戻るぞ。あと、村瀬はさっさと帰れ」
俺のベッドにうつ伏せになり、枕を抱えている村瀬。そしてそれを引き剥がそうとする栞里。
「お構いなく。皆さんは勉強頑張ってください」
「構うのっ!! 邪魔だから帰ってよっ!!」
引き剥がそうとする栞里に抵抗し、力強く枕を抱き締め、顔を埋めながら答える村瀬に気恥ずかしさを感じる。
「はぁ、大体、龍くんに用があったんじゃないの? 終わったなら帰って勉強したらどうなの。もうすぐテストなんだから」
疲れたのか、一旦手を離した栞里が言う。テスト勉強の為に俺の部屋に集まったが、栞里と村瀬が一緒に来た時は疑問だった。学年の違う村瀬がここに来る意味はない。いつものように俺にアピールする為なら栞里と来る意味がない。
部屋に入って早々にベッドへ倒れ込んだ村瀬だが、龍に何の用があるんだろうか。
「あっ、忘れてた。こんにちは、浅沼先輩」
まだ枕に顔を埋めたまま龍に挨拶をする。
「おう、志保。今日も元気だな」
挨拶を返す龍。そのまま両方とも無言になる。
「えっ、それだけ?」
俺も栞里と同意見だ。
「挨拶は大事だよ。常識でしょ?」
確かに挨拶は大事だと思う。でもなんで今なのか。俺達がなんで集まったかくらい見て分かるだろうに。
「ねえ志保ちゃん。巫山戯てるなら帰ってくれないかな? 私達は大切なテスト勉強があるの」
「やだ。私が居たほうが栞姉えも勉強できるでしょ?」
「全然できないんだけど」
「弘和さんと2人っきりにしたら勉強しないでしょ」
「今日は龍くんも居るからそんなことにはならないよ」
「浅沼先輩なんてどこかに捨ててくればいいじゃん」
「ねえ志保ちゃん。怒るよ」
栞里が凄んで村瀬が黙り込む。
「弘くんに会いたいっていうのは分かるよ? でも、時と場合を考えてよ。この時間は皆で勉強する為に取ったんだよ?」
栞里が志保を叱りつける。これは栞里が正しいので黙って成り行きを見守る。
「龍くんに対してもそう。なんで龍くんを悪く言うのかな。何かあったの? いつもの志保ちゃんなら、ちゃんと守ることは守っているよ」
栞里の言う通り、村瀬はちゃんと越えてはならない一線を持っていたはずだ。全然靡かない俺や栞里に文句や悪口を言うこともあるが、それはまだじゃれ合いの範疇に入っていた。
「・・・ん」
枕を離して起き上がる村瀬。そのままベッドから離れて俺達に向き直る。
「そうだね。ごめんなさい浅沼先輩。栞姉えも弘和さんも、邪魔してごめんなさい」
頭を下げて謝る村瀬。
「栞姉えの言う通り、ちょっと巫山戯すぎたみたい。今日はもう帰るね」
「あっ、ちょっと待ってよ志保ちゃん!!」
自分の荷物を持って部屋を出て行く村瀬。栞里が呼び止めるも効かず、小さいながらも玄関の開く音がした。本当に帰っていったのだろう。
「・・・志保ちゃん、どうしちゃったのかな?」
部屋に残った俺達。暫く無言のまま時間が過ぎたが、ポツリと栞里が呟いた。
「多分、焦ってるんじゃねえか?」
栞里の呟きに龍が返す。
「焦ってる?」
「だってそうだろ? もう二学期も終わるし、三学期なんてあっという間。3年になれば自分の進路のことでいっぱいになって志保と関わることも少なくなるじゃん?」
龍は俺の方を見る。
「入学してから今まで弘にアタックしてもう半年経ったろ。それで何にも進展無し。そんでもう期限も迫ってるってなれば焦るだろうよ」
確かに。龍の言葉には納得できるところがある。これから先、大学を目指す俺達は村瀬と関わる機会がどんどん減っていくことになる。そうなると、村瀬としては俺達が3年生に上がる前に勝負を決めたかったのではないかと思う。入試が終わってから卒業までは時間がないだろうし、その結果次第では更に会う余裕もなくなる。
「そう考えると、志保ちゃんも辛いよね」
栞里が俺のベッドに腰掛けてさっきまで村瀬が抱いていた枕を持ち上げから抱き締める。
「まあ、それは志保の問題だろ。そんなことより、栞里も勉強に戻ろうぜ。それじゃあ志保の言った通り勉強にならないだろ」
枕を抱き締めたままの栞里に龍が言う。栞里は名残惜しそうに枕を戻したときに、あっ、と声を出した。ベッドの隅に手を入れた後、何かを引っ張るように戻した。
「これ・・・」
栞里が手に持っていたもの。普段栞里が着けている鮮やかな色とは違い黒一色だが、間違いなく下着だった。
栞里はそういうのは着けてないと思うし、置いてはいかないだろう。となるとその下着は村瀬の、
「弘くんっ!!」
見ていた俺に栞里が声を上げる。俺、あと龍もその声にビクッっと体を震わせて問題集に顔を向ける。
「も〜っ!! 志保ちゃんは〜!!」
荒ぶる栞里に、今日は勉強にならないなと諦めた。
♪〜♫〜♬〜
「じゃあ私も同じ大学に入ります」
俺達は当然村瀬より1年早く卒業する。村瀬が勉強を頑張って俺達と同じ大学に入っても、その時間の差は恐らく思うよりも大きいものだろう。
「高校だって1年我慢したんです。また1年くらい我慢出来ます。これぐらいで諦めません」
終わってみると早いもので、今日で俺達3年生は卒業する。式が終わったところで村瀬に呼び出され、校舎裏で話している。今日ばかりは、人は居ないようだ。
村瀬は我慢出来る、諦めないと言うが、分かってるのだろうか。高校生の時とは違うということを。
多分、分かってると思う。それでも諦めたくないという村瀬の想いは本当に凄いと思う。いつか龍が俺と同じくらいだと言ったが、正直想いの強さでは村瀬の方が断然上だと思う。
だけど、俺は栞里を愛している。子供が、成人と認められたとはいえ、まだまだ世間を知らない子供が何を言っているのだと思われるかもしれないが、この気持ちは変わることは無いだろう。
俺は村瀬の気持ちに応えることは出来ない。何年経っても、この答えは変わらない。
「村瀬」
もしかしたら村瀬はこれからも俺への気持ちを持ち続けるかもしれない。本当に大学まで追い掛けてくるかもしれない。願わくば、これを機に新しい道を見つけてくればと思いながら伝える。
「俺達は今日で卒業だ、もう直ぐ成人にもなる」
「・・・だからなんですか?」
「この後、栞里の両親に挨拶に行くつもりだ」
「・・・」
「大学生になるし、まだ結婚はしないけど、その積りで挨拶する」
「・・・」
「何度も言うけど、俺は栞里が好きだ。ずっと一緒に居たい」
「・・・弘和さんはそれで幸せになれるんですか?」
「ああ、栞里と一緒に居ることが、俺の幸せだ」
「そうですか・・・ 弘和さん、改めて、卒業おめでとうございます」
「ありがとう、村瀬」
「でもっ!! 私は諦めないが悪いですからっ!! 絶対、追い掛けてみせますからっ!!」
涙を流しながら走って行く村瀬を、俺はただ見ているだけしか出来なかった。
村瀬の姿が見えなくなってから、電話を掛ける。
「終わった?」
栞里からの声。俺はそれに終わったと伝える。
「じゃあ、一緒に帰ろう?」
「そっちはもういいのか?」
「うん。皆とはもう会えなくなるわけじゃないし、またねって」
「分かった、今から行くよ。正門の方?」
栞里の場所を確認してから向かう。
途中で龍に会って、頑張れと軽く肩を叩かれた。ありがとう、また大学でと挨拶して別れる。
「待ったか?」
栞里は1人で待っていた。他の皆はもう帰ったんだろうか。
「大丈夫だよ。龍くんには挨拶した?」
「さっきな。栞里の方は? その、村瀬と」
「私の方は、今日はちょっとね。また明日、電話してみるよ」
「そっか。じゃあ、行くか?」
「うん。でも、ちょっと寄り道してもいいかな?」
「いいぞ」
栞里と歩く。並びながらもやや栞里が先導するかたちで、普段とは違う道を歩いて行く。
「なんか、制服を着てるときに栞里と歩くのって、久し振りな感じがする」
栞里の手を握る。
「いつもは、志保ちゃんが居たからね。こうしてゆっくり歩くのは確かに久し振りかも」
栞里も手を握り返す。手をつないで、2人っきりで歩く。
「どこに向かってるんだ?」
「もう直ぐで着くよ」
歩いていると、見覚えのある道が見えてきた。そのまま歩いていき、目的地に到着する。
「そっか、こんなところにあったんだ。普段通らないから全然気づかなかったよ」
栞里から告白された場所、キスした場所。恋人になれた思い出の場所。
「うん。帰る前に、ちょっと寄っておきたかったんだ」
冬が過ぎ、少しだけ暖かくなってきたこの頃。まだ日が出ている日中ということもあって、子供達が遊んでいる。
「咲ちゃん。誰も居ないって言ってたのに、ちゃんと人が居るね」
「まあ、何年も過ぎれば変わるところもあるさ」
「うん。そうだよね」
俺と栞里は手をつないだまま、暫く公園を見ていた。
「ねえ弘くん」
栞里が口を開く。
「私は弘くんのことが好き。ここで告白した時から、ずっと変わらずに、弘くんが好き」
「俺もだよ。告白された時から、告白した時から、それよりも前からずっと好きだ」
「うん。ありがとう弘くん」
何となくだが、栞里がここに来た理由が分かったような気がする。
不安だったんだろう。小父さんに挨拶をするのが。まだ先の話とはいえ、俺がするのは結婚の許可を貰うこと。難しいと栞里は考えているのだろう。
恋人になってから、安心感を感じていた。あの頃のように、栞里、栞里と迫っていくような勢いは今の俺にはない。それが栞里の不安に繋がったのだろう。もしかしたら、俺が諦めてしまうのではないかと。
「栞里」
手を離し、正面から抱き締める。子供達から見られるかもしれないが気にしない。
「愛している。大学を出たら、俺と結婚してほしい」
プロポーズの指輪はもう少し待ってほしい。これは俺の収入で準備したい。準備出来たら改めてプロポーズするが、今は言葉だけで我慢してくれ。
「うん。はい。私も、愛してます」
栞里も俺を抱き締め返す。
栞里を不安にさせてしまった自分に叱咤する。こんな愛しい人を何故不安にさせているのかと。
「絶対に幸せにする」
「はい」
「だから、これからもずっと一緒に」
「はい、私も、ずっと」
♪〜♫〜♬〜
「ただいま〜」
栞里の家に到着する。栞里の後について、玄関に入る。
「おかえり。あら、弘和くんも。もう、栞里ったら。大事な話があるから先に帰っててって、お父さんが心配してるわよ」
小母さんが栞里を出迎え、俺に気付く。今日の挨拶の為に、栞里の両親には卒業式の後直ぐに帰ってもらった。リビングの奥からもう1人出てくる。
「おかえり栞里。良かったぞ、お前の姿。やっぱりお前は母さんに似て・・・」
小父さんが俺を見て口を閉ざす。
「始めまして、糸巻弘和です。今日は大事なお話があってお伺いさせてもらいました」
「ああ、君が。娘から話は聞いているよ」
「はい。栞里さんとは、良いお付き合いをさせて頂いています」
「そうか」
威圧するような、品定めするような目を向けられる。怯えを見せないように、背筋を伸ばし、しっかりと目を合わせる。
「ほら、栞里。帰ってきたんだから早く上がって。弘和くんも、折角だし上がって行きなさい」
ずっと続くかと思った時間だか、小母さんのお蔭で流れを帰ることができた。
「ありがとうございます」
感謝を伝えて家に上がる。
そのままリビングについて行き、座ってくれと案内される。栞里の家のリビングはソファーではなく座布団に座るタイプなので座布団の横に荷物を置き、座る。自分の部屋に荷物を置いて戻ってきた栞里が近くの座布団を持って俺の隣に来て座る。
「足、崩せばいいのに」
栞里はそう言うがちょっとそれは難しい。今も感じる小父さんからの視線の前で正座を崩すのは抵抗がある。
「そうよ。自分の家だと思って楽にしてちょうだい」
お盆にお茶を載せて小母さんがキッチンから顔を出す。
「ほら、お父さんも。折角来てくれたんだからそんな所に居ないで、こっちこっち」
ダイニングの椅子に座り俺達を見ていた小父さんが声を掛けられてリビングの座布団に座り、テーブルにお茶を置いた小母さんも小父さんの隣に座る。奇しくもテーブルを挟んで俺と栞里、小父さんと小母さんと、挨拶をする席が整ってしまった。いや、小母さんは何となく知っていたような節があるから、敢えてこういう座り方をしたのかもしれない。
「弘和くんだったかな。卒業おめでとう。進路はどうするんだい?」
「はい、栞里さんと同じ大学に行きます」
小父さんの目が険しくなった気がする。
「そうか」
それから小父さんは少し考え込んで、
「それで、大事な話があると言ったね。どんな話だい?」
と本題に触れてきた。
さあ、弘和、ここで決めろよ。どう生活する、まだ早い、世間知らず、そう言われることは分かってる。だけど俺は、俺と栞里は本気なんだ。大人から見れば俺達なんて右も左も分からない子供でしかない。そんな子供ができるのは伝えることだけ。諦めず、喰らいついていくことだけ。
「小父さん、いえ、お義父さん」
だから、俺らしく、諦めずに伝えていこう。
「大学を卒業したら、栞里さんと結婚させて下さい」
これで弘和視点での話は終わりです。
補足になりますが大学のランクはそこそこ高いです。
本編で栞里は赤点常習犯でしたがそれは環境が悪かっただけで地頭はそれなりという設定なので。
次の別視点で少し先の話に触れつつ栞里救済ルートを完了させてもらいます。
まだ実績が埋まってないので次も遅いのですが、良ければ読んでもらえると嬉しいです。




