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「じゃあ2人は幼馴染ってわけだね」


学校からの帰り道、僕は浅沼(あさぬま)くんと隣のクラスで浅沼くんと一緒に帰る約束をしていたらしい三島(みしま)さんと会話しながら歩いている。


「幼稚園からの付き合いだな」


「お父さんたちも、(りゅう)ちゃんのお父さんたちと仲良しなんだよ」


2人は家族ぐるみの付き合いがあるそうだ。じゃあこんな質問をしてみようか。


「2人は付き合ってるの?」


「はぁ? んなわけねえだろ。幼馴染ってだけで付き合うとかマンガの世界だぜ」


「そうだよ。私はもっと大人っぽい人が好きだし」


話していて確かにそんな感じはなさそうだと思った。浅沼くんはちょっと嫌そうに、三島さんはしれっとした顔をしている。

その後やっているゲームの話や僕の自己紹介の時に変なやつだって思われてたこと、三島さんのクラスで先生の言うことをぜんぜん聞かない子がいたとか話しをしながらしばらく歩いていると浅沼くんが、


「じゃ、俺こっちだから。」


分かれ道を越えて進もうとしていた手前で浅沼くんが立ち止まると違う道を指差す。


「わかったよ、僕はこっちだからここでお別れだね」


「おう。じゃあな糸巻(いとまき)。今度一緒に狩りゲーしようぜ」


「じゃあね〜龍くん」


「あれ? 三島さんは浅沼くんと一緒じゃないの?」


「うん、私の家はこっちなんだ」


僕の家と同じ方向を指差す。


「幼馴染って言ってもそこまで家が近えわけじゃねえんだよ。栞里もじゃあな」


浅沼くんは最後に三島さんに挨拶をして歩いていった。


「じゃあ帰ろうか糸巻くん」


三島さんに促されて一緒に帰る。


「てっきり家が隣同士だとか思ってたよ。浅沼くん、あんまり女の子と遊ばなそうな感じがしてたから」


「お父さんと龍くんのお父さんが友達なんだって。だから小さい時から龍くんの家に行ったり、家に来てたりしてたんだ」


親の付き合い、そういうのもあるのか。家じゃあ絶対に無いだろうな。


「ここが私の家だよ」


三島さんが立ち止まって家を指差す。僕の通学路上にある家が三島さんの家だったとは。


「へ〜 僕が通る道沿いにあるんだね」


「そうみたい。糸巻くんはまだ遠いの?」


「ここからあっちに10分くらい歩いたところかな」


自分の家の方を指差し答える。小学校は違うから、この辺りが校区の境目なのかな。


「そうなんだ〜 あっち側はあんまり行ったことないな〜」


「多分校区が違うからね。僕も小学校の時はこっちに来なかったし」


「たしかにそうかも。じゃあ、そろそろ家に入るね。バイバ〜イ」


手を振ってから家に入ろうとする三島さんにダメ元で言ってみる。


「もしよければ明日から一緒に学校に行かない?」


「龍くんとさっきの道で待ち合わせしてるんだけど、それでいいならいいよ」


「それは良いや。早く2人と仲良くなりたいし、ぜひお願いします」


明日から2人と一緒に通学できる時間に家を出ようと決めて帰る。浅沼くんには言ってないけど、仲良くなれたと思うし大丈夫だろう。


家に着き、鍵を開けて入る。誰も居ない家に1人居ると色んなことを考えるようになる。

浅沼くんや大島くんは家に家族が居るのだろうか。帰ったあとどこかに遊びに行っているのだろうか。明日から上手くやっていけるだろうか。今日は本当に失敗は無かったのだろうか。本当に強い人間になれるのだろうか。

取り留めのないことを考えながら部屋にもどり、着替えてゲームを起動する。浅沼くんに合わせるために進めておこう。


  ♪〜♫〜♬〜


下で物音がした。時計を見ると19時を回っていて、扉が開く音がした。父さんが帰って来たのだろう。

ゲームを中断し、階段を降りると水音がした。向かうとキッチンで今日の朝に置いたままにしていた食器を洗っている。


「お帰り」


父さんに告げると頭を動かしこっちを見て、すぐに洗い物に目線を戻す。


「ただいま。洗濯物を取り込んだら夕食にするからもう少し待っててくれ」


洗い物を終わらせた父さんは洗濯物を取り込み片付けた後、キッチンで買ってきたであろう惣菜を食器に空けたり、フライパンで炒めて夕飯を作った。


「さあ、食べよう」


「「いただきます」」


「学校は上手くやっていけそうか?」


「大丈夫。友達も出来たし、明日から一緒に登校することにもなった」


「そうか、それなら良かった」


夕飯中にあった会話はこれだけ。後は黙って食べる。


「ごちそうさま」


「ああ、お風呂を沸かしておくから、準備が出来たら入りなさい」


その後、歯を磨き風呂に入ってからリビングでお酒を飲んでいた父さんに、


「おやすみ」


と声をかけて自分の部屋に戻る。

後ろから、


「おやすみ、早く寝るんだぞ」


と声が聞こえたが振り返らずに階段を登る。

部屋に戻り、ゲームを再開する。

しばらく経って父さんが階段を登ってくるのが足音でわかった。そのままゲームを続けていると父さんの足音が部屋の前にきて、そのまま通り過ぎで自分の部屋に入っていった。

無性に腹立たしくなり、操作にミスが出ながらも切りのいいところまで進め、ゲームの電源と部屋の電気を落としてベッドに入る。

やっぱり父さんは弱い人間になった。

母さんが生きていた頃は悪いこと、駄目なことはちゃんと怒っていた。1日中食器をそのままにしていたり、家に居るのに洗濯物を片付けなかったり、人の目を見ずに話たりと普通なら誰か見たって悪いことを怒らなくなった。

朝早くに仕事に行っていつも遅くに帰ってきて、今はほとんど休みもなくて疲れているはずなのに、僕の面倒を文句も言わずに見ている。

父さんと母さんはよく言いたいことを言えない人間は弱い人間だと言っていた。

なら、今の父さんは、やっぱり弱い人間なんだろう。



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