27 村瀬志保
遅くなりました。
これで本編の方は完結になります。
地の文が多くて読みづらくなってます。すいません。
スマホに着信が入る。無視してもよかったけど、可哀相だから出てあげる。
「もしもし。もう連絡しないでって言ったよね、浅沼先輩」
「す、すまん。なあ、俺、これからどうしたらいいんだ?」
「どうって、勝手にすれば。もうあの人は手に入れたんでしょ」
「で、でも、栞里はなんかいつもの栞里じゃなくて、なんていうか、その、俺に依存してるんじゃないかって」
「いいことじゃん。絶対に裏切らない大切な伴侶を手に入れたってことでしょ。羨ましい。早く弘和さんも私に依存しないかなぁ」
依存する。それは裏切ることがないということ。愛しあう者は裏切ることがない。でも悲しいことに人は裏切る。どんな善人でも、どんなに優しい人でも、簡単に裏切る。だから本当に愛で結ばれるには相手、そして自分を裏切らない状態にしなければならない。
「でも、こんなの俺の望んだ栞里じゃないっていうか、もっと一緒に色々なことを楽しんで、偶には喧嘩もして、でも最後は仲良くなれる、そういう家族に俺は」
「あ〜 それ長くなる感じ?もう夜も遅いし、切るね。気が向いたら続きを聞いてあげる。あっ、そうそう。あの人が依存してるって言ってたけど、本当にそうならいいね」
「えっ、ちょっとそれどうい」
うるさいので電話を切る。1度切ったらその日は出ないと知ってるからか、電話が掛かってくることはない。
(仲の良い家族、ね)
幸せな家族だったのだと思う。
父さんはいつも遅くまで仕事に行っていてあまり家には居なかったけど、その分休みが取れた日には一日中遊んでくれた。
母さんは仕事が終わってからいつもご飯を作ってくれた。
休みの日は疲れているのに色んな所に連れて行ってくれた。
たまに母さんに連れて行かれてお爺ちゃんの家に行ったときにはお爺ちゃんはいつもたくさんのお菓子をくれた。
寂しいときもあったけど、振り返るとやっぱり幸せな家族だったのだろう。
とても微笑ましく、薄っぺらく、反吐が出そうな家族ごっこだと知るまでは。
(本当に仲の良い家族ってなんだろうね)
父さんは仕事と称して女遊びばっかり。母さんは仕事なんてとっくに辞めて誰かの愛人生活。父さんの遊びがバレて、離婚して。母さんに引き取られて、大好きなお爺ちゃんが来てくれて。母さんが愛人やってるって知ったらもう来なくなって、私にも冷たくなって。私が高校に上がったら、母さんはどっかに行っちゃって。家はお爺ちゃんが管理してるけど、私は家に1人。
(これは、仲の良い家族って、言えないよね)
寂しかった。どうしたら元に戻るのか子供ながらに考えてた。でもどんどん家族が壊れていって、お爺ちゃんが来なくなったとき、最初からこの家族はダメだったのだと結論づけた。
(両方とも裏切ってたんだから)
父さんは母さんを、母さんは父さんを裏切っていた。こんなのが幸せな家族なわけがない。
(私は幸せな家族が欲しい)
子供のころから続いている、子供っぽい夢。幸せな家族と、幸せに暮らしたい。でも、どうしたら幸せな家族を作れるんだろう。私の家族は参考にならない。幸せとはなんだろう。考えても答えは出なかった。
両親が離婚して、母さんに引き取られた。それから少し経ったとき、母さんから話しがあった。新しい父さんができると。愛し合っている。今は相手にも奥さんがいるけど、離婚して私と結婚してくれる。すぐに会えると。しかし一ヶ月が経ち、半年が経ち、一年が経っても新しい父さんと会うことはなかった。母さんに聞いても、もう少し、もう少しだけ、あとちょっとの辛抱と、繰り返し答えるだけ。
一度母さんに騙されているんじゃないかと聞いたことがある。叩かれた。何度も、何度も。私がやめて、ごめんなさいと言っても許してくれなかった。
それからは私はその話題に触れることはなくなった。それからまた一年が経ち、私は中学生になった。母さんはまだその人を待っていた。
そのときの私は、母さんは間違いなくその人を愛しているのだと疑わなかった。一途に相手を想うその姿に、これが幸せな家族に必要な愛だと確信した。母さんは幸せになれる。父さんとは幸せになれなかったけど、新しい父さんとは幸せになれる。いつその人は来るのだろうか。その人が来れば、きっと幸せな家族になれる。
でも、その人は来なかった。母さんはその人と連絡が取れず、その時に母さんは捨てられたのだと気付いた。相手の奥さんに暴力を振るったのが決定的だったらしい。
母さんはまた幸せになれなかった。
でも、母さんのお蔭で幸せな家族の作り方が分かった。調べてみると、母さんのそれは一般的には粘着、ストーカーなど、悪い意味で相手に寄り添う行為だった。だけど私はそれを愛だと思った。母さんは報われなかったけど、それは結果でそうなっただけ。相手がそれを受け入れれば、きっと幸せな家族になった。でも、それは母さんにとって幸せな家族。そこに私の幸せはない。
なら、私は私の幸せな家族を作ろう。相手が必要だから、母さんの幸せは母さんが見つけるもの。私の幸せは私が見つけるもの。この時、私の夢は叶えることが出来る夢だと知った。
(あの時は悩んだなぁ)
叶えられる夢だと知って喜んだが、すぐに躓いた。当然のことだけど、家族というからには相手がいる。中学生に上がったばかりの私が相手を作るというのは不可能だと思った。何より大事なのはまず私が好きな人を見つけなければならない。どうやって見つけるか。当時の私はクラスの子とすら話せないくらい人見知りで、仲良く話せるのは栞姉えしかいなかった。格好も地味で、誰からも相手にされない。こんなので好きな人を見つけることが出来るのか。そして、その人は相手に強い執着を持てる人なのか。
(でも、私は見つけた)
♪〜♫〜♬〜
今日も誰とも話せなかった。これじゃあ何時まで経っても夢を叶えられない。気を落として帰る準備をする。
「こんにちは」
廊下を歩いていると突然声が掛けられた。
「えっ・・・えあっ、そ、こ、こんにちは」
家族と栞姉えとしか上手く喋れない私は声にならない声を出して答える。そこにいたのは栞姉えから聞いていた仲の良い、そして栞姉えを狙っている先輩。姿は見たことがあるし、学校じゃあ有名だから分かる。糸巻先輩だ。どうして私に声を掛けたんだろう。
話して見ると先輩は私に友達づくりのアドバイスをしてくれた。私の辿々しい話しにも付き合ってくれて、優しい先輩だなと思った。栞姉えは多分浅沼先輩と付き合うと思うから、この先輩は失恋してしまうけど、元気を出してほしいと思うくらいにはいい先輩だと思った。
「けっこうあるよ? 大雑把に見えて時間とかにうるさかったり、魚が嫌いだったり、三島さんと手をつないでいて帰るくらい仲が良かったり」
(えっ?)
なんでそれを知ってるのか。一昨日栞姉えから聞いた話し。浅沼先輩と2人で帰ったって聞いたから、糸巻先輩は知らない筈だ。何処かで見ていたのだろうか。でもどうして。
(もしかして)
1年に話しを広めようとしているのか。なんの為に。糸巻先輩は栞姉えが好きなのに、なんでこんなことをするのか。
(わざと広めさせるつもり?)
この話を広めるとどうなるか。栞姉えは目立ちたくない性格だから浅沼先輩とは何でもないと言うだろう。浅沼先輩も栞姉えを気遣って合わせるだろう。つまり糸巻先輩は時間を稼げる。
(もしそうだったら)
糸巻先輩は相手を一途に思うことが出来る人かもしれない。母さんと同じ、相手に執着して何でも出来る人。例え誰であろうと、相手を手に入れる為ならばどんなことでも出来る、強い愛を持った人。
心臓の鼓動が速くなった。もしかしたら、私は見つけたのかもしれない。
翌日、隣の子に話しかけた。怖さよりも、興味のほうが遥かに高く、話しかけることに抵抗はなかった。そして数日後、糸巻先輩の狙い通りに栞姉えと浅沼先輩は距離を置くようになった。
私は自分の幸せを見つけた。
♪〜♫〜♬〜
弘和さんは一途な人だった。栞姉えを手に入れる為に何でもやる人で、ついに栞姉えを手に入れた。
その情熱が、その一途さが、栞姉えじゃなく私に向いたら。
(栞姉えにアドバイスしたのは失敗だったな)
お蔭でここまでする羽目になった。まさか本当に栞姉えと付き合うことになるなんて。あの時、知らない振りをしないで栞姉えに伝えて牽制すればよかった。
でも、悪いけど栞姉えに弘和さんを渡すつもりは無い。これから先、私がこんな恋をすることができるか分からない。親友でも、弘和さんは渡さない。絶対に奪ってやる。
過ぎたことは仕方なく、そうして栞姉えと弘和さんは付き合うようになった。それだけ弘和さんが頑張ったってことなんだろう。素敵だ。その愛が私は欲しい。
だがそのお蔭で私の夢を叶える為に、かなりの計画変更が必要になった。もともとは振られた弘和さんに近づき、少しずつ私に気持ちを向けるようにするつもりだった。二学期から思い切ってイメチェンした理由もこのためだった。だけど浅沼先輩が栞姉えから手を引いたことで、一気に栞姉えと弘和さんの仲が深まった。少なくとも、私が入っていっても相手にされないことは確実だ。
弘和さんが3年生に上がれば受験の準備に入る。そこでは今以上に入っていくのが難しくなるだろう。
そう考えた私は中学生で弘和さんに近づくことを諦め、高校生になったときを狙うことにした。そして私が高校生になったとき、弘和さんに近づくために何か使えるものはないかと探し、浅沼先輩に目を付けた。2人を別れさせ、かつ栞姉えの心の隙間を埋めることができる理想の存在。別に私は栞姉えに不幸になってほしいわけじゃない。寧ろ親友として幸せになってほしいと心から思っている。ただ、その相手が弘和さんなのはダメなだけで。
これからやろうとすることは、栞姉えを凄く傷付けることになるだろう。でも、浅沼先輩はきっと心から栞姉えを諦めたわけではない。焚き付ければ直ぐに飛びつくだろう。先輩を栞姉えに執着させ、栞姉えも縋るものが先輩だけになれば、きっと幸せな家族になれる。
♪〜♫〜♬〜
「浅沼先輩」
部活帰り。1人で帰っていた浅沼先輩に話し掛ける。
「ん? 誰だよお前」
「1年の村瀬です。宜しくお願いします」
「そうか、宜しくな」
興味が無さそうな先輩。
「栞姉えがいつもお世話になっています」
「あっ? 誰だよそいつ」
「えっ? 友達じゃないんですか?栞里先輩のことですよ」
「っ、栞里の」
興味を引けたようだ。
「はい。栞姉えの彼氏さんですよね」
「はあ? んな訳ねえよ。ただの友達」
「そうなんですか。あっ、じゃあ栞姉えは糸巻先輩と付き合ってるんですね?」
「ちっ、知るかよ。本人に聞けよ」
苛立ちが見える。やっぱりだ。
「そっか。栞姉えは浅沼先輩より糸巻先輩を選んだのか。うんうん。賢明な判断だね」
「何が言いてえんだよ」
「栞姉えも負け犬を選びたくないもんね」
「んだとおいっ!!」
「振られるのが怖くて逃げた負け犬」
「いい加減にしろよテメェ!!」
拳を振り上げる浅沼先輩。もういいかな。
「栞姉えのこと、欲しくないですか?」
先輩の動きが止まる。
「本当は栞姉えが好きなんでしょ? 糸巻先輩に取られたくないんでしょ?」
「そんなこと」
「このままじゃあ糸巻先輩に取られちゃいますよ。可哀相な先輩。先輩のほうが先に栞姉えを好きになったのに、糸巻先輩に取られてもいいんですか?」
「・・・」
「大丈夫です。私は浅沼先輩の味方です」
「お前、なんなんだよ」
「私? 私は栞姉えの親友で、糸巻先輩に恋する可愛い後輩だよ」
「弘に・・・ じゃあお前は」
「私は糸巻先輩が好き。浅沼先輩は栞姉えが好き。協力できると思いませんか?」
♪〜♫〜♬〜
浅沼先輩には栞姉えを糸巻先輩から奪うために
力をつけさせる必要があった。このままいけば弘和さんと栞姉えは付き合うことになると考え、高校に上がったときに使える力を。
そこからはまず1年の皆を使って浅沼先輩のファンクラブを作った。もともとの下地はあったのだろう。イメチェンした私は皆から注目を集める容姿になった。会話するのは辛かったが、浅沼先輩の話しを軸にすることでなんとか会話を続けることが出来た。仲良くなった子と始め、1人、また1人とメンバーを増やすことが出来た。先輩にも来てもらい直に交流したことが良かったのだろう。
先輩がなんでこんなことをする必要があるのか聞いてきたことがある。そんなのは決まっている。経験を積んでもらうためだ。女の子の扱いを。高校生に上がり、大人の体になったときに栞姉えを寝取ってもらうための。
伊達に浮気が原因で離婚した家庭で育ってきたわけじゃない。体の繋がりが本人、そして周囲にどれだけ影響を及ぼすかは分かってる。
修正した計画。それは先輩に栞姉えを寝取ってもらい、心が折れた弘和さんに入り込むこと。心が折れた時は、情熱や一途さは無くなっているだろうけど、代わりに私に依存させることができる。私を裏切らないことに変わりはない。そして立ち直ったら、その情熱は私に向かうことになるだろう。栞姉えが居なくなったら、その時はもう弘和さんには私しかいないのだから。
♪〜♫〜♬〜
「なあ、本当にこれで上手くいくのか?」
不安そうに話す浅沼先輩。電話越しでも不安が伝わってくる。
「もう、これで何回目? 大丈夫だって。これまでも私の言った通りにしてれば上手くいったでしょ?」
「そ、そうだけど。いざやるってなったら緊張しちまって」
「大丈夫。先輩の言ったことと栞姉えの言葉が正しかったら栞姉えは間違いなく泣き寝入りするから。誰も頼れる人が居ないんでしょ?」
「そうだけど、ほら、もし親に相談したら」
「相談する度胸があるならとっくに弘和さんを親に紹介してるわよ」
栞姉えに聞いたら反対されるのが怖いからだって、馬鹿じゃないの。やることやってるくせに。恥ずかしいじゃなくて怖いとか。いったいこれからどうするつもりだったのか。弘和さんが強引に挨拶に行くまで黙ってるんじゃないか。
「でも、それとこれは別だろ」
「だから保険として脅迫するんでしょ。私の顔写真提供してあげたんだから」
意外と考えている。中学生のときから女子をそれとなく提供してきた。提供と言っても2人で遊びに行くなど雰囲気を作っただけで本人は自発的に先輩と関係を結んでいった。女子達がどんなことを考えているか、仲良くなり、話すようになったその子がどんなことを考えているか聞いたことを先輩に伝え、先輩は要望を満たすよう実行してきた。最初は戸惑い、罪悪感を覚えていた先輩も何度か経験するうちに感覚が麻痺してきたのか私の言うことを鵜呑みにするようになった。栞姉えのこともそのままはいはい言って実行すればいいのに。
「そ、そうだよな。し、栞里が相談なんて出来るわけないよな」
「そうだよ。あっ、一応栞姉えの写真も撮っておきなよ」
「ああ、当然だ。分かってる」
十中八九成功する。仮に写真が無くても、栞姉えが誰かに相談することはないだろう。自分を出すことを避けてきた栞姉えが私達以外の誰に助けを求めると言うのか。ひょっとしたら助けを求めることすら考えないかもしれない。
まあ、別に栞姉えが親に相談するなら、それでもいいんだけど。
メッセージのやり取りは先輩の自作自演。写真は捏造だし、この電話のアドレスと履歴だって高校に入ったときに1度消して、登録し直している。
先輩が失敗しても、私に損はない。先輩が私を共犯として訴えるなら、私は先輩に傷付けられた後輩として弘和さんに泣き付くだけだ。経緯が経緯だから、栞姉えも弘和さんも私を邪険に出来ないだろう。先輩が失敗したら、私が弘和さんを寝取ればいい。先輩には栞姉えを幸せにしてほしいけど、そこは先輩の努力しだいだよね。訴えられる程度なら、到底栞姉えを幸せに出来ないんだから。
♪〜♫〜♬〜
結果、栞姉えは誰にも相談することなく、1人で抱え込んで破滅していった。本当はここまで栞姉えを追い込むつもりなんてなかったのに。意外と粘ったからなあ。
浅沼先輩に犯され、弘和さんには嘘を付き続ける。直ぐに限界が来て別れることになると思ったのに。
それでも耐え続けた栞姉え。だから少し手間をかけ、上げてから落とすことにした。先輩に栞姉えを抱くことを止めさせ、敢えて栞姉えに余裕を持たせた。そして栞姉えが喜んでいるところでそれが無意味になったと突きつける。ベタな方法だが、効果があったらしく栞姉えを堕としたと先輩は喜んでいた。
栞姉えが望んだかたちではないにしても、これで幸せになれる。私は私で、弘和さんを手に入れることが出来ると、これから訪れるであろう幸せを喜んだ。
だけどあと一歩足りなかったようだ。
弘和さんは栞姉えに酷い振られかたをしたのに立ち直ろうとした。素敵だった。素晴らしい愛だった。私の目に狂いは無かった。でも、何故か無性に苛立ってしまった。私はこんなに弘和さんを愛そうとしているのに、なんでまだ立ち直ろうとするんだろう。弘和さんの部屋に行き、糾弾された時、まだ栞姉えを諦めてないことを知って、私はその苛立ちのままに行動し、徹底的に栞姉えを壊してしまった。
♪〜♫〜♬〜
弘和さんの部屋で栞姉えに電話をする。何も知らない振りをして栞姉えを追い詰める。ごめんね栞姉え。本当に栞姉えには幸せになってほしかったんだよ。でも、私はどうしても弘和さんが欲しいんだ。ここで止めたら弘和さんは立ち直ってしまうかもしれない。また栞姉えを手に入れようと頑張るかもしれない。全部を知っても、栞姉えを受け入れるかもしれない。そうなれば恐らく浅沼先輩じゃあ太刀打ち出来ない。
(だから、ごめんね)
「そんなに被害者ぶりたいんだ」
「っ・・・」
通話の向こうで栞姉えが息を飲むのが分かった。追い詰めすぎると栞姉えは壊れてしまう。だから堕とされて先輩のものになったときは幸せを喜び、何より安心した。
「私は弘くんが好き。でも弘くんは私を裏切った。龍くんに縋るのは仕方ない。私は悪くないって、そう思ってるの?」
弘和さんに栞姉えが何をしたのか伝える。
そしてそれは栞姉えを揺さぶり、堕ちた心を震わせる。もしもこの場に弘和さんが居なかったら、もしくはもっと早くに折れてくれたら、栞姉えを壊すことはなかった。
(私は栞姉えよりも弘和さんを取る)
弘和さんの心にいる栞姉え。そんな栞里姉えは邪魔でしかない。
弘和さんにどれだけ栞姉えが酷い裏切りをしたか伝えた後、この会話は弘和さんも聞いていると栞姉えにバラす。
きっと栞姉えは逃げる。今の会話を聞いた弘和さんは自分を責める、傷付けると。そして先輩に逃げた。弘和さんもそれを知り、今度こそ心が折れたようだ。
弘和さんを見る。傷付いて、心が折れた弘和さん。やっと手に入れることができる。後は私がそこに入るだけ。
(絶対に堕としてやる)
「あんたのほうが余程最低じゃない」
(邪魔をするなら親友でも容赦しない)
♪〜♫〜♬〜
今日も弘和さんと一緒に歩いていく。今の弘和さんは、あの時の熱は持っていない。だけど私は知っている。弘和さんがどれほど強い愛を持っている人かを。
「なぁ」
「どうしたの?」
「なんで、一緒にいるんだ。こんなに」
「好きだから」
別に私は弘和さんの愛の強さだけを見てここまで好きになったわけではない。始まりはそう。1番求めるものもそう。だけど、後輩として一緒の日々を過ごすうちに、弘和さんの全部が欲しいと思った。あの時の告白は嘘じゃない。
多分、そうじゃなかったら、栞姉えを壊したりしなかった。浅沼先輩は依存していると勘違いしているけど、栞姉えはただ我慢してるだけ。そして我慢して我慢して、それが耐えきれなくなったとき、2人の関係は終わることになるだろう。私がやったことではあるが、結局2人は幸せにはなれなかった。
「それだけで」
「好きだから一緒にいたい。弘和さんとこの先もずっと愛し愛されていきたい」
私は弘和さんを誰にも渡さないし、弘和さんも、誰よりも私を求めてくれる関係になりたい。
「愛って。・・・もう俺にはそんなの」
「ちゃんと持ってる。今はちょっと疲れてるだけ。だから私が支えるよ。弘和さんが自分を取り戻して、私を見てくれるように」
私だけの弘和さん。私だけを見てください。
ああ、やっと、
(私は幸せを掴んだ)
これで本編が完結しました。
最初にこの作品のキーワードに女主人公を入れた理由はこれでした。
この結末ありきでの構成にしたため、最後に弘和の心が折れる表現が雑になってしまいました。私の力不足です。
本編では高校での龍之介視点は入れるつもりはありませんでした。何故なら中学のときから志保の傀儡だったからです。やる意味がありません。
この本編では志保の一人勝ちを狙って書きました。
感想で頂いたもしも、を実現するには中学時代で志保をなんとかする必要があります。
本編はこれで終了するので、作品は完結扱いにさせてもらいますが、要望を頂いた幾つかのもしもの話も少し書いてみようと思います。
毎日の投稿は出来ないですが、できたらこっそり投稿するつもりなので、良ければ読んでもらえると嬉しいです。
最後に、この作品を読んでくれた方、評価してくれた方、約一ヶ月、本当にありがとうございました。




