24
投稿します。
宜しくお願いします。
「よく連絡できたな」
つい志保に対する当たりが強くなってしまった。ダメだ。あまり刺激して電話を切られるのは避けないと。
「何言ってんの? 連絡しろってメールしたのそっちじゃん」
「ああ、すまん。まだ頭がハッキリしてないんだ」
「ちゃんと休んでなよ〜」
「分かってる。でも、その前にちょっと聞きたいことを思い出したんだ」
「・・・何かな」
志保の声の感じが変わる。俺の聞きたいことを察したようだ。つまりこいつは龍の共犯者だろう。
「栞里と龍のことで、何か知っていることはないか?」
「知ってるよ。やっぱり先輩も知ってたんだ」
「ああ。考えたらすぐに分かったよ」
「そうなんだ、凄いね先輩。それなのになんか落ち着いている感じがする」
落ち着いている。そんなわけがない。こいつのせいで栞里との関係が滅茶苦茶になった。今すぐ怒鳴りたい気持ちを抑えているのはこいつに栞里を騙していたと白状させるためだ。
「まあ、色々あったからな。それでな、その」
上手く誘い込む口実が見つからない。電話が掛かってくると思ってなかったから言葉が続かなかった。
「いや、ちょっと相談事があってな」
「そうなんだ。実は私も先輩に話しがあったんだけど、体調のほうは良いの?」
「えっ、お前が俺に?」
「うん。先輩さえ良ければ今日お見舞いがてら行こうかなって思ってた」
どういうことだ。なんで俺に会おうとするんだ。お見舞い、ということは家に来るということ。俺が志保を疑っていることは分かるはずだ。
「そっか。いや、そういうことなら、俺は全然平気なんだけど」
荒っぽいことはされないと、病み上がりならどうとでもなると高を括っているのか。だが来てくれるなら好都合ではある。
「じゃあ、今から家にくるか?」
「いいの?」
「ああ、お前がよければ構わないぞ」
「じゃあ行く。あ、でも風邪は伝染さないでね」
電話を切る。このチャンスをどう活かすか。少し寒くなるが部屋の窓を開け換気をする。換気中に下に降りて父さんに志保が来ることを伝える。
「弘和。大丈夫なのか? その子は」
「大丈夫。一昨日のこととは関係ないよ。栞里の件で相談に乗ってもらうだけ」
父さんに俺達を騙した張本人が来るとは言えず、栞里のことで相談があるとだけ伝える。
「そうか。まだ体調も万全じゃないだろう。相手に風邪を伝染すわけにもいかないから手短にな」
「わかってるよ」
♪〜♫〜♬〜
インターホンが鳴る。モニターを見ると予想通り志保が来ていた。玄関の扉を開けて招き入れる。
「こんにちは、先輩」
「来てくれてありがとな」
「いえ、先輩のことが心配だったんで。はいこれ、お見舞い」
志保から袋を受け取る。中を見てみるとスポーツ飲料とプリンやゼリーといった食べやすいものがいくつか入っている。
「ありがとう、助かるよ」
志保に少し待ってもらい、リビングに居る父さんに袋を預ける。
「待たせた、上がってくれ」
上着を脱いだ志保を家に上げ、部屋に行く。
「一応換気はしたけど、あんまり長くならないようにするよ」
志保を部屋に入れると、
「ここが先輩の部屋ですか」
と言ってベッドに座り、そのまま寝転ぶ。
「おい、何してんだ」
志保の肩を掴み起き上がらせる。
「いや、つい」
「つい、じゃねえよ。制服のまま座るな」
注意してテーブルの横に置いてある座布団を指差す。志保が移動する際にベッドに座り周辺を確認する。
(特に何かを仕掛けたわけじゃないか)
志保が俺の部屋にまで来てやることとして思い当たるのが工作だ。俺が志保に乱暴したという写真や映像。恐らくUSBか何かで持っているはずだ。どう見つかるかにもよるが俺の部屋にそれがあったとなれば誤解を解くのは不可能だろう。
「も〜 いいじゃんちょっとくらい」
「ダメだ。それで、お互いが話したいことがあるわけだが、どっちから話す?」
拗ねたような声を出す志保に注意し、本題に入る。
「先輩からでいいよ」
志保に促されるので遠慮なく話す。
「なんで栞里を騙したんだ」
何故栞里を騙したのか、龍と組んで何をしたかったのか。全部話してもらうぞ。
「えっ、騙したってどういうこと?」
「今更しらばっくれるな。分かっているって電話のとき言っただろ」
今更知らぬ存ぜぬで通せると思うな。
「えっと、分かっているっていうのは、その、栞姉えが浅沼先輩と二股してるって、そういう話なんだけど」
ああ、そうだろうな。俺が学校を休んでいる間に龍が栞里との仲を言い回るのは予想していた。来週学校に行ったときの皆の反応を考えると気が重くなる。
「だから、なんで龍と一緒に栞里を騙したんだって言ってるんだ。龍に協力してお前になんの得がある?」
「えっと、何言ってんの?」
この期に及んで知らないふりを続ける志保に苛立ちが一気に爆発した。
「だからっ!! なんで龍に協力したんだって聞いてんだよ!!」
ベッドから立ち上がり志保の目の前でテーブルを足で踏みつける。大きな音がして志保の体がビクッと震えた。
「さっさと言えよ」
一瞬我慢が出来ずに志保に手を出してしまうところだった。これじゃあまるで恫喝だ。俺の態度に志保は、
「分かんない。分かんないよ。先輩が何を言ってるのか全然分かんないよ」
小さく震え、押し殺したような声で答える。
「私が、聞きたかったのは、昨日、栞姉えが、私に、もう大丈夫だって、言ってきて、どういう意味か、分からなくて、栞姉えは、栞姉えで、先輩と別れたって、分かんなくて、先輩に、聞きたくて、それだけで、先輩の知りたい、ことなんて何にも、知らない、です」
ぶつ切りの言葉で話す志保を見て、戸惑いを覚える。なんだこの様は。演技なのか。
「ちょっと、待って、下さい。直ぐに、落ち着きますから」
志保が落ち着く時間が欲しいというので少し待つ。俺も感情的になりすぎた。もっと落ち着かないと。
数分が経って俺も志保も少しは落ち着くことができた。
「すまん。あまりにも感情的になり過ぎてた」
「はい。凄く、驚いてしまいました」
落ち着きは取り戻したものの、まだ動揺でもしているのか敬語になっている。
「敬語じゃなくていいぞ」
「ありがとうございます。じゃなくて、ありがと」
いや、これが演技でなければおかしい。振り返ってみるとこいつの言動には妙なところがあった。時折何かを隠している様子があったし、告白されたときもそうだ。最後のこいつの顔はこうなることを知っていたんじゃないのか。
「えっと、先輩。先輩の言う意味が、少し分からないので、先に私の話し、質問を答えてもらってもいい?」
「ああ、いいぞ」
埒が明かない。後回しになってしまうが先に志保の言うことを聞いてやろう。
「ありがと。じゃあ、言うね」
志保は1度深呼吸した後、言う。
「先輩は、いつから栞姉えが浅沼先輩と浮気してたのか知ってる?」
「・・・どういうことだ?」
いつから。いつからと、聞いてきた。
「今、学校で浅沼先輩が栞姉は先輩と別れた。俺の彼女になったって言い回ってるんだけど、その前の2人の関係に先輩は気付いてた?」
いや、関係ってどういうことだ。あの時、栞里が俺に別れを告げて、龍と付き合った。そこからじゃないのか。まるで前から付き合ってたような言い方をして。栞里とはずっと一緒にいた。龍に会う時間なんて取れないだろ。
「関係ってなんだよ。そりゃあ話すことくらいなら幾らでも出来るだろうけど、栞里はずっと俺と一緒にいたんだぞ」
栞里は龍に嘘を教えられた。それは電話やメールであり、栞里は俺を信じるためにずっと一緒にいてくれた。でも遂に俺への不信感が高まってあのような行動に出た。
そのはずだ。いや、そうでなければならない。
(何故ならそれは)
もし、日常的に龍と会っていたなら。
(栞里が俺を騙していたことになる)
俺は、栞里を疑わなければならない。
志保がまたあの時のように憐れんだ表情で俺を見る。
「ねえ先輩。先輩を凄く傷付けるかもしれないけど、今栞姉えに電話してもいいかな?」
栞里。俺からの電話には恐らく出ないだろうが、志保からなら出るだろう。栞里の声が聞けるかもしれない。
「頼む」
志保に電話を掛けてもらう。
だが今の志保の言葉。もし本当に志保が何も知らないなら、栞里は俺を裏切ったことにならないか。
心が軋んだような気がした。
「あっ、もしもし栞姉え。今大丈夫?」
次で弘和視点での話が終わる予定です。
書き切れなくて分割してしまったらごめんなさい。
これを読んでくれた方、評価してくれた方、いつもありがとうございます。




