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投稿します。
前置きしてましたが弘和視点で1番の理不尽回かもしれません。
「限界、別れるって、どういうことだよ」
栞里の言ったことの意味が分からない。
「そのままの意味だよ。もう弘くんと一緒にいるのが辛いの」
「なんで、何を言ってるんだよ」
一緒にいるのが辛い。俺は栞里にそんなに負担を掛けていたのだろうか。
「いや、じゃあ何が負担になっているか言ってくれ。俺は栞里のためだったら絶対に改善できる」
何が、何がダメだったんだ。今まで栞里と一緒にいて何か悪いことをしてしまったのか。思い付かない。俺のいったい何がダメだったんだ。
「本当に改善できるの?」
栞里が疑わしいと言わんばかりの表情で聞いてくる。
「できる。栞里のためならちゃんと」
言うまでもない。勿論だとも。
「じゃあ、もう浮気しないで。私だけを見てよ」
(はっ?)
思いもよらない栞里の言葉に思考が停止する。
(浮気? 誰が?)
俺は浮気なんてしていない。志保の件は全部逐一話したし、栞里と帰るときに関わることもなくなった。他の女子とも交流は抑えているし、浮気なんて疑われるはずがない。
「浮気って、そんなことする筈がないだろ。きっと何か誤解してるんだ」
別れ話を持ちかけられたとき、心臓が止まってしまうかと思うほど焦ったが、浮気が原因だと言われて、少し落ち着くことができた。浮気なんかしてないし、ちゃんと話して誤解を解けば元通りに収まることができる。
「まだ嘘をつくんだ。最低だね、弘くん」
だが栞里はその誤解を信じているのか俺に嘘つきと言ってくる。
「いや、嘘じゃない。本当に栞里は誤解してるんだ。俺は誰とも浮気なんかしていない」
そもそも俺が誰と浮気をするというのだ。
「もういいよ、全部分かったから」
「分かったって、何がだよ」
「弘くんがどうしようもない人だってこと。ここを選んでよかった。ちゃんと思い出を消せる」
「思い出を消すとか浮気とか、ちょっと何を言ってるのか分からないぞ」
「志保ちゃんにあんな酷いことをしたくせに」
「は?」
思わず声が漏れてしまった。俺が、志保に酷いことをしたと、そう言ったのか。確かに告白は断ったが、それは栞里の、そして志保のためにだ。少なくとも栞里に非難されることじゃない。
「酷いって、何がだよ」
「最低。言わないと分からないの?」
なんで栞里は俺をそんな蔑んだ目で見るんだ。
「ああ、分からないね。俺が志保に何をしたのか、栞里が何を誤解してるのか」
「私の口から言わせるなんて。でも、いいよ。弘くんがそう言ってほしいなら言ってあげる」
栞里は何か吹っ切れたような顔になり、言葉を続ける。
「志保ちゃんに乱暴してるでしょ? 今もずっと」
乱暴している。どういうことだ。俺はそんなことしていない。
「5月頃からずっとだよね。何度も止めさせるよう努力した。ずっと弘くんの近くから離れないように。逃げられない志保ちゃんを追い返してあげたり」
いったい栞里は何を言っているんだ。
「志保ちゃんを振ったって、そう言ったときがあったよね? 期待してたんだ。もう志保ちゃんを解放してくれたんじゃないかって。そこから志保ちゃんが乱暴されたって聞かなくなったから、安心したんだ。私が黙っていれば、志保ちゃんには悪いけど、きっと元通りになる。私が好きな弘くんに戻ってくれるって」
聞いたって、誰からそんな嘘を聞いたんだよ。なんでそんなの信じるんだよ。
「でも、違った。私が近くに居なかったら、すぐに志保ちゃんに手を出した。私が試験勉強してる時も、ずっと志保ちゃんに乱暴してたんだよね?」
違う。俺も試験勉強をしていた。当然志保には会ってもいない。
「栞里、何かの間違いだ。そんなことは一切していない。志保に確認してくれれば全部誤解だってすぐに分かる」
「あんな目にあってる志保ちゃんにそんなことは聞けないよ」
「あんな目って、そもそもそんな話誰が言ったんだよ」
あんな目、ということは栞里は志保が何か酷いこと、恐らく女性として口に憚れることをされているという確証を持っている。どういう確証かは兎も角、栞里がそれを信じている。そして聞いた、ということはそれを栞里に教えたやつがいる。誰が、
「おい弘」
考えている最中に声が掛けられる。よく知った声。振り返り顔を見ると予想通りの人物がそこにいた。
「龍、なんでここに?」
新しい彼女とデートじゃなかったのか。1人のようだが彼女とはまだ会えてないのだろうか。そう思うと同時にふと、考えが浮かぶ。
「おいおい、言ったじゃねえか。新しい彼女とデートだってよ」
志保が酷いことをされたとして、栞里はそのままそれを信じるだろうか。いや、先ずは志保に確認を取るだろう。だが栞里は志保には聞いていないと言った。
「ここで待ち合わせでもしてるのか?」
志保がそういう目にあった。栞里がそれを聞いて、信じるに足る人物。少なくとも、何かの物証があればそれを本物だと信じるくらいに信頼する程の。
「ああ、ここにいるぜ」
龍は俺の横を通り過ぎ、栞里を抱き寄せた。
「俺の彼女。可愛いだろ?」
怒りと疑問。俺のなかに2つの感情が湧き上がる。俺の彼女に何を言っている。なぜそう言える。
「どういうことだよ龍、冗談にしても度が過ぎてるぞ」
「冗談じゃない。栞里は俺の彼女だ」
「俺の彼女なんだけど?」
「だってもう別れたんだろ? お前ら」
「ふざけ」
「そうだよ」
俺の言葉に被せて栞里がそれを肯定する。
「るな。なんだって?」
「私言ったよね。もう弘くんとは別れるって」
「なあ、栞里。龍も。色々言いたいこと、聞きたいことはあるけど、それは全部何かの誤解だ」
「な? 言ったろ。もう弘はお前の知ってる弘じゃねえんだよ」
俺の言葉を聞いて龍が栞里に話しを振る。
「うん。そうだね。龍くんの言う通りだった。・・・信じてたのに」
「俺は絶対にお前を裏切らない。回り道しちまったけど、やっぱりお前が好きなんだ。俺は前の彼女とは別れた。お前も前の彼氏と別れた。もう1度聞くぞ?」
俺は今何を見せられているんだ。
「栞里、好きだ。俺と付き合ってくれ」
「うん。いいよ、龍くんの彼女になっても。その代わり」
「ああ、約束は守る。お前は勿論、志保だって守ってやるよ」
何を言ってるんだ。守る。何から守るんだ。
「そういうことだ。弘、覚悟しろよ」
「おい、ちょっと待て、待ってくれ。さっきからもう何がなんだか」
「だから、こういうことだよっ!!」
龍が栞里から離れたと思ったら次の瞬間殴られた。
「っつ」
殴られた頬が痛い。衝撃で膝が落ちる。
「何しやがっ」
再度殴られ、蹴られて仰向けに倒れる。龍が倒れた俺に馬乗りになる。
「お前が、これ以上、志保に、手を出させない、ように、守るって、言ってんだよ」
一言一言俺を殴りながら龍は言葉を発する。
「お前がこんなクズ野郎だったなら、俺は栞里を諦めなかった」
一方的に殴られ、既に殴り返すことは疎か身体に力が入らない。
「いいか、もう二度と志保に近づくんじゃねえぞ。あと、撮った写真や映像は全部処分しろよ。もしネットか何かにバラ撒いたらお前の人生もぶっ壊してやっからな」
龍は動けない俺にそう言って立ち上がる。
「行くぞ、栞里」
栞里は龍の言葉に従い歩きだす。
「し、おり、まって」
殴られて痛む頬と口の中を切ったことでうまく喋れないが、栞里に待ってくれと懇願する。
「しお、ま、て」
言葉にはならないが、聞こえているはずだ。待ってくれ。説明する時間をくれ。行かないでくれ。龍から離れてくれ。俺を置いて行かないでくれ。
栞里は立ち止まることも、振り返ることもなく、龍と公園を出ていった。
(なんで、どうして、何がどうなって)
ここに来てから何も分からないまま全てが終わってしまったような気がした。栞里と気持ちを伝えあった場所。始めてキスした場所。絶対に忘れない思い出の場所。
仰向けになっているからか、雪がよく降っているように見える。口元に落ちた雪は、ただ冷たく、痛かった。
あと数話で完結予定です。
これを読んでくれた方、評価してくれた方、本当にありがとうございます。




