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「皆には今日から3年間、この学校で学んで、遊んで、いっぱいの友達をつくってもらいます」
このクラスの担任となる槙島先生がにこやかに言う。
「たくさんの小学校からここに来ているから、知らない子ばかりだよね。先ずはこのクラスでの友達をつくるために自己紹介から始めようか」
自己紹介って何を言えばいいのだろう。ちゃんと考えてはきたけど大丈夫だろうか。
「じゃあ浅沼くんから。黒板の前に立って自分の名前と趣味や特技を言ってもらおうかな」
教室に入った時に挨拶をしたやつだ。浅沼くんか。仲良くできるだろうか。
「先生〜 趣味と特技ってなんですか?」
浅沼くんが何を言えばいいのか悩んでいる。自分も何を言えばいいのか昨日ずっと考えてた。これでいいのかと不安があったから浅沼くんを参考にしよう。最初じゃなくて良かった。
「君の好きなものや得意なものを教えてほしいな」
先生からの説明を受けて浅沼くんが席を立ち、黒板に向かう。振り返り、1度深呼吸すると自己紹介を始める。
「えっと、浅沼龍之介です。ゲームが好きです。あとテニスも好きです。小学校からやっていました」
早口になりながらもしっかりと自分の好きなことが伝わってくる。テニスはわからないけど僕もゲームが好きだ。仲良くしたい。
「ありがとう。ゲームもいいけど、勉強も頑張るんだよ? じゃあ次は糸巻くん。自己紹介してね」
浅沼くんが席に戻ると先生が僕の名前を呼ぶ。浅沼くんの後だったから少し緊張が解れている。前に出て必死に考えた自己紹介をする。
「糸巻弘和です。自分もゲームが好きです。得意というほどではないですが勉強は出来るほうだと思っています。小学校からの友達は違う学校に行ってしまいましたので少し心細く感じています。なので少しでも早く皆と友達になって楽しい学校生活にしたいと思います。気軽に弘和って呼んでくれると嬉しいです。宜しくお願いします」
自己紹介が終わると皆がこっちをぽかんとした表情で見ている。先生も予想外だったのか表情が固まっている。
「えっと、凄くしっかりとした挨拶ね。とても大人っぽくて偉いと思うけど、もう少し子供らしい挨拶のほうが先生は嬉しいかったかな」
「すいません。この学校での生活に緊張してつい張り切ってしまいました」
「そ、そう?あまり緊張しなくてもいいのよ?もっと気を楽にしていこうね?じゃあ次は大島くん」
暗にこちらに子供らしくしろと含ませながら先生が次へと促す。でもすいません。このままでいきます。
「大島智久です。えっと、僕は・・・自分は・・・」
「大島くん、緊張しなくてもいいのよ。君が話やすいように、君が思った言葉で良いからね?」
僕の自己紹介を受けて内容を変えようとしているのか、大島くんは言葉を変えようとし、何を言えばわからなくなり黙り込んでしまう。
大島くんやフォローしようとしている先生には悪いと思うけどこの状況は僕の思い通りになっている。僕は強い人間になると決めた。だから1番目立って、頼られる人間にならないといけない。
「・・・宜しくお願いします」
「はい、頑張ってくれてありがとう。これからも皆で仲良くしていきましょう。皆も悩まなくていいからね?思ったことを伝えてくれればいいから」
大島くんが席に戻るときにこっちを泣きそうな顔で見てきた。僕がこうすることで皆から嫌われるかもしれないとは思っていたが、悪いことをしているようで気が重い。
その後も自己紹介は続いていった。先生が皆に難しく考えないようアドバイスしたことが効いたのか、後のほうは淡々と進行していった。
「はい、みんな自己紹介が終ったわね。これからこのクラスで一緒にやっていく仲間だから、早く名前を覚えていきましょう。おっと、もうこんな時間ね。もうすぐチャイムが鳴るから、そこから休憩時間に入るわ。休憩が終わったらまたこの席に着いてね」
♪〜♫〜♬〜
先生の1言のあとにチャイムが鳴り、休憩時間に入る。
先生が休憩時間に入ったことを告げると僕は直ぐに動く。
「浅沼くん。これから宜しくね。あと、大島くんもごめんね。新しい学校で友達と離れてしまって気を張りすぎていたんだ。迷惑をかけてしまったけど、良ければこれからも仲良くしてほしい」
良い目立ち方をしていないのはわかっている。このままでは友達もいない僕がこのクラスから嫌われてイジメられるかもしれないことも。だから目立って、そこから皆に凄い、頼りになる、友達になりたいと思ってもらわないといけない。
そのためには僕はまずこのクラスに迷惑をかけたことを謝り、友達になりたいと伝えて良い目立ち方に変えていかなくちゃならない。
「皆も、これから仲良くしてほしい」
皆のほうを見渡しながら言う。ここで誰かが嫌だと言うと失敗してしまうがどうだろうか。失敗したときのために先生がいる今を狙ったのだけど。
「おうっ、宜しくな」
浅沼くんナイスっ!!
「う、うん、僕も仲良くしたい」
大島くんも浅沼くんに続いてくれた。これならいけそうだ。他の人もそれに合わせて、「宜しく〜」「いいよ〜」「今度遊ぼうぜ」と受け入れてくれた。
「うん、皆仲良くやっていきましょうね!!」
先生も嬉しそうに言う、というか1番嬉しそうだ。もしかしたら僕の挨拶でイジメ問題になることを考えてたのかもしれない。
休憩時間が終わり、次の時間からはこの学校の設備や時間割について説明が行われる。
♪〜♫〜♬〜
何度目かのチャイムが鳴り、昼休憩に入る。
「はい、じゃあこれで午前中の授業は終わり。これからお昼休憩の時間に入ります。給食の後は自由時間で、午後からが全体集会だから予鈴で戻ってきてね」
さっきの時間で決めた給食当番の子が先生と一緒に教室を出ていく。机を動かし、囲むように決められた班をつくる。
「糸巻、お前この前出た狩りゲーの新作やってるか!?」
「やってるよ。今日も帰ったらすぐにプレイするよ。大島くんは持っているんだっけ?」
「ううん、持ってないんだ。ごめんね」
「勿体ないぜ。早く買って皆でやろうぜ」
「そこは人それぞれだよ。僕が一緒にやってあげるから我慢してくれ」
浅沼くんは元気がある子、大島くんは引っ込み思案な子だとわかった。早く仲良くなるには大島くんをフォローしつつ浅沼くんに付き合ってあげるのが良さそうだ。
届いた給食を各自取りに行き、食べながら浅沼くん達や他の班の人達とも話ながら昼休憩をとる。
午後の全体集会が終わり、教室に戻る頃には、班の人達を始めある程度皆と仲良くなれたと実感することができた。初日でここまで出来れば充分だと思う。
「は〜い、皆お疲れ様。今日はこれで終わりね。明日から授業に入っていくから教科書を忘れないように。じゃあ、屹立、礼」
「「ありがとうございました」」
「皆さようなら~明日また会おうね〜」
「さよなら~」
「先生さようなら~」
なんとか1日が終った。先ずはクラスに僕を印象付けることは出来たと思う。明日からは授業が入るから成績に気を付けないといけないが皆帰り始めているし、今日はもう帰ってもいいだろう。いや、帰るなら、
「皆さようなら~、あっ、僕帰り〇〇の方向だから同じ方向の人一緒に帰らない?」
教室に残っている皆に声をかける。仲良くなるチャンスは積極的にいかないと。
「俺一緒の方向だぜ」
「僕は〇〇だから違うかな〜」
「俺も同じ方向だけと今日はやめとくわ、悪いな」
反応は色々。断ったやつもいたけど申し訳無さそうな顔で謝ってくるからまだ嫌われているわけではなさそう。浅沼くんが一緒に帰ってくれそうだ。
「ありがとう、一緒に帰ろう」
「ああ、ついでに1人一緒に帰ってもいいか?隣のクラスに居るやつで一緒に帰る約束してんだよ」
「いいよ。浅沼くんの友達なら僕も仲良くしたいし」
「別に友達ってわけじゃねえよ」
荷物を持って一緒に隣のクラスに行くと女の子がこっちを、浅沼くんを見て駆け寄ってきた。
「も〜遅いよ。待ってたんだよ」
「今終ったばっかなんだって。糸巻、こいつが一緒に帰るやつ」
「龍くん。この人は?」
「糸巻ってやつ。面白いし頭も良さそうだったから友達になったんだ」
「糸巻弘和です。浅沼くんとは今日友達になりました。これから仲良くしてもらえると嬉しいな」
「いいよ〜 私は三島栞里。宜しくね」