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投稿します。
中学編最後になります。
後書きが長いのですが高校編を考えると一読のほうお願いします。
吐く息が白い。歩くたびにざくざくと雪を踏みしめる音がする。いつもはつないでいる手も、寒さで手袋を着けたままではただ歩きづらさが増すだけなのでダウンのポケットに入れておく。栞里と並んで歩く。目的地はすぐそこだ。
♪〜♫〜♬〜
「あ〜 疲れた〜」
歌い終わってマイクを充に渡すと目の前にドリンクが差し出される。
「お疲れ様」
「ありがとう。次は栞里の番だろ、準備しておけよ」
クリスマス。ではなくイブ。充に誘われ俺達は早めのクリスマスパーティーを兼ねてカラオケに来ていた。参加したのはクラスの3分の1程。充は全員を参加させようと躍起になってたが、その他は各々の予定が入ってるらしく不参加となった。
「ちくしょ〜っ!! 龍の裏切り者〜っ!! バカ野郎〜!!」
充が皆を集めようとした理由はこれなんだろうな。曲のイントロ中に龍への恨み、というより妬みを込めた心の声を歌に乗せて発散する。
波乱に満ちた二学期。切っ掛けを作ったのは俺達だが、その影響は俺達の知らないところで拡がっていった。俺を含めた思春期の皆にとって、俺達の恋愛模様は皆を刺激するには充分だったらしく学校中で恋人づくりが活発になった。
「田代うっさいっ!!」
栞里の隣に座っていた咲が充へ非難を浴びせる。
恋愛が活発になったことで良い影響、勿論悪い影響も出てくるようになった。あの日、咲を振った翌日。登校してきた咲が俺に、
「一発だけあんたを殴らせて」
と言い、俺はそれを了承した。クラスのなかで皆に見られながらビンタ、ではなく本当に拳で殴られよろめく。
「はい。これであんたとは終わり。これからはただの友達。これで満足?」
「ああ、ありがとう咲」
痛みに耐えながら言葉を返す。
「次は三島」
栞里はビクッと体を震わせたものの、はい、と言って咲の前に出る。俺よりは軽い、でも痛みはありそうなビンタを一発打ち、言葉を続ける。
「これで手打ちよ。あんたのことは応援してあげるわ。変なやつにちょっかいを掛けられたら私に言いなさい。一発御見舞してやるわ」
咲のこの一連の行動は瞬く間に広がり、恋愛活動が活発になるにつれ咲に相談を持ち込む子が多くなっていった。言葉では嫌といいつつも主に持ち込まれる相談が既に相手がいる子だったりしつこくて困っているだったりと、厄介なものが多く見捨てるわけにはいかないとなんだかんだで相談に乗っていった結果、咲は痴情のもつれ相談役という謎の地位を得ることになった。
歌い終わった充が咲に言う。
「だってよ〜 恭弥に続いて龍までドタキャンしやがって。あいつらもうそういう事なんだろ。なあ神崎、なんで俺には彼女がいないんだ?」
「知らないわよ。ただでさえ変な相談しにくる子が多いのにあんたの面倒まで見きれるわけないでしょ」
「でも浅沼くんはともかく久保くんはもともと来れないって言ってなかったっけ? はい三島さん、あんたの番」
「うん。ありがとう浜田さん」
澪からマイクを受け取り、栞里の番が始まる。聞き入っていたいが、今の話で出た恭弥と龍に意識が向いてしまう。
恭弥は念願叶って渡辺さんと付き合うことができた。もしかしたら予定が入るかもとのことだったが、今頃どうしているのやら。
「百歩譲って恭弥は良いとして龍は羨まし過ぎるぞ〜っ!! ちくしょ〜!!」
充がまた声を上げ、咲にうるさいと怒られた。
元々下地はあったのか、一学期終わりの告白の影響なのか、二学期から龍は女子達から人気が出始めた。どう話が広まったのか、特に1年からの人気が凄いらしく、栞里からもしかしたらファンクラブが出来るかもと聞いたときはまさかと思ったが本当に出来てしまった。
ファンクラブが出来たことで龍の人気はうなぎ登り。3年生はそうでもないが、2年、1年の女子からしょっちゅう声を掛けられている。今日も最初は龍も参加する予定だったのだが、急遽別の予定が入ったとキャンセルされた。別の場所で1年の女子達が遊んでいるらしく、龍がそれに参加していると充が騒いでいる。
「そんなの分かんないでしょ。また別の予定かもしれないし」
澪はそう言っているが実はこっそり栞里から1年の集まりに龍が参加することを聞いており、充の懸念は正しかったりする。栞里は妙に1年の女子の動きに詳しいが何か伝手でもあるのだろうか。
「それにもしそうだったとしても、浅沼にはそっちの方がいいって。弘和もそう思うわよね」
咲が、龍は女子達の集まりに参加した方がいいと言い、俺に同意を求めてくる。
「俺は龍が幸せならそれでいいんだけど」
栞里のことは諦めたと言い、充達と遊んだり部活に打ち込んだりしていたが、最近は女子達との関わりもあり龍に少し変化があった。前は敢えて栞里と関わらないようにしていた気があったが、今は栞里とも普通に会話するようになった。龍のなかで少しは吹っ切れたということなんだろうか。今の龍の環境が良いのか悪いのか、俺には判断出来ないが龍にとって良い方向になればと思う。
「幸せね〜 あんたの幸せとはどうなの? この後」
「やっぱ分かる?」
「今日だからね。どこで告白するの?」
「終わった後2人っきりになれそうなところをって思ったんだけどね、この辺には無かったから帰り道に人通りが少なくなったところで告白しようと思う」
「あ〜あ〜、弘も裏切ったな〜」
充にすまんなと笑いながら言う。この後の告白をどうするか考えながら、栞里の歌に耳を澄ませることにした。
栞里の番が終わりまた次の人へ
「どんなことを話してたの?」
「この後のことをちょっとね」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「帰り道、少し時間をもらっていいか?」
「・・・うん。いいよ」
クリスマスパーティーが終わり、皆でまた三学期に会おうと解散する。冬は日が沈むのが早い。もう昏くなってきている。栞里に声を掛けようとしたとき、咲に呼び止められる。
「ねえ」
「どうした?」
「前に私と行った公園、覚えてる?」
「ああ、覚えているぞ」
「あそこ、人が全然居ないから。告白するにはいい場所よ」
「えっ? でも」
流石に告白されたことのある場所で別の女に告白するってのはちょっと抵抗がある。
「いいのよ。私はもう気にしてないし、場所は大事でしょ。勿論私の告白みたいに失敗しろって嫌がらせでもないわ」
そう言われても抵抗がある。抵抗があるが、確かに告白する場所は大事だ。ここは咲が背中を押してくれたと飲み込んでおこう。
「ありがとう、咲」
「ん、頑張んなさいよ」
♪〜♫〜♬〜
雪が降ってきた。栞里と歩き、誰も居ない公園に到着する。前にここに来てからもう半年以上経っているのか。俺はあの時から変わっただろうか。成長したのだろうか。栞里を好きだという気持ちは変わらない。何が大切なのか、手に入れるために何をするべきなのかを考えて過ごしてきた。足の位置を変え、栞里と向き合う。
「栞里」
「はい」
栞里に好きになってもらえるよう、俺なりに栞里を好きだと言葉で、行動で伝えて来た。
「好きだ。付き合ってくれ」
もし振られても、何度でもアタックする。嫌われても、好きになってもらえるよう向かっていく。そう決めていても、いざ告白するというのは大変だ。龍は俺を凄いと言ってくれたが、そんなことはない。本当に返事を求める告白は怖い。怖さを我慢して栞里の言葉を待つ。
「・・・はい」
喉がカラカラし、ドクドクと心臓が鳴っている。栞里の返事が返ってきた後に、自分の状態に気が付いた。身体が震えているが、今はそれよりも栞里がくれた返事のほうが大事だ。
「本当に・・・本当にいいのか?」
「うん。いいよ」
「本当に俺で・・・龍じゃなくて俺で」
龍ではなく俺を選んでくれた。本当に嬉しい、想いが実った。そう喜ぶところのはずだが、何故か俺は龍のことを聞いてしまう。
「もう、なに弘くん。龍くんを選んだほうがいいっていうの?」
「いや、違う、違うんだ!! 嬉しい、本当に嬉しいんだ。でもなんか龍のことが頭に浮かんで。でも本当に違うんだ!! 俺は栞里のことが本当に好きで」
自分でも何を言ってるんだと混乱しているが、栞里は優しく話してくれた。
「うん。分かってるよ。弘くんは龍くんのことも大好きだからね」
続けて、
「ずっと2人のことを考えてたの。私の好きはなんなのか、どっちが好きなのか。どっちも好きじゃないんじゃないか。色んなことを考えてたんだけどね、わからなかったんだ」
わからない。じゃあなんで俺が。
「でもね、今、龍くんが女子達と遊んでいるんだと思ってね、考えたんだ。もし弘くんが女子達と遊ぶようになったらどう思うかって」
ということは。
「そしたら、嫌だなって思っちゃった。龍くんのときは何も思わなかったのに、弘くんのときは嫌だなって」
じゃあ栞里は、本当に。
「それでね、ああ、私は弘くんのことが好きなんだって思っちゃった。考えてもわからなかったけど、考えないところで弘くんが好きって思っちゃった」
抑えきれず、栞里を抱きしめる。栞里も、俺を抱きしめ返してくれた。
「せっかく抱き合っているのに、着込んでいるから分からないね」
降ってきた雪が栞里の口元に付いている。
「じゃあ、分かることをする」
栞里に顔を近づける。
「もう、弘くんはいつも強引なんだから」
栞里が目を瞑り、俺はそのまま顔を近づけ、唇が重なった。初めてのキスは、冷たく、少し水っぽかった。
名残惜しく唇を離す。
「えへへ、冷たかったね」
「次はもっと暖かいところでやろう」
この日、俺は栞里と付き合うことができた。この雪の冷たさと温かさを俺は忘れることはないだろう。
♪〜♫〜♬〜
3月、この学校で過ごした月日は長いような短いような。色々あったような気もするし、あっという間だった気もする。栞里と手をつないでこの道を歩くのも最後になるのかと思うと名残惜しい。
「よう2人とも。今日も仲良くやってて何より」
「おはよう龍くん。3人で登校するのって久し振りじゃない?」
「おはよう。そっちも元気でなによりだよ」
「最後だからな。今日くらいはお前らと一緒に登校しようと思ってよ」
「最後って、皆同じ高校に行くじゃない。でも、そうだね。この道を3人で歩くのは最後になっちゃうんだね」
栞里の言う通り、俺と栞里、龍は同じ高校に行く。
「そうだろ? 充達とも最後になるかもしれないし、今日は1日お前らに付き合ってやるよ」
他にも同じ高校に行くやつはいるが特に仲の良かったメンツとは離れてしまう。恭弥は工業系、充と咲は商業系に、澪は県外の高校に行ってしまう。
「それは嬉しいけど下級生達が寂しがってるんじゃないのか?」
「大丈夫大丈夫。あいつらとはまたいつでも会えるからな」
3年に上がってからの龍は下級生との触れ合いに躊躇が無くなったのかよく女子と遊びに行くようになった。何人かとは付き合っているのではと噂もされたが真偽は分からない。特に問題が起きたとかは聞かないから大丈夫だと思うのだが。
「あっ、それとも2人の邪魔しちまったか? それなら別に予定入れるけど」
「気にしなくていいって。栞里とはいつでも一緒にいることができるからな」
栞里と付き合い始めて1年と少し、特別な何かがあるわけではないけれど、毎日が楽しい。きっと高校でも楽しいだろう。栞里が隣に居てくれるだけで、きっと。
これにて中学編が終了しました。
次から高校編に入るのですが、読んでくれた皆さんはご注意を。
開始してから糸巻弘和というキャラクターで話が進むことが多く、高校編でもメインで進めて行きます。
中学編の最後で不穏に感じられた方もいるかと思います。
そして最後に不穏に感じられた方はここで完結された作品と思ってもらったほうが良いのかと思います。
執筆する私の力量しだいではありますが、高校編では今メインで書いている弘、栞里、龍、恐らく誰も本当の意味で幸せにはなれないと思っています。
糸巻弘和としては中学編の終わりが高校編を含めたなかで1番幸せなところだと思っていますので、それでもいいという方は高校編も読んでくれると嬉しく思います。
最後に、この作品を読んでくれた方、評価してくれた方、本当にありがとうございます。




