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投稿します。

この話だけ普通に青春っぽく感じるかもしれません。


「ははっ、なにマジになってんだよ」


ここに来てまだ逃げようとする龍。だが逃さない。


「答えてくれよ。好きなのか、違うのか」


「はぁ〜 おい弘。お前今日おかしいぞ。なんでお前にそんなこと答える必要があるんだよ」


もう既にこのやり取りでお互いが答えているようなものだが、この賭けをしたときにもう決めたことだ。


(父さんは)


父さんを思い出す。俺は前まで父さんのことを弱い人間だと決めつけていた。生きる目的を失った人間だと。それを見て俺は父さんのようにならない。生きる支えをたくさん手に入れると。


(本当に母さんのことが好きだったんだ)


だが今の俺はどうだ。親友の龍を攻め立てる俺は1年以上かけて得た皆から信頼される俺とは違う。もしかしたらこれが終わったら皆からの信頼を失うかもしれない。龍とも友達ではいられないだろう。自分で手に入れた支えを自分で壊そうとしている。だけど俺はそれを捨てても栞里が欲しい。栞里だけいればいい。中学生が何を言ってるんだと世間では馬鹿にされるだろう。でも今の俺はそれでいいと思っている。親子は似るものだと言われるが、もしかしたらそれは正しいのかもしれない。


「聞きたいんだ龍。お前が、親友が俺の敵になるのかを」


クラスでざわめきが起こる。やっぱり、とかだよね〜とか聞こえてくる。ここまであからさまだともう皆分かっているだろう。それに廊下からも声が聞こえる。これだけクラスで騒げばそれは注目されるか。


「龍。友達として先手は譲る。答えてくれ」


格好のいいことを言っているが本当に龍に告白されると俺は負けるだろう。そして悲しいことに俺が栞里に告白しても振られる。もしこれが告白をする勝負なら俺はどうやっても勝てない。だから俺がやる勝負は龍に告白させないこと。場を盛り上げ、ハードルを極限まで高くする。俺の勝ちは龍に賭けを降りさせることだ。

そして龍は、


「わかったよ。ああわかったよ。そうだよっ好きだよ。俺もずっと栞里のことが好きだったんだよ!!」


言った。告白した。逃げなかった。俺は賭けに負けた。


「栞里、好きだ。付き合ってくれ!!」


これで俺の残りの中学生生活は鬱屈したものになるだろう。今すぐ感情のままに龍に殴りかかりたい気持ちを抑える。苦しいが、諦めない限り次があると自分に言い聞かせる。我慢してここは龍と栞里を祝福するこ、


「い、嫌だよ」


とにはならなかった。また教室が静まり返る。だが今度は見守る雰囲気ではなく、凍りついた、と表現するべきだろう。クラスも、廊下から覗いていた人も、皆が何も言えずに沈黙してしまっている。


「私は、2人とも友達で、付き合うとか、考えられないよ」


2人とも。俺と龍は2人して振られたらしい。俺は今振られることは承知の上だったから耐えられる。というより栞里が龍を振ったことに対しての驚きが強く、振られたということにすら何も感じない。一方、龍はどうだろうか。龍はまさに顔面蒼白といった感じだ。俺がそういう流れを作ったとはいえ、結果としてその場のノリに任せて栞里への思いを皆の前で伝えることになった。勝てる勝負を準備してきた龍にとってこれは想定外。だがそれでも踏み込んできた。今までの自分を捨てた、渾身の力を込めての告白だったはずだ。それを栞里に拒絶された。

栞里はそのまま教室を早足で出ていった。誰も止められず、ただ栞里が出ていくのを黙って見ていた。


「あ〜 なんだ。お前ら、元気だせよ。誰もお前らのこと笑わねえからよ。カッコよかったぜ」


「そうそう。本当に男らしくて素敵って思ったわ」


「お前らならすぐにいい彼女見つかるって」


(みちる)からの言葉を皮切りに皆からも慰めの言葉が掛けられる。俺と龍は何も言わず、ただそれを受け続けた。


  ♪〜♫〜♬〜


いつまでも校内に残る意味はない。俺は皆に励ましてくれた礼と海に行った時は思いっきり楽しもうと伝え、帰り道を歩いていた。

後ろから龍が言葉もなく着いてくる。いつもの集合場所まで来たとき、龍が呟く。


「すまん」


俺は返す。


「何を?」


立ち止まり、次の言葉を待つ。


「俺さ、ずっと栞里が好きだったんだよ。お前に協力するとか言ってさ。協力する気が無いのに協力する振りばっかしてさ、何処かで出し抜けないかずっと考えていたんだ」


「そっか」


「お前にデートに行けって送り出しておいてさ、なんかあったらすぐに邪魔できるよう充たちと近くにいたんだぜ?」


それは知らなかった。栞里ばかり見ていてまったく気づかなかった。


「全然進展しないお前らに安心して馬鹿にして、俺じゃないと栞里は付き合わないとか内心見下してたんだ」


「そっか。それでお前はそれを俺に言ってどうしたいんだ?」


「・・・わかんね」


「そっか。実はお前が栞里を好きなのは気付いていたんだ」


「そうなのか?」


「俺はずっとお前に栞里を取られるんじゃないかと思ってた。栞里はお前に気があると思ってたし」


「はははっ、振られちまったけどな」


力なく笑う龍を見て思う。そう、なんで栞里は龍を振ったのか。栞里は龍のことが好きだったはず。雰囲気を盛り上げ過ぎて尻込みしてしまったのか、それとも考えたくないが見落としていただけで実は他に好きな男がいたとか。気になって仕方がないが、今は龍に確認することがある。


「これからどうするんだ? 栞里のこと」


「どう、したいんだろうな。それもわからねぇ」


「そっか」


「じゃあ、俺は帰るわ」


「ああ、なあ龍。お前とは栞里の件で色々あったけど、俺は今もお前を友達だと思ってる」


帰って行く龍の背中に言葉を掛ける。返事は返ってこなかった。


  ♪〜♫〜♬〜


「ただいま」


「お帰り父さん」


久し振りに自分の気持ちを込めて挨拶をした気がする。そして夕食後。


「ねえ父さん」


「どうした?」


「父さんにとって母さんってどんな人だったの?」


「どうしたんだ弘和。そんなことを聞くなんて」


「好きな人が出来たんだ」


「好きな。そうか、お前ももうそういう年頃か」


「うん。だから父さんの話を聞かせてほしいんだ」


「困ったな。私の話は参考にはならないよ」


「わからないよ。もしかしたらこれ以上ないくらい為になる話かもしれないよ」


栞里が1番だと胸を張って言える今の俺なら、父さんともっと歩み寄れるかもしれない。元通りとまではいかなくても、父さんを弱いと決めつけていたあの頃とは、また違った接し方が出来そうだ。


(栞里)


あのときの栞里はどんな心境だったのか。いや、それはどうでもいい。例え栞里に嫌われても、他に好きな男がいても、まだ俺は栞里を諦めていない。なら、やることは変わらない。



いつも読んでもらいありがとうございます。

活動報告にて報告がありますので、よければ見てもらえると助かります。

最後に、これを読んでくれた方、評価してくれた方。本当にありがとうございます。

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