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これでも目標は20時投稿だったんです。
NTR。寝取り。寝取られ。
普通の恋愛ではないはずのそれは俺の常識を壊すのに充分な力を持っていた。ほとんどが創作の中だけといっても好きな人を自分のものにするために奪う。あのとき栞里を龍から奪うと決めた。これはまさにNTRではないのかと。
今まで恋愛は好きな人同士で結ばれるものと考えていた。だから栞里が龍と付き合う前に俺に意識を向けないといけない。龍と付き合ってしまったらもう何も出来ない。逆に俺が栞里と付き合うことができればもう龍は栞里を諦めるしかない。そう思い頑張ってきた。栞里に嫌われないように、龍との友情を壊さないように。
だが俺は龍を敵だと認識を改めた。友達だが、栞里のことは譲れない。今なら、恋と友情、どちらを取るかと聞かれたら素直に恋を取ると言えるだろう。だから最悪、龍と絶交することも考えておくべきだ。
そして栞里。嫌われないようにすることを優先し過ぎて友達の関係から抜け出せなかった。思えば2人でデートに行っても俺が友達から踏み込めないのを栞里はなんとなく感じていたから気にせず出かけられたのかもしれない。だけど嫌われても、その先がある。嫌われたのなら、好きになってもらえばいい。考えてみればこれまでの友達づくりも同じだ。最初から友達になれたわけじゃない。目立って動いていた俺を嫌いだとはっきり言ってきたやつもいる。でもそこから俺を受け入れてくれるよう頑張り、今ではそいつとも友達になれた。1度決まったらそれで終わりじゃない。
だからこれからは栞里に踏み込んでいく。嫌がってもいい。絶交してもいい。最初から友達の関係なんて必要なかった。これから栞里を傷つけるだろう。でもそれ以上に俺は栞里を愛すると決めた。もう迷わない。
♪〜♫〜♬〜
翌日、俺は休憩時間を使って1年のクラスを順に訪れた。これまでの俺の評価で、1年と関わることに不信感は持たれない。咲との一件で友達を増やし続ければ生きていけるとか黒歴史ものの馬鹿な考えは改めることができたが、その時に得た俺の評価は使えるのでどんどん使っていく。
1年のクラスに一学期頑張ったことの労いの言葉を掛けて回っていく。その最中に俺はクラスに馴染めてなさそうなやつを探す。どちらかというと女子のほうが都合がいいんだけど。3組に行ったときに良さそうな子を見つけた。黒髪ショートでメガネに文庫本読んでるとかいかにもといった感じの子だ。その子に狙いを定めた後、全てのクラスを回って教室に戻る。
「弘〜 お前今度は1年にお節介かけに行ったのか?」
恭弥に呆れたように言われる。
「お節介じゃないよ。ただ一学期頑張ったねって言ってきただけ」
「お前が気にするのはそっちじゃないだろ」
栞里のほうを軽く顎で指される。
「わかってるよ、そっちも頑張ってる」
「しっかりしてくれよ。協力してるんだから」
「ありがとう。でも放課後はまたちょっと1年のとこに行ってくるよ。クラスに馴染めなさそうな子が居たからね」
「やっぱりお前お節介だわ」
♪〜♫〜♬〜
放課後に部活に行く龍たちと別れたあと1年3組に向かう。帰る途中や部活に行く1年たちと話しながらさっきの子を探すと、予想通り帰ろうともせず椅子に座ったままでいた。話しながら待ち、ほとんど人が居なくなってからその子が動くのを見て話しを切り上げた。その子が教室から出て人通りの少なくなった廊下を歩いているところに声を掛ける。
「こんにちは」
先ずは挨拶から。
「えっ・・・えあっ、そ、こ、こんにちは」
おどおどしながらもその子は言葉を返す。返事も辿々しく上手く聞き取れないが予想通りなので問題ない。
「さっき1年のクラスに顔を出したんだけど覚えているかな?」
「えと、はい、他のクラスもま、回ってました、よね」
やっぱりだ。本を読んでたのに俺が来たことも他のクラスも回ったことも知っている。やっぱり読んでる振りだったか。
「うん。その時に君があまり学校が楽しくないんじゃないかと思ってね。力になりにきたんだ」
「どう、してそんなことを?」
「まあ、友達にも言われたけどお節介になるのかな。学校での友達づくり、上手くいってないんでしょ?」
「なんで、それ」
「去年もそういう子がクラスに何人かいたからね」
上手くクラスに馴染めない子はけっこう居る。本当に馴染むつもりがないって人もいるかもしれないけど、ほとんどが皆の輪に入りたいけどその切っ掛けが掴めずに誰かから声を掛けられるのを待っているだけだ。
「だからそういう子には少しだけ力になれると思って」
「どう、やって」
「クラスの子と話せばいいんだよ。意外と話せばそこから仲良くなれるものだよ」
「話せれば、苦労しない。どう話せれば、いいかわからないから」
「うん。そういう時は先ず共通の話題から入ればいい。いきなり自分のことを話すのは難しいから、自分でも相手でもない誰かの話しが切っ掛けになることもあるよ」
「誰かの話しって」
「色々あるけど例えば、俺のクラスに浅沼ってやつが居るんだけど知っている?」
「知って、る、テニス部の、人」
「そう、あいつなら1年でもけっこう人気あるし良い話題になると思うよ」
「でも、私、そこまで先輩のこと、わからないし」
「けっこうあるよ? 大雑把に見えて時間とかにうるさかったり、魚が嫌いだったり、三島さんと手をつないでいて帰るくらい仲が良かったり」
「そんなので、いいの?」
「話す切っ掛けなんてそんなものでいいんだよ。あっ、でも俺が浅沼に怒られるから俺が言ったってのは黙っててくれ」
「えっ、じゃあそれって、内緒とかじゃ」
「2年じゃ皆知ってるし、別に内緒ってわけじゃないよ。勇気をだして明日から隣の子に話してみるといい。1度話せば自分のことを話しやすくなるし、会話は続いていくものだよ」
♪〜♫〜♬〜
こんなに早く話しが広まるのか。皆こういうの好きだな。
教室に入ると栞里と龍が手をつないでいて帰っているという話しが広まっていた。終業式の前に1年から聞いたと俺から話すつもりだったけどこうなったら仕方がない。栞里に澪が付き合ってるのか質問する。どうせなら龍に質問してほしかったんだけど栞里はどう答えるのか。龍がこっちを見てきたので急いで何も知らない顔を装う。そして龍が、
「栞里がナンパされてたところを助けに入っただけだぞ」
と割って入った。教室にざわめきが起こる。そのまま龍が皆に説明する。説明の後、少しざわめきが収まったのを見計らって龍が俺に謝ってくる。俺のなかでは今更なにをという気持ちだが、そのまま受け取っておく。
「いいって、そういう理由なら仕方がないよ。あのとき電話に出れなかったのはそういうことだったんだね?」
「ああっ、本当にすまん」
龍に電話を掛けた時はもうナンパ男の姿はなかったように見えたし、歩いて帰ってたことを考えるともう逃げた後のはずだ。電話に出れないことはないと思うけど、栞里を刺激しないよう止めた可能性があるから保留。
そして気になることが出てきたが、今はそれよりも重要なことがある。
「三島さんを助ける浅沼くん。これはもうあれね、王子様ってやつ」
澪の言葉で俺の望む、いや、それ以上の展開になった。
「龍が三島さんをナンパから助けるとかこれもうヒーローってやつじゃね?」
充もナンパから助けた龍を持ち上げる。こうなると次に出てくる言葉は当然、
「やっぱり三島さんと浅沼くんって付き合ってるんじゃない?」
「てか龍は三島さんのこと好きなの?」
「三島さんのほうはどうなの、浅沼くんのことどう思っているの?」
「うお〜 2組きっての美男美女カップルだ〜」
こうなる。
皆から見ると栞里と龍のカップルが誕生するかどうかと心を躍らせているが、俺と龍、そして恭弥にとっては違う。
龍は俺が栞里を好きだと知っている。その上で協力してくれている。それを知っているのはもう俺だけじゃない。恭弥だけとはいえ、当事者以外がそれを知っている。そして今クラスの皆は栞里と龍の関係が気になって仕方がない。もうすぐチャイムが鳴るのに誰も気にすることなく2人の言葉を待っている。
つまり龍は皆の前で選ばなければならない。友達か、恋を。
付き合いは1年ちょいとはいえ、龍とは親友だ。だいたいの考えはわかる。嫌われたくないんだろう。俺にも、栞里にも。両方を選ぶつもりだったんだろう。おそらく龍は確実に告白が成功するまで待っていたんだと思う。そしてその時が来たら、告白の前に俺に栞里を好きになってしまったことを謝り、これからはライバルだがこの後も友達でいたいとか言った後に栞里に告白しにいくという算段でも立てていたんじゃないだろうか。だがこの状況で両方を取りに行くことはできない。これは龍の望むものではない。そうなると龍の悪い癖が出てくる。
龍は口を開いた。
「ば〜か、そんなんじゃねえよ。俺と栞里はただの幼馴染だっての」
龍は栞里を選ばなかった。これは俺との友情を選んでくれたわけではないだろう。龍は選ばなかっただけ。ただ日和って先延ばしにしただけ。
チャイムが鳴り、皆気にしつつも席に着く。龍はわかっているのだろうか。ここで栞里を選ばなかった後にどうなるのか。
♪〜♫〜♬〜
龍はただの幼馴染だと皆に訂正したものの、話題にならないわけがない。朝のやり取りはすぐに全校に広まった。放課後に部活に行くときも2人は王子様、お姫様。並んで歩けばカップルだと茶化される。龍は内心喜んでいるのかもしれないが、栞里は違う。目立つことが嫌いな栞里には今の状況は辛いものになる。家に帰って一息つく。
NTRは体の関係を持った描写が多かったが俺たちはまだ中学生。多分上手くいかない。NTRで参考になったのは主に工作だ。2人の関係を壊すためにあらゆる手を使っていく。そのなかには周囲の人を使うことで2人を引き離すというものがあり、それなら俺でも出来そうだと実践した。
先ずは1年を使って栞里と龍の仲の良さを浸透させ、終業式前に1年から出てきた話しと前置きしてクラスで話す。大人数の前で話しても皆にはただの話題。龍には裏切ったのかと詰問するかたちになるから不自然ではない。クラスでは2人は恋人なのか、好きなのかという話題で持ち切りになり、栞里と龍は答えることになる。これは2人とも違うと否定すると踏んでいた。仮にもし恋人だと答えられた場合、本当に体のNTRを勉強することになったから最悪高校生くらいまで待つ羽目になるところだった。そして否定したところで疑惑は消えず2人はそういう目で見られることになり、おかしな動きがないか学校中から監視されるようになる。栞里のほうは話題になることを避けるために龍から距離を取るようになる。
話しが広まるのが予想以上に早く、予定が前倒しになったことで1年に話の出処を聞かれた時の対処を考える必要があるかと思ったが、更に衝撃的な話題が出てきたことでそれはもうどうでもいいことだろう。ここで気にするべきなのは龍がこの状況を逆手にとって栞里に付き合う振りで迫ることだ。もしそうなればその内振りでは済まなくなるだろう。その前に次の手を打つ必要がある。
(ナンパ男から姫を助けた王子様、か)
今龍に付いている異名。これを使ってみるか。
いつも読んでもらいありがとうございます。
流石に明日以降は毎日投稿が出来なくなりそう。
改めてこの作品を読んでくれた方、評価してくれた方、ありがとうございます。




