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死に際の殺し屋は、異世界で皇王と出会った  作者: 玲島和哲
ヌディーリ
70/100

治安警護隊

 聖域については、少年期からどういったものかを教わり、成人を過ぎて以後にも、仕事の関係や歴史に関する議論の際に取り上げられることが多かった。そういった物に真面目に取り組んできたリグリストは今、じっと周りを見回していた。


 周囲空間、浮遊物、靄、地面……全ては、滲んだ黒の混じった赤錆色に塗りつぶされ、地面の下には正体不明の怪物が、まるで湖の中を泳いでいるかのように蠢いている。


 リュナウィッシュは、そんな彼に目を向ける。彼との交流自体、かなり少ない。しかし、初代ワドゥル・マジュク利用者であり、著名な言語学者である彼の事については、話として聞くこともあれば、その著作物で見知っていた。


 彼に関する印象は、とかく感情を表に表さぬ、厳格ともいえる寡黙さであり、それは今この状況を持っても変わらない。

今、彼が何を思っているのか、少なくとも、ただ周囲を悠然と見回しているその様子から、窺い知ることは難しい。


 ……そんな時、足に何かの当たる感触があった。見下ろせば、槌を持ったガルティックが、皇王を守ろうとするかのように、地面の下の怪物や、周囲の靄や浮遊物を警戒していた。少女のそんな様子が、皇王に自らの使命を思い出させた。瞳を閉じて右掌を浅い器型にして胸の前まで持っていき、


「──ホウセ・オズィフォーリー」


 その一言を発して、その掌に翡翠色の光を発生させた……


……………


 光利は、ルーアンとファグに挟まる形の位置に立ったまま、防壁に背中を預け、腕を組んで、頭を仰向け、じっと一点を見つめていた。視線の先に何かあるわけでは無い。敵が来た時、ルーアンらに何か起きた時、リュナウィッシュが帰って来る時……それぞれの状況に見合った行動を取れるよう、集中している所だった。


 そんな時、彼は目の端に、翡翠色の輝きが起こるのを捉えた。光利は静かに歩き出し、防壁から身体を出した。部屋の中央に、人と同じくらいの、卵型をした翡翠色の光が現れていた。


 そしてそれが弾けた時、リュナウィッシュ、ガルティック、リグリストが立っていた。様子を見る限り、特に何の以上もなさそうだった。光利がそっと微笑むと、リュナウィッシュも微笑みで返した。


 そんな光利に向かって小走りで近付いてきたガルティックは、そこそこの距離から彼に向かって飛び掛かってきた。少女の光利はガルティックをしっかり抱き締めて受け止める。


「帰ったぞ、光利!」


 抱きかかえられたままガルティックは言った。


「ああ、おかえり。聖域はどうだった」


「前の時みたいに凄かったけど、リュナ様がすぐにぱぁーって綺麗にしたよ。変な怪獣みたいなやつは、リグリストがワドゥルなんとかってのを使ってやっつけたりして、あたしは特に何もしなかった」


 最後の辺り、少し不満そうなガルティックの言葉を聞いて、光利はリグリストの方を見た。目が合ったリグリストは、そのまま肯定するとも否定するともつかない態度で、目を逸らした。不愛想というより、不器用という印象を強く抱かせるその態度に、光利は軽く笑った。


「何もしなかったということはありませんよ」リュナウィッシュが光利とガルティックの方に近付いて言った。「共に戦ってくれる人は、一人でも多い方が良いのですから」


 リュナウィッシュの答えを聞いて、光利はふっと微笑んだ。


 その時、彼の中で、ふと一つのことが気になりだした。


「さっきガルが『私も戦った』と言っていたが、何かあったのか?」


 ガルティックからの一言は、彼が激戦の後だったこともあり、深く追求せずにいたのだが、聖域の件も解決し、ある程度気持ちが落ち着いた今、彼の気にかかる事柄となった。


「ええ。リコイで襲撃がありました」


「襲撃?」


 リュナウィッシュと光利の会話に、リグリストが小さな反応を示した。


「怪我は?」


「もちろんありませんよ」


 光利の問い掛けに、リュナウィッシュは安心を与えようとするかのような笑みを浮かべて答えた。


「宿は……拠点はどうなってる?」


「宿も部屋も無事です。寝泊り自体も問題なくできます。壁が傷ついたり、調度品が壊れたりしていますが、今はその修復に取り掛かっています」


「……かなり大掛かりなことになってるみたいだが?」


「その辺は心配ありません」リュナウィッシュが言った。「諜報機関『フェイズ』の協力により、治安警護隊が共に働いてくれています」


「治安警護隊?」


「あぁ、申し訳ありません。説明をしたことなかったですね。『治安警護隊』とは、治安維持を目的とした。国家による組織です。通常は治警団と呼ばれます」


「……例えば、捜査やら調査やら、逮捕やらを行ったりするんじゃないか?」


「そうですね。そういった事を主に行ったりします」リュナウィッシュはそう答えた後、「その答えからすると、光利の世界にも同じような組織があるのですか?」


「詳しく聞けば、相違は色々あるんだろうが……」光利は答えた。「まぁ、似た様な物はあるよ」


 光利は『警察』の事を思い浮かべながらそう答えた。


「リュナウィッシュ様」リグリストが呼び掛ける。「もし宿がお使いできるということであれば、一度帰還したいと思っているのですが……」


「ああ、そうですね。申し訳ありません」


 リュナウィッシュは、一度ルーアンとファグの方を見た後に、自らの至らなさに対しる申し訳なさを仄かに含んだ物言いでそう言った。


「光利」


 リグリストは頭で、二人の座っている方を示した。その意図を察した光利は軽く頷いた後、リグリストの後について行く。リグリストはファグを、光利はルーアンを助け起こし、肩を貸してその身体を支えた。

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