共犯
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……
…
「あんたの攻撃なら、あの防壁を突破できるのか?」
痛みが治まるのを待って、光利はラウルに問い掛けた。顔を上げたラウルは、光利の真剣な眼差しとぶつかった。
「俺やルアの攻撃には何の手出しもしない奴が、あんたの攻撃だけは必死に防いでいた。あんたのワドゥル・マジュクは、奴の防壁を物ともせぬ力を持っていると、思っても大丈夫かい?」
光利は落ち着いた、静かなトーンで問い質す。
「……そうだな」リグリストは再び攻撃を受けた肩を見て言った。「奴の防壁は、奴と同じ最古言語のワドゥル・マジュクをもって突破することは出来る。しかし、それは飽くまで、ある程度しっかり魔力を備えた状態でないと難しい」
「というのは?」
「言語さえ発すれば、必ず強大なワドゥル・マジュクを発動できるわけでは無い。その時の状態によっては、幾分威力に高低差が出る。相当の威力を持ったワドゥル・マジュクを発動させ、それを発射するのに際しては、かなりの魔力を必要とする。発射した後すぐに消えてしまわぬ、力の維持する必要もある。情けない話だが、今の私ではそれらの一連の動作を、強大な魔力をもって行うにはかなりの困難を要する。さっきのも防がれたのを見たな? 渾身の一撃だったんだが……」
「なら……」光利はリグリストに、掌に置いた銃弾を見せた。「この銃弾に、あんたの力を籠めることは出来ないかい?」
「……」
リグリストは銃弾を、そして光利の顔を順に見た。
「ラウルは何か生き物に力を籠めていた……あんたに出来ないか? あの防壁を貫通できればいい。発射する分の魔力も必要なくなる。魔力の持続もほぼ一瞬だ。普通にワドゥル・マジュクを利用して攻撃するよりも、魔力が手軽に済むということは無いか?」
微かに俯き、上目になっている光利の顔は、あたかも密かな共犯を促すような、妖しい微笑みが浮かんでいた。
…
……
………
ラウルの顔面に撃たれた銃弾は、その足元に落ちていった。
「グッ……ガッガッガ……」
頭を俯かせ、顔に当たらぬように両手で覆い、ラウルは明らかに苦しんでいた。なまじ、当たるとは思っていなかった、完全に油断した状態での被弾である。その苦痛はよほどの物だった。ラウルのその様子には、ルーアンも驚きを隠せなかった。
やがて、ラウルは苦しみながら、小刻みに震えつつ顔を上げた。すると、床から生えた二つの防壁の間に立つ光利の姿がその目に映った。左足を前、右足を後ろに僅かに開き、身体を微妙に右側に向けていた。
光利はラウルと目が合った瞬間に両手でM10を構えると、そのまま銃弾を三発撃ち込んだ。
「ムノキウ・ボブグッ!」
光利が銃を構えるタイミングでそう叫びながら、ラウルは決死の表情を浮かべながらバリアーを張った。が、受け止めることの出来たのは顔面と胸を狙った二発で、脇腹を狙った一発は受けてしまった。
「ウグゥッ……」
ラウルは腰を折って前のめりになる。するとまた鋭い発砲音が響くと共に、その目に銃弾を一発受けて後ろに仰け反った。さらに一発撃った光利は銃口を上に向けつつ、ラウルの様子をじっと観察する。
「貫通出来ない……どころか、傷もつかないとは。元から硬いのか? 流石はボスってところか」
──光利の攻撃が通じたことを見届けたリグリストは、改めて、彼から受け取った銃弾に、ワドゥル・マジュクの魔力を込め始めた。他にワルサーのマガジンも置かれている。そんな彼の前に何かが落ちて来た。目を上げるとルーアンだった。
ルーアンはその目でリグリストを、そして光利の銃弾やマガジンを見た。そして、おおよそ何が起こったのかを察した。
「事情は分かりました」ルーアンは微笑んだ。「光利の銃弾がなぜ通じたか。なるほど、リグリスト様の力が銃弾に込められていたのですね」
「今の私の攻撃では、奴に充分な損傷を与えることは難しいだろうからな」リグリストは淡々と話しだした。「私の力も無尽蔵では無い。もとよりここに捕らわれている時が長すぎた。この方が確実だろう」
ルーアンはリグリストの言葉を聞いて、少しばかり悲痛そうな表情を浮かべた。平静な様子の彼だが、彼の心身はともに大きな負担を負っていることが分かるからだ。
ふと視線を下げる。光利から預かっているのであろう数種類の銃弾が転がっている。
「……この銃弾は、私が届けます」
ルーアンは提案した。
「頼らせてもらおう、ルーアン。……それから」ラウルはルーアンの右手側の刃に、指を向ける。「クグユス」
小さな光弾が放たれ、ルーアンの刃に当たると、吸収されて紫色の波紋が刃に広がった。
「さして長い時間は使えぬが、君の速さなら充分だろう」
「感謝します!」
ルーアンが立ち去る後姿を、リグリストは見送った。そのまま顔を横に向け、ファグが未だ起き上がる気配がないことを確認すると、リグリストは人差し指を立てた。
「チョイェズ」
指先に小さな光弾が現れると、人差し指から離れ、少し距離を離すと、止まった場所でじっと浮遊している。リグリストは、期待を込めるような眼差しで、その様子を見守っていた。




