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死に際の殺し屋は、異世界で皇王と出会った  作者: 玲島和哲
ヌディーリ
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神殿の罠

 歩き続けていくうちに民家の小さな家の立ち並ぶ中へ入り、さらにそのまま進んでいくと、遂に光利とルーアンは神殿へとたどり着いた。


 正殿は箱型で、その後ろには円筒場の塔が聳え立っている。正面玄関は、三メートルはあるかとも思われる程の大きさであり、更にそれを囲うような形で、巨大な円形のアーケードも設置されている。


 そのすぐ上には五つほど内側に切り抜かれた部分に、人型の石像が設置されている。腕を曲げ、空に向けて手を器の形にして掲げている格好は、何かを支え持っているとも、それ自体一つの祈りの姿に見える。その印象は、中央の一つが正面を向いているのを覗き、左右それぞれに設置されているものは、中心の方を向いている所からも、より強められた。


 事実、それらの石像の真上には、バラ窓の様な円状の巨大な窓があった。その石板には左右対称にかなり細かい無数の線が、中心部でそれらと交わりながら、反対側まで伸びている。石板の上には、何かの煌めきを表すような、小さなダイヤ型の石像もあった。


 丁度その円状の石板の左右には、細長い窓が取り付けられている。窓はあと一つ、半円状の屋上に一つあるだけである。建物全体が煉瓦を重ね合わせたようになっているのに対し、屋上は三つほどかなり細い線の一直線引かれただけのものだった。


 その正殿を挟むような形で、左右に塔が一体になっている。


 塔は四角であり、二階と四階に当たる部分に円形アーチの細長い窓が左右に設置されており、五階には中央部分に同形の窓が一つ付いている。てっぺんは展望台になって周囲を見回せるようになっており、更に上の天井から大きめの鐘が釣り下がっている。


 全体的には西洋の聖堂をイメージさせるものの、装飾自体は決して派手ではなく、むしろシンプルともいえる佇まいである。色合いは白みがかって綺麗ではあるが、周囲の民家の、比較的新鮮な白さと比べれば、やはりどこか長い年月の経過を感じさせる雰囲気があった。


「……こういった感想はどうかと思われそうだが」光利は言った。「良い建物だ」


 その凡庸な感想は、感情の発露のあまり見られない光利の、僅かながらの感動を帯びた口調で言われた。そのため、ルーアンとしても悪い気はしなかった。


「もちろんだ。この国の自慢の一つだよ」


「建築当時からのものなのか?」


「そうだ。ただ一部を多少改装したりはしているよ。経年劣化する部分もどうしても出てしまうからな。さぁ行こう」


 ……ルーアンの言う通り、神殿に近付くと、僅かながら他の場所よりも比較的綺麗な白色の部分──それでもかなり時が経っているとは思われたが──が目についた。詳しく見ればまだまだ見つかるのかもしれないが、その時見つけられたのは一つだけで、しかも全体的にはほとんど時の流れを感じさせない堅固さを感じさせた。


 そうした質実剛健な見た目に対し、神殿内部の与える印象は全く反対であった。


 身廊に当たる場所に立ち周囲を見回すと、二種類の絵が壁画として描かれている。ルーアンの解説によると、彼から見て左側は『月空譚』の、右側は『大地記』の、特に場面を有名な場面を描いたものであるという。


 絵はそれぞれ四つずつ描かれている。


 『月空譚』の方には、王女リュナの演説、庶民に変装をした王女が地面に膝を崩しているその前に青年が立ちはだかり、屈強な男達と向かい合っている場面、青年と手を繋ぎ合って向かい合う姿、荘厳な老紳士と向かい合って何かしらの会話を交わしている王女の姿が描かれている。


 『大地記』の方は、盗賊の格好をした青年が、地面に伏していた少女ウィッシュに話しかけている場面、上半身裸の青年が刃物を持って、恰幅の良いひげ面の男と向かい合っている場面、青年が処女を守るように抱き寄せる場面、生やした翼で空へと舞う少女と大地に立つ青年が互いに向き合い、両手を互いに求め合うように伸ばしている場面が描かれている。


 経年により、色は多少薄れているのだろうが、それでも見事なタッチで描かれている。しかしそれ以上に気になったのが、全ての絵に表情が描かれていない点で、元から描かれている形跡すらないことである。


 ルーアン曰く、当時のリュナウィッシュ皇王が、あえて表情を限定させないことで、庶民の創造の余地を残しておこうという発言があったことが、神殿建設に携わった者の記録に記載されていたという。


 ……光利とルーアンは身廊をまっすぐ進み、翼廊と過ぎて、そのまま祭壇の前まで来た。祭壇の後ろには、中心にアマルサスの国花の印のある装置のはめ込まれた壁が、物々しく立ちはだかっていた。リュナウィッシュから聞いた話では、本来であれば、この向こうにギシュリンブがあるはずである。


 左右には剣を持った兵士の像が建っている。祭壇の左右にも、ルーアン曰く防人として魔術師の像が建っていた。


 光利はふと周囲を見回して、


「人はいないのか?」


「まぁな」ルーアンが答えた。「人が入らないようにしてあるんだ」


「グランヴァ達によってか?」


「いや、違う」


 そう答えて光利の方を向いたルーアンの目には、意味ありげなものが含まれていた。


 それを見て光利は、昨日の服屋を、もっと言えば、ルーアンやリュナウィッシュに、グランヴァやラウル・バグス・バ・バについて情報をもたらしてきた者の姿を思い浮かべた。


「とはいえ、流石にグランヴァが来ることを止めることはできない」ルーアンが真剣な口調で言った。「下手をすれば入ってくる可能性もある。素早く目的の場所へ向かおう」


「あぁ、頼む」


 ルーアンは、光利より一歩前に出て壁の中央に当たる所に立った。そして、懐から翡翠色の鉱石を取り出した。それを少し上の方にある印の方に向けて差し出した。


 当初、何の反応もなかった壁だったが、やがてアマルサスの国花が一瞬ひらめいたかと思うと、やがて左右に開き出した。自動ドアが少しゆっくり開く様な、音も無く、スムーズな開き方だった。


 開いた壁の向こうには、以前リュナウィッシュらと共に飛んできた円筒状の部屋だった。その時にはオーマルアが発生したが、今は何もなかった。より厳密に言えば、水晶の合ったところの下に、段差が出来ていた。二人はそこまで近付いていく。


「……」


 段差を見下ろした先には、環状の黒ずんだエメラルド色の泉の様な物が広がっていた。


「……これは?」


「端的に言えば罠だ」


「罠?」


「神殿が出来た当初から、不逞の輩がこの場所まで侵入する事件が定期的に起こっていた。それがある時、ファムアート皇王に反感を抱いていた魔術使いが、なんとオーマルアを発動させ聖域に侵入したことがあってな。幸い最悪の事態は防いだが、今後そうした事件が起こらぬよう、この場所に侵入者が現れた場合の罠……つまり今目の前にみているこれが設置された。ここに入ると迷路に繋がっている。迷路を潜り抜けた先にオーマルアが存在するんだが、当然迷路には様々な仕掛けが施されており、簡単には到達できないようになっている。その仕掛けの内容はもちろん、迷路がどういう構造になっているかも、ある特定の人々を除いて知る者はいない。これのおかげで、その時から今まで……厳密に言えば、バグテリスの侵略が起こるまで、誰かに侵入されたことはない」


「そりゃまた御大層な罠だな。何でまた仕掛けありの迷路なんだ?」


「一つ二つの仕掛けで対処されないようにというのと、極力は命を奪わぬ様にとの、当時のファムアート様の意向だ。罠が多ければ多いだけ、オーマルアに辿り着くのに時間が掛かるし、罠にはまればそれだけ捕らえることが容易くなるからな」


「なるほど」光利は言った。「ちなみにここからどうすれば良い」


「そのまま飛び込むんだ。湖に入るようにな」


 光利は頷きながら、そのエメラルドにじっと目を向ける。その表情からは、相変わらず何を考えているか読み取れない。


「……何か思うことでもあるか?」


「ん? いや……」光利は視線を変えず、左手を腰にやり、左足をつま先立ちにして膝を折りつつ言った。「本当に楽しい世界だと思ってただけさ。まるでゲームの中にいるみたいだ」


「ゲーム?」ルーアンは両手を腰にやる。「ゲームというのはお前の世界の言葉か? お前の言うことはよく分からん。真剣になってもらわないと困るぞ?」


 ルーアンは光利の態度に、少し憤慨したような顔をして見せた。


「悪い悪い。その通りだ。真剣にならなくちゃな」


 そう言うと、光利は右の拳をルーアンに向ける。ルーアンは彼の顔と拳を見比べる。


「よろしく頼む」


 光利の言葉を聞いて溜め息をつくと、やれやれといった様子で力なく笑いつつ、ルーアンは光利の拳に自分の拳を当てる。


「それじゃあ行くぞ」


 ルーアンの言葉を合図に、二人は黒ずんだエメラルドの中に入っていった。

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