大量虐殺
「なっ!!?」
ラヌラーヴァが動揺した声を上げ、それに気づいた数匹もそこに目を向けた。特に、元より二階にいた生き残りの数匹は、すぐに光弾を彼の方に向けて放った。しかし、光利の跳躍の勢いはかなりの物で、一瞬ともいえるうちに二階の手摺に手をかけ、そのままそこを乗り越えて二階に足を着けた。
ラヌラーヴァが彼にフィジャスンを向ける。しかしそれ以上の速さと正確さで、光利は怪物達を次々と射殺していく。一階にいる時点で二階のほとんどを始末するか戦闘不能に追い込んでいたため、その時点で敵の数自体もそこまでいなかった。
光利はグヴィスの上に当たる所までどんどん歩を進めていく。途中、あえて始末していなかったラヌラーヴァが起きようとしているのを、頭に発砲し、更に遠く、向かい側にいる生き残りもまとめて始末する。
光利の立ったのは、下にいるグヴィスの右手に当たる位置より更に少し右にずれた所であった。そこで光利は、リングルと呼ばれる道具を出した。ここを出る前にドリグルから、物を収めるために利用する物であると説明を受けて受け取ったものである。
魔力を用いた長方形の道具で、真ん中の広めの液晶に収めた物が移り、指で横になぞって利用したいものを探し、見つけたらそこを指で強めに──フィジャスンと同じように、利用者に合わせて設定が出来る──押すと出すことが出来る。彼は説明を聞きながら、形から使い方まで、スマートフォンに似ていると思った。
光利はリングルを操作する。そこにマシンガン『H&K MP5』が映った。これは、ドルクルより尋ねられた銃の種類をいくつか伝えた際、出来るかもしれないといわれて急いで作ってもらい、その出来に彼自身も驚かされた代物である。光利はMP5を取り出す。
「──ルーアン!」
幼い叫び声に、ルーアンは振り返る。この場で見るにはとてつもなく違和感を感じさせる少女、ガルティックが鎚を片手に走って近付いて来るのを見た。少女はその時ジャンプして、ルーアンを後ろから襲い掛かろうとしたラヌラーヴァ一匹を鎚で殴り倒して着地して、改めて彼女の方を向いた。
「光利が攻撃するから!! 一緒に!!」
「光利?」
ルーアンは僅かに不審な目つきを、彼の名を出す際にガルティックが向けた視線の方に向けた。光利がグヴィスのいる所から、見慣れぬ、しかし明らかに不穏なものである道具を、その前方、下の方にいるラヌラーヴァ数匹の方に向けていた。
「行こう!!」
ガルティックに手を掴まれ、引っ張られる形で引っ張られた。同時に、光利がMP5の引き金を引いて攻撃を開始する。全身を撃ち付けるような連続音が背後で轟音と鳴り響いて、思わず振り返った。
その音同様、何かが連続して数匹のラヌラーヴァの身体を、そしてその足元を撃ち抜かれていくのが見えた。ルーアンは前を向いてガルティックを抱きかかえると、その足で一気に駆けていく。
「ルーアン!!」
リュナウィッシュの叫ぶ声に引かれる様に、ルーアンはそちらに駆けていく。そして、彼女がその隣に辿り着いた瞬間、先ほど光利達を守ったものと同じ防壁をその場で張った。
光利はMP5の銃口を至る所に向け、逃げ惑う敵を追い、撃ち抜き、なぎ倒していく。ラヌラーヴァはこれまで出会ったことのないような猛威を前に混乱していた。時折蛮勇を見せつける様に光利のいる方へと向かおうとする者がいたが、光利はそれを正面から蜂の巣に変えた。
何匹か、倒れつつも生きてはいたラヌラーヴァも、この弾丸の雨の経路にいたために、とどめを刺された。既に絶命をしていて横たわった肉体に弾丸が行き過ぎる瞬間、撃たれた勢いの為に、軽く揺さぶられた人形の様に軽く、胴体や腕を振るわせていた。
次々と死体が出来ていく中、MP5から空砲の音が鳴った。光利はその銃先に目を向けつつ弾切れを確信し、即座に手摺の方に立て掛けた。ラヌラーヴァらは未だ混乱した様子をしていたが、何体かがその猛攻の中断を気付き始めた。しかし、それらの者も含め、未だ内心の焦りと混沌によって、事態を正確に把握できなくなっていた。
ある一匹が、ふらついた足で移動していた時、ふと目を転じた所にリュナウィッシュとルーアン、そしてガルティックの姿が目に映った。すると、怪物の中に何かが切れたかのように、半ば半狂乱の形で蛮刀を掲げ、彼女らに斬りかかった。
ルーアンは即座に防壁から出て、怪物をニンファルで斬り倒した。その様を見て、リュナウィッシュはどこか、心苦しそうに顔を強張らせ、そしてそむけた。自らの手を握っている皇王の手に力が入るのに目を向けたガルティックは、心配そうな顔つきで彼女を見た。
その間に、光利は更にもう一つ、ドルクルに作ってもらった──そして現状最後の武器──『ダネルMGL』を取り出して、下に向ける。狙われて逃げようとした二匹に向け、まず一発を撃ちこんだ。撃ち込まれた所から爆発が起こり、周囲にいた数匹が吹っ飛んでいく。光利は次々と向きを変えて撃ち込んでいく。
爆発を直接受けるか、あるいはその衝撃によって、ラヌラーヴァは次々と始末されていく。敵方はほぼ戦意を喪失しており、ほとんどパニック状態に陥っており、そのまま出入り口から逃げ出そうとする者もいた。当然、逃げ切る前に撃たれてしまったが。
その出入り口から、先ほどまで定期的に入ってきていた数も、今はほとんどなくなってきていた。ある時、もはや一匹も入ってきていないことに、光利は攻撃をしながら気が付いた。時折、隅の方にいる者怪物を、リュナウィッシュがニンファルで持って始末していく。
──そうして、最後に一発撃ち込んだ後、光利は銃口を上に向けた。最後の爆音を聞き、涼しげな目付きで一階を見下ろす。ラヌラーヴァの遺骸がそこら中に倒れ、どの一匹も、僅かとも動く気配を見せない。
ひっくり返してこぼれた墨を、水に濡れた雑巾で雑に拭いた後の様に、ラヌラーヴァの黒い血が濃淡様々に床のカーペットを汚していた。
──身体中に防壁を張っていたグヴィス・バグスは、唖然とした様子で、その凄惨な光景を見つめていた。その様は、今まで目の前で起きたこと、その結果として広がっている物を受け入れ難いといわんばかりの表情である。
そんなグヴィスの右手側に、光利が二階から降りてきて、遺骸を踏まぬ様、そっと歩いていく。足の裏で床を踏む感覚は、ラヌラーヴァの血による滑り気のために、妙に生々しく感じられた。その手には、ワルサーPPKが握られている。先ほどの武器二つは既に、リングルの中に収めている。
光利がグヴィスの前に立った時、彼が進みだしたのと同じタイミングで歩き出したのだろう、ルーアンも、リュナウィッシュもガルティックも同じようにその場所に集った。皆視線を、その巨体に向ける。
やはり変わらず、穏健ともいえる冷静な目つきをしている光利を除けば、三人は一定の敵意を視線に籠めていた。ルーアンに関しては、今にも飛び出さんばかりである。
「き、貴様ら……」
危機に瀕した状況に抗しようとしつつ、それでいて恐れの抜け切れていない生半可な態度で、呟くとも言える語調で言った。光利は態度をそのままに、右手を腰に当て、頭もそちらに傾けて、
「俺達がラヌラーヴァの連中を攻撃している最中に何もしてこなかったということは」光利が言った。「その状態で攻撃なり応援なりが出来ないのか、そもそもその術がないのか?」
「どちらにせよ」ルーアンが言った。「その防壁を解除した時点で、相応の行動をとらせてもらう」
ルーアンは顔を少し俯け、上目遣いで睨んだ。グヴィスは答えることが出来ず、しかしその悔しさを表すようにその歯を強く噛み締める。
──その時、その場に怒号が響いた。
「光利ィッ!!」
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※作品の設定上、登場する人物の視点に合わせて、同じものでも表現の仕方を変えている場合があります。(例:コート→外套 ベッド→寝具)お付き合いいただければと思います。