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死に際の殺し屋は、異世界で皇王と出会った  作者: 玲島和哲
プロローグ~ボウディン
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ボウディン

 第一の都市『ボウディン』の大通りは──まだ朝が来たばかりということもあるのだろうが──歩行者も少なくとも、閑散としていた。真顔ながらも既に精悍さに溢れる顔の者もいないではなかったが、大半がぼんやりとした顔つきで、未だ起きているという状態ではなかった。


 当初は少しばかり懸念していた服装であるが、リュナウィッシュに事前に教えてもらっていたように、さして大差の無い格好をしている男の姿が、時々見られた。無論、そうした服装含めて、ほとんどが彼の見たことのない物ばかりだったが。


 ボウディンはまた、『建築の都』と言われている。アマルサスにおいて、建築というものが成立したのが、この都市のある土地からだというのが理由である。他の場所においてが、土を集めたかまくらの様なものや巨大な岩場の穿ち、山中の洞窟を住居としていた時代において、この辺りには、既に建物と呼ばれるに足る物が立ち並んでいたという。


 のちにアマルサスと呼ばれる国ができる土地を、初代ファムアート率いる一団が旅してまわっている際、この辺り一帯に、他の場所では見られぬ住処──建造物──を目にして、驚いたという記録が残っている。


 国の統一が行われた後、ボウディンの建築物の構造を各地の特徴に合わせて用いつつ、こうした建築物をどんどん増やしていくことになった。現代においても、建築業においての第一人者のほとんどが、この都市にて学業を積み、各都市において活躍したという。


 そういった情報をドルクルやリュナウィッシュから聞いていた光利は、街の建物の様子を、不審がられぬ程度に見回していた。『建築の都』と呼ばれるボウディンであるが、建夫自体には特に奇を衒ったものはなく、堅実そのものといった様子だった。


 ボウディンでは、初代ファムアートによってその建築を広められたということが大変な誇りとして記憶されており、建築第一の場所として、長らく真っ当な建築の建設を心掛けているという。過去には多少ともおかしで奇抜な建築物ができると、住人によって破壊されたり、建設者が焼き討ちに合うなどの事件もあったそうである。


 当然、現代においてこそそのようなことはないものの、そうした名残故か、ボウディンの建物は、真っ当なものが多い。端的に言えば、アマルサスにおける王道の建築物がほとんどなのだそうである。とはいえ、建築における最新技術が常に編み出され続け、率先してその建築の中に利用されている。


 今現在をもって、あらゆる建築における基礎を提示し続けることによって、『建築の都』の名を欲しいままにしている。


 ──途中で路地に曲がり、怪しくない程度に様々な店に視線を向けて歩いていく。そして、一つ本屋を見つけると、そちらに歩を進めた。出入り口には新聞も置かれており、一人の男が読み終えた一部を畳んで元の場所に戻していた。


 光利は丁度男のいた位置に立って新聞を一部適当に取り上げた。そして、時任に斜め読みをしつつ戻しては、更に別の一部を読んでいく。一つ一つを、あたかも試食するかのように軽く目を通していき、最後の一部を戻すと、最初に取り上げた新聞を手にして、レジへと向かった。


 ──しばらく歩いていくと、飲食店が点々と連なる通りに出た。閉まっている店もあったが、既に開いている店にはそこそこに客の数もあった。鼻に香るその匂いも、寝起きにぴったりな、しつこくないものだった。光利は、比較的さっぱりした朝食が好みだった。


 店の前に掲げられた看板の写真を見て、光利はその店の中に入っていく。注文を済ませて金を払い、端の方の、隣の客と一席隔てた席へと着く。新聞を開いて読みながらしばらく待つと、注文したスープと、溶けたバターの乗っている食パンの様な『パドラフ』という名の食べ物が運ばれてきた。


 新聞を片手で持ち、身体を店の中の方を向きつつ、それに目を通したまま、光利はパドラフを口に含んでスープを啜る。類似した味の食物が思い浮かばぬが、彼好みのさっぱりした味をしている。


「……! どうされましたか!?」


 後ろから切羽詰まったような声が聞こえた。光利は、顔の前には飽くまで新聞を掲げていたが、その目は店のマスターの方を、そしてその視線の向いている方を追って、出入り口の方を見た。食べ物を口に含んだまま振り返っていたため、彼も同様に振り返る。ラヌラーヴァ二匹が、店の中に入ってきていた。


「いや何、気にするな」


 ラヌラーヴァが、軽く手を挙げてそう言った。細身のラヌラーヴァは店主を静止し、別の太っちょが店の中を見回り出した。光利のいる場所と反対方向に向かっている。

 

光利はパドラフの最後の一切れを食し、スープも飲み干すと、そのままカウンターへと進んでいく。カウンターの前の細身が光利に視線を向ける。光利は気にする様子もなくカウンターで清算を済ませる。


 そのまま細身の方を向くと、右手を帽子の上に置いて少し後ろにずらして顔を見せると、軽くお辞儀をし、そのまま両手をポケットに突っ込んで、新聞を見ながら、店を出ていこうとする。ラヌラーヴァは終始、光利を目で追っていた。


 丁度同じタイミングで、見回っていた太っちょが男の隣に立ち、その顔を覗き見る。机の上に、食べ終えた皿と注文した分の料金を置いている。口回りに黒いひげを蓄えた男は、一瞬目を逸らしつつも、堂々と装う風でカップに口つける。声をかけることもなくじっと男を見ていた太っちょは、やがて小さく口の端を吊り上げると、その手を男に伸ばそうとした。


 次の瞬間、その男は太っちょの手を払うと同時に席を立ち上がり、急いで店の出入り口に向かっていく。同時に、出入り口付近にいたもう一人の角刈りの男も立ち上がり、急いで店に出ていく。


「待てやぁっ!!」


 二匹のラヌラーヴァはそれを追って店を出る。


 店を出てきた二人は、二手に別れて走り出す。更にそれを追って、二匹も別れてそれを追いかける。


 それら二つの距離が、そんなに開いていない時に、光利はS&W M10を取り出す。そして、まず右側の方を向いた。丁度、追いかける細身の前を、全力疾走する角刈りの姿が写る。光利は銃口をそちらに向けると、そのまま引き金を引いた。

 ほとんど同時に、走っている男の足元に、弾が激しく弾け、驚いた男はその場に倒れてしまう。

光利はそのまま左側を向いて、口髭の男の後ろ姿が見えると、銃弾を一発撃ち込んだ。同様に、その足元近くの地面で、鋭い音を立てながら弾けた銃弾のために、男は勢いよく倒れてしまった。


「大人しくしろっ!!」


 倒れた口髭を押さえ付けたまま太っちょは叫ぶ。


 ──細身も角刈りを抑えつつ、光利の方に目を向ける。反対方向に目を向けていた彼は、少ししてそちらの方に目を向け、その視線に出会った。細身の疑うような視線に対し、光利は飽くまでいつも通りの目付きをしていた。


「……早く立て!」


 何かを問いたげな様子を見せつつ、細身は角刈りを起こす。立ち上がった角刈りも、光利の方を見る。その視線には、明らかな不信感と困惑と、恨みがましさに満ち満ちていた。無論、それが光利に動揺を与えることもなかった。


「離せ……離せぇっ!!」


 光利の後ろから、必死に逃れようと叫んでいる口髭を捕らえたまま、太っちょが通り過ぎる。その際、やはり怪物も、詮索するような目付きで光利を見ていた。内心の思惑を見抜こうとするかの様な目付きである。


「早く来い!!」


 前から叫んで呼ばれると、その太っちょは前を向いて、少し急ぎ目で走り出した。


 周りからの視線を感じながら、光利は両手をポケットに入れてその様子を見ていた。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 ──細身のラヌラーヴァが明かりを灯す。二つの椅子の座らされた男二人と、その前に立つ二匹のラヌラーヴァの姿が浮かび上がった。男らの両手は椅子の後ろに縛られている。


 二人と二匹のいる場所はとある飲食店の地下にある倉庫だった。男達の後ろ、ラヌラーヴァらと向かい合った場所に、階段があった。使い古いされて、誰が利用しているかも分からないといった有り様のものが、倉庫の隅に雑然と積まれている。


 彼らのいる場所、その周辺だけ、掃除をしたように何もない。見ようによっては、散らかっていた物を無理矢理隅に寄せて足場を作ったという様子である。明かりは小さく、端の方まで届くこともないため、じっとりとした闇に沈んでいる。


 ラヌラーヴァ二匹は、二人の前に立つ。二人も、怪物を睨み付ける。その一匹が一人の口髭を掴むと、そのまま引き剥がした。付け髭が取れたその顔は、実に端正な顔立ちをしていた。隣の角刈りの男が、細く睨んだ目付きで、それを見ている。


「貴様らの素性は分かっている」太っちょが口を開いた。「……あぁ~お前らの名前は忘れたが……『ファムアート市民』の連中だ」


 太っちょは言葉を詰まらせつつ、少々適当な態度で言った。二人は睨み付けつつ、口を固く閉ざしている。


「……」


 何も喋らぬ二人に対し、太っちょは付け髭を着けていた一人の顔面に、拳を打ち付けた。男はそのまま椅子ごと後ろに倒れそうになるが、なんとか椅子は元に戻って倒れずにすんだ。


 殴り付けた太っちょは、さらにその手で、角刈りの男の頬を甲の手で弾いた。その二発はラヌラーヴァにとって、人が虫を叩くよりも弱々しい一撃でしかない。しかし、体格も力も比べ物にならないほど怪物からの一撃は、例えどれ程弱々しい物でも、彼らには強烈なものでしかなかった。


 二人は攻撃を受けて、一瞬意識を飛ばしかけたことを強く意識した。拳を受けた男の鼻からは血が止まらず、甲の手で打たれた男の口からは血が流れている。睨み付けてこそいるが、微かな恐怖の色が滲んでいる。


「こちらの要求は分かっているはずだ」殴った方のもう一匹が、重々しい口調で言った。「仲間の居場所を吐け。それですべてが済む」


 角刈りが一瞬目を逸らす。が、すぐにまた怪物二匹を見上げる。目が合ったもう一匹が、更に一撃加えようと手を挙げる。


──その時、扉の開閉の音、そして階段を降りる足音が聞こえてきた

作品の設定上、登場する人物の視点に合わせて、同じものでも表現の仕方を変えている場合があります。(例:コート→外套 ベッド→寝具)お付き合いいただければと思います。

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