007 俺の昼飯時がこんなに騒がしいわけがない
「よ、よう沙也加。久しぶりだナァ」
「わわっ、なんか凄いことになってます……!」
思わず咄嗟に挨拶をしてしまった。マズい、どもって片言に……あと涼風、慌てすぎだろ!
「……あなた、誰?」
「は、はい! 私、涼風 有希と言います! 柊夜先輩とは学園の先輩として色々教えてもらっています!」
おい、お前とは今日あったばかりだぞ有希。しかもそんな先輩らしいことは一切してないんだけどな。みろ、沙也加も疑いの目でお前を見てるぞ。
「ふぅん……柊夜先輩、ね。随分と仲が良いみたいね、その子と。」
「おい見ろよ、修羅場だぜ修羅場!」
「キャー! 初めて見たわ!」
おい、なに楽しんでんだ野次馬連中! こっちは大変な状況なんだぞ! 俺もお前らの立場なら楽しんでるけどな! 突然の沙也加の登場により、食堂はいつもよりも騒がしくなる。俺はただ平穏に昼飯を食べに来ただけなのに……やっぱ有希の誘い、断っとけば良かったかもしれない。結果論でしかないけどな
「せせ先輩、どうするんですか。なんかとんでもない事になってますよ」
「そりゃお前、沙也加が来たからに決まってるだろ」
「二人とも、ひそひそ話してるつもりみたいだけど、丸聞こえよ!」
「あだっ!」
「あうっ!」
パシンパシン、と頭を叩かれる俺と有希。こいつ、初対面の有希にも容赦ねぇ……!! 流石にグーパンじゃないだけ優しいけど、やっぱ怖いわ沙也加さん
「それより柊夜、なんか言いたいこととかないの?」
「……へ?」
「だから、私に言いたいことがないかって聞いてるの!」
なんだ? 俺が沙也加に言いたいこと? この前の件に関してちゃんと謝れ、とかかな。うーん、分からん。どうしたらいいんだ? 早く言わないとまた怒られるし……くそ、こうなったらヤケだ
「言いたいことはない! けど、これだけは言わせてくれ。この前はゴメン!」
「……バカ」
沙也加はそう言って食堂を出ていく。またやってしまったのか俺は。沙也加のあの蔑んだ顔……キツい、キツすぎる。
「柊夜先輩、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「だ、大丈夫だ。もとから血色が良くないってよく言われるから」
「そうですか。とにかく、何があったか知りませんが、無理はしない方がいいですよ先輩!」
「あ、あぁ……」
沙也加のせいで昼休みも残りわずかになってしまったので、急いでカレーを搔き込む。有希はいつの間にか食べ終えていた。いつの間に食べたんだコイツ……
これからどうしようか。沙也加との溝は深まるばかりで、一向に良くならない。とりあえず、なるようになるしか無いのか……
◇
食堂で柊夜と別れ、教室に戻った私は一人、悶々としていた。なんなのよ柊夜、いきなり真剣な顔になって謝って来るなんて。その顔がカッコイイと思ってしまった自分が憎い
「柊夜のクセに……バカ」
私は食堂で買った焼きそばパンを口にした。柊夜と話をしていたせいで少し冷めていたが、柊夜に嫌われていたわけじゃないと思ったら、不思議と美味しく感じることができた