004 最近、妹の反抗期がキツ過ぎるんだが
「───とは言ってみたものの、どうしたもんかな……。」
家に着いた俺は、リビングでアイスを貪っていた。切れた口に少し染みるが、この際気にしないでおく。今からでも沙也加の家に行こうと思ったりもしたが、逆効果な気がしたのでとりあえず家で大人しくすることにした。お、このアイス美味いな
「あ、帰ってたんだ」
「おう、ただいま春華」
相川 春華。一つ下の妹なのだが、これがまた難しい年頃で、反抗期の真っ最中だ。特に俺と父さんに対して態度がキツいのなんの。この前なんて、ボロカスに言われて父さん半泣きだったしな
「なんか昨日から帰ってくるの早いじゃん。なに、暇なの? お兄ちゃんも可哀想だね。まぁ彼女もいないしボッチだから、仕方ないよね」
「おい、彼女は確かにいないけどボッチは違う」
早速来た毒舌攻撃。確かに帰宅部でバイトもしてねぇから暇人だが、そこまで言われることじゃないはずだ。俺みたいなやつはたくさんいるはずだしな。言ってて悲しいけど
「どうせ唯月さんでしょ? 学年変わってから友達出来てなさそうだもん、お兄ちゃん」
「ぐ、ぐーっ! けど友達はいるからボッチじゃないぜ」
「あっそ」
そしてこの反応である。反抗期というものは実に厄介だ。相川家の男は今、春華という天使の皮を被った悪魔に蹂躙されている。俺は父さんほど罵倒されたりしていないけどな。
「ねぇお兄ちゃん。もしかして……さやねぇにフラれたの?」
「ファッ!?」
ダメだ、いったん落ち着け。ここで焦りを見せればこの悪魔に感づかれてしまう。そうなると厄介だ。ここは冷静に行かねばならない
「そんなわけないだろ、なにバカな事言ってんだよ」
「なに噓ついてんの? 今日屋上でさやねぇに殴られたんでしょ? 知ってるんだから。それも盛大にブッ飛ばされてたって。カッコ悪いねェ、お兄ちゃん」
どうしてそれをコイツが知っているんだ。あのやりとりは俺と沙也加しか知らないはず。よりにもよってコイツには知られたくなかった……
「その話、沙也加から聞いたのか?」
「ハァ? わざわざ聞くわけないじゃん。うちのクラスの子がたまたま見たんだって。さやねぇ美人だから一年の間でも有名人だし。」
いや、たまたまって。誰かに見られないように屋上で話したつもりなのに見られていたとは……最悪だ。これでますますコイツに毒を吐かれちまう。くそ、あの日から不幸続きだ……
「……マジでフラれたんだ。お兄ちゃんとさやねぇ、意外とお似合いな感じだったのに。」
「俺もいけると思ったんだけどな。そう思ってたのは俺だけだったって話だ」
「ふぅん。ま、お兄ちゃんの事だから、明日になったら忘れてるでしょ? いつも三歩歩いたらなんでも忘れるくらいだし。私としてもいつまでもウジウジされたら鬱陶しいし」
「誰の頭が鳥頭か。まぁ実際、アイツにそういう感情はもう抱かないようにはするつもりだけどな。そう割り切らないと逆に辛いからさ」
そんな感情抱いたところで、傷つくのは自分だ。けどせめて、幼なじみとして普通に話したりはしたいところだ。現状、できるかどうかは分からないけど
「は? ホントにそれでいいの? 一回フラれたくらいで? バカじゃん、それ」
「俺にとっても、アイツにとってもその方がいいんだよ。今日も大嫌いって言われたし、付き合える可能性なんてゼロだぜ、きっと」
「……マジでバカで最低だね。死んでも死にきれないくらい死ねばいいのに」
そう言って春華はリビングを出ていった。バカはまだしも死ねは酷くないか!? 妹ながら恐ろしいやつだ。父さんが半泣きになるのが分かった気がした
「……アイス、溶けちまったな」
ちなみに、この後俺が食べたアイスが春華のものだとわかり、罵倒を浴びせられ、駅前の大人気スイーツを買うハメになったのは内緒である