011 宿泊研修に四苦八苦! -その1-
「……」
「……」
早朝六時。俺はいま、宿泊研修先に向かうバスの中でガチガチに緊張していた。なぜなら隣に……沙也加がいるからだ。なんでバスの座席が隣同士なんだって思ったら、なんとなく分かってしました。アイツのせいに違いない。あの乳オバケめぇ……!
「ね、ねぇ柊夜。涼風さんとは仲が良いの?」
「へ? いや、有希とはそこまで仲良くはないぞ。知り合ってまだそんなに経ってないしな」
「けど下の名前で呼びあってるじゃない。」
「それはアイツが呼んでくれって言ったんだよ。」
今日の沙也加、なんか怖い。唯月、助けてくれぇ! このままじゃ宿舎に着くまで俺の身が持ちそうにない!
「……まぁいいわ。それより春華ちゃんは来てるの? あの子、こういう行事嫌いなんでしょ?」
「来てるよ。流石にズル休みは母さんが許さないから、仕方なしに来てるって感じだけどな」
「なんか春華ちゃんらしいわね。」
よしよし、なんとか空気が和やかな感じになったな。春華、今だけお前に感謝だぜ。それに、こうして沙也加と他愛もない話が出来るのも幸せってもんだ。
「相変わらずイチャイチャしてますなぁお二人さん。羨ましい限りやわ」
「別にイチャイチャなんてしてないっての。てかなんでお前がここにいるんだよ西原」
いつの間にか西原がいた。確か前の席に座ってたはずだろお前。
「いやな、前に座っててんけどめちゃくちゃ暇で、後ろ空いてへんかなぁって思って来たらちょうど空いてたから、お邪魔させてもらっただけやで。よいしょっと」
「西原くん、私がいるんだけど。静かにしてほしい」
静かに本を読んでいた倉敷さんが迷惑そうに西原を睨む。まぁ、うるさいもんな、西原。悪いやつじゃないけど、倉敷さんとの相性は悪そうだ。
「まぁまぁそう言わずに。それで? お二人さんはどこまで行ったんや? Aか? それともBか? はたまたCなんか?」
「なんだよそれ。だから俺は沙也加とは付き合ってないって言ってるだろ」
「そ、そうよ。誰がこんなニブチンと付き合うもんですか」
ニブチンって、酷いなオイ。どちらかと言えば鋭い方だろ俺。誰がニブチンだ、誰が。
「意外。相川くんと戸崎さん、付き合ってると思ってた」
マジか、倉敷さんもそのパターンかよ。てかさりげなく会話に入ってきてるじゃん倉敷さん!
「ホンマやで。まさか付き合うてなかったとは……そんなに仲良く話してるのにな」
ついこの間までマジでギスギスしてたんだけどな。そうなった原因は流石に人には言えないけど。そんなに付き合ってるって思われるくらい仲良さげに見えるのか。複雑だなちょっと嬉しいと思ってしまっている俺がいる。
「相川、この事は絶対に他の人に言うたアカンで? 特にファンクラブの連中にはな」
「は? なんでだよ」
「アホ。今まで戸崎さんとお前さんが付き合ってるって思ってたからなんもしてけえへんかったけど、そうじゃないって分かったら何してくるか分からへんでアイツら」
怖すぎるだろ。もはやファンクラブ通り越してカルト集団だろそれ。そう聞いたらホントに運良かったんだな、俺。最悪、あの食堂でのやりとりの時に絡まれてた可能性もあったのか……うぉ、寒気してきた。
「ホント、私からしたら迷惑なんだけどね。創設者に会ったら猛抗議してやるんだから」
そうだよな。本人からすればたまったもんじゃないよな。女子からも意味もなく僻まれるし、俺も創設者を見てみたいくらいだ。なんだったら沙也加の代わりにぶん殴ってやりたいくらいだ。
そんな事を思っているうちに、宿泊研修が行われる葉蘭キャンプ場が見えてくる。去年も行ったけど、広すぎだろここ。伊達に二学年全員が泊まれる施設じゃないな。
『はいはい、静かにしろお前ら。そろそろキャンプ場に到着するから、降りる準備をするように。あと、座席に忘れ物をしないようにしろよー』
先生の指示から少ししてバスは駐車場に停車し、俺たちも順番に降りる。うお、バスの数も凄いな。これ全部葉蘭学園から来てるやつかよ……
「全員降りたな。それじゃあ広場で施設の人の挨拶があるから、このまま行くぞー」
こうして始まった宿泊研修(二回目)。あぁ、なんか緊張してきた。去年は沙也加と同じ班で浮かれてたけど、今年はそうは言ってらられないからな。ここが正念場だ、失敗は許されないぞ相川柊夜。
「柊夜、なにその顔。なんでそんなに緊張してるのよ」
「へ? い、いや別に緊張なんてしてないぜ。ちょっとバスで酔っただけだから」
こんな調子で大丈夫か俺ェ! まぁ、なんとかなるだろ……多分。知らんけど。