紺野先生は眠りたい
男は銃刀法違反で捕まったので警察からはお咎めなしだったが(代死人の管理者が何を出張った真似を、的な目で見られはした)代殺人の女の子音羽からはこっぴどく言われたし(『信じられない! あのまま刑務所から出てきた時に誰かを殺したらどうするのっ? まあ当然このあたしがそんなことさせないけれどね!』)代死人の寺野からはなぜか知らんが馬鹿だと言われた。(これは俺もその通りだと思う)
夜中、家のリビングでパソコンと睨み合いながら諸々の書類を作っている。
音羽の管理者にはメールを入れたし、あとは政府に提出する報告書と始末書、若干のへりくだった意見書。人間の死を代わりにさせる人造人間を造り出した時もやばいやつらだと思ったが、そもそも上のやつらは下に対する説明や報告がずさんすぎる。それで下には報連相を求めるってどーいうことなんだ。そりゃ懇切丁寧に改竄した立派な文句だって送りたくなる。
「あー、クソ、眠たい」
煌々と明るい液晶から、暗いロフトへと目を向ける。あそこでは寺野が眠っている。代死人にとっての眠りとは死ではなく、それは人間と同じで脳みそと心臓を休めるための疲労解消運動らしい。疲労を解消するための運動。つまりあいつにとって最も欲する休息はやはり死というわけだ。
……俺はあいつに、死んでほしくないとは、思っていないと、思う。
それを思うことはあんまり無責任すぎる。
でもいい加減、あいつが死ぬたびに自分の顔が歪むことについて、もっと知るべきだ。
そんな相手から「怪我してほしくないみたい」と言われたとき、本来ならそれは俺が言うべき台詞なんじゃないかと疑った。大人は子どもを守るべきだなどと。
あの代死人の寺野を普通の子どもとして扱ってなんか、ないくせに。
そう扱われるのが人造人間にとって幸福かも分からない。
幸福って。
あいつ死ぬこと以外に幸せを感じることってあんのかな。
飯食ってるときとか?
「寝たいな……」
どうせ寝たってまともに眠れやしないんだから、これ以上ぐだぐだ考えている暇があるなら手元を動かした方がいい。
安眠のロフトから、うるさい液晶に目を戻した。