表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
代死人の寺野くん  作者: 年越し蕎麦
season1
14/62

心情と表情

 この国は死にたい輩が多すぎるし、昔と比べてスナック感覚で死ねてしまえる道具や場所や人、死にたい心が充分に備わってしまうので、僕ら代死人というものは存在するわけだ。

 しかしまあ、毎日が毎日、僕の周りで死にたい輩が出てくるわけでは、もちろんない。

 

「暇だよ先生。ちょっくら自殺したいこととかない?」

「まるでないな」

「潤いがない人だぜ先生」

 僕はぼやいて保健室のベッドに倒れた。

 今日は驚くほど暇だった。今日はというか、ここ一か月はほぼほぼ暇だった。僕の言う暇というのは人生でありお仕事でありものすごく望んでいるけれどものすごく望みとは違う形で叶う代死という行為がない状態のことを表す。(僕の頭の中の辞書はよく意味が書き換わるので今日はそういう意味の暇という単語だ。この間は普通に授業がつまらなすぎて暇だなと思った。この国の学び舎必修科目、道徳の授業は拷問に近い)

「なあ先生、先生はなぜ死にたいと思わないの」

 これも何回かしている質問だ。切羽詰まった時には訊けないけれど、こういう平穏な時ほど気軽に口にできてしまう問いかけ。

 僕に背を向けてノートパソコンのキーボードをぱちぱちしている先生は、すげなく答えた。

「死にたくないからな」

「なぜなんだ?」僕は不思議がって声を上げた。「気づいてないのか? 僕が死ぬ時、死んだあと、先生は誰より死にそうな顔してるくせに」

「死にそうな顔をしてるだけで、死にたいわけじゃないからな」

「心情と表情は一致した方が愛嬌があるぜ」

「表情の乏しいお前に言われたくねえよ」

「でも僕、わりと笑ってるだろ?」

「笑顔はな。まあお前はよく笑うやつだ」

「先生は無愛想すぎる」

「お前にだけだよ」

「一見というか一聞熱烈な台詞に聞こえたけど内容はおそろしく冷たかったな今。なんだって?」僕はベッドから体を起こした。「僕にだけ愛想がないのか?」傷ついた! わざとらしく叫んでまたベッドに引っ繰り返ると、こちらを振り返りもしない先生はぱちぱち続けながら「あー」と言った。これは聞いているが面倒で聞いていないふりをしている『あー』だ。

 

 先生のことは、よく分かっているけれど、よく分からない。

 代死人であるT‐0671(ぼく)の管理者。本人は保護者だと言っている。

 その立場故に、人権のない人間じみた生き物である僕を、普通は、情を捨てて(もっと言うと、そういう情をもとから持っている方がおかしい)機械のように管理するのが仕事で、そうできるからこの役職に就いているはずなのに。

 つまり、彼は僕が代死した時に見せるあんな複雑怪奇な表情を、浮かばせずに済ますことができるはずなのだ。


「……僕にだけ愛想がないのかあ」


 そーいうのは特別感があっていい気になるぜ先生、僕がにやりと笑って嘯くと、先生はまた「あー」と言った。

次の更新は6月中……かなあ……と思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ブロマンス作品を探し求めてこちらの作品に辿り着きました。 寺野くんと紺野先生のなんともいえない関係性が良いですね!作中何度も書かれているように、紺野先生は代死人の管理者という役割は向いて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ