初陣
第九話 「初陣」
大正108年 6月 1日 0時 46分
オワリコマキーン歴1000年 1月 1日 21:00 (1日目)
@シゾーカ
「先ずはみんなに謝らなければならない。お土産は忘れた」
「えーーーーっ」
途端に起こるブーイングの嵐。
舞踏会場から帰ったサトルは、SDダイブルガーを肩に乗せ、ナビゲーターのロボ子ちゃんとガチャから出てきた武将たちを王城のテントの中に集めていた。
「悪かったよ。色々あったんだ」
頭モジャモジャのサトルは、ぶっとい枠の黒縁メガネをクイッとして、ブーイングが収まるまで少し待ってから会議を始めた。
「ロボ子ちゃん、今日はもう遅いから明日からガンバるけど、明日は何から始めたら良い?」
「主君、明日などと悠長なことは言わずに、今らでもできることは進めておくべきですわ」
生真面目な星五武将【姫騎士 桜姫】が進言する。
テントの真ん中にある囲炉裏を中心に、みんな車座になって座っている。
ここには全武将が集まっているので、星六武将【羽衣天使 アイリ】星四武将【幻術師 テンコ】はもちろん、星三武将の二人の魔法使い・神官・シーフも居る。
「桜姫さまのおっしゃる通り、今日の一晩を……カッカッカッ……何もせずに過ごすのはもったいないかと思います」
「えーっ、あちきは眠いのぉ。もう仕事したくないでありんす」
アイリは専用装備【天使の羽衣】の能力で地上から数センチを漂うように浮かびながら、ふあぁぁぁと両腕を伸ばしてアクビをする。
【天使の羽衣】は身体にスケスケヒラヒラな生地ーー極薄の布(帯?)ーーが巻き付いているだけの、かなり刺激的な格好だ。
薄モヤが掛かっている程度にしか身体が隠せて無いし、場所によっては布が身体から離れているヵ所もあるのに、大事な部分だけは何故か見えない魔法の布だ。
「アイリさんはまだやることがありませんので、お仕事をする必要はありませんですわ」
「いーのー?じゃぁ、おやすみでありんすぅ」
漂いながら寝る体勢に入るアイリ。
「いきなり寝るな。せめてもうちょっとガマンしろよ。で、何をしたら良いんだ?」
「良いかサトルよ。戦闘はパワーだ。だから【兵士訓練所】を建ててガンガン兵士を増やすのだ」
国王の右肩に座っているSDダイブルガーが、攻撃のための戦闘力強化を提案した。
「この試験は生き残ることが重要なポイントで……すので、序盤は防御力を高めることがより効果的……カッッカ……であると思います」
ロボ子ちゃんが立ち上がってカクカク動きながら言う。
「そうですわ。『王城レベル2』以降も投石器や物見櫓やバリケードの強化をして早急に王城のレベルアップを優先するべきですわ」
コスプレチックなビキニアーマーの桜姫が、おカッパメイド服のロボ子ちゃんの
意見を推す。
「我はお前たちの神なのだぞ。神の言うことが聞けぬのか。攻撃は最大の防御である」
ブリキのおもちゃのようなシゾーカの神は、手足をキコキコさせながら憤慨しているが、何となくカワイイ。
「そう怒るなよ。こういう事はロボ子ちゃんに任せるのが一番だろう?」
テンコが何かのブロックサインを送ってきているが、サッパリ解らない。
喋れたら良いのに、意志の疎通が難しい子だ。
「ごめんテンコ、何を言っているのか解らない。ロボ子ちゃん、何から手を付けていけば良い?」
「まずは【王城】をレベル2にすることが先決です。物見櫓などの防衛施設……は『王城レベル2』からでないと建設できません。王城をレベル2にグレ……カッカッカッ…ードアップさせるためには、『王城』以外の施設などのレベルを、合計して20以上にすることと、築城費4000ゴールド……ウーッツ……が条件です。レベルについてはマスターが舞踏会に参加している間に、ロボ子がナビゲーター権限で『城壁』を18ブロック作……成して、全てを『レベル0.5』から『1』にレベルアップしておきました」
言い終えてロボ子ちゃんはサトルの隣まで歩いてきて頭を差し出す。
サトルは即座にメイド姿の彼女の頭を撫でてあげた。クシャクシャっとするのではなく、上から下へ上から下へと優しく撫でるのだ。
こうしないとロボ子ちゃんは機嫌が悪くなる。
「えへへ」撫でられた彼女は至福の顔だ。
「するとあとは4000ゴールド貯まるまで待てば良いのか?今幾ら貯まっているの?」
「コントロールパネルから確認できますわ。ご覧になって」
コントロールパネルの右上角に、現在のゴールドが表示されている。
今は『G鉱山レベル1』が1基だから、毎時300ゴールド貯まる。
ゴールドは『Gタンクレベル1』が1基なので、最大5000ゴールドと鉱山分の300を足した5300ゴールドまで貯めることが出来る。
現在2350ゴールド。見てる間に2400ゴールドになった。
4000まで残り1600なので、まだ5時間20分掛かる計算になる。
そこから城のレベル2へのレベルアップするために『1d』つまり1日(1day)掛かる。
だから『城レベル2』の施設が作成できるのはまだまだ当分先の話しである。
しかし神ポイントを使うとなると、話しは変わる。神ポイントは主に戦闘に勝利することによってのみにしか入手ができないポイントで、色々なものを買うことができるのである。
『買えるもの』の中の一つに『時間』がある。
例えば城の建築時間。レベル1からレベル2にアップするために24時間必要なのだが、1時間を10神ポイントで換算して、240神ポイントを使用することにより、即座に建築する事ができる。
神昇格試験開始時に1000あった神ポイントは、クソニソスの贈り物で強制的に500減らされ、今現在は500神ポイントしかない。
ここで城の建築時間分の240神ポイントを使用すると、残りは260ポイントになってしまう。
万が一そこで戦争を挑まれて負けてしまうと200神ポイントが奪われて、残り60ポイントになってしまう。
「こっちから隣国に攻め入って勝てば良いのだ。今なら何処の国にもプレイヤーが居るはずだ。プレイヤーごと倒してしまえば、200以上手に入れることが出来るぞ」
ダイブルガーと彼を盲信している星三シーフと魔法使いが攻撃を支持するが、武将たちと話しあった結果、サトルと桜姫とロボ子ちゃんの堅実派の意見が賛成多数で、
「今回は神ポイントを温存することに決定」
となった。
「我はそなたたちの神であるぞ。なぜ我の意見が通らぬのだ。我は強いぞ」
国王の右肩に座っているSDダイブルガーがブー垂れる。かなり不貞腐れている。
ちなみにシゾーカ最強武将の星六【羽衣天使アイリ】は空中に漂いながらとっくに寝ている。実に幸せそうな顔だ。
大正108年 6月 1日 1時 17分
オワリコマキーン歴1000年 1月 2日 7時 00分 (2日目)
@シゾーカ
「おはようございます。主君。お早いお目覚めですわね」
モジャモジャの頭をカキカキしながら、サトルが王城の天幕から出てくると、外で朝の稽古をしている青と金のビキニアーマーの彼女が、額の汗を拭いながら声を掛けてきた。
若い王は、桜姫のピチピチな肢体にドキドキして、目のやり場に困ると思いながら
「や、やあ、おはよう。オウキ。随分早起きなんだね」
「私雑魚寝と言うものに慣れておらず、昨日は寝つけませんでしたわ」
「昨日は王城テントの土間で雑魚寝だったからね。なかなか出来ない体験で楽しかったけど、気になっちゃって寝つけないよね。王城がレベル2になったら、先ず【武将宿舎】を造るよ」
かく言うサトルも昨日は寝つけなかった。
それは桜姫と同じデリケートな問題ではなく、広いとは言え一つのテントで幾人かの女の子たちと一緒に寝るのだ。
気にならないわけがない。
アイリに至っては裸同然で宙に浮いているし。
真っ暗で何も見えなかったが、それがまた妄想を掻き立てるのだ。
腰まである長いストレートな金髪をなびかせて、フェンシング(?)のような型を繰り返している桜姫を見ていると、テントからシーフと神官と二人の魔法使いの男四人組が出てきた。
「おはよう、みんな」
「おはようございます、王様。築城は始まっているようですな」
神官が城の進行状況を聞いてきた。
「ロボ子ちゃんは寝なくて良いからね。朝4時から城のレベルアップを開始したから、今日一日の辛抱だね」
「今日はどうするんだ?」
頭にターバンを巻き、長い布をアフガン巻にして口元を隠しているシーフがぶっきらぼうに聞いてきた。
「今日は大工も城が出来上がらないと新しい建築もできないから、国を見て回ろうかと思ってるよ」
その言葉が言い終わらない内にシゾーカに警報が鳴り響いた。
『警告・警告・警告・警告・警告……』
システムの無機質な声がモジャメガネの脳内に鳴り響き、人の二倍程もある大岩をくり抜いて造られた『警』と『告』がサトルの足下からニューっと出て来て、目の前をかすめて真上に抜けて行った。
「どわっっっっっ」
サトルは思わず仰け反って手をワタワタさせた。
「びっくりした。なんだ?」
とびっくりしたのも束の間、次にはガッツーンと言う轟音と共に、地響きと共に大きく地面が揺れた。
隣国【ア・ウィッチ】のブロックが接岸してきたのだ。
上空に
『試合開始5秒前』
『ア・ウィッチ VS シゾーカ』
と言う文字がデカデカと浮かび上がっている。
そして見る見る『4』『3』『2』とカウントダウンされていき、そのまま戦闘に突入してしまった。
試合は『攻撃側』と『防御側』にハッキリと分かれていて、『攻撃側』は『プレイヤー』と彼のパーティに組み込まれた『武将』、そして彼の国が生産した『兵士』のみ。
対する『防御側』は、『プレイヤー』と彼のパーティに組み込まれた『武将』、そして建築した防御施設のみが参加できる。
今回シゾーカで使える防御施設は『王城レベル1』にセットされている『戦士』二名のみだ。
「え!?僕たち六人で戦うの?……ヤバくない?コレ?」
王城前に強制転送されたサトルとそのパーティメンバー3人プラス『戦士』二名が見た光景は 、圧倒的な戦力差だった。
平常時50マス×50マスのジオラマ感国満載な国は、試合になると10倍になり、500マス×500マスのフィールドに変化する。
フィールドには5メートル四方のマスがビッシリと千鳥パターンで画かれている。
そのフィールドの真ん中にシゾーカ城が配置されていて、ア・ウィッチ国軍の侵入ポイントまでは120マス(600メートル)ある。
普段おもちゃのような高床式の王城は10倍に引き伸ばされて、それなりに見栄えのする立派な木造建築の城になっている。
城を囲む『城壁レベル1』は城の30マス、つまり150メートル向こうを囲んでいる。
『城壁レベル1』丸太の木組みで作った壁も、グググワッと大きくなって高さは2メートルを越えてきて、それなりに安心感のある城壁になっている。
城壁の向こうには『ゴールドタンクレベル1』と『ゴールド鉱山レベル1』がそれぞれ1基稼働中だ。
正直現状の戦力でG鉱山やGタンクは守れない。
まだろくに出来上がっていないスッカスカな街の外縁に、敵の戦士20人と弓兵10人が配置され、更に4人の一回り大きいサイズの敵が、配置可能スペースに配置されている。
プレイヤーと武将は使い捨ての『兵士』に比べて圧倒的に強いので、判りやすく一回り大きく
出現する。
「心配するなサトルよ。あやつらなぞ我の力を使えるお主一人で十分だ。我はスーパーロボットの神であるぞ。微塵も負ける理由が無いわ」
「僕一人でどうにかできるわけないだろう?」
戦闘中、神とナビゲーターはプレイヤーの視界右隅に表示され、いつでも会話が可能だ。
同じように左隅には縦に五つの枠が表示され、そこにはパーティメンバーが入る。
現在は上からアイリ・桜姫・テンコと並んでいて、その下二つには✕が付いている。
✕を解放してパーティメンバーを増やすには、神ポイントを支払って購入するしかない。
「試合開始。レディ・ゴー」
システムの声が響き、何も準備ができていない初陣だが、いよいよ戦闘が始まった。