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悟、惑星オワリコマキーンに降り立つ

 第五話 『悟、惑星オワリコマキーンに降り立つ』


 大正 108年6月1日 0時28分

 オワリコマキーン歴 100年 1月1日 10時50分 (1日目)

 シゾーカ@惑星オワリコマキーン



『役場の職員・悟』・『鉄巨神(きょしん)ダイブルガー』・『ナビゲーターアンドロイド・ロボ子ちゃん』の三人は光りに包まれたまま宇宙を亜光速で翔ぶ。光の外ではものすごい勢いで星々が流れ去っていく。


 悟の感覚では地球から一瞬で来た感じだったのだが、オワリコマキーン時間で十時間が経ち、惑星オワリコマキーンが眼下に広がる位置にまで来た。


 宇宙から見る『惑星オワリコマキーン』は、地球に似て青く輝いていた。


 彼の星に向かう光球は、悟たちだけではなかった。

 たくさんの光りが宇宙のあらゆる方向から集まってきている。それらは惑星オワリコマキーン、つまり試験会場にやってきている光だ。

 

「おい、自称ダイブルガー。今からでも遅くはないだろう?僕を家に帰すんだ。僕はお前に付き合うつもりはない。」


 右肩に乗っかっているSD(スーパーディフォルメ)ダイブルガーをむんずと鷲掴みして、顔の前まで持ってきて文句を言う。


「何を言っておるのだ悟よ。メリットメリットと言っておるが、メリットも何もお前に選択権はない。『ゼロ時間』の間に入った時点で試験が終わるまで抜けられぬだ。諦めろ」


 なりは小さいが、テレパシーで話しをするダイブルガーの声は大きな声でハッキリ聞こえた。


「なにぃ!?それじゃあ僕を騙したってことか?」


 悟は握ったダイブルガーをガクガク揺らして怒鳴る。


「止めてください、マスター。グランドマスターが壊れちゃいます」


 ロボ子ちゃんがカクカクした動きではあるが、慌てた様子で止めに入る。


「僕が知ってるダイブルガーならこれくらいの事じゃ壊れないさ」


 悟は握りつぶそうとしていた神候補生を手放して無重力の球体の中に放り出す。


「お前は毎日我を泣きながら観賞しておるほど 、我に心酔しておる信者ではないか。そのお前が彼の惑星では我と同化できるのだぞ?泣いて喜ぶのが普通であろう。それを最大のメリットと言わずして何と言おう」


「なーにが『言わずして何と言おう』だ。かっこつけてんなよ。僕は面倒くさいのは嫌いなんだよ」


 悟は目の前に浮いているSDダイブルガーをハエを叩き落とす様にバシっと叩くと、二頭身の彼は球体の中で何度も跳ね返った。


「えーん。マスターぁ、やめてくださぁい」


 メイド服のアンドロイドは泣きながら懇願している。


「さぁ悟よ。惑星オワリコマキーンに降り立ったぞ。試験が始まったらお前は『悟』ではなく、『サトル』としてこの地の王と成り、敵対する四十七の国とバトルロイヤルを生き残るのだ」


 モジャメガネにめっちゃ強いツッコミを入れられていたのに、冷静に状況を伝えるその言葉にハッと我に返ったサトルは、ぐるりと辺りを見回した。


 さっき宇宙を翔んでいた筈なのに、すでに地表に着いている。


 大気圏突入の衝撃は微塵もなく、憧れのダイブルガーへの幻滅感も相まって怒りで我を忘れてしまっていたサトルは、気が付いたら地面に足をつけていたという状態で、光の幕(宇宙船?)が消えていることにも気が付かなかった。


 サトルが立っているこの地は完全に四角い切り立った区画で、見渡せる四方にも同じように切り立った四角い土地がいくつも並んでいる


「ここはマスターが納める土地『シゾーカ』です。四十七の神候補はそれぞれ名前の……ウーッカッカッカ……付いた土地を与えられ、50マス×50マスの中で国を創って競います。1マスは5メー……トル四方ですので、250メートル×250メートルが『国』です」


 相変わらずキャッシュが少なくて会話が途切れてしまうロボ子ちゃんが、試験の説明に入りだした。


「待って待って、僕に選択権はマジで無いのか?」


「・・・諦めろ」


 右肩に立っているSDダイブルガーが、右手でサトルの頭をポンポンと優しく叩いた。


「なんなんだよ、もう」



「レディィィィィース&ジェントルマンんんんんん、みぃんなスタート地点には着いたかなぁ?」


 突然空(?)からどこかのDJみたいな声がした。


「俺は司会進行を頼まれちゃって、かるうーくオッケイしちゃった芸能の神ディオニソスだよぉぉん。以後よろしくぅ」


 軽いノリのアナウンスが流れている。ディオニソスってチョー有名な神だけど、こんなヤツなのか?


「いーよいよ始まる『神昇格試験』、今回は記念すべき第百回目の試験だって知ってたかい?その百回記念としてこの試験の総監督、ゼウスっちからビッッッッグなプレゼントが届いた。『十一連ガチャチケット』一枚とぉ『星四確定チケット』一枚、そしてな・ん・と『星三進化オーブ』十個だ。大事に使ってくれい」

 

「何だ?このノリ・・・ついていかれんわ」


「さぁサトルよ、勝負の時だ。試験が始まればお前はこの国の王だ。さしずめ【サトル国王】だな」


「支給されたアイテムはプレゼントボックスに送られました。プレゼントボックスを開いてあ……いてムストレージで受け取ってください。プレゼントボックスはコンソールパネルを開い……カッカッカ……て左上に出ています」



 大正108年 6月1日 0時30分

 オワリコマキーン歴 100年1月1日 11時59分 (1日目)


 大空に光輝く『10』の文字がブワッと現れた。


 それは一つ一つが二階建て住宅のようなサイズだ。

 その文字は金色に輝き、コンクリートブロックのように分厚く影付きのロゴ体になっている。


「イエェェェイ!みんなぁぁぁ、準備はいいかぁぁい?昇格試験開始のカァウントダァウンだぜぇぇぇ」


 ディオニソスのアナウンスに合わせて大空の数字が変わる。


『5』「フワァァァァイヴェ」


『4』「フオォォォォォォウ」


『3』「スゥリィィィィィィ」


『2』「トォゥウゥゥゥゥゥ」


『1』「ウウウワアァァァン」


『0』「ジィィィロォォォウ」


「第百回神昇格試験、スタァァァトォォ!!イィィヤッハァァアァ。みんな生き延びて神になっちゃおうぅぅゼェイ」


 ディオニソスのその言葉と共に『プァァァァァン』と、体がビリビリ震えるほどの大音量が響いた。


 二筋の光が天空から降り注ぎ、光の中から男が二人現れた。


「大工さんです。全ての建造物を作成できます。……カーカッカッカ……逆に言えば大工さんしか建造物を造ることができないので、同時に建造できるのは大工さ……ウーッカッカッカ……んの数までです。最大四人まで増やすことが可能です。建造する物はコントロールパネルの『建築』から選んで……建築します。基本施設は最初から設置されておりますので、最初は邪魔な木や岩を撤去してみましょう」


 ナビゲーターアンドロイドのロボ子ちゃんが ナビゲートをしてくれる。


「さぁサトル、最初は掃除だ。さっさと大工に指示を出のだ」


 SD(スーパーディフォルメ)ダイブルガーは全く平然とサトルに指示を出した。


「あーもうっっ。わかったよ。このゲーム、やってやろうじゃないか。オタクを舐めんなよ。やるからには勝ってやる。で?コントロールパネルってどうやって出すの?ロボ子ちゃん?」


「『コントロールパネル』と念じてください。視界に広がる筈です。慣れてくればコントロール……パネルを出したまま活動することもできると思います」


 言われた通り念じてみると、なるほどスマホゲーム画面のようなアイコンが、視界の隅にズラリと並んでいる。


「神の試験で百回目って言ってるのに、まるで最近のスマホゲームだな。これなら問題なく理解できそうだ。でも何で?お前の話しだと試験って一回一回が数十万年のスパンでやってるんだろ?それなのに試験方法がスマホゲームの実写版って、今回からこの方式になったのか?」


「違うぞサトルよ。試験が始まったときから、基本このスタイルだ。神昇格試験の総監督であるゼウス神が、これの元となるスマホゲームにドハマリしてな、そこからインスピレーションを受けて試験のために専用の宇宙を創造したという訳だ。数十万年と言うのは、お前のために時間と言う概念を当てはめて説明した結果だ。先刻も言ったように、神の世界に時間や空間など無意味なのだ」


 ダイブルガーは、アニメの設定では異世界の英雄神で、彼の英雄譚が語られるシーンでは紙芝居のような止め絵で語られる。


 その紙芝居の中では山のように大きい怪物を相手に、筋骨粒々たる肉体を持った若い英雄神ダイブルガーが、身長よりも大きな剣を片手で楽々と振り回して闘う映像が流れるのだ。

 その時に流れるのは音楽のみで、声は出ていないので、まさかダイブルガーがこんなにお喋りだとは思わなかった。


「先ずは試験の勝敗について説明をしましょう。『ファイル』『オープン』『試験ルール.txt(テキスト)』『オープン』……ウーッ・ウーッ・ウーッ・カッッッカ……試験は一国対一国の戦争形式で行います。四十七の神候補はそれぞれ1000神ポイントを持っていて、勝負に勝つ毎に負けた国から200神……ウーッウッ……ポイントを奪えます。0以下になるとその国は消滅します。今からオワリコマキーン時間で約二年間生き延びることが第一の勝利条件です」



 試験会場である四十七の国には、等しく50マス×50マスの土地が割り当てられる。1マスは5メートル四方で区切られており、その中に城や防御施設などを自由に配置して戦い抜くのだ。

 この区画された土地はそれぞれ独立した島ブロックになっていて、海に整然と浮かんでいるので、海から流れてくる潮風が気持ち良い。

 四十七の国には、マップの中にその国の特徴ある地形が反映されている。シゾーカには5マス×5マスのサイズを使って、高さ10マスの【フジイサン】と3マス×4マス深さ10マスの【スールーガワン】がある。

 この試験会場内で一番高い山と一番深い湾があるのがシゾーカだ。

 ちなみに【フジイサン】は【ヤンマナッシー】にも存在する。


 そよそよとそよぐ風に、ロボ子ちゃんの白黒のフレアースカートと2つのお団子をのせた水色の髪が揺れる。


 見た目は本当に人間にしか見えない仕上がりなのに、何で動きが『スターウォーク』の【G3-PO】みたいなのだろうか。


 やはり非常に残念だ。


 肌の造形とかにこれだけこだわって造ったのなら、動きにもこだわれよって思う。


「基本的に生産施設で造られる【一般兵士】は使い捨てで、一度戦闘にさぁ…ん加させたら生き残っていても廃棄になりますが、【武将】は死ななければ何回でも使えます。一回の試……合で使用できるのは同時に五人までです。武将はガチャで手に入れます。ガチャチケットは神ポイントを消費して購入するか、何らかのか……カッカッ……たちで運営からチケットをもらうことで、ガチャを回せます」


「サトルよ。大工たちに命令して荒れ地の整備をするのだ。『コントロールパネル』の『フィールド』を選択しろ。50×50マスの縮図がみえるであろう?マスの中に岩や木があるとそこに施設を設置することができないのだ。フィールドごとまとめて選択できるぞ。終わるまで大工が自動的に働いてくれる。その間に我らはガチャを回すぞ。直ぐ回せ」


 サトルの肩に乗っていろいろ喋りかけてくるこのプラモは、何故か興奮している。ガチャが好きなのか?


「ガチャって・・ますますスマホゲームだな。でも、ガチャなら得意だよ。昔からクジ運が良いんだ。『コントロールパネル』から・・・・『マップ』じゃなくて『フィールド』っと。・・・大工に掃除を指示をして、『ガチャ』を選ぶ。まぁずぅは……『星四キャラ確定チケット』だな」


 大工たちがフィールドの掃除を始めた。

 倒木を消滅させるのに十五分・石を消滅させるのに三十分・大きな岩は一時間・樹木は一時間・大木は一時間二十分掛かる。

 二人の大工は黙々と仕事をし始めた。彼らは不眠不休で昼夜を問わず、食事も取らずにぶっ通しで働き続ける。労働基準法完全無視な大工さんだ。

 言っておきますが、異次元宇宙の世界に労働基準法は当てはまりませんから。


「アイテムストレージから『星四キャラ確定チケット』を『使用する』で良いな?」


「そうだ、早く引け」


 ひょろ長い彼がチケットを使用した刹那、彼の目の前に『チュドーン』と真っ赤な業務用の冷蔵庫(?)ほどの巨大な四角い物体が落ちてきて、もうもうと土煙を上げた。


「あっぶねぇ。この世界って、いろいろな物の登場がやたらに派手じゃね?」


 赤い業務用冷蔵庫は少し斜めって地面にめり込んでいる。

 冷蔵庫かと思ったそれは、カプセルガチャだった。


 正面に一抱えもありそうな大きなハンドルがある。ハンドルの上には透明のケースが乗っかっていて、中に直径一メートルほどの金や銀やオレンジ色のカプセルがぎっしりと入っている。


 ストレージから取り出したチケットは、指からするりと抜けてスロットマシンのチケット挿入口に自分から入っていった。


『ガッッチャンッッッッ』と激しい音を立ててハンドルが勝手にまわる。透明なケースの中でカプセルたちが動き、シャッフルされる。


 ガチャガチャガチャン

 ちゃちゃちゃちゃーんちゃーちゃーん、ちゃっちゃちゃーん


 何気に聞き覚えのあるファイナルなファンファーレと共に、回転ハンドルの下に開いている洞穴のような取り出し口から、爆発的な金色の光りと共に転がり出てきたのは、両腕いっぱいに抱え込むくらいの人間大の金色カプセルだ。


 金色のカプセルは黄金の光を放ちながら転がり出て、金色の光柱が空に向かって立ち上げた。


「凄いぞサトルぅ、銀色の星四ではなく、金色だ。星五キャラだぞ」


 SD(スーパーディフォルメ)ダイブルガーはブルドッグのようなマスクの鼻から、絵に描いたような鼻息が見えるほど興奮している。


「星五キャラのカプセルは出現確率四%だ。割れるぞ」


 ダイブルガーは完全に舞い上がってしまっている。

 金色のカプセルはパカッとひとりでに割れ、中から出てきたのは水着のおねーちゃんだ。


「おめでとうございまぁぁす。マスタァァァ。星五キャラの【姫騎士 桜姫(オウキ)】ゲットです。文武両道の頼れるキャラですよぉ」


 ロボ子ちゃんがまたもどこからか取り出した編み籠を左手に抱えて、右手でパーッパーッっと紙吹雪をサトルの頭に舞い散らす。


「引きが強いぞサトルよ。戦闘が有利になること間違いないぞ」


 ダイブルガーも諸手を上げて喜んでいる。


 腰まであるロングストレートの金髪を背中で一つにまとめてある水着のおねーちゃんが立ち上がると、水着かと思われたビキニは実は金属のプレートで、トップは四分の三ほどのおっぱいを隠す滑らかなカーブを描いていて、青色で縁が金色になっている。アーマーの下は厚手の黒い布のチューブトップのような物を着ていて、金属で肌を傷付けないようにしてある。


 ボトムも前後ろ小さな三角の金属プレートで、同じく海のような深い青色に縁と側面を繋ぐ鎖は金色になっている。

 腕と脛当ても青と金の板金を着けており、左腕に小型の丸盾、腰にエストックを履いている。

 エストックとは一見レイピアのようではあるが、しなって鎧の隙間を貫くレイピアの反対の武器で、プレートメイルごと貫通させる硬く細い棒状武器だ。


「あなた様が(わたくし)の主君ですね?はじめまして。(わたくし)、姫騎士の桜姫(オウキ)ですわ。以後よろしくお願いいたしますですわ」


 桜姫(オウキ)はお姫様のように優雅に両手を広げてお辞儀をして見せ、辺りに涼やかな凛とした声が響いた。

 姫騎士だけあって礼儀作法 はバッチリだ。

 裸に近い格好だがな。


「おおお、金髪美少女のコスプレ、サイッコー」


 黒縁メガネの奥がギラリと光り、サトルの全身にアドレナリンが駆け巡り回り、思わず心の声が漏れまくってしまった。


「コスプレ?・・・って何ですの?」


 可愛らしく首を傾げる桜姫(オウキ)。可愛い過ぎる。


『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』サトルの目に焼き付けた画像を脳内に記憶しまくる。


 少し小振りだがしっかりと主張しているバスト、白い肌にちょこっと付いている可愛らしいおへそ、艶かしい顎のライン。

 完璧だ。完璧にサトルのどストライクだっ。


「は、はじめまして。僕はサトルです。この国の国王…らしい…です」


 美人と会話するのは緊張するものだ。


 萌花(もえか)先輩も美人だが、誰にでも話し掛けられる気さくな雰囲気を纏っているから、直ぐに慣れて話せるようになったけど、桜姫(オウキ)とはそんな風に慣れるのだろうか?


「サトル!次だ。次のガチャを回すのだ」


 SDキャラが催促をしてきた。


 国王は姫騎士に見とれていて、ガチャのことをスッカリ忘れていた。


 アイテムストレージから『十一連ガチャチケット』を『使用』する。

 チケットガチャは星三~星六まで出るガチャだ。


 先ほどと同じように赤い大型冷蔵庫にチケットが吸い込まれていき、人の身長ほどもある回転ハンドルがひとりでにガッチャンと動き、ケース内の大岩のようなカプセルたちがゴロゴロ動き、オレンジ色のカプセルが転がり出た。

 カッパーカプセルだ。


 ちなみに星三はカッパー製でオレンジ色

 星四はシルバー製で銀色

 星五はゴールド製で金色

 星六はピンクゴールド製でピンクゴールドの色だ。


 再びハンドルが自動で回転する。


 オレンジ色のカッパーカプセルが出た。

 ハンドルはどんどん回る。


 三回目『オレンジ色』カッパーカプセル


 四回目『オレンジ色』カッパーカプセル


 五回目『銀色』シルバーカプセル


 六回目『オレンジ色』カッパーカプセル


 七回目『オレンジ色』カッパーカプセル


 八回目『オレンジ色』カッパーカプセル


 九回目『銀色』シルバーカプセル


 十回目『オレンジ色』カッパーカプセル


 ここで巨大スロットマシンに異変が起きた。

 透明なはずのカプセルケースが虹色に光出したのだ。


「確率変動発生だぞサトルぅぅぅ」


 右肩に乗っているちっこいプラモは、興奮してサトルの首をバシバシ叩き始めた。


「来るか?来るのか?・・・」


「来た、来た、きぃぃたぁぁ」


 ダイブルガーの鼻からものすごい勢いの鼻息が出ている。


「そ、そんなに凄いのか?」


「ピンクゴールドは確率0.1%、キャラだったら0.03%だぞ。アーサーやノブナガなどの伝説級のキャラが仲間になるぞ」


「0.03%か、銀行の金利よりはマシだな」


 ちゃちゃちゃちゃーんちゃーちゃーん、ちゃっちゃちゃーん

 再び例のファイナルなファンファーレが鳴り響く。

 そしてピンクゴールドが出た。


 取り出し口からピンク色が混ざった金色の光を放つ人間大のカプセルが転がり出た。

 カプセルからはピンクゴールドの光柱が立ち上がっている。


 スロットマシンから十一連で転がり出た両手いっぱいの大きなカプセルが、ゴロゴロと転がっている。


 どうでも良いけど邪魔くさい。


 結果は星三が八個・星四が二個・星六が一個。


 カプセルたちは震えだし、割れ始めた。


「何が出るかワクワクだなぁ、サトルよぉぉぉ」


「これはとても珍しいことですよマスター」


 ダイブルガーに当てられたのか、ロボ子ちゃんまでも興奮してワクワクしている。


 星三からはロングボウ・フルプレートアーマー・ヒーターシールド・グレートアックス・魔法使い×二人・神官・シーフ


 星四からは『幻術師(イリュージョニスト) テンコ』・+1フルーレが出た。


 いよいよピンクゴールドの光が割れる。


 光の柱からは人の姿が現れた。


「サトルぅぅぅ、お前凄いぞ。武器じゃなくキャラを引き当てたぞぉぉぉぉ」


 星五でもあれだけ興奮したやつだ、星六なら倒れるんじゃないか?


「ごきげんようでありんすぅ」


 神々しいピンクゴールド光の柱から現れたのは女神か?

 貝殻に立ち上がるサンドロ・ボッティチェリの『ビーナスの誕生』に画かれているビーナスのように、豊満な女性のシルエットが宙に浮いている。


 光が消えシルエットが解けると、光の中だからシルエットで裸のように感じたかと思ったのだが、やはり裸の女性だった。


「一糸纏わぬ……」という表現がよく使われるが、彼女は「一糸纏っている」なぜなら宙に浮いているビーナスは絹のように透け透けの帯を一枚身体に巻いているだけだからだ。


「おぉめでとうございまぁす。マスター。星六キャ……うっつっカ……ラの【羽衣天使 アイリ】ゲットです」


「パーン」と破裂音がしてサトルの頭の上に紙テープとキラキラの紙吹雪が舞う。ロボ子ちゃんの手にはクラッカーの束が握られていた。本当にどこから出てくるのだろうか。


「あ……」


 サトルがアイリを見たその時、視界の右から左に百面ダイスが転がっていった。

 コントロールパネルのように直接視野の中に投影されているのだ。


 ほぼ球体の百面ダイスは視界の左端に行くとビリヤードのように反射して右斜め下に転がり、左下で更に反射して視界中央で止まった。


 止まった数字は『32』だ。そのあと数字の上に「ブーッ」という音と共に赤い『×』が付いた。


 新米国王は口をポカンと開けてボーッとしている。その場に居た黒いローブの魔法使い二人と神官服をカッチリ着ている神官・なめし革のソフトレザーアーマーを着ているシーフ・特徴的な唾の広いとんがり帽子を被っているテンコ・桜姫も口をポカンと開けてボーッとしている。


 全員一心不乱にアイリを見ている。


「おい、どうした?サトル、返事をしろ」


「マスター、起きてください」


 SDダイブルガーがサトルの耳をガシガシ殴る。同じようにロボ子ちゃんが国王の頬に往復ビンタを張る。サトルの首が右に左にガックンガックン振れるほどの強力なビンタだ。

 

「はっっ、痛てぇぇ。何しやがるんじゃぁぁ」


 あまりの痛さにサトルの魅了が解けたは良いが、両頬がパンパンに腫れ上がっている。

「てへ」っとかわいく舌を出すアンドロイド


「てへじゃねぇ。……でも可愛いから許す」

 

 百面ダイスはアイリのパッシブスキル『マスチャーム』に対しての『抵抗ロール』だった。


 毒などの状態異常攻撃・魔法などの精神攻撃などに対しては『抵抗ロール』が発生する。

 神候補生のアバターであるプレイヤーには視界に百面ダイスが現れるが、他の者もダイスが見えないだけで、ちゃんと抵抗ロールが発生している。


 ただし星六キャラのアイリの精神を抜くのは至極難しい。


「デチャーム」


 ふわーっと漂うように降りてきたアイリが、サトルの頭に左手を置いて呟くと、国王の『魅了状態』は解けた。


「サトル様ぁ、羽衣天使(はごろもてんし)アイリでありんす。以後よろしゅうに。今掛けた『デチャーム』をぉ、他の人にもぉ掛けてくるでありんすぅ」


 そう言って天使は他のメンバーの元へ漂っていった。

 ちなみにダイブルガーとロボ子ちゃんは『メカ』なので精神力攻撃は無効である。


 プレイヤーと星付きキャラには、スキルスロットが三つとアイテムスロットが七つ用意されており、プレイヤーが『コントロールパネル』の『キャラクター』画面から変更ができる。


 羽衣天使 アイリの場合には最初からスキル枠は埋まっており、パッシブスキル『マスチャーム』・アクティブスキル『チャーム』・アクティブスキル『デチャーム』の三つである。


『マスチャーム(レベル1)』はパッシブスキルで、常に発動状態にあり、アイリから半径五メートル(隣接する一マス)に居る者は全て精神力抵抗ロールを振らなければならない。


 マスチャームの抵抗値は『百面ダイスで出た数字』+『(星数-1)×3』+『レベル』の計算で『85』以上を出さないと抵抗できない。(※一度解けると再び掛かることはない)


 敵味方関係なく、アイリを見たもの全てに効果がある、星六キャラならではの強悪なスキルだ。


 レベル2になると抵抗値『95』効果範囲十メートル(隣接する二マス)

 レベル3は抵抗値『105』効果範囲十五メートル(隣接する三マス)になる。



『チャーム』はアクティブスキルで、アイリがスキルを唱えながら右手で触った時に発動し、触った者を一人ペットにできる。


 レベル1の抵抗値は『70』効果範囲は右手で触った者一人を『ペット化』して、三十分間アイリを守って戦わせることができる。


 レベル2の抵抗値は『74』効果範囲は右手で触った者一人を『ペット化』して四十五分間アイリを守って戦わせることができる。


 レベル3の抵抗値は『78』効果範囲は右手で触った者一人を『ペット化』して一時間アイリを守って戦わせることができる。



『デチャーム』はアクティブスキルで、アイリが左手で触った者に永続的な『チャーム無効』を与える。触られた者はアイリだけでなく、他の全てのチャームが無効になる。


 レベル1 抵抗値無し『絶対成功』 ストックできる人数は五人


 レベル2 『絶対成功』 ストックできる人数は十人


 レベル3 『絶対成功』 ストックできる人数は十五人



 アイリが桜姫・テンコ・神官・シーフに『デチャーム』を掛けてストックを一杯にした。

 上下スウェットの国王は我に返り、

「アイリ、ものすごい能力だな。それにしてもものすごくエロい格好だ」

 うっかり心の声が駄々漏れした。


 アイリは裸に『天使の羽衣』という飛行鎧を『鎧装備欄』に装備している。

 透き通るほど薄い布だが下手な鎧よりは防御力がある。

 桜姫のように呪われているわけでは無いので外すことは可能だが、こんなエロい鎧は絶対外さないぞ。


『天使の羽衣』は絹のような薄い布の帯を身体に巻き付けている。


 巻き付けていると言っても、ミイラよろしく身体にキツく巻いている訳ではなく、身体から離れて緩く巻いている感じだ。


 その帯は薄くて透け透けで、布の向こうは磨りガラス越しに見ているような感じで身体のラインが見えているのに、何故か大事なところは全く見えない不思議な布だ。


 とっくチャームは無効になっていて、魅了には掛からないはずだが、「見たい・見てはいけない・見たい・見てはいけない」が頭の中でぐるぐる回ってしまい、結果動きがフリーズしているサトルであった。

 

「おい、サトル。目を覚ませ。仲間も手に入れたが、まだまだやることは多いぞ」


「マスター、手に入れた仲間を『編成・・・・画面』で『編成』してください」


「編成画面か・・・ゲームの基本だね」


「その通りです。さすがマスターです」


 ロボ子ちゃんはカクカクと近づいてきて、頭をナデナデしてくれた。彼女はとにかく誉めてくれる。


 現実世界では 、天馬市役所の税務課で、毎日のように--あること無いこと含めて--みんなの前で大声で叱る小太りなワンワン禿げ『パワハラ山田課長』や、新人の癖にやたらに突っかかってきて、何故か会話が全て上からものを言ってくる勘違い野郎で、偶然同じ名字の『神野 哲也』など、税務課に配属されてからろくな目に会ってなく、正直出勤することが苦痛になってきているほど凹んでいたサトルだった。


 だからどんな些細なことでも誉めてくれるロボ子ちゃんの声はとても気持ち良い。


 すごく救われた感じになる。


『ロボ子ちゃんを神にする』と言うミッションだったら喜んで請けただろうが、付き合ってて微妙な性格のダイブルガー相手だと、コイツのために頑張ろうかって気にならないのは、サトルの中に居るダイブルガーと目の前に居るコイツとのギャップが激しいからだろうか?


 この世界、『オワリコマキーン』に居ると自信が取り戻せる。そんな想いがシゾーカ国王の中にあった。


『コントロールパネル』『キャラ』『編成』の順でウィンドウを開くと、左側に五つの枠が縦に並んでいる。五つの内下から二つは『×』が付いていて、現在は三人しか登録できないことを示している。


 枠の一番上を選択すると、右側にウィンドウが開き、現在居る七人のキャラクターが表示される。


 ちなみにロボ子ちゃんはナビゲーターなので戦闘には参加できない。だからキャラ一覧にも表示されない。


 もちろん一番上は『星六 羽衣天使 アイリ』、二番目は『星五 姫騎士 桜姫』、三番目は『星四 幻術師(イリュージョニスト) テンコ』の三人だ。


「よし、準備は整ったなサトルよ。フィールドの整備も終わったようだ。我らの勝利に向かって進もうではないか」


  ダイブルガーはサトルの右肩の上で空に向かって腕を掲げ、鼓舞をした。










名前:国のパーツ 城そのレベルと価格

時代:-

法律:王城 大きさ:レベルによる


レベル1 既設 既設 既設

縦穴式住居 HP300 1×2マス

戦士×2 HP50(-3) AP22

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者


レベル2 800G 20レベル 2d

高床式住居 HP600 2×2マス

戦士Lv2×2 HP60(-3) AP27

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

弓矢×2 HP32(-3) AP18

移動:王城内 攻撃:5マス以内の1マス


レベル3 300000G 60レベル 3d

牛糞と土を混ぜた壁の建物 HP1000 3×2マス

戦士3×4 HP70(-3) AP35

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

弓矢2×4 HP52(-3) AP23

移動:王城内 攻撃:5マス以内の1マス


レベル4 400000G 80レベル 5d

木造の建物 3×3マス

タンク×2 HP60(-5・-3) AP20

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

大戦士×2 HP100(-5) AP50

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

弓矢3×4 HP62(-3) AP28

移動:王城内 攻撃:5マス以内の1マス


レベル5 500000G 160レベル 8d

石積みの建物 4×3マス

タンク2×2 HP75(-7・-3) AP25

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

大戦士2×2 HP120(-5) AP55

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

弩弓×2 HP62(-3) AP35

移動:王城内 攻撃:5マス以内の1マス

炸裂弓×2 HP60(-3) AP20(着弾点+縦横1マス)

移動:王城内 攻撃:3マス以内の1マス


レベル6 600000G 320レベル 12d

レンガの建物 4×4マス

タンク3×2 HP90(-9・-3) AP30

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

大戦士3×2 HP150(-5) AP60

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

弩弓2×2 HP67(-3) AP40

移動:王城内 攻撃:5マス以内の1マス

炸裂弓2×2 HP65(-3) AP25(着弾点+縦横1マス)

移動:王城内 攻撃:3マス以内の1マス

魔法使い×1 HP40(-3) AP50(着弾点+縦横斜め1マス)


レベル7 700000G 640レベル 14d

魔法のレンガの建物 5×5マス

タンク3×3 HP90(-9・-3) AP30

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

大戦士3×3 HP150(-5) AP60

移動:王城から1マス 攻撃:同じマスに居る者

弩弓3×3 HP72(-3) AP45

移動:王城内 攻撃:5マス以内の1マス

炸裂弓3×3 HP70(-3) AP30(着弾点+縦横1マス)

移動:王城内 攻撃:3マス以内の1マス

魔法使い2×2 HP45(-3) AP55(3×3マス)


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