表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

「武将合成」

第十八話

「武将合成」



 大正108年 6月 2日 0時 12分

 オワリコマキーン歴1000年 1月 24日 4時 50分 (24日目)

 @シゾーカ




 部屋の電気を消して寝入った瞬間、サトルはオワリコマキーン星 シゾーカの王城執務室に居た。


 出現ポータルは執務室に設定してあるので、オワリコマキーンに来た時には必ずここからスタートするのだ。


「お帰りな……さいませ。マスター」

 執務室に常駐しているロボ子ちゃんが出迎えてくれた。

 まだ朝の五時前だと言うのに流石はロボットだ。


 コントロールパネルを開くと、オワリコマキーン歴では『1月24日』と表示されている。

 サトル的には昨日の夜の事なのだが、こちらでは前回から17日も経ってしまっている。

後に分かった

 まだ夜明け前なので判らなかったが、そう言えば窓の外も執務室の中も、昨日見ていた風景とまるで違う。

 王城レベルは4になっていて、窓の外には大砲や強化された物見櫓、魔法研究所、傭兵斡旋所 など、見慣れない建物がいくつか建っている。


 レベル4王城は木造建築の平屋建ての純和風な建物だった。

 太い柱と大きな梁に支えられた、三方が全開に解放されている広い謁見の間が特徴的である。

 ふと、クリスマスやアイリなど、洋風な武将ばかりなのに、畳の部屋とか大丈夫なのだろうかと心配したのだが、それについては全く問題なかった。

 畳での生活習慣は城のレベルアップと同時に武将たちにアップデートされる。

 とロボ子ちゃんが説明してくれた。


 今はまだようやく空が白み始めた頃、当たり前だが皆寝ている。

 サトルは執務室にある自分の席に座って視界に映るコントロールパネルを開いた。

 コマンドのボタンが点滅している。

 王城レベル4になって、新コマンドが増えたのだ。『武将合成』と『同盟』だ。


「ロボ子ちゃん、新しいコマンドについて教えてくれないか?」


 寝る必要の無いロボ子ちゃんは夜中やることが無い時は、執務室の隅に座っているので、直ぐに立ち上がって来てくれた。


「それでは説明いたします。ファイル--オープン--取説--オープン--新規建造物--オープン--城レベル4--オープン。……ウーッッカッカッカッカッカ……城レベルが4になると、新たに建設できる施設の中に【合成寺院】と【マナ鉱山】があります」

 ロボ子ちゃんの説明は続く。


 白黒のフリフリメイド服を着たロボ子ちゃんによると、【マナ鉱山】から採れるマナは、魔法系の兵士を開発したり、研究所でプレイヤーが使える魔法のスクロールを作成したり、魔法の城壁を造ったりとゴールドと同じ様に色々な物の作製や開発に必要な材料だと言うことだ。

 そして【合成寺院】で行える『武将合成』の時にも必要な材料でもある。


 『同盟』は城レベル4になると自動で使えるようになるコマンドで、この『同盟』ボタンを押すと、接岸している任意の隣国に書簡を持った武将を送ることになる。

 この武将が相手国の『同盟同意の書簡』を携えて無事に帰ってこれたら『同盟』の成功である。

 相手国からの同意の書簡が無かった場合と、使者として送った武将が三日以内に帰って来なかった場合は、交渉決裂となる。



 【合成寺院】に行くと、必要経費であるゴールドと必要エネルギーであるマナを支払って、『武将合成』ができるようになる。

 『合成』は合成寺院に移動して行う。

 合成寺院では武将リストから同じ星数同士の武将を二人選択し、『合成マシン』の『合成元』と『合成素材』にセットして合成すると、素材側の武将を『消費』して合成元の武将のレベルが上がるという、ゲームでは普通によくあるシステムだが、リアルに目の前で人間同士が合成される様を見たら、小さい子ならトラウマになりそうだ。


 武将たちの初期状態はもちろんレベル1。

 合成する度に武将のレベルが上がり、武将のステータスとスキルレベルが上がる。場合によっては新しいスキルが解放される。

 最大レベルは3。その次は星の昇級になる。


 例えば星三武将レベル1に星三武将を合成するとレベルが+1されて星三武将レベル2になり、もう一人合成すると最大レベルの3に成る。

 そこから更にもう一人合成すると星四武将レベル1に成る。

 星四武将も同じように星四同士で合成できるという訳だ。

 よくあるお馴染みのシステムだ。



 ロボ子ちゃんのレクチャーを聞いていたら、完全に夜が開けていた。


 カンカンカンカンカンカンカンカン


 金属同士を打ち付けるキンキンと耳障りな音が、けたたましく鳴り響く。


「ちゃっと起きんさい。ほい。ちゃっとちゃっと!! ちゃっと起きる。ゴルディオンブートキャンプの時間だにぃ」


 忘れてた!

「基礎体力向上のために全員で毎朝やるように」と、国王命令を出したままだったことをサトルは思い出した。


「さぁマスター、朝の体操の……お時間ですよ

首を可愛らしくカクっと曲げてロボ子ちゃんが言った。


 サトルにとっては二日前の話しだが、オワリコマキーンでは十七日経っているので、ゴルディオンブートキャンプ(イージー)について行かれないのは、サトル国王ただ一人だ。

 オワリコマキーンに着いて早々ヘロヘロになった。







 大正108年 6月 2日 0時 25分

 オワリコマキーン歴1000年 1月 24日 10時 00分 (24日目)

 @シゾーカ


「おかえりなさいませですわ、サトル様」

「サトルさまぁ、おかえりでありんすぅ」

「やっとかめだねぇ、国王様。国王様が出てったあとはちょっと落ち着いとってねぇ、ダイブルガー様の世話をいっぱいさせてもらったわ」


 桜姫・アイリ・クリスマス他の武将たちもみんなサトルが来たことを喜んでくれ、サトルの周りに集まってきている。

 現実世界ではこんな風に彼を喜んで受け入れてくれることは無い。召喚された武将たちは、基本的に彼らを召喚したプレイヤーに従順であり、好意的になるように設定されているからでもあるが。

 現実もこうだったら良いのにと思わざるをえないサトルだった。


 そしてテンコは無言で黒縁モジャメガネに朝食を食べさせている。彼女なりの愛情表現らしい。サトルは口に突っ込まれるままにモグモグ食べた。


「先ず、う!? ……モグモグ……僕が居ない間に7回襲撃があって4回勝って勝ち越しているようだね」

 国王はコントロールパネルの戦闘情報を観ながら、集まっている皆に聞いた。


「最初の頃は防衛施設が少ない『城レベル3』でしたから、なかなか防ぎきれませんでしたわ」

 隠すことの出来ないおへそや太ももが眩しい桜姫が答える。


「サトルよ、お前が居ないと我の御業が使えぬからもどかしかったが、この者たちは良く働いてくれたぞ」

 本来なら首にびっちりとカラーが巻き付いて、キッチリと神官服を着ているハズのクリスマスが、神官服を胸元まで開いて、彼女の大きな胸の谷間に納まっているSDダイブルガーが大仰に言った。

「お前そんな所から何様だよ。って神様か!


「ダイブルガー様のお世話ができることは、大神官として、でら幸せな事だなも」

 クリスマスは本当に幸せそうな顔で言う。


「実際には危なかった事が何度かあったけぇが、わしゃんとの衆はみんなこわい人ばっかりだもんで、何とか乗り切れただに」

 ゴルディオンがムキムキの筋肉を見せびらかせつつ報告する。


「思い出しましたですわ。ミーエ国との試合の時の『神武装召喚』で私大変な目にあったのですわ。変身が解けたあともしばらく気持ち悪くて動けませんでしたわ」

 腰まである金髪を揺らしてプンプン怒っている。怒った顔も可愛い。


 桜姫のその言葉を聞いて大神官の顔が「…

…ハッ!!」として猛然とサトルに詰め寄って来た。

「あまりの怖さに記憶封印しとったけど、思い出したわァ。国王様あんたァ、何わやしてくれとんの? わたしを持って建物叩き壊すって、めっちゃ怖かったてー。確かに痛くはなかったけどぉ、酷過ぎるわァ」

「ごめん。あの時は全身に真っ赤な力がバァーンって来て、気付いたらあんな事になってた」

「でもわたしダイブルガー様のお姿だと逆らえんのだわ。今度っからはもう少し優しくしてちょー」

 そう言った時のクリスマスは何かモジモジしているようにも見えて、サトルは「ひょっとして雑な扱いが満更でもなかったのか?……マゾ!?」などと勝手な想像をしていた。





 大正108年 6月 2日 0時 35分

 オワリコマキーン歴1000年 1月 24日 14時 00分 (24日目)

 @シゾーカ(合成寺院)



 武将たちとの楽しい朝食のとあと、【合成寺院】に来た。

 お供にロボ子ちゃんを連れてきた。

 アイリとテンコの不思議ちゃん二人が、暇つぶしについてきた。


 合成寺院に入って先ず目に付くのは、人間のスケールからすると縦も横も2倍くらいある巨大なカプセルが二つ設置してある事だ。

 そのカプセルの天辺には金属の配管が突き出ていて、二つのカプセルは繋がれている。

 正面には操作パネルの様な物が設置されているが、店員らしき人は誰も居ない。


「合成寺院にようこそ。い~っぱい、合成していってね」

 そこに無駄に色っぽい声のアナウンスが寺院の何処からか流れてきた。


「初めてなの? 坊や? おねぇさんが優しく教えてあげるわ」

 姿無きおねーちゃんが喋る。

「武将合成は目の前の二つのカプセルで行われるの。操作は坊やの前にあるコンソールパネルの画面上だけでOKよ。青いラインの入ったカプセルには強化したいキャラ、赤いカプセルには素材になるキャラを入れて、優しく入れてね? 入れたら合成ボタンを押すの。デリケートな部分だから乱暴に押しちゃダメよ」


「ねぇロボ子ちゃん、ここって『寺院』だよね? 寺院がこんな感じで良いのか?」

「マスター、言い難いのですが、全ての国はその国の国王の趣味や……ウーッツ……願望をある程度反映しています」

「道理で好みの感じ……って、何言わせるんじゃ!」


「サトルさまはぁ、あーゆータイプが好きでありんすかぁ?」

 外套を着けて肌を出していないので、地上に降りている羽衣天使が追い打ちを掛ける。

「まぁどちらかと言えば、あんな感じのおねーちゃんみたいな│女性ひとに優しくリードされるのが理想なんだ……ってどこまで言わすねん!!」

 裏拳でアイリにツッコミを入れる。


 そんなやり取りをしていると合成寺院のおねーちゃんが催促を掛けてきた。

「おねぇさんの準備はOKよ。さ、坊やが自分で入れてごらんなさい」

「それやめろ。恥ずかしいだろ。このコンソールで操作するんだな。よし、やるぞ」

「先ずは星三シーフのレベルを上……げて情報収集力を高めましょう」

 ロボ子ちゃんがカクカクした動きで補足する。


 床から立ち上がっている円柱の上に四角いパネルが乗っている感じのコンソールパネルの画面には青と赤のカプセルを模した四角い絵と真ん中に『合成』と書かれた丸いボタンが描かれている。


「するのね?いいわよ。レベルアップは1万G、星昇級は2万G、星四以上は星に合わせて延長料金をいただくわ」

 姿は無く、色っぽいアナウンスだけが流れる。

「延長料金じゃねーだろう。追加料金だ」


「気を取り直していくぞ。先ずはレベルを上げたい武将を、青いカプセルだな」

 サトルが画面の青いカプセルの絵を押すと、持っている武将の一覧が出たので、星三【シーフ(男)】を選択する。

 寺院に設置してある青いカプセルに星三【シーフ(男)】が出現した。

「あぁっ」

 シーフが出現すると妙に艶っぽいアナウンスが流れた。


 シーフはカプセルの中で寝ている様な状態で出現していて、ピクリとも動かない。


 次に赤いカプセルの絵を押す。

 青で星三シーフを選んでいるので、赤いカプセルの選択メニューには星三武将が並ぶ。

 使わなそうな【星三船長(男)】を選択する。

 赤いカプセルの中に船長が出現した。

「ああぁん」

 再び声が聞こえる。

「何なんだあの声は?」



「よし、合成だ」

 気を取り直してサトルがボタンを押すと、赤いカプセルに入っている船長がみるみる温めた飴細工の様に引き伸ばされて、天井の配管に吸い込まれていく。

「うわっ、気持ち悪い」

 目の前で繰り広げられるグロい光景にサトルが呻く。

 配管を通っている船長はそのまま配管を伝って、青いカプセルのシーフの頭から入っていく。

 何処にどう入っていくんだ?怖いから考えない。と国王は心に誓った。


「いっくっぅぅ」の声と共に青いカプセルがビカーーッと光ってレベルアップ完了が告げられた。

「あの声やめれ!! 何で無駄に色っぽいんだ?」


 青いカプセルの中には見た目が変わらない星三【レベル2シーフ(男)】が入っている。


「続けて合成しちゃう?」

 アナウンスと同時に画面にも同じ言葉が現れていて、その下に大きな文字で『Y/N』が書かれている。

 ちなみに『Y』の文字はピンクのハートマークの上に書かれているぞ。


「ねぇ、ハエは? ハエは混ざらないの?」

 突然テンコが声を掛けてきた。

「……ハエ??」

 魔法使い丸出しの鍔の長い黒い布の三角帽子の中から、何故か興奮してランランと輝いている目が見える。

 何処のポイントで興奮しているんだ?

 テンコに関しては相変わらず謎。


「ハエ……捕まえてくる?」

「混ぜようとするな!」

 サトルは軽くテンコの頭を叩く。

 テンコはたぶん、人間を転送装置で転送する瞬間にハエが飛び込んで、ハエ人間が出来上がったと言うマニアックな映画だったハズだ。

 異次元人のテンコが何故その情報を持っているかは謎だ。


「アレ転送装置じゃねーし、見る限り完全密封されてるから、ハエを入れる余地はないぞ」

「…………ハエ……」

 幻術師はかなり残念そうだ。

 珍しく喋ったと思ったら、ホラー好きなのか?


「マスター、今度は星三【レベル1魔法使い(男)】の二人を合成してみましょう。同キャラどぉ……士の合成は2レベルアップになります」

 ロボ子ちゃんの水色のお団子頭が揺れる。

「残りの星三武将は、神官(男)と手品師(女)ですが、次は試験開始時に貰った星三進化オーブを使って進化していみましょう」


 その後魔法使い二人を合成して、星三【レベル3魔法使い】を作成し、神官・手品師・魔法使いに、それぞれオーブを使って星四に昇級させた。

 昇級したために【魔法使い】は【大魔法使い】に、【神官】は【大神官】に、【手品師】は【幻術師】に、クラスチェンジした。


「さぁテンコ、出番だぞ。一気に星五に昇級だ。ハエは持ったか?」

 テンコはフルフルと首を振る。両手を前に突き出して、待ってくれとアピールしている。


「なんだ?いざ自分が対象となると怖いのか?」

 国王の質問にテンコは我が意を得たりとばかり、笑顔でガクガク頷く。

 もちろん人と人の合成なんてグロいショーを目の前で見てしまったら、ちょっとまともな5


 手は相変わらず『ちょっと待って』とばかりに、両手でドードーとやっている。


 そんなテンコを余所に、サトルは問答無用でパネルを操作して星四【幻術師 テンコ】を合成元にセットする。

 テンコはフッと消え、合成装置の左側に現れた。

 装置内でテンコは、ピクリとも動かない。確かにあの中で意識があったとしたら、僕だったら気が狂うだろうと、サトルは思う。

 同じく素材側に新生幻術師をセットして、合成!見事にレベル3幻術師になった。更に大魔法使いを合成して、星五【レベル1召喚師(コンジャラー)テンコ】に昇級した。


 大神官クリスマスも新生大神官を合成して、レベル3にジャンプアップした。


 ここで合成素材になる武将が居なくなったので合成寺院を後にすることにした。


「もう帰っちゃうの? おねぇさん寂しいわ。またたくさんしてね。待ってるわ」

「アレ何とかならないのか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ