ミーエ強襲
第十六話『ミーエ』
大正108年 6月 1日 3時 23分
オワリコマキーン歴1000年 1月 4日 10時 00分 (4日目)
@ミーエ
ミーエ上空に浮かぶ黄金色の巨大文字が『0』に成り、「プァァァァァァァァァァン」と耳をつんざく大音量のブザー音が鳴った。体がビリビリを震えるほどの音量だ。
相変わらず『神』の音や大きさの加減がめちゃくちゃだ。
「戦闘開始だぞんほい、突撃あるのみ。突撃ぃぃぃぃ」
別働隊の桜姫が右端の城壁に取り付いたら、ゴルディオン隊が移動をして正面攻撃を始める手筈だったハズだ。
「ゴルディ、作戦無視か?後でお仕置きだな」
パーティチャットでゴルディオンに文句を言うと、
「ば、どうせぇやれ。すっかり忘れてた。ごめんよサトルっち。でも、ま、良いよね?」
軽く返された。
アイツどうしてやろうかとどす黒い感情が湧き上がったが、何とか抑えたサトルだった。
「サトルよ、神魔法レベル3を使うためにシンクロ率を上げるのだ」
ダイブルガーがパーティチャットで話してきた。現在の神シンクロ率は6%だ。
「神魔法レベル3の必要シンクロ率はいくつだ?」
「40%だぞ。他に魔法の対象になるパーティメンバーの神信仰心が60必要だぞ」
野太い声が答える。
信仰心はパーティメンバーの『HP』『MP』の横に0~100の数字で表記されている。
ちなみにダイブルガーを信用して60を越している者は、付き合いの長い桜姫と自らの神に心酔しているクリスマスだ。
他の者はまだそこまで神ダイブルガー対して信仰心が芽生えていないようだ。
「スキル:パンプアップッッッ」
闘将の専用スキル「パンプアップ」が宣言されると、ゴルディオンの体中の筋肉がメリメリ音を立てて増強されていくのが見た目に判る。
「食らえ、ハイパーハンマー」
スタート地点から500メートル離れてはいたが、最初から全力の彼はNPCの戦士や弓兵をブッチギリで置いてきぼりにして、早々に城壁に取り付き、ハルベルトの先端に付いている「槍・斧・槌」のうちの槌部分を、豪快な横降りで城壁にぶつける。
ただでさえマッチョ大男なゴルディオンが、更に大きくなってパワーアップ。
その肉体から繰り出される強大なパワーが、石と木枠で組み上げられた『城壁レベル3』に大ダメージを与える。
木枠が壊れ、石がゴロゴロと転がり出てきた。
追いついてきた戦士たちも城壁の粉砕に取り掛かり、城壁に穴が空くのも時間の問題かに思われた。
しかし長大に続いている城壁全体が黄色く光り出したと思ったら、ただの木枠が鉄枠に変更され、大きいが普通の石だったそれは黒光りする魔法の石に変わってしまった。
「ガッキィィィンって、何がどうなっただん? 急にばか硬くなったに?」
浅黒いおっさんは超全力で壁をぶん殴っていたので思わず自慢のハルベルトを落としてしまった。
しかしそこは「達人」と呼ばれる「闘将」なので、直ぐに状況に対応して、残しておこうと思っていた「自爆屋」に壁を爆破するように指示を出した。
先ほどゴルディオンが傷つけた壁に向かって10人が突撃し、自爆する。
彼らは建造物破壊専門の兵隊だ。戦士にしろ弓兵にしろどのみち使い捨てなのだ。
さらに10人投入することによって、魔石と鉄枠でできた城壁はキレツが入り、割れ、瓦解した。
何故か突然強化された城壁はそれでもその存在意義を全うし、敵武将が城壁に到着する時間を稼ぐことができたのだ。
時を同じくしてサトルたちの部隊も到着したのだが、道ができた途端ゴルディオンは一目散に瓦礫を乗り越えて壁を超えて行った。
走り去るおっさんの後ろ姿を見て、サトルが「おっさん待てよ。やっと追い付いたと思ったのにv」
「火遁、火炎弾の術」
ゴルディオンが壁を超えてきたのを見計らって、星五武将【伊賀忍者 アリ】が、手に持っていたいくつかの小石を投げ付け、同時に口から火を噴いて小石に火を点けた。
火が点いた小石は火炎弾となって闘将を襲う。
「あっつ、いて、あっつい、あっついやれ」
おっさんはワタワタと踊った。
「おい、おっさん、あまり一人で突っ走るなよ」
「おみゃーさん、無事で良かったがやなぁ」
サトルたちが追い付いてきて、クリスマスが背中のヒーターシールドを構えてゴルディオンの前に立つ。
「あの辺りから撃ってきたように思うだけーが、わしだったらとっくに場所を変えているな」
壊れた城壁を抜けると、遠くに沢山の木々に囲まれたイッセジ・ン・グーが荘厳な雰囲気を醸し出しまくって佇んでいるのが、先ず目に入る。
イッセジ・ン・グーを守るように更なる城壁と掘り、はね上げ橋も設置され、物見櫓と設置砲台がある。
イッセジ・ン・グーの前には兵士訓練所とその訓練フィールドのセットが三面広がっていて、G鉱山や武将宿舎も見える。
「シゾーカに比べてだいぶ進んでいるな」
シゾーカ国王がボソッと感想を言っていると、
前方の大きな木の上に立つ人影が現れた。黒い服を着ている上に、逆光でよく見えない。
「ミーエへようこそ。拙者は伊賀忍者のアリだ。ミーエ女王より伝言を授かってきた。折角来てくれたお客様じゃん?、おもてなしの準備がするから、ちょっと待ってて。との事だ。よってその間しばし拙者と遊んでもらうことにした」
サトルがアイリに軽い目配せをすると、羽衣天使は直ぐに理解し城壁の内側から外に出た。
木の上の男を目視できる位置まで移動し、弓矢を2射した。ちなみに現在アイリはマントを羽織っていて、マスチャームの効果を阻害している。
自己紹介中のアリに向かって、適当に撃っても必中する紫色の光を纏った矢が飛んでいき、カツカツっと見事に2本とも彼の胸に突き刺さった。
「当たったでありんすぅ」
アイリは飛び跳ねながらキャッキャと喜んだ。
2本の矢が命中した男は木の上から落ちて地面に落下した。
長口上を言った割にはあっけない最後だと思われたのだが、地面に落下したそれは矢が刺さった丸太だった。『移せ身』の術だ。
「伊賀忍法 風遁、砂塵旋風」
再びどこからか声がして、一陣の旋風が砂を巻き上げ、城壁の割れ目から出てきた数名のシゾーカ勢の視界を奪う。
「うわ、く、目が開けられない」
「まだまだ、行きますぞ。炎の水と……」
上空から何かの液体が入った小瓶が三つ彼らの周りに投げ付けられて、パシャんと割れ、辺りに揮発性液体特有の鼻をつく臭いが漂う。
ガソリンだ。
「火遁、火炎連弾」
砂嵐の向こう側に一つの影が現れ、左右両の手から小石を投げ付け、口から火炎を噴いて着火する。
無数の火炎弾がクリスマスの盾を襲い、周りに巻かれたガソリンに火を点けた。
ガソリンに引火した炎は砂塵のグルグル巻いている風によってより強く燃え、砂と火炎と石礫による激烈なコンボ技を発動させていた。
「ここに居てはヤバいぞ。全員散開。アイリ、マントを取れ。上空から狙撃だ」
アイリがマントを脱ぎ捨てると、誰もが見ずにはいられない艶やかな白い肢体が表れ、連れてきたNPC兵士たちがチャームに掛かった。
アイリはNPCからチャームを外すために高度を増しながら右に10メートル漂って行った。
チャームが外れるのを待って、サトルとクリスマスは兵士たちを率いてミーエの中枢、イッセジ・ン・グーへ向かった。
「いいぞサトル。この緊張感が我とのシンクロ率を上げておるぞ。その調子だ」
戦闘狂のダイブルガーが興奮気味に言ってきた。
神シンクロ率は32%を示しているが、新しい神魔法の使用条件にはまだ届かない。
「スキル、超感覚」
闘将の二つ目のスキル『超感覚』はいわゆる心眼のスキルだ。忍者のように見えない敵に有効だ。
「あの衆の相手はわしがするで、サトルっちは先に行きんさい」
ゴルディオンはいきなり右に走り出し、岩に向かって流星錘をぶつける。
「ギャッ」
岩かと思われたそれは布のような物を被った人間だった。
すかさず上空からアイリの矢が2本飛来して突き刺さる。星五 神器【必中の矢筒】に入れた矢はマジックミサイルの魔法が掛かり、狙って射た矢はどう逃げても当たる自動追尾式になるのだ。
矢が刺さっていた物は丸太だったのだが、鉄球は確実にヒットしていたハズ。手応えはあった。
黒づくめの人影が直ぐ横に出現して闘将に手裏剣を投げる。闘将に回避行動を取らせるためだ。
同時にその場にかがみ込んで地面に手を当てる。
「土遁、土留壁」
ゴルディオンの目の前に『ズズズズ』と音を立てて幅2メートル・高さ4メートルの大きな壁が立ち上がった。
アリは出来上がった壁をポンと軽く押すと、壁は闘将に向かってゆっくりと倒れ始めた。
「ば、どうせぇやれ。色々仕掛けてくるじゃん」
慌てて壁の範囲外に逃げ出し、もうもうと立ち込める土煙の中、壁の向こう側に居る筈のアリ
を追う。
「痛い!! いていていて。何だ?」
土留壁を抜けた所に撒菱が仕掛けてあったのだ。そこに手裏剣がヒュヒュヒュッっと飛んでくる。
殺意を感じるコースだが辛うじて交わせた。超感覚のおかげだ。
「拙者の必殺コンボを良く避けましたな。デカいクセに見事である。しかしあの方たちをこのまま行かせる訳にもいきなせんので、あなたとのお遊びはこの辺にしておきましょう」
その声だけを残して、伊賀忍者アリはその場を去ったようだ。
足の裏に刺さった撒菱を取りながら、相性の合わない敵にイライラして再戦を誓った。
桜姫率いる少数別働隊が北側の城壁にこれから取り付こうとしている時だった。
突然城壁全体がぶわーっと光り輝き、さっきまで岩と木枠で補強されていた城壁が、黒光りする魔法で強化された魔石と頑強な鉄枠で構成された強化版の城壁に変化してしまった。
桜姫は石の壁にぺたぺた触りつつ、
「急に黒光りして硬くなりましたですわ」
ボソッと物憂げに呟いた。
サトルが居たら鼻血もんのセリフだ。
「致し方ありませんですわ。地道に壊しましょう。皆さん一緒にお願いしますですわ」
桜姫の部隊には自爆屋が居ないので、連れてきた戦士たちの総力で城壁を削っていくしかない。
城壁を壊すのにはかなりの時間を要してしまったが、予定通りゴールドタンクやゴールド鉱山の破壊に取り掛かり出した時には、サトルたち本体がわーっと広がって兵士訓練所などの施設破壊をしている所なのが遠目に見えた。
「私たちもがんばりますですわ。戦士と弓兵の方各5名、私に付いてきてください。正面の物見櫓を攻撃致しますですわ」
姫騎士部隊がゴールドタンクに取り付く頃になると『物見櫓レベル3』の攻撃範囲に入るので、設置されている六人の弓兵が一斉に撃ってくる。
物見櫓までは20マスの距離があるが、こちらの弓兵が物見櫓の上に居る兵士たちに攻撃できるまでは、少なくとも残り10マスまでに詰めなければならない。
それまでに何人かのNPC戦士が倒れた。
『物見櫓レベル3』は丸太を組み上げて作った建築物で、7メートルの高さがある。
高さがあればある程遠距離に攻撃が届くし、威力も高くなる上に下からの矢も届きにくくなるが、櫓の下に入り込まれると俄然弱くなってしまうのが問題だ。
やっとの思いで物見櫓の下に辿り着いた所には、ライカンスロープのショージが待っていた。
「俺はショージだ。俺の大好きなミミちゃんからの伝言を聞け。折角来てくれたお客様じゃん? おもてなしの準備するから、ちょっと待ってて。と言うことだから、少し足止めさせてもらうぜ」
物見櫓の途中に造れているいくつかの中段箇所の一つから中肉中背だが見るからに小汚いボロを纏った男が出てきた。
男はミミ女王からの伝言を伝えている間にみるみる身体中から毛が生え始め、身体がメキメキと大きくなっていく。
遂には胸と顔を除いて全身が真っ黒い毛で覆われた完全なゴリラになった。
「ウガァァァァァァァ」
さっきまで大人しかった薄汚い男は姿もテンションもガラッと変えて、天空に向かって絶叫に近い咆哮を上げ、両の手で胸板をボコボコ叩いて力を誇示した。
「何という面妖な化け物だ。サメの魚人族に劣らず凶悪な感じがしますですわ」
桜姫はエストックを抜いて構え、瞬発力を脚に溜めた。
直ぐに襲い掛かって来るかと思われたショージゴリラはドラミングをしている間にテンションが高くなり過ぎたのか、物見櫓の柱や梁をジャングルジムよろしく手で足でガンガン掴まってグルグル移動しまくった。
一頻り暴れまくった後、梁にぶら下がりながら青いビキニの彼女をキット睨み、目を剥き
「キィぃぃぃぃ」
と威嚇したあと桜姫に飛び掛って来たのだ。
「ヤバいですわ。とても好きになれそうに無いですわ」
ショージゴリラは4メートルの高さから蹴りで一直線に姫騎士に両腕を広げて向かって行く。
桜姫は横っ飛びで避けて同時に剣を突き立てる。
ショージは中空で身体を捻ってそれを避けた。物凄い反射神経だ。
飛んできたゴリラが着地するポイントに合わせて、強靭な足から繰り出されるダッシュ力を乗せた必殺の突きを入れる。
その突きが届く前に、身長程もある前足で桜姫の身体を打ち払う。
打たれた桜姫は吹き飛び、物見櫓の柱に身体を打ち付ける。物見櫓のぶっとい柱がメコッと凹んだ。
「………やりますわね」
よろよろと立ち上がった桜姫はエストックを構え直す。
真っ黒い毛むくじゃらは近くにあった樹木をへし折り、武器とした。
素手でも長いリーチなのに樹木を持つことによってより凶悪なキャラになった。
少し落ち着いたのでだいぶダメージが抜け、手・足が動くことを確認する。
「ウガァァァァァァァ」
勝利のドラミングを叩きながら力を誇示するショージゴリラ。
「真空刃斬」
姫騎士は朝練中に教わったゴルディオンの必殺技を使ってみた。
横凪に払った剣から真空波が飛び、真空状態に晒された肉体は細胞の中の空気が外に出ようとするために、身体の中から出ていく空気が細胞同士の結合を離すのだ。
そのために、パックリと割れた傷口が無数にできる。
それはどんな硬い鎧も無視して効果を発揮する恐ろしい技だ。
ゴリラは危険を感じて横に転がって避けたのだが、左太腿の一部が真空に暴露してしまい、いくつかの傷口がパックリと開いている。
細胞と細胞が離れたのであって、切断された訳では無いので、血だらけだが痛みは無い。
本人も血が流れていることに気付いていない。
避けているつもりのショージはへし折った樹木を振り被り、振り回してきた。
樹木は長大な弧を描いて襲ってくる。
桜姫は金髪を靡かせながら軽々とジャンプして交わし、通り過ぎた幹を進行方向に蹴り飛ばした。
見た目と裏腹に、彼女は怪力キャラなのだ。
大木を両手で抱えて振り回していたショージは、加速した大木に逆に振り回されてしまい、堪らず手を離した。
姿からは想像できない馬鹿力に目を見張るショージ。
ここで初めて自分の脚に踏ん張りが効かなくなっていることに気付いたのだが、もう遅い。
血はダラダラ流れている。
「お覚悟ですわ」
少しよろけた所を逃さず、桜姫の全体重と全スピードを乗せた必殺の突きが炸裂する。
それは彼女の前世で、下手なプレートメイルアーマーよりも硬い皮膚を持つ魚人族のサメ人が、更にプレートメイルを着て戦う世界で生きていた時に身に付けた技だ。中程度の岩くらいなら一撃で破砕できる自信がある。
その一撃だから、当然のようにゴリラの分厚い胸板を貫いた。
ショージゴリラは心臓を貫かれ、「ボンッ」と音を立ててケムリになった。
この場所を守護していた星四武将【ライカンスロープ(ゴリラ) ショージ】を廃した桜姫は、多少の弓兵の攻撃を交わしつつ物見櫓を破壊し、次の目標である『設置砲台レベル2』に向かった。
『設置砲台レベル2』は大岩カタパルトだ。巻上機で巨大スプーンを巻き上げて、力の解放によってスプーンがびよ~んと起き上がるのでその時にスプーンに乗せていた大岩を敵に向かって投げ落とすと言う代物だ。
連射は効かないが破壊力は抜群だ。
シゾーカが率いている『戦士レベル2』はHPが33しかないので、AP55の大岩が降ってきたら大岩の効果範囲内は一撃死である。
これも大岩の射程の内側に入ってしまえば問題ない。
ただしカタパルトを破壊しておかないと、イッセジ・ン・グーに突入した本体が、城壁の外から大岩の攻撃に晒されるので、彼の施設の破壊は桜姫の重要な任務なのだ。
物見櫓の攻撃で少なくなってしまったが、『G鉱山』『Gタンク』等の施設の破壊はNPC戦士たちに任せ、姫騎士は単独で設置砲台の破壊に向かう。時間は掛かるがその方が気が楽だ。
これからは集団戦闘についても勉強しなければならないだろう。今後の課題だ。
サトル国王は苦戦していた。
「壁の神、意外とやっかいだな」
クリスマスと共に150人の戦士と100人の弓兵と10人の自爆屋を連れて、ミーエ王城前に着いた。
ほどなく闘将ゴルディオンも合流した。ゴルディオンの本気の全力疾走はとてつもなく速いのだ。
置いてけぼりを喰らったアイリは、桜姫と合流した。
城を取り囲む城壁の上から、城レベル3に付随しているガーディアンの弓兵が60名、ズラリと並んでこっちに矢を放ち始めた。
城壁の上から撃ってくる矢に対して、こちらの矢は未だ向こうまで届かない。
「全軍突撃」
残り120メートル、全力で走って城壁に取り付くしかない。
多少の兵士が死ぬのは仕方が無い。
「サトル国王様、私の後ろに入りやー。早よ来やーて」
大きな金色の十文字が描かれた大きな白いヒーターシールドを、斜め上方に掲げて走る白い神官服の大神官。実は現場の攻撃隊260人の中でたった一人の盾持ちだったりする。
雨アラレと降りしきる矢の雨の中、たった120メートルとは言え、走り切るには長い時間だった。自爆屋が倒れて運悪く爆発に巻き込まれた者たちも居た。
残り半分。
シゾーカ軍の矢が城壁の上まで届かせられる距離圏内に入った時、ついにミーエ女王ミミちゃんの伝言『おもてなしの準備』が発動した。
地面から縦横のマス目に沿ってはいるが、有り得ないほどの無作為な数の壁が突き出してきた。
壁は出来上がった瞬間キラリと光って、壁厚が倍になり、土の密度が凝縮されて色が黒く変色した。
ミーエ国、神【カベ】の神魔法『壁強化』『壁作製』のコンボだ。
シゾーカ軍は完全に分断されてしまった。
この壁の配置は、巨大迷路だ。
突然の壁の出現に慌てふためく兵士たち。
壁を破壊しようと攻撃するが、その壁はレベル
1の戦士にとっては、殴っても殴ってもビクともしない無尽蔵なヒットポイントを持った壁だった。
唯一建造物に対して圧倒的な攻撃力を持つ自爆屋は残りの7人が自爆して壁の破壊に成功したが、直ぐに新しい壁が復帰して、どうあっても迷路に付き合わせるつもりのようだった。
頼りにしていた弓兵たちも目前に高さ3メートルの壁ができたために城壁の弓兵に狙いが定められなくなってしまった。
ミーエ軍からも壁の所為でこちらが見えにくくなったのだが、向こうは大体の位置に矢の雨を降らせれば良いので、条件は圧倒的にミーエに有利だ。
壁の神魔法レベル1は『壁強化』対象壁。効果時間は一時間。使用回数制限無し。
発動から一時間の間は、敵味方関係なく兎に角バトルフィールド内に存在する壁は強度が二倍になる。高質化にと伴って姿形を変える場合もある。
神魔法レベル2は『壁作成』対象土。効果時間は一時間。使用回数制限無し。
土があればどこにでも壁を作ることができる。作成する壁の太さや高さ・形は変えられないが、作る方向や接続・分離などは自在に操れる。
神魔法レベル3は『壁移動』対象術者本人と術者が触れている物。効果時間は一時間。使用回数制限無し。
壁を移動させる魔法ではない。壁の中を移動できる魔法である。
効果範囲は術者本人と術者と直接手を繋いでいる生物が、着用している物も含めて壁の中に入り込んで、壁の中を歩いて移動できる。
ミーエの城レベルは3なので、神魔法のレベルも3までが使用可能になる。一試合内で使える神魔法は3回まで。
壁の神の魔法は地味だがその分効果時間が長く、使用回数制限は無いので使い勝手が良い。
レベル1.2.3を混ぜ合わせて使われるとやっかいだった。
イッセジ・ン・グー前は巨大迷路と化していた。
高さ3メートルの壁が立ちはだかり、時たま「ごごごごごご」と音を立てて新しい壁が作成され、迷宮が更新されている。
【壁の神候補 カベ】の力を使ったミーエ女王【ミミ】が星五武将【伊賀忍者 アリ】と星四武将【土人形師 メアリー】の手を握って、神魔法レベル3『壁移動』で神出鬼没に出たり消えたりする。
クレイゴーレムは術式を施した宝石を核にして作製される使役型の土人形だ。
通常は地面に宝石を埋めて呪文を唱えると、宝石を核に土が活性化して身長1.2メートル程の人型に成り、簡単な命令を聞けるようになる。
しかし壁の神に引かれたのであろう、カベ様の神魔法と土人形師 メアリーの『クリエイトゴーレム』の魔法はとても相性が良かった。
予め宝石をイッセジ・ン・グー前の土地に宝石を沢山埋め込んでおいたので、カベ様の『カベ作製』によって無尽蔵に造られるカベの中に宝石が取り込まれる。
壁は『壁強化』によって造られると同時に大きさと強度が倍になるので、その壁からゴーレムを造り出せば、大きさと強度が倍になったゴーレムが産まれるのだ。
ゴーレムを作製するためには宝石から1メートル以内の土に触れる必要があるのだが、『壁移動』で壁の中を通って行けば、宝石が埋まっている壁付近まで移動し、外に出ること無く強化された壁をそのままゴーレムに造り替えることができる。
ミミちゃんと手を繋いだアリとメアリーは、サトルたちが袋小路に入り込むタイミングを壁の中で伺っていた。
そして待ちに待っていた瞬間が来た。
「クリエイトゴーレム発動っっ。やっつけろゴーレム」
メアリーが呪文を唱え、土人形に命令を送った。
サトルたちが袋小路に入った時、正面の壁が変形して、身長3メートルのクレイゴーレムに成ったのだ。
更に左右の壁から1体ずつ計3体のデカいクレイゴーレムが襲いかかってきた。
ゴーレムに変形して無くなった壁の跡には新しい壁が生まれてその穴を埋めた。
ゴーレムの動きは遅いので1対1なら問題は無かったであろうが、ただでさえ狭い迷路なのにギューギューだ。
サトルたちはどうしても仲間の距離感が気になって思うような攻撃ができないのだが、ゴーレムにはそこを考える知能が無く、狭い通路で圧しあっている3体が我先にと殴る蹴るを繰り出してくるので、それがお互いの身体を削り合う結果になっていても、彼らは全く躊躇が無い。
「手がつけられないな。一旦下がろう」
「ゴーレムがたぁけで」
ゴルディオンが狭い場所でも戦える流星錘を振り回して、嬉嬉として一人で戦っているのに任せて、サトルたちが少し後退して体勢を立て直そうとしたのだが、ミーエ軍はそれを許さなかった。
退路には大量の撒菱が巻かれており、退路が断たれていた。その奥でこれみよがしに壁がゆっくりと立ち上がり、壁の檻が完成した。
そこにトドメとばかりに、伊賀忍者アリが砂煙の術で視界を奪うために壁の中から姿を現わした。
「伊賀忍法、土遁 砂煙の術」
アリの右手が地面に触れると、その手を中心に小さな砂塵が発生し、グングン大きく成長していく。
アリは直ぐに壁に隠れてしまう。
「ものすごい風だ。目が開けていられないぞ」
「息が……息ができやんて」
砂塵めしているゴルディオンは、流石に達人と自称しているだけのことはある。
サトルたちと一緒に来ている戦士と弓兵は砂塵から身を守るために小さく座り込んでしまっている。
サトルは右腕で目を隠しあ左掌で口を隠しながら、この状況を打破するべく、ダイブルガーにチャットした。
「おい、ダイブルガー、新しい魔法はまだ使ええねぇのか?かなり分が悪いぞ」
「行けるぞ。シンクロ率が45%を超えておる。桜姫とクリスマスも信仰心が50%を超えておるぞ」
「どうなるかわかんねぇけど、やってやるぜ。2つ目の神魔法『100分の1スケールダイブルガー召喚』ってプラモデルか!?」
サトルとダイブルガーのシンクロ率が上がってきているために、サトルの精神が高揚し口調が『燃』にシンクロしてきている。
サトルが神魔法を詠唱すると、頭上にSDダイブルガーが現れて頭の中にスっと入り込んで行った。
するとサトルの体がみるみる硬化していき、体が黒い超合金ダイブルニュームに変化し始めたではないか。
体が超合金に変換される度に自重が増えている事を、肌でビシバシ感じる。立っている足元が
地面にメリ込ンでいく。
姿形は完全にダイブルガーだ。100分の1サイズだが。
「よく聞けサトルよ。今から15分間、我の能力は使いたい放題だぞ。幻の技『ダイブルホームラン』も使えるぞ」
「だ、ダイブルホームランが使えるのか?」
今やモジャメガネの頭以外は、全て超合金ボディーに変更されて凶悪だ。
「早速ダイブルホームランを使おう」
サトルはまるで、新しいおもちゃが我慢できない子供のように目をランランと輝かせている。
「ロボ子ちゃん、ゴーレムの分析は終わっているか?いーかげんやられっぱなしってのも性にあわないからなぁ」
「分析終わっていますマスター。ゴーレムのひ……ウーウッウウッウ……たいに光る赤い宝石を破壊する事で活動が停止する確率が87%です」
「ま、どう見てもそうだよなぁ。ここは一発企画段階で消えてしまった幻の必殺技をぶちかましてやるぜ」
ダイブルホームランの話しを聞いてに更にテンションが上がったサトルは、シンクロ率が58%までになっていた。
それに伴って口調もかなり荒くなっている。
「ゴルディオンのおっさん、デカいの行くから巻き込まれるなよ。行くぜ」
ダイブルガーの黒い体になったサトルが背中に右手を回すと、その手には光の棒が握られた。
光の棒は野球のバットに変わった。
左手をベルトを巻いているへその辺りに置くと、ベルトの中から光の球が出てきた。
そのボールをトスして、
「喰らえっっっ。ひっっさぁぁつ、ダ・イ・ブ・ルッッ葬らんっっっっ」バットで全力スイング。
打球は稲妻を纏った赤と黒の光が禍々しく混ざった光球と成り、バリバリと音を立てながら一直線にゴーレムの頭部に飛んでいき、頭部に命中、大爆発を起こして上空にまで届くキノコ雲がそびえ立った。
続いて轟音と共にものすごい爆風と衝撃波が、ゴーレムの頭部を中心に、あらゆるモノに被害をもたらせた。
当然の如くゴーレムは灰燼と化し、荒れ狂っていた砂塵も爆風で消し飛んだ。
周囲20メートルの土壁が消失したり割れたり欠けたりして崩れ落ち、効果範囲に居たヒットポイントの少ない仲間のNPC兵士たちは耐え切れずに消滅した。
「やったぜパパ、明日はホームランだ!! 決まったぜ」
振り抜いたバットを天に向けて決めゼリフを吐く。ダイブルガーのスーパーボディはあの壮絶な爆風と衝撃波にもビクともしない。
サトルの陰に隠れてヒーターシールドを立てて体を丸めたクリスマスは何とか無事だった。
前方で瓦礫の中からガバッとゴルディオンが立ち上がった。彼も無事だった。
「殺す気かァァ」
辺り一面に闘将の魂の雄叫びが響いた。
「おっさん良く生きてた。流石は闘将だ。正直俺もあんな威力がある攻撃だとは思わなかったんだ。許してくれ」
「矢張り100分の1スケールでは威力が小さいな。本来であればあれの100の二乗倍程の威力があるのだがな」
ダイブルガーが不穏な事を残念そうに呟く。
同じ様に、ガレキの中から三人の男女が現れた。
壁の中に隠れていたミーエ国のミミ・アリ・メアリーの三人だ。
こちらの三人の場合は、ガレキの下にミミが瞬時に作った城壁が三つ、ミミちゃんたち三人を守るように折り重なっていたので、被害は大したことがない。
「ちょっとあんた!いきなりそんな無茶苦茶な攻撃する? ふつう。死ぬかと思ったじゃない。生まれながらにしてアイドルのあーしが死んだら、世界的大損失よ? 解ってるの?」
手を繋いで瓦礫を通り抜けてきた三人の内、真ん中で全身ピンクのフリフリを着ている女の子が、ものすごい剣幕で噛み付いてきた。
ミーエ国女王ミミちゃんだ。
「お前がこの国のプレイヤーか? なら話しが早い。この魔法が効いている今がチャンスだ。覚悟しろ」
サトルがダイブルガーの重い体を動かしてビシッとミミを指差す。
「ええぇぇぇ、ひょっとしてあーしらってば今ピンチなの?」
「そうねミミちゃん、とってもヤバい感じがビンビンするわ」
ミミとメアリーは、ミミが咄嗟に造った壁のシェルターから出てきたまでは良かったが、あまりに逆転している状況に理解するのが遅れた。
しかしアリが素早く反応して
「ごめん」
言うが早いか、二人を両脇に抱えて煙玉を投げつける。
辺り一面に灰色の煙が吹き上がる。
「ダイブルっっっビぃぃぃぃ厶ェッッッ」
人間サイズのダイブルガーに変身しているサトルが、顔の前でクロスした両腕をバッと開くと、目から『D』の形をした怪光線が発射された。
伊賀忍者アリが仕掛けた煙幕はビームの熱量で一瞬にして蒸発、煙の陰に隠れて造った無数に乱立する壁にも、一直線に『D』の穴が開いている。
煙が消えた跡に丸太がゴロンと転がっていた。
「移せ身の術か……便利だな。ロボ子ちゃん、
この邪魔な壁は何とかならないか?」
「ウーッウ……カッカッカッ。『100分の1スケールダイブルガー召喚』は、あと7分23秒で終了しますが、今が追撃の好機です。思い切って神魔法レベル3『神武装召喚』からの神魔法レベル1の『ダイブル…うーううう…パンチ』で、一気に勝負を掛けましょう」
「今の状態でもダイブルパンチは撃てるハズだが、わざわざ神魔法の貴重な一回を使うのか?」
「神魔法レベル1は35分の1スケールで発射う
ーーされるので、破壊力は桁違いです。現在のシンクロ率であればダイブルパンチの最終形態である『有線式ダイブルパンチ』が使用可能です」
「有線式って?そんなの僕は知らないぞ?それに、有線式より無線式の方が強くないか?」
「有線式ダイブルパンチはマスターとは別次元のグランドマスターの技です。強いか弱いかは、端的に言えばうー……うっう『グダグダ言わずに使いやがれ』です」
「ロ、ロボ子ちゃん?……わかりました。兎に角やってみます」
サトルはロボ子ちゃんに言われた通り、
「神魔法レベル3『神武装召喚』!!!」
おシゾーカ国王が虚空に向かって『シャウト』する。叫ぶのではない。虚空から武器を召喚する為には、魂の叫び『シャウト』が必要なのだ。
視界に選択肢が浮かび上がった。
『必要な武器を
選択してください。
□ドリルブルガー
桜姫
□シールドブルガー
クリスマス
□ウイングブルガー
アイリ 』
「ウイングブルガー何て知らないぞ」
言いながら視線入力でドリルブルガーとシールドブルガーにチェックを入れるサトル。
「別次元のグランドマスターにはありました」
ウイングブルガーの文字は薄くなっていて入力できない。アイリの信仰心がまだ足りていないためだ。
「来いっっっ、ドリルブルガー・シールドブルガー。しょぉぉぉかんっっっっ」
『召喚』ボタンを押す。スーパーロボットはボタン一つ押すだけでも全力でシャウトしなければならない。
サトルの両腕がビカッッと発光し、稲妻の様なトゲトゲしい光が両腕から伸び出した。
左腕から伸びた光は直ぐ後ろのクリスマスを捕らえ、右腕の光はギュンと上昇して放物線を描いて桜姫を捕らえた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁ」
桜姫とクリスマスは光に包まれながら空高く浮き上がった。
そして彼女たちはみるみるメカメカしく変身していく。
クリスマスは自慢のヒーターシールドをベースに身体がヒーターシールドに変身した。手の部分に上から被せるタイプの手甲と、腕にシールドを固定するパーツが付いていて、左腕に装着された。
桜姫は足先から腰までがドリルに変形し、頭はロケットエンジンに変身し右腕に装着された。
「わ、私にいったい何が起こったのですの?」
「何かどえりゃー事になっとるがや」
「これドリル……ですの? 武器になるにしても、もっとカッコイイ武器が良かったですわ」
「いや、君たち喋れるの?」
何と二人とも武器に変身したのに、パーティチャットで普通に会話できたことにはびっくりした。
気を取り直してサトルが言う。
「桜姫、ロボットの武器と言ったらドリルに決まっているんだ。ドリルは至高で最強の武器なんだ。ドリルがあれば、無敵なんだ」
事ダイブルガーの話しになるとつい熱がこもってしまうモジャメガネだった。
あれから少し時間が経ってしまい、ミミちゃんたちミーエの幹部たちの姿は見えないが、イッセジ・ン・グーに逃げ込んでいるのは火を見るより明らかだ。
「ゆくぞ、神魔法レベル1『ダイブルパンチ』行っけぇぇぇ」
サトルの両腕から爆発的な光が発光し、両腕がロケット噴射で打ち出される。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
再び桜姫とクリスマスの悲鳴がパーティチャットいっぱいに響き渡る。
それもそのはず、サトルの右手左手はドリル桜姫とシールドクリスマスを掴んだままなのだ。
打ち出された腕と二人は例のごとく急速に巨大化していく。
今回違うのは、先ほど桜姫とクリスマスを包んでいた稲妻の様なトゲトゲしい光がパンチと彼女たちを包んでいて、その光はサトルの両腕まで繋がっている。
シールドクリスマスを持った左手は、90度回ってシールドを横に広く展開したまま一直線にイッセジ・ン・グーの城門に突撃をかける。
「いぃぃぃやぁぁぁぁ!やめてやめてやめてぇぇぇいたっっっっ…………くない?」
シールドはロケット噴射の勢いで一直線に城門
に激突した。
それはシールドブルガーに変身しているクリスマスからすると、板に張り付けられて強制的に顔面から城門に叩き付けられたのである。その恐怖は計り知れないものだったのだが、いざぶつかってみたら、幅4メートル長さ10メートル厚さ10センチの超合金の塊である、超重量級の質量を持つシールドブルガーにとって、城壁レベル3程度の硬さは(神魔法で硬さが倍になっているが)砂の造形を壊すようなものだったのだ。
「デラ怖かったがやなぁ。国王様たーけとるでかんわぁ。今度っからこれやる時は事前に言ってちょー。心の準備ってものがあるでなも」
いくらダイブルガーに心酔しているクリスマスでも、流石にこの扱いには怒れたようだ。
右手と桜姫ドリルは回転するドリルで乱立している壁を一直線に粉砕しながら突き進んでいる。壁はドリルに触れた瞬間粒子に分解されて、ドリル根元にある吸気口から入り、ロケットエンジン横の排気口から光の粒子となってキラキラと排出されている。
「何ですのコレ? 何か足が変な感じですわ。でもこの全てを貫き通す感じ、嫌いではないですわぁ」
桜姫は何かに目覚めたようだ。
「桜姫、本来ドリルブルガーは本来単機で活動できる戦闘機なんだ。君なら飛べる。いくぞ、アフターバーナー点火だ」
光のケーブルで繋がっているパンチは『グー』の形で固定されず、サトルが普通に手を使うのと全く同じ感覚で使えるので、突撃中の右手はドリルブルガーの持ち手に付いている、アフターバーナー点火スイッチをポチッと押し、握りハンドルを放す。
「イイィィィやぁァァァァァァ………」
桜姫の悲鳴がドップラー効果であっという間に遠ざかって行った。
桜姫の本来後頭部だった部位から突出している三基のロケットエンジンは一斉にロケットを噴出し始め、程なく凶悪的なスピードでミミちゃんが造った壁とイッセジ・ン・グーの城壁・壁・建物・樹木を貫通していく。
あれよあれよと言う間に700メートルある敷地を貫通して旋回運動に入る。
35分の1サイズになったドリル桜姫は、さながら空飛ぶシロナガスクジラの様なサイズ感だ。
そのシロナガスクジラは右手から離れて、三基付いているロケットエンジンはその凶悪なパワーを発揮して、一瞬にしてイッセジ・ン・グーを抜き去った!!
一片返2.5キロメートル四方のバトルフィールドの端に直ぐに到達してしまったが、バトルフィールドはループしているので、反対側の端に出現して、また更に端まで飛んで行く。
ついにドリル桜姫は時速1000キロにまで到達して、バトルフィールドを約9秒で駆け抜け、巻き起こすソニックブームで破壊の限りを尽くす悪魔の化身と化していたのだ。
「止ぉぉぉぉぉぉめぇぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇくぅぅぅぅぅぅぅだぁぁぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃ。ですわぁぁぁぁぁぁぁ」
あ
もう単なるスーパー絶叫マシンである。
ロケット燃料が切れる30秒、計3回ほどミーエの国を縦断して止まった。噴射が止まると、サトルの右肩から伸びた光のケーブルがドリルブルガーを掴まえて肩に引き戻した。
ドリル桜姫が通った跡はソニックブームによって壊滅状態だ。
一方右手は左手と合流して、シールドクリスマスを使ってイッセジ・ン・グーの建物を力いっぱいぶっ叩いていた。
「きゃぁぁぁ、怖い怖い怖い怖い。そんなわややめて。国王様、お願いですから、顔面からはやめてぇぇぇ、いたっっっっ……くない?」
光のケーブルで繋がっているパンチは、神の力によって重力などの干渉を受けず、上下左右思った通りに動かせることができる。故に最終形態なのだ。
シールドブルガーに変身しているクリスマス的には、直立不動で硬められたクリスマスの足を持たれて振り回され、顔面から壁に叩き付けられた状態なのだ。
それはハエを叩く様にバンバンバンバン、何度も行われた。
「あはははは。コレ、面白い」
突如としてもの凄い力を手に入れたサトルは、神シンクロ率85%のレッドゾーンを一気に超えて87%に達し、目が血走っている。
その強大な力に翻弄されてしまい、イッセジ・ン・グーをぶっ壊す事に我を忘れて熱中してしまい、彼女たちの悲鳴が届いていなかった。
普段の頼りなさ気なサトルと打って変わって、国王のその狂気の沙汰と、目の前で繰り広げられる圧倒的な破壊力に、ゴルディオンとアイリの信仰心が密かに上昇していた。
ミミちゃんたちミーエの幹部はイッセジ・ン・グーの最深部で、壁を幾重にも張り巡らせてシェルターを作成し、そこに逃げ込んでいた。
「何なのよあのバカげた魔法は? 無茶苦茶にも程があるわ」
「ミミちゃんもう帰りたいよぅ」
いつもは元気なゴーレム使いのメアリーが女王ミミちゃんにしがみついてきた。
「そうね。めっちゃクヤシィけど、今回はあーしらの負けだわ。『降参』してこの試合を抜けるわよ。アリもそれで良いわね?」
「仕方がないですな。命あっての物種です」
「じゃ、コマンド『降参』っと。あ~~チョークヤシィぃぃぃぃ」
『降参』はプレイヤーのみが使用できるコマンドで、プレイヤーが死んだら終わりのゲームなだから、国王が命の危機を感じた時には500神ポイントを支払って即時試合を終了できる。
そこから敗戦処理に入るので、更に200神ポイントと貯まっているゴールドの半分を勝利国に譲渡する。
その為701神ポイント以上のストックが無いと、『降参』オプションは選択できないと言うわけである。
ちなみに『降参』は昇格試験期間中に三回までしか使用できない。
ここで世界が暗転し、暗転が解けるとそこはのシゾーカの王城だった。
程なく運営からのアナウンスが入った。
『ミーエ国王より『降参』コマンドの実行が確認されました。試合を強制終了します。勝者シゾーカ』
「ゲームセット。ウィナー『シゾーカ』」
サトルの鼻先10センチの位置に1メートル四方の金色に輝く物体がズガーンと落ちてきた。
「うわぁーっっっ」
サトルが腰を抜かして地面にへたり込むと、それは『N』だった。
「ひょっとしてまたアレか?」
そう、アレだった。
『N・O・I・T・A……』と、金色に輝く物体は空から落ちてきて、トーテムポールの様に積み上がっていく。
それは12文字降ってきて、『CONGRATULATION』に成った。
「毎回毎回、悪意しか感じないぞ」
シゾーカは今回も大勝利を収めた。
サトルが途中ちょっとイッちゃったけど、おいおい慣れる(?)だろう。