シゾーカの日常
第十四話『シゾーカの日常』
大正108年 6月 1日 3時 23分
オワリコマキーン歴1000年 1月 4日 10時 00分 (4日目)
@シゾーカ
朝10時。
「お前たちぃ。ゴルディオンブートキャンプによく来たなぁ。軟弱なお前たちのためにわしがビシバシ鍛えてやるでねぇ、いーかん?ゲロ吐くまで走り込むだに。覚悟しりんさいよ、ほい」
昨日と全く同じセリフでゴルディオンブートキャンプは始まった。
昨日は肉体系キャラのみのキャンプだったので地獄だったが、今日は違う。
今日の朝飯時に
「ゴルディオンブートキャンプには武将全員参加ね」
「「「「「えええええぇぇぇぇ」」」」」
ブーイングは無視してみんなを道連れにすることに決定したのだ。
というわけで星三の魔法使いも含めて、ココには武将全員が揃っている。
全員が朝練をするようになったのは、少し遡って朝飯のことである。
朝食のテーブルを囲んで話し合った結果『王城レベル3』になるまで、シゾーカ自らは攻めに出ないということを決めた。
「サトルよ。我を信じろ。我は強いぞ。ガンガン攻めて、ガンガン神ポイントを貯めて強化してゆけば良いではないか」
ダイブルガーはブーブーだったが、サトルは慎重派なのだ。RPGゲームでも万全になるまでひたすら経験値稼ぎをするタイプだ。
「オワリコマキーン時間で2年間も勝ち続けて生き延びなきゃいけないんだろう?極力戦闘は避けて守りを固めるべきだ。確かに神ポイントは心許なくなったけど、焦らずじっくりやる方が良いと思う」
ちなみにアイリはナース服が気に入ったらしく、今日もナースの格好だ。
「現在『武将宿舎レベル1』『Gタンクレベル2』『G鉱ざ……んレベル2』『鍛冶屋レベル1』が完成しています。『物見櫓レベル2』『技術研究所レベル1』を建設……ウーカッカッ……中です』
メイド服姿のロボ子ちゃんが建設の状況を説明してくれた。
「ありがとうロボ子ちゃん。鍛冶屋もできたことだし、装備も整えていかないとね。やる事はいっぱいだ。王城レベルアップのためのゴールドも貯めないといけないから、武将たちはやる事が無い。だから、ゴルディオンブートキャンプには武将全員参加ね」
「「「「「えええええぇぇぇぇ」」」」」
「はいはい、みんな文句言わない。僕も含めてこの試験を勝ち抜くためには体力が必要だからね。いいね。国王命令だよ」
あの時、『国王命令ちょっと気持ち良い』何て思っちゃったけど、しばらくしてそれは大変なミスだった事に気付いた。
(これって山田課長と同じパワハラなんじゃないか)と気付いたのだ。
同時に猛烈に恥ずかしくなった。
自分が嫌っていた人種と同じ事をしてしまった。これからはしないように気をつけよう。権力って怖い。
ゴルディオンの言うところの『準備運動前のストレッチ』である超ハードエクササイズダンスが終わる前に、サトルを含めた九人中六人が脱落した。
驚いた事に鈍臭そうなアイリはダンスを最後までやり終えた。星六クラスは根本的にステータスが桁違いなのだ。
それはどんなゲームも同じだね。
昼からはアイリと鍛冶屋に行って二人の装備を見繕ったが、まだ『鍛冶屋レベル1』『技術研究所レベル1』なので、ロクな物は売っていない。
ロクな物が無いのは判っていたが、欲しかったのはアイリ用のショートボウなので、問題は無い。
お店がどんな感じか見ておきたかったということもある。
「『コントロールパネル』『移動』『鍛冶屋』」
オワリコマキーンでの移動は基本全てコマンド移動だ。実際には250メートル四方しか無い小さなジオラマのような国の中で、電脳空間のような広い世界が広がっている。
降り立った『鍛冶屋レベル1』は露天商だった。
「ちょっとテンコちゃんこっち来やー。【鉄の指輪】だって。見てみやぁて。男性からこんな指輪もらってみたいがやなぁ」
何故かテンコとクリスマスがついてきていた。
「二人は何でついてきたの?」
「……ヒマ」
「うわ!テンコが喋った」
「何言うとんのサトル国王様。テンコちゃんだって喋るに決まっとるがやなぁ。なぁテンコちゃん」
「…………」(コクン)と頷く幻術師
「いらっしゃい国王様」どこの国の鍛冶屋も、ゲームシステム的にその国の国王しか買いに来ない店だ。
いかにも武器屋のオヤジって感じのNPCが露天商の店主だ。
その店主が自分から話し掛けてきた。
店主のオヤジはアイリを見たが『マスチャーム』には掛から無かった。
どうやらアイリに服を着せると飛べなくなるだけではなくて、『マスチャーム』の効果も発動しなくなるようなのだ。ますますナース服が手放せないな。
「ショートボウと矢筒、それに僕が扱えそうな防具を見繕って欲しいんだが」
「ふむ、なるほど。でも、現状で提供できるのは見ての通りあまり良い物じゃ無いぞ。それでも良ければ買ってくれ」
露天商は木の枝のような柱に天幕が張ってあって、床に御座が敷いてあり、そこに粗悪な剣や出来の悪い盾などが並べてある。
それでも武器装備によるステータスアップが『0』か『+3』かという選択なら、迷わず『+3』だ。
これが『+3』か『+4』かの選択なら、『+4』の装備が着けられるまで我慢するが。
先日装備させたアイリ用の【ロングボウ】は浮遊時に邪魔になるらしく、「飛ぶためにはぁ、うまくバランスが取れないでありんすぅ」と言っていたので、【ショートボウ】に変更してみることにしたのだ。
ついでに右腰に履いた【必中の矢筒】とバランスを取るためと、屋の装填数を増やすために、【普通の矢筒】を左腰に装備させた。
サトルが装備できそうな物は木製の【丸盾】のみだった。
そして「どうしても」とねだるので、テンコとクリスマスに【鉄の指輪】を一つずつ購入してあげた。
二人ともそれなりに喜んでいるのだが、効果は『筋力+1』だ。魔法使いと神官には意味ないだろ。
王城をレベル2~レベル3に引き上げるためには、レベル2になってからの建物のレベル合計
が、60以上にならないと『王城レベル3』の建設が始められない。
ちなみに建築時間は二日間掛かる。まだ数日掛かる話しだ。
レベル2の建築物を60レベル分造るために、大工二人だとなかなか進まない。
運良く他国も攻めてこなかったから、それまでは(地獄の)基礎練習に打ち込めた。
大正108年 6月 1日 7時 15分
オワリコマキーン歴1000年 1月 7日 6時 00分 (7日目)
@シゾーカ
朝6時。
「あんたんとー、早く起きんさいよ、ほい。朝だに」
今日も元気なゴルディオンのおっさんが、剣と盾をカンカン鳴らしながら王城と武将宿舎で寝ている者たちを起こしてまわっていた。
「今日はミーエに攻めいる日だに。ちゃっとちゃっと。ちゃっと起きんさいほい」
サトルがその音に起こされて、ここ数日の地獄の基礎訓練でバリバリな身体を引きずりつつ起き上がった。
スエットのパンツをズリ上げつつ、ケツをぼーりぼりかきながら部屋を出ようとしたら、部屋で掃除をしていたロボ子ちゃんに
「マスター、身だしなみはちゃ……んとしてください」
とカクカクやってきて、サトルの服をパンパンとはたいたりシワを伸ばしたりし始めた。
「マスターはこの国の王なのですから、身だしなみはきっちり……ウーウーうっ……なさってください。これで良しです。そーーれでは行ってらっしゃいませ」
確かにこれからは王として、色々としっかりしなければならないのかもしれない。
サトルは颯爽とカーテンを開けてみんなの待つ朝食のテーブルについた。
昨日までの六日間を掛けて、城はついにレベル3になった。
『城レベル3』になると、城壁のまわりに掘りを掘れるようになり、弓兵を設置できる物見櫓も3基、設置砲台1基、兵士訓練所を3ヶ所、武将合成所などが建設できるようになった。
レベル3からはG鉱山も3基まで建設できるようになるのだが、それでも決定的にゴールドの貯まりが遅く慢性的なゴールド不足になる。
つまりレベル3からは、隣国に攻め入ってゴールドを奪い合うのが手っ取り早くゴールドを貯める近道なので、自ずとどの国も戦わずにはいられないと言うわけだ。
大正108年 6月 1日 7時 17分
オワリコマキーン歴1000年 1月 7日 7時 00分 (7日目)
@シゾーカ
「良し時間だ。初めての攻めに出てみようか」
サトルはここ数日の特訓の甲斐があって、平常時の今も神シンクロ率は6%をキープしている。
星三【シーフ】・星四【スパイ】・星四【ニンジャ】など『情報収集』スキルのある武将たちは隣国に『情報収集』に行くことができる。
星の数や持っているスキルによって収集できる情報の量や質は変わってくる。
『情報収集』が星五【ニンジャマスター】や伝説の星六【00ナンバースパイ】だった場合は『破壊工作』や『扇動工作』などの特殊コマンドを使える場合もある。
シゾーカには幸いにも星三【シーフ】が居るので、ここ何日かは彼に隣国の情報を集めさせていた。
その結果『ミーエ』が今一番Gを溜め込んでいるということが判ったので、『何かの建設で使われる前に奪ってやろう』という事になったのだ。
シゾーカの戦力はサトルのチーム、星六【羽衣天使 アイリ】・星五【姫騎士 桜姫】・星五【闘将 ゴルディオン】・星四【幻術師 テンコ】の4人と、200人の戦士・50人の自爆屋・100人の弓兵だ。
『兵士訓練所レベル2』が2ヶ所できたので、最大500人の兵士を1種類ずつ選択して雇う(作る)ことができる。そのユニットが2ヶ所あるので、最大1000人の兵士を時間とお金が許す限り雇える(作れる)と言うわけだ。
もっとも『技術研究所レベル2』ではまだ『戦士・弓兵・自爆屋』の3種類しか選択できない。
「行くぞ。『コマンド』『戦争』『ミーエ』」
グラグラグラグラグラグラグラ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
シゾーカが動き出した。
体幹の弱い国王はシゾーカが動き出した衝撃でよろけてしまった。
ゴガァァァァァン
シゾーカの国が隣国『ミーエ』に接岸したその衝撃で、みんなが前につんのめる。
上空に『戦力設置時間』の文字が浮かび上がる。
サトルの視界に強制的にミーエのマップが表示
される。
500×500マスのマス目が引かれたミーエのマップに配置可能ポイントが黄色く光って示される。
国同士が接岸しているので、配置できるポイントも限られている。
画面上部の中央に60からのカウントダウンが始まってる。
マップの左右にサトルとチームの武将、配置可能な兵士のアイコンが光っているので、アイコンを触ってからマップのマスを触るとそこに配置される。
兵士たちの場合は、兵士たちのアイコンを触ってからマップを触ると、そのマスに10人単位で配置される。同じマスに触ると触った数×10人が追加される。
サトルは自分とテンコとアイリは同じマスに、ゴルディオンはサトルたちの少し前に、桜姫は別働隊として右端に配置した。
次に戦士のアイコンをクリックしてゴルディオンのところに三重にスワイプ。
同じようにサトルと桜姫のところに一回スワイプする。これで200人の戦士が配置完了だ。
自爆屋はゴルディオンと桜姫、弓兵はゴルディオンとサトルの部隊に振り分けた。
残り時間37秒を残して『配置完了』ボタンを押す。
上空に
『試合開始5秒前』
『シゾーカ VS ミーエ』
と言う金色の文字がデカデカと浮かび上がった。
『4』『3』『2』『1』戦闘開始だ。