強くなれ国王
第十三話『強くなれ国王』
大正108年 6月 1日 2時 18分
オワリコマキーン歴1000年 1月 3日 7時 00分 (3日目)
@シゾーカ
朝。
サトルが起きて窓の外を見ると、二人の大工が不眠不休でトンカンやっているのが見える。
彼らは生身ではあるが、城付きのスタッフと同じNPCなので、ご飯も休憩も要らない。
だから決してブラック企業では無い。
百歩譲ってシゾーカがブラックだったとしても、彼らは異世界人だし、人間かどうかも怪しいのだ。そんな彼らに人間の法律が摘要できる
ワケがない。
訴えれるものなら訴えてみろ。
何て事を考えながらぼーっと大工の仕事を見ていた。
『城レベル2』になって建築できる施設が増えたので、先ずは『Gタンク』をレベル2にアップしている。
『Gタンクレベル1』でプールできるGは5000。
『Gタンクレベル2』にアップするためには12時間と4500Gが必要である。
もう一人は『G鉱山レベル1』の2基目を500G使って6時間掛けて建設している。
施設を造るために材料であるお金(G)を作成しようと言う結論に達した。
外には他にも【姫騎士桜姫】と【闘将ゴルディオン】が朝から元気に個人訓練をしている。
流石は体育会系の二人だ。
サトルがベッドでぼーっと外の様子を眺めていると、寝室と広間を仕切るカーテンがシャッと開き、【大神官 クリスマス】と【幻術師 テンコ】が入ってきた。
「サトル国王様。いつまで寝とりゃぁしとるんだがね。はよう起きてまわししやー」
「え?何で(相撲の)まわししなきゃいけないの?」
大神官はクスッと笑って
「それ必ず言われるわ。そのまわしじゃにゃーて……」
言いかけてクリスマスは枕元にSDダイブルガーが人形っぽく座っていることに気付いた。
「これはこれは神様。おはようございます」
恭しくお祈りを捧げ始めた。
テンコは相変わらず無言で、サトルの手を取って『ベッドから起きろ』という感じでうんうんモジャメガネを引っ張った。
大神官のお祈りが終わり、
「失礼します。神様」と恭しくダイブルガーを手に取り、
「さぁ、神様もいつまでも寝とったらかんで、向こうに行こまい」
と連れていかれた。
テンコにベッドから引っ張り出されたサトルは、ダラダラと着替えて大広間に顔を出した。
「おはようございます。国王」
武将たちが朝食を待っていてくれた。
(悪いことしちゃったなぁ。明日から気を付けよう)と心に誓ったサトルだった。
アイリは昨日の約束通り専用装備の上から一枚ダボッとした服を着ていた。
正直残念だが、いちいち自制心と闘うのもちょっとシンドいので仕方がない。
「増えた神ポイントは大工を増やすかパーティメンバー枠を増やすか、どっちがいいかな?」
朝食を食べながらみんなに聞いてみたところ、『矢張りこの試験を生き残ることが重要』なので、パーティメンバー枠を増やすことにした。
コントロールパネルの左側に、縦一列に並んでいる五つの四角い枠があり、上から桜姫・アイリ・テンコの順だ。
プレイヤーのパーティはこの枠の人数分を示していて、最大5人プラスプレイヤーで、MAX6人パーティだ。プレイヤーパーティだけは攻撃にも防御にも参加できるので、パーティメンバーを増やすことは攻撃力も防御力もアップに繋がるのだ。
パーティも大工も最大2人増やせるのだが、どちらも神ポイントを消費しないと規制枠を解除できない。
ちなみにどちらの枠も一人目は1000神ポイント・二人目は2000神ポイントを必要とする高価なモノだ。
今回はパーティ枠を一つ買い、もちろんゴルディオンをメンバーに加える。
そして前回間に合わなかった装備品の装備をした。
とはいえ専用武器持ちが多いので主にサトルとアイリの装備補充だ。
ピンク色のショートボブがキュートな羽衣天使は、初日のガチャで出た星三【ロングボウ】と、紫色に妖しく光を放っている星五神器【必中の矢筒】を装備させた。
現在残っている武器は星三【フルプレートアーマー】・星三【グレートアックス】・星三【ヒーターシールド】・星四【+1フルーレ】だ。
バリバリのインドア派を自負するひょろモジャメガネが持てるような武器は【+1フルーレ】しか無い。
「オタクの貧弱さをなめるなよ」
「お宅……?」
装備の世話をしてくれている桜姫が首を捻っている。
「いや、何でもない」
「主君、フルーレならば私のエストックと同じ使い方なので、よろしければ私がお教えしますですわ」
「桜姫が教えてくれるのかい?じゃぁ今日から早速見てもらおうかな」
ダンスの時と同じように桜姫とイチャイチャ訓練できると思った。楽しみだった。
目の前には両手をおなかの横でグッとくの字にしてパンパンな筋肉を見せつけている、浅黒いゴルディオンが満面の笑みで立ってる……。アレは確かボディービルポーズの『リラックス』だ。
「お前たちぃ。ゴルディオンブートキャンプによく来たなぁ。軟弱なお前たちのためにわしがビシバシ鍛えてやるでねぇ、いーかん?ゲロ吐くまで走り込むだに。覚悟しりんさいよ、ほい」
完全にサトルの誤算だった。
真面目な桜姫は自分より戦闘技術の高いゴルディオンの所に国王を連れて行き、
「主君、闘将と言う素晴らしい教官が我が国にはおりますですわ。彼に訓練を付けてもらいましょう。そんな心配なお顔をなさらずとも大丈夫ですわ。私も訓練をご一緒いたしますですわ」
と目をランランと輝かせながら言った。
『逃げる』……『桜姫に捕まった』『サトルは逃げられない』
『逃げる』……『ゴルディオンに回り込まれた』『サトルは逃げられない』
的な!!!
「最初は準備運動前のストレッチ代わりに、かるぅぅくエクセサイズダンスをやるでね。ミュージックスタート」
『ちゃーちゃちゃちゃーちゃーちゃーちゃーちゃちゃちゃちゃちゃーちゃちゃ……』
ゴルディオンの一声で何処からとも無く音楽が聞こえてきた。どーいうシステムなんだ?
「足を肩幅に広げてぇ左右にすてっぷ、手は頭の上でくらっぷゆあはぁんど。わん・つー・わん・つー・きんにく・きんにく」
かるぅぅぅく30分やった。
ゴルディオンは余裕だ。
桜姫も息一つ上がってない。
僕は既にヘロヘロふらふらだ。
(『準備運動』『前の』『軽いストレッチ代わりのダンス』じゃなかった?)
「こ、これから『準備運動』……なの?」
「あったり前じゃ無いかぁ、サトルっちぃ。わしゃんとの全力で一生懸命教えるでね。ちゃんと付いてくるだに?」
いつの間にか僕の呼び名が『サトルっち』になっている。ま、僕は特に気にしないが。
「主君、ガンバっっ。ですわ」
訓練中の桜姫は上着を脱いで、デフォルトの青いビキニアーマーになっている。
これが……これだけがオアシスだ。これで彼女が居なくなったらただただ地獄。
準備運動は『100メートルダッシュ』だった。
しかも休み無しの連続10回。(これでも初心者用に手を抜いているらしい)
「もっと早く。だんだん遅くなっていますですわよ」
「ハァ、ハァ、ヒィ、ハァ、、、、ングッ、、、」
既に8本目だ。
横で一緒に走っている金髪の女の子はたいして息も乱れていないのが不思議だ。
「、、、もう無理だ」
「サトルっち、弱音は吐かない。血反吐を吐けぇぇぇだに。何事も死ぬ気でやってこそ力になるじゃん」
浅黒い筋肉はドヤ顔でカッケーことを言った気になっている。
シゾーカ国王はそこで意識が飛んで倒れてしまった。
大正108年 6月 1日 2時 45分
オワリコマキーン歴1000年 1月 3日 18時 00分 ~(3日目)
@シゾーカ
サトルはベッドの上で気が付いた。
「主君、気が付かれましたか?一時はどうなる事かと思いましたですわ」
桜姫が心配そうに顔を覗き込んだ。ずっとベッドの横に着いていてくれたようだ。
「さとるさまぁ、元気になったでありんすか?」
入口付近に居たアイリがとてとてやってきた。
何故か薄いピンク色のナース服を着ている。
そのナース服は超セクシーなデザインで、胸元がガバッと開いていて、ギリギリなミニスカートに(なぜか)白い網タイツだ。
二人とは別の人影も感じたので首を巡らせてみると、クリスマスも同じナース服を着ている。
おかっぱでサラサラロングヘアの大神官は、テーブルに乗せたSDダイブルガーに向かって、一心不乱にお祈りを捧げている。
服装はナースのコスプレだが。
興奮して鼻血が噴き出しそうだが、ソコはグッと我慢して先ずは『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』…………
「イテテテテテテっ」
突然ほっぺたをつねられてあまりの痛みに我に返ると、桜姫が怖い顔をして睨んでいた。
「主君、鼻の下が伸びていますですわ」
「ごめんごめん。えーーっと、二人はどうしてそんな服着てるの?」
「それはロボ子が説明しますね。マスター」
この狭い部屋にロボ子ちゃんまで居た!
「マスターが倒れてから、しばらくして『ディオニソス神様からの使者』と言……ウッウッ……う方が、マスターのお見舞いにお見えになりまして、『これを着て看病すればマ……スターが直ぐに元気になるから』とメッセージカードを添えて置いていかれました」
そう言いながらロボ子ちゃんが渡してきたメッセージカード受け取り。
「ディオニソス神もなかなかイキな事するじゃん」
と言いつつ封を切って中を見ると、
『やあサトル、初戦勝利CONGRATULATION。
過労で倒れてしまったようだね。
そんなYOUにMEから元気の出るプレゼントだよ。
遠慮無く受け取ってくれたまえ。
追伸
代金は1着200神ポイントだよ~ん。
自動に引き落としておいちゃったからね♡チュッ』
コントロールパネルを開くと残りが380神ポイントしか無くなっている。
「あの、クソニソスがぁぁぁぁぁ。何がメッセージカードだ。単なる領収書じゃねぇか!」
メッセージカードを床に叩き付けながらサトルがぶち切れた。
1780あった神ポイントは一人目のパーティメンバー枠を買うのに1000使い、残り780で余裕があったはずなのに、ナース服一着200神ポイントを二着分勝手に差し引かれて残りが380神ポイントになったと言うわけだ。
「でも……でも悔しいがグッジョブだ、ディオニソス……様。400神ポイントの出費は仕方が無い」
「気が付かれましたかなも。どえりゃーたいぎかったねぇ」
クリスマスが優しい笑顔を浮かべながらベッドの横までやってきた。
ちょっと何言ってるか解らない。
クリスマスのハチ切れんばかりの大きな胸が迫ってくる。
アイリも桜姫も居て夢見心地だ。
ナースのコスプレサイッコーーー。
22年間モテなくて女の子に全く免疫の無いサトルはふと、(自分が今モテているのではないか?)と一瞬思ってしまったのだが、直ぐに(イヤイヤそんなことがあるワケが無い)と思い直した。
女の子を見る時、もてないサトルは(端っから持てるとは思っていない)いつも他人事のような感覚で見ている。何と言うか、TVを見ている感覚だ。
画面に映るアイドルを見ているように、現実の女の子をめっちゃガン見してしまう。
見た目がひょろモジャメガネでいかにもオタクなサトルは、基本女子から気持ち悪がられていたので、ガン見してもしなくてもそれは変わらない。
女の子とこんな風に仲良く話しができるようになるとは思っていなかったので、見てるだけなら「サイッコーーー」で良いのだが、迫ってこられるとどうして良いか解らない。
「ご飯食べるでありんす。あ〜ん」
【羽衣天使】改め【薄ピンクな白衣の天使】になったアイリの甘い声で「あ〜ん」何て言われたらデレデレだ。
つい目をつむって「あ~ん」と口を開けると思いのほかジャガイモやらニンジンやらが詰め込まれた。
「あんあ?(何だ?)」
びっくりして目を開けて見てみると、テンコが無言で半分大くらいのジャガイモをフォークでぶっ刺して、サトルの口にねじ込んでいる。
「なんえおあえが?(何でお前が?)」
無理矢理口の中の野菜を飲み込んで、
「っていうかテンコも居たの?」
と聞くと、彼女はニヤッと笑って去って行った。
「何なんだ?」
彼女なりの愛情表現なのか?心配してくれて(?)うれしいとしておこう。
異世界生活3日目はてんやわんやな日だった。