新しい仲間
第十二話『新しい仲間』
大正108年 6月 1日 1時 45分
オワリコマキーン歴1000年 1月 2日 18時 00分 (2日目)
@シゾーカ
隣国【ア・ウィッチ】がコマンド『調査』でシゾーカを調査した結果、『何も準備ができていない』ことが判ったので、それを狙って突如として攻めてきたにもかかわらず、これを撃退した【シゾーカ】は戦勝祝いで盛り上がっていた。
戦闘中に片手片足を負傷したサトルだが、戦闘終了と同時に全快した。
同じように80%以上壊れた王城や城壁、Gタンクなども戦闘終了後に一瞬で元通りになった。
プレイヤーを消滅させたから勝利を得たが、もし向こうが何らかの神魔法などで生き残ったり、生き返ったりしていたら、シゾーカの負けだった。
課題はてんこ盛りに感じた。
建設中だった『王城』はレベル1からレベル2にグレードアップしたので、【スーパーロボットの神】である【伝説鉄巨神ダイブルガー】もレベル2になった。
次回の試合からは神魔法レベル2が使えるようになった。
戦闘前500だった神ポイントは、『王城レベルアップボーナス』である王城レベル×100ポイントが【運営】から送られてくるので、そこでプラス200ポイント。
『戦闘勝利ボーナス』として200、『神撃破ボーナス』として500ポイントも【運営】から支給された。
【ア・ウィッチ】を消滅させたので『消滅ボーナス』として【ア・ウィッチ】が保有していた380ポイントも移行された。
締めて合計1780ポイントになった。
ゴールドは【ア・ウィッチ】のゴールドを吸収したので、『王城レベル1』の状態では最大取得量の5300までしかもらえなかった。
王城がレベルアップしたので、まず『G鉱山』と『Gタンク』のレベルアップを、速攻でロボ子ちゃんが行った。
「えー、それでは皆様おそろいと言うことで、初勝利の宴を開きたいと思います。えー、司会は星三シーフのこのわたくしめが務めさせていただきます。今日は楽しく参りましょう・カンパーイ!」
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
『王城』はレベル2になり、『竪穴式住居』から『高床式住居』になった。そのため床は『地面むき出し』から『板の間』になっていて、皆履き物を脱いで建物に入る様式に変化した。
建物は建築終了予定時刻の予定が来ると、王城の床から壁から何もかもが光り出し、全部が光に包まれて光量オーバーで何も見えなくなり、やがてその光が消えると、そこは高床式の王城に変化していた。
そこに居合わせたみんなから「「「「おぉぉぉぉ」」」」というどよめきが漏れたものだ。
これで城の耐久力もアップ、ガーディアンも『戦士レベル1が二人』から『戦士レベル2が二人+弓兵レベル1が二人』に増えたので、先ほどの戦闘時のようにあっさり城が壊されることは無いだろう。たぶん。
『王城レベル1』はテントだったので部屋の区切りが無かったが、『王城レベル2』からはある程度区切りが付いていて、今は謁見場兼集会場で宴会をしている。
城の中身は電脳空間のようなものなので、外見以上に広い。
全員と言っても未だ8名プラス2体(SDダイブルガーとロボ子ちゃん)なので、ただただ寄り集まって飲んでいるだけだ。
まだ国のレベルが低くあまり技術力が無いので、テーブルやイスなどは無く、床に座布団を敷いてその上に座る状態だ。
それでも竪穴式住居の時の、『地面に直』よりはかなりマシになった。
料理は床にテーブルクロス的な大きな布を敷き、その上に沢山の料理が乗っている。
サトルがアユの塩焼きや山菜の煮付けなど、質素ではあるが丁寧に作られた料理に舌鼓を打っている時、お酒を片手に桜姫がやってきた。
相変わらず太ももが眩しいぜ。
『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』『名前を付けて保存』…………
姫騎士は体育会系なだけあって、こういう時には先ず挨拶に来るように躾られているんだろうな。
「主君、今日はたいへんなご活躍をなさりましたね。私を召喚してくださった神さまが、見たことも無い兵器でしたが、とてつもなく強い力を感じ、これからの戦いに希望を持ちましたですわ」
「え?桜姫……それって正直ダメだと思ってたってこと?」
サトルから突っ込みを受けた金髪美少女は目と口をパカッと開けて『ハッ』として口元を手で押さえる。
「わかりすぎるやろ!」
あまりにもわかりやすいリアクションに、つい裏拳でツッコミを入れてしまったサトルは、生真面目で馬鹿正直なこの子が気に入ってしまった。
「ま、まぁまぁ、お酒……飲みましょ……ですわ」
「はい、カンパーイ!これからもよろしくね」
カツンと陶器の器を合わせてカンパイする。
こんな美人さんとお酒が飲める日が来るなんて思わなかった人生だった。
ピンク色したショートボブカットのアイリは、前に立って歌って踊っている。
本当に歌うのが好きなようだ。
でもあの格好で歌うのは若いサトルにとって、凶悪な行為である。格好が裸すぎて直視できない。
じっと見たとしても、見たい部分はどう目を凝らしても見えない。それがまた想像力を掻き立てられる。
見たい。
イヤ、ダメだ。
でも見たい。
あ〜もう!歌なんて全然入ってこない。
「そう言えばテンコはどうしたんだろう?」
サトルは頭の中を無理やりテンコに切り替えて周りを見た。
星四【幻術師 テンコ】は一心不乱に黙々と食べていた。
あの子は喋れないのかと思ったら、実は喋れたのにはビックリした。
どうやら超人見知りで喋りたくないだけみたいだった。
そして今前で歌っている星六【羽衣天使 アイリ】。
テンコと同じくらい不思議ちゃんが入っていて取っ付き難いが、僕のいうことはちゃんと聞いてくれる。
皆それぞれにクセの強い人ばかりだが、これからも上手くやっていけるのだろうか?
他の星三武将たちも仲良く食事していて良い感じだ。
ヒョロモジャメガネはがっつりインドア派なので、基本ことなかれ主義で、干渉するのもされるのも嫌いだ。
みんな平和で仲良く過ごすのが一番だと常日頃から思っている。
だいたい食事が終わった頃を見計らって、司会のシーフが口を開いた。
「えー、それではここで本日のメインイベント、我らが国王様にガチャを引いてもらって、この国に新しい仲間を呼んでもらいましょう。さぁ国王様、前にどうぞ!」
少人数な上に知った顔ばかりの会ではあるが、それでも人前に立つのは緊張する。
「今日はみんなご苦労さま。戦闘勝利ボーナスで『星三以上確定チケット』1枚と神撃破ボーナスで『星三以上確定チケット』3枚『星四武将以上確定チケット』1枚、初回勝利ボーナスの『神器チケット』1枚が手に入ったので、この場で使ってみたいと思う」
『コントロールパネル』を開く。
『アイテム』『星三以上確定チケット4枚』『使用する』
サトルがコマンドを操作すると、天井をぶち破って赤い大きな冷蔵庫っぽいガチャマシーンが落ちてきた。
しかもわざとサトルの目の前に『ズガーン』と轟音を立てて、床に少し斜めってめり込みながらの登場だ。
「あぁあぁ、出来たての床と天井に大穴空けやがった」
続いてチケットが4枚ガチャ券投入口に滑りこんでいく。
目の前のガチャらしいぶっといT字型のハンドルがゆっくりと周り『ガッチャン』と音を立てると、ハンドル下のカプセル取り出し口から『ゴロゴロ』と人が余裕で入れるくらいのオレンジ色のカプセルが転がり出てきた。
オレンジ色はカッパーカプセル。星三のカプセルだ。
続く2個目はシルバーカプセルが出た。
「キタキタァ」
カプセル取り出し口の周りに集まってるみんなから歓声が上がった。
しかし3個目4個目はカッパーカプセルだった。
ゴロゴロと床に転がっている4個のカプセルはやがてブルブルと震え出して、パカッと割れた。
カッパーカプセルからは星三の【船長(男)】【手品師(女)】【スケールメールアーマー】が出てきた。
シルバーカプセルからは星四【大神官 クリスマス】が現れた。
「おぉぉぉ、流石、引きが強いなサトルぅ」「大神官キタァ」「神官の出番無くなったぁ」「おめでとうございます。マスター」
またもロボ子ちゃんがどこからともなく、紙吹雪がいっぱいに詰まった編みかごを取り出して、パーッパーッっと巻いている。
カプセルから立ち上がった黒髪で前髪パッツンの肩まであるサラサラヘアの彼女は、青色を基調に白い十字が大きく前面に描かれていて、その白い十字の中には金色の十字架が描かれている神官服を着ている。
背中には特徴的な大きなヒーターシールドを背負っていて、右手にスパイク鉄球が付いたフレイルを持っている。
首にはカラーが付いており、カッチリした印象を際立たせていて、首に大きめのクロスを掛けている。
そしてそのカッチリした服からでも判るほど、乳がデカい。
「お初にお目に掛かります。私は大神官のクリスマスと申します。おみゃぁ様が【スーパーロボットの神】様でございますか?」
突然の方言!
青い神官服のクリスマスは真っ直ぐに掌サイズのちっこいSDダイブルガーの下に行き、恭しくお辞儀をしてみせた。
「うむ。よろしく頼むぞ。我の子よ」
しかしダイブルガーは方言を意に介さず受け入れた。
「ありがとうなも。おみゃぁ様に尽くせることが私の生き甲斐です」
クリスマスは神に仕える職業だけあって、目の前に神が顕現しているこの状況が夢のようなできごとであった。
「さぁサトルよ。星四チケットをまわせ。そして星五以上の武将を引くのだ」
ダイブルガーはクリスマスにおだてられて上機嫌だ。
サトルは残りの『星四武将以上確定チケット』をガチャマシーンに滑り込ませる。
ハンドルがゆっくりと回り、ガチャガチャガチャンと中のカプセルがかき混ざると、取り出し口が爆発的に金色の光を放ち出し、
『ちゃちゃちゃちゃーんちゃーちゃーん、ちゃっちゃちゃーん』
ファイナルなファンファーレが鳴り響いた。
両腕いっぱいに抱え込むくらいの金色カプセルは、黄金の光を放ちながら転がり出て、金色の光柱を空に向かって立ち上げた。
「「「「「「「やったぁぁぁ」」」」」」
「凄いぞサトルよ」「うちの王様の引きすげぇな」
どわぁぁっと歓声が湧き上がる。
これには思わずサトルも満面の笑みでガッツポーズ。
「昔からクジ運だけは強いんだよね」
会場は大盛り上りだ。
いよいよカプセルが割れ、金色の光の柱から出てきたのは、柄の長い武器を持って、筋骨隆々な上半身裸の大男が出現した。
年の頃は30代後半か?健康的に日焼けしていて、髪はオールバック、精悍な顔立ちをしている。
上半身裸で、(と言っても心臓部分を守る『ブレストプレートアーマー』を着用しているので完全に裸では無く片乳を隠した感じだ)筋骨隆々とした居丈高だ。
下は腰に毛皮を巻いただけで、毛皮のブーツを履いている簡素な服装で、まるでバーバリアンだ。
武器は右手に持っている長柄武器『ハルベルト』と腰に付けている『流星錘』だ。どちらも非常に強力だが、同時に非常に扱いの難しい武器だ。
「ば、日ずるしぃやれ。あんたがわしゃんとの雇い主様かん?わしは星五【闘将 ゴルディオン】だに。全ての武器をマスターしてるじゃんねぇ。タイマンでわしに勝てる奴は滅多に居な……」
そこでゴルディオンはアイリを見てしまった。
タイマンで速攻負けた瞬間だった。
体力は強そうだが、精神は弱いのか?アイリのチャームが強すぎるのか。
そしてまた方言キャラ!
どうでも良いがシゾーカに来た武将はみんな裸なのはなぜだ?
そんなサトルの疑問も、魅了化されて突っ立ってるゴルディオンも無視して、シーフは司会を進行し始めた。
「それでは本日のメインイベント。神器チケット投入です。この『神器チケット』は初戦を勝利で飾った国にのみ運営から送られてくる、とってもレアーなチケットですよぉ。さぁ国王様張り切ってジャンジャンバリバリ出しちゃいましょう!!どーぞー!!」
「パチンコ屋か!」
変なノリになってるシーフのMCについ笑いながら金色に輝く『神器チケット』を投入した。
「さぁ、今金色に輝きを放つありがたいチケットが、我らがサトル国王様の手でガチャマシーンに投入されました!」
ハンドルが回りガチャマシーンが虹色に光出したのだ。
「ゆっくりとハンドルが回って……カプセル排出口が虹色に光っったァァ。サトル国王様の引き大爆発だァァァ」
「またキターーーーーー!確率変動発生だぞサトルぅぅぅ」
ちっこいプラモの神が興奮して叫んだ。
「引き強ぇぇぇ」「主君、マジですか?」「来たのか?来たのか?」
「来た、来た、きぃぃたぁぁ」
『ちゃちゃちゃちゃーんちゃーちゃーん、ちゃっちゃちゃーん』ファイナルなファンファーレが鳴り響いた。
カプセル取り出し口が金色に光り、同時に金色に光り輝くカプセルが転がり出てきた。
「「「「「「「ああぁぁぁ」」」」」」」
みんな一斉に残念な声を出した。
残念ながらピンクゴールドのカプセルは出なかったが、それでも金色だ。カプセルから金色の光の柱が天井まで貫いている。
「確変に至るも残念ながら二度目の奇跡ならず。しかし星五クラスも強力な武器に違いない。紫色に妖しく光っているこの物体はなんだぁ?」
直径2メートルの巨大金色カプセルはブルブル震えて割れた。中からは全長60センチくらい紫色に発光している『矢筒』が入っていた。
「このデカいカプセルにこれだけかい。無駄多過ぎやろ。アバゾンのダンボールか」
細かくツッコミを入れる国王。
「『メニュー』『検索』『オープン』……ウーウッウ……ウーカッカカッカ……コレは『マジックミサイル』の魔法が無限に掛かーーっている星五神器【必中の矢筒】と言うアイテムのようです」
ロボ子ちゃんが得意のデータ検索でサトルの引き当てた神器の説明をしてくれた。
「この矢筒に入れた矢は、全て【マ……ジックミサイル】の効果が掛かります。矢筒には最大20本の矢が入ります」
所持しているガチャ券が無くなり、ガチャマシーンはふっと消えていった。そしてなんと、突き抜けた天井の穴も、めり込んだ床も元通りになっていた。便利。
「我が国王様のくじ運の良さには感服いたしました。ありがとう国王様、またよろしくぅぅぅ」
めちゃくちゃ適当な言葉で締めくくったシーフは「「「「カンパーイ、お疲れ~」」」」と、同期の星三仲間と飲み始めた。
飲みたい所を我慢して頑張ってくれてありがとう。君の気持ちは良く解るよ。国王は現実世界の自分を重ねていた。
アイリに『デチャーム』を新人4人に掛けてもらおうと思ったのだが、困ったことに『デチャームレベル1』だと10人までしかストックできない。
とりあえず星三【船長(男)】は『デチャーム』無しにして、魅了されたままにしておいた。
「いやぁ、ばぁかびっくりしたらぁ。見ただけで無力化されるなんて、反則じゃん。この衆強いねぇ。でもその格好何とかならんけ?わし目のやり場に困るんだけぇが。お嬢ちゃんもだに。そんな水着で居たらもぅ、ここは天国かん?」
チャームから解放された星五【闘将 ゴルディオン】が、開口一番アイリと桜姫にダメ出しをした。
「おみゃぁさん何だね?その言葉は?何言うとるか分かりゃァせんがねぇ。私みたぁに標準語を喋らんといかんがね。たーけとるでかんわァ」
その言葉を聞いた星四【大神官⠀クリスマス】が、ゴルディオンの方言に食いついた。
「イヤ、クリスマスさん、あなたも標準語じゃ無いから。細かい部分で何を言ってるかわ分からないし」
サトルが訛りのきついゴルディオンとクリスマスの新人二人にツッコんだ。
「ば、どうせぇやれ。わしゃんとの言葉は標準語に決まってるじゃんねぇ。あんたんとの言葉が間違ってるだらァ?」
「自分イコール標準って、そんなわけ無いがや。たーけたこと言うとったらかんがぁ。これだで田舎モンはバチかんわぁ。そりゃぁ私も標準語か?って言われたら、ちょっとは田舎の言葉が入っとるでなも。あんまり他人の事は言えりゃぁせんがなも。おみゃぁさんよりはましだがやなぁ。サトル国王様もそう思っとるよね?」
「え?あ……うん。まぁ、だいたい通じるからいーんじゃない?」
突然振られて返答に困ったサトルだった。
黙ってれば清楚系の巨乳美女なのに、何だろうあのおばさん感。
後でロボ子ちゃんに聞いた話しだが、召喚される武将たちは神様が色々な宇宙・色々な次元からスカウトしている者たちなので、言葉は神のパワーで自動翻訳されて会話が成り立っている。
だから、なぜわざわざ方言に翻訳されているのかは分からないそうだ。
「サトルさまぁ、あちきのお酒もぉ、飲むでありんすぅ」
今試合の立役者、ちょっと太めでムチムチな羽衣天使アイリが漂ってきた。
ねずみ算式に増えていく敵にもビックリしたけど、それをまとめて無力化するアイリにも改めて脅威を感じた。
歌って踊るのは単なる彼女の趣味で、何の効果も無いのだが、ひょっとしたら野外ライブみたいに歌を拡散できれば注目度がアップして、効果的に『マスチャーム』に巻き込めるヤツも増やせられるかもしれない。
それよりも、
「その格好は何とかならないかなぁ。デチャームのお陰で魔法的なチャームは効かなくなったけど、普通に目が離せない。僕も含めて男たちの理性がいつ崩壊してもおかしくないよ」
「あちきはぁ、慣れているからぁ、大丈夫でありんすぅ。」
「大丈夫じゃねーよ」
ついツッコミを入れた手がアイリの胸にポヨンと触れた。
「あん、サトルさまのえっちぃ。でありんすぅ」
えっちな国王は一気に真っ赤になり、
「あ、ごめん。あの、いや、そうじゃなくて……」
「サトルさまならぁ、いつでもおーけーでありんすよ」
ピンク色のショートボブに隠れた耳に、揺れる金色のハートのイヤリングが見えるほど近い。そんな事を耳もとで囁かれたら、こ、こ、こ、壊れる……。
「と……とにかく」
城付きのスタッフを呼んで料理の下に敷いてある、テーブルクロス的な布を持ってきてもらい、アイリの肩の上から被せる。
すると【天女の羽衣】に付与されている『浮遊』効果が阻害されて、アイリがストンと床に落ちる。
布を取ったらまた浮き上がった。被せたら落ちた。
「なるほど……これから試合の時以外は、羽衣の上から服を着て外に出るようにしようね」
国王は四角い黒縁メガネをクイッと直しながら、アイリの肩をポンポンと叩いて言った。
「えぇぇぇ。歩くの面倒臭いでありんすぅ」
ここでサトルの隣りに座っているビキニアーマーの彼女にも業務連絡。
「桜姫も、これからはその鎧の上から何か羽織ってね」
「私もですか?前の世界ではこの格好はごく普通の格好でしたので、特に違和感は無いのですが、確かにこちらの世界では、主君も含めて、男性の視線が気になりますですわ」
「え?あ、あっははー」
サトルの視線の件もついでにバラされてしまって小っ恥ずかしかったが、
「ほら、桜姫にも言ったから、アイリもお願いね」
「服着るのはぁ、慣れてないでありんす」
顔がめっちゃブー入ってる。
天使の倫理観はどうなっているか?
ちょっと人間とは感覚が違うようだ。
「サトルさまぁ、さっきの矢筒はぁ、あちきが欲しいでありんす」
「何か理由があるの?」
アイリはサトルの手の甲に指でのの字を書きながら言う。(完全に落としにかかってきている)
「それはぁ、こう言う理由でありんす……」
アイリの提案は理にかなったものだった。
次の試合が楽しみだ。
サトルは桜姫が気になって、ご飯を食べ終えた金髪ロングの女の子が、忙しく動き回っているのを目で追っていた。
舞踏会での髪の毛の香り、手の感触は今でも思い出す。
ダンスが始まって、彼女の細い腰に手をまわした時に、ドレスの上からでも感じた金属の鎧感。
二人で思わずクスクス笑っちゃったっけ。
「どうだん。やっとるかん?」
突然背中をバチーンと叩かれて、茶碗を持ちながら転がりそうになったのを何とか堪えた国王が見上げると、後ろには日に焼けた半裸の大男が立っていた。ゴルディオンだ。
「一騎当千のわしが来たからにはもう大丈夫だでね」
「痛いなぁ。ビックリしたじゃないですか。何?」
シゾーカに居る限りひょろモジャメガネには誰も逆らえない唯一無二の存在なので、部下にへりくだる必要は無いのだが、苦手なタイプなので一瞬丁寧語になってしまった。
「わしゃんとの国王が、どんな顔をしとるか見に来たじゃんねぇ」
言いながら酒の入った器をカツンと合わせる。
「ゴルディオンは武芸百判なんだろう?その中でもその槍と斧が付いている武器が得意なのかい?」
「おお、よくぞ聞いてくださった。この武器は【ハルベルト】と言ってですな、刺すら・叩き斬るら・叩き潰すら・引っ掛けるら・絡め取るら、何でもできるじゃんねぇ。ばかすごいら?」
武器の話しはツボだったようで、ベラベラ喋り始めた。兎に角試合では頼りになりそうだ。
今日は突然の初戦で何の準備もできてない状態だったけど、【ア・ウィッチ】も撃退できて、新しい仲間も入って、最高に楽しく過ごせた。