初勝利
第十一話 『初勝利』
大正108年 6月 1日 1時 25分
オワリコマキーン歴1000年 1月 2日 9時 00分 (2日目)
@シゾーカ
それは先程ダイブルパンチで吹き飛ばされて死ななかった戦士たちの顔から飛んでいったのだ。さっきまで顔の周りに花が咲いていたのに、ちょっと見ないうちにタンポポの綿毛に変わっていて、倒れている兵士たち全員分の綿毛が、一斉に飛び立ったのだ。
まるで白い雲のように、ふわ〜っと流れていくその様は、戦場に似つかわしくない幻想的な空間を産んだ。
綿毛が離れると、綿毛の抜けた兵士たちは「ぼん」と音と煙を出して消えていった。
神魔法を使える以外全くの一般人であるサトルは、桜姫が向かったア・ウィッチの王様チーム討伐には加わらずその場で傍観を決め込んでいたのが失敗だった。
ア・ウィッチ王の側まで来ていた【星五姫騎士 桜姫】は、遂にア・ウィッチの重装歩兵と接敵し、エストックを抜いた。
「お嬢ちゃん、そんな細っこい剣と腕でこのオレ様の分厚い鎧相手に戦えるのかい?オレ様の女になるなら見逃してやるぜ。へっへっへっ」
「おいおい、こんないー女、上官であるオレを差し置いてお前の物になる訳ないだろ?この女はこのオレ、魔法剣士ジョーンズ様の物だ」
ア・ウィッチの武将二人は華奢で裸同然のアーマーを着ている桜姫を見て、最早勝った気でいるらしい。
「気持ち悪いですわ」
青色と金色でデザインされたビキニアーマーの騎士は、長い金髪を風に揺らしながら、左腕の丸盾を正面にかざし、エストックを腰に構えて力を溜めた。
「へっへっへっ、いっちょ前にヤル気らしいぜ。暇潰しに相手してやろううじゃないか」
「獅子はウサギを狩る時でも全力で狩るものだ。覚悟しろ、魔法剣『エンチャントファイヤー』」
魔法剣士ジョーンズの刀身から炎が噴き出し、刀身は見る見る真っ赤に灼けていく。
近くに居るだけで熱い。
実のところ桜姫は、目の前の二人のようなアーマー戦士系に、特化して強い人生を前世で送ってきたのだった。
彼女が着ているビキニアーマーも身体ステータス超強化の魔法が掛かっている逸品だ。
呪われているが。
そしてエストックは鎧戦士の鎧ごとを貫通するために考案された剣だったのだ。
「お覚悟ですわっっ」
全身板金鎧の重装歩兵が、自慢の大盾を固定した地面から引き抜く暇も与えず、一瞬で距離をゼロに縮めた桜姫。
彼の姫騎士の剣は、強化されたダッシュ力とパワーと体重が乗っているため、重装歩兵の脇腹の装甲を紙のように貫いた。
「な、何でオレ様が……?」
突き刺さった剣を引き抜くための時間を狙って、魔法剣士の必殺の念がこもった炎の剣の突きを、反射的にスウェーバックで交わした姫騎士。彼女の顔のギリギリを掠める。
「あっついですわ」
100%当たる代わりに与えるダメージは少ないマジックミサイルで、左足を負傷したサトルは、正直座っていたかったが、「女の子一人に戦わせておくことは出来ない」と足を引きずりながら向かっているときだった。
ア・ウィッチのプレイヤーは古代ギリシャ風の白い布を巻いただけのような服からバッと両手を広げて、
「今だ。『成長せよ!』」
敵プレイヤーが大声を上げると、それに呼応して、タンポポの綿毛から一斉に芽が出て、先ほど死んでいった戦士・弓兵・星三シーフが種の数だけ地面から湧き上がった。
皆頭には黄緑色の頭巾を被っていて、首元に小さな葉っぱが一枚生えている。ざっと見渡しても先ほど倒した数の数倍は裕に居る。
生まれたばかりのせいか、まだ皆ぼーっとしている。
今のうちに逃げよう。
「ヤバイ。何とかなんないのか?コレ」
「状況から見て城に戻……るのが良いでしょう。二番目に近くに居るアイリさんはマ……っかっか……スターの援護に回ってください」
おカッパメイド姿のロボ子ちゃんが指示をくれる。
罠にハマり、敵の直中に残されてしまった形になったモジャメガネは、とにかく城に向かって、びっこを引きながら必死に走った。
城まで40人強は居るだろう。が、今ならまだ敵兵が活性化していないようだ。
アイリも合流してくれれば心強い。
シゾーカの王城は最初に投入された戦士と弓兵が取り付き、もっか城にセットされている戦士2名が応戦中だが、多勢に無勢、そう長くはもたないかもしれない。
桜姫との間にもざっと30人は居る。城方面より数は少ないが、星三シーフ女が5人に増えている。
頼みでもある武闘系の彼女とも完全に分断されてしまったが、
「主、今そちらに向かいますですわ」
パーティチャットで返事が返ってきた。
桜姫は電光石火の突きで、先程の重装歩兵の足を肩を腹を突き刺して追い討ちをかける。
剣を抜くために腹に蹴りを入れ、後に蹴り飛ばす。
身体強化されたその蹴りは、鎧と合わせて余裕で120キロを超す重装歩兵を蹴り飛ばし、後ろに居た魔法剣士を下敷きにした。
星三武将と星五武将では圧倒的に格が違うのだ。
その結果も見ずに振り返った桜姫は、左腕の丸盾を前方に構えて走り出した。
アイリは桜姫と挟み撃ちにするために、空中から大回りして敵大将の後ろに周り込んでいる途中だった。
そのため彼女の周りに敵は居ないが、サトルの所までは少し遠い。
サトルが手に手にショートソードを構えた戦士達に取り囲まれ、後方から弓なりに飛んでくる矢を食らって絶体絶命なとき、神シンクロ率の数字が『25%』になり、黄色から黄緑色になった。
「神魔法だ、サトル。第二段階のダイブルパンチが使えるぞ」
「第二段階のダイブルパンチは10秒間、マスターの意思に呼応して、……行き先を操作することができま…す」
「そうだ。ダイブルパンチは1クールが終わったあと、バージョンアップして意思の力で曲げることができるようになったんだ。ようし、やってやるっっ」
サトルはびっこを引きながらヨロヨロと走りつつ、このピンチを切り抜けられる唯一の方法に望みを掛けた。
襲ってくる戦士を交わし、走りながら右手を腹の下に構えて力を溜める。
「目の前の敵を蹴散らせっ。ダ・イ・ブ・ル・パァァァァァンチッッッ」
渾身の力を込めて突き出した右拳は、再び爆発的な光を放ち千切れ飛んでいった。
正面の敵を薙ぎ倒しながらみるみる酒樽のような大きさに成長し、同時に超合金化、更にロケット噴射が点火して爆煙を吐き始めた。
「まっがっれぇぇぇぇぇ。うわっ」
手を曲げることに集中しているところを後ろから剣で斬りかかられた。アドレナリンが上昇していて着られた痛みはあまり感じない。神シンクロ率は『29%』に上昇している。
穴の開いた前方にヨロヨロと逃げると、サトルの後ろを巨大な金属の塊がロケット噴射を履きながら抜けていき、モジャめがねを斬った戦士他を轢き逃げしていった。
「いけるぞ。回って回って回ってまっわっれぇぇぇ」
サトルは左手で右腕をつかんで、その場でグルグル回った。
それに呼応してダイブルパンチも月と地球のように一定の距離で回り出し、その半径を徐々に広げながら周囲全ての敵を、その辺にある岩や木も何もかもを薙ぎ倒しだした。
「ボン」「ボンッ」「ボン」「ボボン」とかなりの敵が煙と化して消えていったが、やはり死なずに倒れている者もかなり目に付く。
10秒間というロケットで飛ぶにはかなり長い間稼働したサトルの右拳は帰還体勢に入り、国王が突き上げた右腕めがけてゆっくりと逆噴射して降りてくる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅぅ、はぁ、ふぅぅぅっぅ、はぁっっ、ふぅぅぅぅぅ」
サトルの目は血走っていて、息がとてつもなく荒い。神シンクロ率は『48%』だ。
「サトルさまぁ。ご無事でなによりでありんすぅ」
荒れ狂うダイブルパンチの猛威が収まるまで上空で待機していた羽衣天使が舞い降りてきた。
「主君、頼りない方だと思っていましたが、もの凄い攻撃でしたわ。私感服いたしましたですわ」
こちらもダイブルパンチの猛威が収まるまで待って、国王の元に馳せ参じた桜姫だ。
「……みんな、……アイツを……倒すぞ……」
元々インドア系のサトルにあまり体力は無いので、刺されたり斬られたりすると一気に体力を持っていかれ、すでにヘロヘロだ。
「主君、我が主よ、私が貴方の馬になりますですわ。私が背中に乗ってくださいませですわ」
そう言って彼女は主君の前に背中を向けてしゃがみこみ、負傷している国王をおんぶした。
魔法のビキニアーマーによるステータスアップ効果で、120キロの大男を蹴り飛ばせる金髪の彼女にとって、人一人背負う事は全く苦にならない。
神シンクロ率は『36%』に低下している。
「どうしたサトルよ。シンクロ率が下がってきておるぞ!何か別のことを考えているのか?集中しろ」
不意に野太い声が聞こえた。
「それは……だって……」
サトルは半裸の桜姫の背中に居るので、彼女を色んなところから感じてしまう。
そっちに集中するなと言う方が難しいだろう。
「お前、エロい事を考えているな?」
「止めてくれ。恥ずかしい」
「サトルさまのえっちぃぃ、でありんすぅ」
横に並んで飛んでいるアイリが茶化す。
「イヤ、お前が言うな」
星六の伝説級武将である【羽衣天使アイリ】は、同時に伝説級にエロい格好をした武将でもある。そのアイリに突っ込まれたくない。
先程倒れた敵兵士たちの首は蕾になっていた。
敵プレイヤーまで30メートル。ノーダメージの桜姫とアイリなら直ぐに接敵出来る距離だ。
試合は三時間という縛りがあるので、戦闘が早く終わるように全ての国の面積は2500メートル掛ける2500メートルで統一されている。
戦闘組の三人が到着すると、でっぷりとした敵プレイヤーの何かしらの儀式が終わり、バンザイをしているところだった。
最初に見た緑色の光が天まで立ち上った。
「重装歩兵が絶命する前に『タンポポを付与』して効果的に使うと言うから協力してやったのに、オレ様までタンポポにするとは、くっそォォォ」
「へっ、星四武将ごときが生意気言いやがる。星四ごときはコイツら殺して直ぐに手に入るさ。さっさと増えろ」
ア・ウィッチの神らしきでっぷりした白い布の男は、恨み言を言う星四魔法剣士ジョーンズの顔を踏みにじりながら言い放ち、死にゆく彼の脇腹に蹴りを入れた。
「何てヤツだ。仲間じゃないのかよ」
サトルは桜姫の背中の上で怒りを爆発させていた。その気持ちは他のパーティメンバーたちも同じ気持ちだ。
「お前!女ばっかりはべらせて、嫌なヤツだなっっ」
白い服の太ったおっさんは桜姫におんぶされてるサトルに向かって、ビシッと指を指しながら嫉妬をぶつけてきた。
「オレ一人になって勝った気でいるんだろうが、そう簡単にはいかんぞ。タンポポの神の力、思い知れっっっっ。成長しろタンポポ」
敵プレイヤーの声に反応して、倒れていた魔法剣士ジョーンズと重装歩兵の首についている頭巾は、葉っぱが広がり、つぼみができ、花が開き、綿毛ができ、タンポポに養分を吸い取られた体は「ボン」と音を立てて消え、中空に綿毛が飛び散った。
全てはあっという間の出来事だった。
神掛かった一陣の風が吹き、先程ダイブルパンチで薙ぎ倒した戦士たちも含めた綿毛が、サトルたち一行を埋めるように着地した。
「これってさっき倒したヤツだよね?死ねば死ぬほど増えていくのかよ。ヤバイな。あのおっさん倒すしかないってことか」
言っている傍から、地面から湧き出るゾンビのように、土からボコボコと生まれ出した。
『タンポポの神』のプレイヤーの周りには、重装歩兵や魔法剣士ジョーンズのコピーが10人前後ずつ生まれている。
皆一様に貼り付いた笑顔で、逆に恐怖を感じる。
敵プレイヤーまでほんの数十メートルなのに、その距離は遠くなってしまった。
神魔法はあと一回しか使えない。
今はまだ生まれたばかりで、先程と同じなら起動に少し時間が掛かるはずだ。
その時アイリが頭上に浮き上がり、歌い出した。
「あちきの唄を聞けぇ、でありんすぅ」
ゆったりと艶かしいダンスを踊りながら、鈴のような清らかな高音で歌い始めた羽衣天使。
残念ながらなんの音響設備の無い屋外では、声は届かない。
だが目的はを聞かせることではない。
ユニークスキル『マスチャーム』の発動だ。
半径10メートル、つまり今居るマスに接しているマス+周囲6マス(ボードゲームのようなヘックスタイプ)の合計7マスが効果範囲である。
サトルたちを囲むように出現した彼らは、アイリにとって完全なカモネギだ。
その数、50人は下らない。
タンポポ戦士たちが起動し、中空で踊っているアイリを見た瞬間に、星四武将以下ではほぼ回避不可能な確率で『チャーム』が掛かる。
「この手があったか。偉いぞアイリ。このままヤツのところまで移動だ」
「了解でありんす。みんなぁ、移動するからぁ、ついて来るでありんすぅ」
星六武将【羽衣天使 アイリ】のパッシブスキル『マスチャーム レベル1』は隣接する1マス(半径10メートル)が効果範囲であり、抵抗ロールに失敗するとアイリをずっと注視してしまうのだ。ごく簡単な命令は聞かせられる。
アイリが『ついて来い(Follow Me)』と言うい命令は通って50人が一丸となってついてくるようになった。
「さながら『肉の壁』だな」
今は大人数での行軍なので、自ずと移動速度が遅いため、びっこを引きずりながら自分で歩いているシゾーカ国王がそう言うのも無理はない。
移動しながら効果範囲外の戦士が外縁の『チャームド戦士』に攻撃を加えに来るのだが、人の頭上より上の高さで歌って踊っているアイリが目に入らない訳がない。
接敵した瞬間に効果範囲に入るので、そこで立ちすくんでしまい、アイリにチャームを掛けられて、結果『肉の壁』が増していくと言う、『ハーメルンの笛吹き男』状態だ。
効果範囲外から攻撃出来る弓兵は羽衣天使とは相性が悪いのだが、行軍の進行方向に居る弓兵は桜姫がことごとく殺して回った。
困ったのは星三武将の【シーフ(女)】だ。
彼女たちは効果範囲のことを見抜き、ダガーで外縁の戦士に一撃を加えて去っていく『ヒットエンドラン』戦法で確実に『肉の壁』を削っていく。
とは言えシゾーカ側の肉の壁は分厚く、ほんの数十メートルを進める間にどうこうできる数ではない。
「くっそ、何だその反則くさいスキルはよぉぉぉ。俺のタンポポ兵どもが全部寝返っていくじゃねぇか。あの女騎士もバケモンみたいに強ぇしよぉぉ」
いよいよ目の前に迫ってきたシゾーカ軍に対してア・ウィッチのプレイヤーは悪態をついていた。
「こうなったらお前らだけが頼りだ。あの変な魔法を使うあいつ、あいつを倒せば俺の勝ちなんだ。行け」
コピーされた笑顔の重装歩兵7人がスクラムを組んでぶちかましを掛けた。
外縁を構成している十余名の内半分くらいが「ぼん」と音を立てて消えていった。
やはり半分くらいは即死せずに倒れたままでいる。
重装歩兵たちは大きなヒーターシールドを前面に掲げ、シールドの後ろで首を倒して下を見ながらチャージアタックを掛けてきたので、アイリを見ることは無い。つまりチャームが掛からないのである。
そこに星四武将【魔法剣士 ジョーンズ】8名による魔法の支援攻撃がきた
四名が『ファイヤーボール』四名が『マジックミサイル』だ。
「ファイヤーボール」は大人が両腕をいっぱいに広げて抱えるくらいの大きな火球である。
その火球が四つ一列に並んで重装歩兵の横を「ぼぼぼぼぼ」と燃えさかる炎の音を発しながら通り、タンポポ戦士達の少ないヒットポイントを焼き尽くす。
「ぼぼぼぼぼぼん」連鎖してタンポポ戦士がやられ、肉の壁がさらに薄くなった。
同時に紫色に発光している魔法の矢が四発、重装歩兵を、タンポポ戦士を交わして高速でサトルを目指して飛んでくる。
サトルは咄嗟に、近くに居たチャームド戦士の陰に隠れたが、自動追尾の矢はそれを回りこんでヒョロモジャメガネの背中を捉える。
左肩に激痛が走り、左腕が動かなくなった。
「ヤバイぞこれ。殺される」
マジックミサイルはどんな障害も交わして確実に目標に当たるが、その分威力は小さいので助かった。
しかしこのままこの攻撃をされたらアウトだ。
死んでしまう。
「となれば燃だったらこう言うはずだ。『やられる前にやってやる』だ!」
神シンクロ率をチェック。
『41%』十分だ。ダイブルパンチのモーションに入る。
「アクティブチャーム」
アイリが地上に降りてきて、タンポポ戦士の一人に『アクティブチャーム』を掛ける。
サトルの視界に出ているアイリのアイコンから線が伸び、『タンポポ戦士』のアイコンと名前・ヒットポイント・マジックポイント・神信仰率の4つのステータスが表示される。
線でつながれているのはアイリのペットであるという印である。
『アクティブチャーム』は『マスチャーム』と違って、一人にしか掛けられない分、強力な精神支配を行うので、ちょっとやそっとでチャーム状態が解除される事は無い。
『アクティブチャーム』に掛かると、その者はアイリのペットと化し、アイリのことが好きで好きで堪らなくなり、アイリの命令を聞くことが至上の悦びと感じるようになるのだ。
「あちきの兵士さん。体を張ってサトルさまを守って欲しいでありんす」
哀れな兵士の耳元で囁く羽衣天使。
選ばれたペットは恍惚の表情を浮かべて、サトルの横にピタリとくっついた。
戦場を縦横無尽に駆け抜ける桜姫は、さながら一陣の青い風だ。
正確無比な重く鋭い突きは、戦ごとに使い捨てられる兵士に耐えられるわけが無く、呆気なくエストックの餌食になっていた。
第一射の『ファイヤーボール』と『マジックミサイル』を撃った魔法剣士ジョーンズたちは、続く第二射の詠唱に入った。
下を向いた重装歩兵ズのアタックもまだ猛威を振るっていて、基本立っているだけのチャームドタンポポ戦士はバタバタと倒れていく。
そこへ二射目のマジックミサイルが飛んでいく。
サトルに逃げ場は無く、絶体絶命かと思われたが、『アクティブチャーム』に掛けられている戦士が国王を押し倒し、そこに覆い被さって全ての矢を自分の身で受けて絶命していった。
「畜生め、く・ら・え!ダイブルパンチつつつ!」
上空に向けて打ち上げられたサトルの右手は、ロケット噴射点火によってグングン高度を増していき、雲を突き抜けたところで弧を描いて戻ってきた。
そしてその超合金の塊は見事に敵プレイヤーの頭上に、高高度からの急降下速度もおまけに加えて落ちた。
落ちきった。
ゆっくりと逆噴射で持ち上がるダイブルパンチ。
地面は少し半円球のクレーターができており、破壊力の凄さを物語っている。
そしていつものようにサトルが掲げる右腕に戻ってきた。
この瞬間シゾーカ国は勝った。
敵プレーヤーが消滅して神魔法の効果が消え、『タンポポ付与』の魔法に掛かっていた兵士達も煙となって消えてしまった。つまり全員消えた。
完全勝利だ。
基本的に相手が神の場合、生き返る可能性もあるので、三時間きっちり試合をしないと抜けられないが、相手が完全に居なくなった状態では試合の意味は無く、『完全勝利』という形で試合は終了する。
「ゲームセット。ウィナー『シゾーカ』」
『CONGRATULATION』という12文字の金色に輝くロゴ体が突如視界の右から左に地を這ってきて、サトルの目の前で先頭の『C』が急ブレーキをしたために残りの11文字が『ガガガガ』と玉突き渋滞を起こして止まり、整列してからまた左へ走り去っていった。
今度は『デゼニーアニメ風』か。色々凝ってるな。
シゾーカの戦闘フィールド全体が光り輝き、サトルたちはシゾーカの『王城レベル1』の中に戻ってきていた。
戦闘が終わったことによって壊されていた城や城壁なども全てが戦闘前に戻っている。