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俺が専属コスプレイヤー!?

......不味いな、非常にまずい。





 どうやら、俺は自分の部屋だから、しかも親がいないからって調子に乗っていたようだ。


 妹である千夜ちよの存在をすっかり忘れていた。


 や、やめろ。 そんな真顔で見るんじゃない。





 千夜は、散々驚愕した後、先ほどから微動だにせずただただ、冷たい目線を痛いというほど送ってくる。


 もちろん、俺の豆腐メンタルでは、効果抜群の一撃必殺にも等しい威力だ。


 受け止めきれないほどの威圧を全身で、感じ、手に持っていた”女性用のパンツ”を床に落とす。





 


「......に、兄さん。 何やってるの?」





「い、いやな? これには理由というか......その訳がだな」





「............」








 沈黙が物凄く痛い。


 大人しく、俺はその場で正座し、それを見た千夜は静かに足音なく近づいてきた。


 対面するように、千夜は椅子に座り、鋭い目つきで睥睨する。


 そういう趣味の人にとっては、最高のシチュエーションだろう。


 だが、俺にとっては羞恥プレイ......それほど苦痛なものだ。





 誰が楽しくて、女性の下着を近くに散乱させた部屋で半裸の状態で、妹から睥睨されたいという特殊な性癖を持っているだろうか?


 ......いや、意外といるかもしれない。


 でも、だ。 少なくとも、俺にはそんな趣味はない。





 少しでも、気を紛らわすために口をぐっと紡ぎ、時間が解決してくれることを静かに祈るが、千夜はそれを許さない。


 上げ下げのない、一定の声色で静かに......可憐なその姿からは想像できないような淡々とした口調で、怒るわけでもなく問い詰める。








「何を......してるの?」





「何を、と言いますと......」








 俺としても今、この状況を説明してほしい。


 確かに、俺がこの状態を作っている原因であるのは間違いない。でも、説明できない。





 と、千夜は、長いため息をつき、ギラリと鋭い目つきを容赦なく俺に向ける。








「その、恰好! 何してたの!? 何をしようとしてたの!?」





「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何か誤解があるようだ......」





「誤解っ!? 誤解も何も、女性用の下着を鏡の前でだらしない顔で見ている時点で、存在しないよ!」





「ち、違う! あれは、下着を見てにやけていたわけじゃない!」





「ふーん......じゃあなんで? 説明できるよね?」








 俺の必死の反論を容赦なく正論で返してくる。


 全く、兄冥利に尽きる......が、今この状況に置いては、残酷の何物でもない。


 ひどい! オーバーキルだ!








「早くっ! 説明してよ!」





「うっ......―――からだ」





「え? 聞こえない」





「女装のコスプレをしようとしてたからだッ!」








 そう。 何を隠そう、俺、瀬良せら 三月やよいは女装コスプレイヤーなのだ。


 背が小さく、中性的な顔をしていると小中高と今のところ高校2年まで周りから言われ続けている。


 中2の時に、たまたま文化祭で悪ふざけで友人にメイド服を着させられたのが、きっかけだ。





 あの時の興奮は、今でも覚えている。


 鏡に映っているのが、自分だとは想像できなかった。 笑っていた友人も、あまりの可愛さに言葉を失っていたっけな。





 と、こんな感じで、今ではコミケにも常連として現れる女装コスプレイヤーなのだ。


 きっと......いや、千夜は完全に幻滅しただろう。


 可憐な表情が見る見るうちに変態を見るそれへと変わることが、容易に想像できる。


 あぁ......あとで、昔のアルバムでも眺めた後この家を出るか......うん。そうしよう。





 覚悟を決め、顔を上げる。


 と、俺は目の前の光景に思わず口を大きく開け、驚愕した。





 先ほどまで、冷たい目線を送っていた千夜が一変。 さらに怖くなるわけでも、無心になるわけでもなく、今までに見たことないくらい目を輝かして、俺の女装コスプレ写真集を眺めていた。


 これまでに、様々なアニメキャラのコスプレなどをしており、それを知り合いの女性コスプレイヤーとか男性コスプレイヤーの方々と一緒に取った物を自分なりに集め作った写真集。


 あれは、棚にしまっておいたはずなんだが......。








「ね、ねぇ......ここに映ってる一回り小さいの全部兄さん?」





「あ、あぁ......そうだけど.......」





「―――い」





「え?」





「尊いッ! なにこれ、かわいすぎ! えっえっ!? うそでしょ!? こんな特技あるなら、早く言ってよ!」





「は?」








 思考が追い付かない。


 今目の前にいるのは、果たして千夜なのだろうか。


 鼻息をふんふんと荒くし、黒く艶がかった長い髪を振り乱しながら悶えている変態が、妹なのだろうか。


 いや、まぁ変態はお互い様だが......しかも尊い? いや、確かに言われてきたが、実の兄が女装してるんだぞ?








「お、おい......他にも、何か思うことないのか?」





「えっ? 他にも? んー......可愛いとか、尊いとか萌え――は、なんか、違う気がする。 うん、尊いだねッ!」





「いや、尊いだねッじゃなくて......」








 度アップで親指を立ててグッド!と迫力で、伝えてくる妹を見て思わずため息をつく。


 緊張がほぐれたのと、命がつながったのと......他にもいろいろあるが、とにかくよかった。





 安堵のため息をつき、半裸のまま下着が散乱している床に寝そべる。


な、なんか本当に......本当に死ぬかと思ったーーー。





が、 肩の力を抜き、だらしなく床に寝そべる俺に再び悪魔が襲いかかる。








「......あ、あのさ」





「ん? どうした、千夜」





「これってお母さんとかお父さんとかに、言われたくないことだよね?」





「あ、当たり前だろ!」








このことを知っているのは、仲がいいコスプレイヤーさんと、今目の前にいる千夜だけ。


もちろん中学の時メイド服姿を見た友人にも、このことは話していない。


話したら最後、笑い話で大円満と終わるわけがない。


学校の腫れ物扱いされ、イジメはおろか終いには親にまで見捨てられそうな気がする......。








「じゃ、じゃあさ......私に黙っててほしい?」





「う、うん! ものすごく、黙っててほしい!」





「そ、そうなんだ......じゃあ、条件ね」








何を言おうとするのか身構えていると、千夜は頰を若干赤らめ、コホンとワザとらしく咳を一つつく。








「私の同人サークル......および活動に協力して......」





「え?」








ど、同人サークル? それに、同人活動って......ま、まさかお前......。


千夜は目が合うと、顔をさらに赤らめコクンと可愛らしく小さく頷く。





スッと千夜から手渡しされた一冊の本を見て、俺は思わず声を上げて驚いた。











「おっおおおおお前!これって、これって!」





「に、兄さんうるさい! しょ、しょうがないじゃん......こういうの好きなんだから」





「好きって、お前なぁ......えぇ......?」








イラストは明らかエッチなもの。


R18ともしっかりと書いてあるしタイトルもそれなりに直球だ。


そして何故か、キャラが男の娘。


男の娘......?





ま、まさか......まさか!?








「ち、違う! 協力ってそういうえっちな意味じゃなくてっ!」





「ほ、本当かぁ?」








顔から湯気が出そうなほど真っ赤にしながら、必死になって否定する千夜を訝しげに眺める。


こんなものを渡されたら誰でもそう思ってしまうだろう。





数分間に渡って行われたあまりにも見苦しい 言い訳を聞いたあと、千夜はハッと我に返りキッとこちらを睨む。








「なんで私が問い詰められてるのっ!」





「あ、そうだった......」





「はぁ......じゃあ、とにかく兄さんには、色々と協力してもらうからね! 女装とか女装とか女装とかデートとか!」








勢いよくドアを閉め、プンプンと可愛らしく怒りながら出て行く千夜を眺め、今日一番のため息をつく。





結局女装になきゃいけないのか......ま、好きだからいいんだけどね......ん?





と、不意に先ほど千夜が言っていた言葉にひとつだけ違うものが混じっていたような感じがしてふと考える。





デートとかいってたような......ま、聞き間違いだろう。








この日より、俺は、千夜専属の女装コスプレイヤーとなった。


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