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先生と僕の異世界デバック滞在記  作者: 野良大介
一章 厄災の帰還
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大領主の息子

 まあ、ともかく。


 僕のアステア村滞在が決まった。


 連絡が取れない先生のことは心配だけど、僕は僕にやれることをするだけだ。


 僕にやれること。


 つまり、遊ぶことだ‼︎


 僕だってあちこち冒険したかったんだよね。だって、こっちに来て僕がやってことってなに? ゴブリン退治だけじゃん。調査するなって先生が言うんだもの、仕方がないよね。こっちも言うこと聞くんだからちょっとぐらいなら暴れても先生は怒らないはず。


 大冒険の始まりだ。イベント起こしまくって僕の冒険大活劇小説のエピソードを集めよう。


 うーむ。村に着いてからの行動をWEB小説のテンプレを参考にするなら。


 伝手や褒賞金を手に入れて衣食住を確保。

 冒険者ギルドに登録。下っ端に絡まれ、キルドのお姉さんに面倒をみられつつランクを上げながら資金集め。……あ。ギルドの受付は大抵おっさんだって先生言っていたな。おっさんに面倒をみられ……イヤだ。

 ツンデレドワーフの武器屋を見つけてお得意様になる。

 奴隷を買う……は、みんなにドン引きされるからなしで。

 ダンジョン攻略。

 様々なエセ食材を使って地球料理を再現、異世界人の胃袋とおサイフを掴んでトリコにする。

 頑張って貴族になる。

 魔法学校への入学……は魔力がないからなぁ。イベントの宝庫なのに、どうしたらいいんだ。


 …………。


 よし!決めた。


 幸い大きな街……村なんだ。ここには大河もある。どこに繋がっているのか知らないけれど、船の往き来を見る限り流通も盛んなようだ。加えて広がる樹海は食材の宝庫。


 料理人であり美食家である僕としては、まずは地球料理チートから始めるのが相応しいだろう。ネックは例の魔力味だけど、魔力が篭った食材を徹底的に避ければいい。


 定番、万能調味料マヨネーズを作ってみようか。


 ……と! 今の僕は無一文だった。食材を集める元手がないや。


 お金、あと衣食住の確保が先だね。


 まずはジョナサンたちに仲介してもらってこの村の責任者に面会。アサルトゴブリンの居城で手に入れた戦利品の担保請求と諸々の褒賞金を要求だ。ふんだくってやろう。


 ◇◆◇◆◇◆


 いい匂いが漂ってくる。それを追うと屋台がずらりと並ぶ大通りを発見。そして馬車はそこを通過。食べ物を前に素通りとか、美食家のアイデンティティが。でもお金がないのでは仕方がない。そんな状態で突撃しても拷問でしかない。


 山羊犬《イヌ》は僕と荷車を連れて跳ね橋を進み、村の中央部中層に座する砦の正門を潜る。


「着いたぞ。……ここが騎士団本部だ」


 えっと、これ城砦だよね?


 石造りで随分とまあ堅牢な。有事にはここに村民を避難させるんだろうけど。要らないだろ。ここでなにを迎え撃つ気なの? 村を守る天然の要塞だけで十分だと思う。あの荒河を泳ぎ切って絶壁をここまで登ってくる猛者がいるならもうゴールさせてあげてよ。


「スグル。こいつに待合室まで先導させる。代官の準備が済むまでそこで待機していてくれ」


 荷馬車を降りると、手の空いている騎士団員を紹介される。


 ここまで一緒だったメンバーとはここで解散。


 代官に面会を求めた僕は、待合室に案内されることになった。僕以外は全員、報告を行うために代官のもとへ。代官のところに行くんだったら一緒に……と思わなくもないが、僕は部外者だ。内々の話もあるんだろう。


 ガラドルさんとジョナサンは代官との面会時に同席するそうだからあとですぐに再会できるのだが、レンダとジャズとはここで本当にさようならだ。彼らは報告後、すぐに次の指示をもらって行動するそうだ。


 改めて、二人から樹海でのことに対し、礼を言われる。代官にたくさん請求してくれとも。


「またね、二人とも。僕はしばらくこの村に滞在する気だからさ。今度、仕事が休みの日にでも村を案内してよ」


「「…………」」


「……?」


「……えっと。スグル、おいらとレンダは勝手な行動はできねえんだ」


「悪いな」


 あ。そっか。


 忘れていた。この子らは奴隷だった。


 いちいち主人の指示を仰いで行動しなければならないのか。同じ村にいる以上、どこかでバッタリ会うことはあるかもしれないが、僕と一緒に遊び回ることはできない。


 また気まずくなったが気の利いたことは言えず、二人には当分食事を多めに摂るようにと忠告して別れた。


 ◇◆◇◆◇


 この村を治める代官は女性なんだそうだ。でもただの女性ではない。大領主の息子さんの第二夫人でもあると聞いている。ここではかなりの権力者。


 今回、その代官が相手だが、交渉はここ騎士団本部で行う。騎士団長ほか、主力がゴブリン討伐で出兵しているので、女性代官は団長代理まで兼任。ここ騎士団本部で指揮を執っているらしい。


 タイミングがいいことに、いつもは領都や王都にいることが多い大領主の息子さんも今この村を訪れているらしい。今回の交渉に立ち会う。ちょいビビる。大名の若様みたいなもんだ。ご機嫌を損ねたら大変だ。厄介なことになるだろう。打ち首じゃあ〜! とかさ。


 こんな規模の村の責任者だ、多忙のハズ。面会が後日ではないのは、僕が取得した例の戦利品のおかげに違いない。


 そういうわけで、大領主の息子夫婦が今回の報告を受けている間、待合室に通されている僕。


「……ヒマだなぁ」


 庶民の僕なんかは廊下か外で待たされるのかと思えば、まともなところに通された。大部屋だが、ほかの人はいない。貸切だ。このあと面会の準備が済めば騎士団団長の執務室に呼ばれて行く。


 暇なので部屋を観察する。舞台描写の練習でもしてみる。


 騎士団本部は全体的に石造り。内部は部屋の床材など一部材木を使用。建築様式まではわからない。


 入室後閉められてしまった両開きの立派なドアにも木材。でもあれ、見た目は鋲の打ち込まれた木製ドアだけれどハンマーの一撃ぐらい防げる。内部に分厚い鉄板が入っているから。


 頑丈な石壁には漆喰が塗られている。


 床は木が張ったフローリング。そこに厚みのある赤いカーペットが敷いてある。踏み込むと結構沈む。歩きにくい。なんとなくだが高級品っぽい。


 部屋の中央に分厚いどデカい木のテーブルがどーんと置いてある。これも高価そう。結構な樹齢の巨木から切り出されたものなはず。……いや。この程度のサイズならいっぱい樹海に立っていたか。もっと奥地ではこれの何十倍にまで成長した樹海の樹々を見てきたし、そこまで高価な物ではない……のかな。


 僕のリュックには劣るものの柔らかいクッション材に上質な布を張ったソファー。ベットみたい。邪魔な背もたれを破壊して大の字で寝たい。


 豪華なシャンデリアがぶら下がる天井は高い。


 壁には大壺。巨大な絵画。ズラリと並ぶ腰掛け椅子。大壺の中は空っぽだったので入ってみた。なにに使うんだ、コレ。絵画は……実物画なのか空想画なのか。判断に迷うね。なんせファンタジー世界だからなぁ、ここ。


 群衆の頭上に三対の大翼を広げた竜が光を纏いながら降臨している図なんだけど。


 ……白い猫の獣人が乗っている。


 …………。


 なんかダメだな。上手く説明できないや。


 『中世ヨーロッパ風』


 これだよ、これ。


 この便利な言葉が使えないのが原因だ。僕が表現する言葉に乏しい理由って、この言葉が乱用されているせいなんじゃないかな。


 もーっ! ここってなんで微妙にアジアンテイストなの⁉︎


 レンダたちの服装だってそうだ。荷馬車に揺られながら眺めた村人たちの服装も着物に近かった。上は羽織って袖を通して、前でクロスする。裾を下の中に入れて帯で縛るタイプ。


 …………。


 やっぱり建築や大道具小道具、衣装の豊富な知識がないと無理か。


 参考資料探そうにもここにはネット環境はないし。こんなことなら携帯端末《デバイス・トリガー》に電子書籍を買い集めておけばよかった。でも、僕、書籍は本棚に並べておきたい派なのだ。


 うん。今回は諦めて今度先生に教えてもらおう。


 あの人はドラマ原作制作総指揮監督までこなす人だから。きっとそういうことにも詳しいハズだ。


 ◇◆◇◆◇◆


「あん? なに壺ん中でショボくれてんだ、お前」


 舞台描写に挫折していたら、ジョナサンが来た。


「はは〜ん、さては意外と寂しがりやか? 安心しろよ。今からは俺が一緒にいてやるぞ。お前みたいな危険なヤツ、村ん中で野放しになんてしておけん」


「誰が寂しがりやだ。あと危険でもないわ。でも正直なところ、暇を持て余していたから助かるよ。で、早速ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「なんだ?……の前にそこから出てこいよ」


 付き合ってくれるらしい。僕を大壺から引っこ抜いてソファーに置くと、どかっと僕の向かいに座る。


 こいつ、暇なのか。騎士団でなにしている人なんだ?


 ジョナサンのあとについて入って来た執事さんが飲み物を用意し始める。テンションが下がる。そこはメイドさんの出番のはず。


 気をとり直してジョナサンから情報集めして時間を潰すことにする。情報集めと言っても食文化についてなので、ジョナサンの口は軽い。


「え?」


「ん? どうした?」


 仙茶と一緒に僕の前に出してくれた茶菓子にびっくりする。


「ヒヨコ?」


「あ? ヒヨコ? なんだそれは。違うぞ。コヨヒだ。これはイチワドリの雛を模している饅頭だよ。なんならこれも喰っていいぞ。俺は甘いのはあんまし好かん」


 まさかの第三勢力が異世界に⁉︎ 異世界でヒヨコ……もとい、コヨヒ饅頭を発見。


 味もカタチもよく似ている。甘〜〜〜い。やっぱり卵も砂糖も小麦粉も普通にあるじゃん……。ふむふむ。ならシチューはいけそうだな。でも材料があるなら既にありそうな気がする。この世界はなにかと僕に厳しいからな。もうケンカ売っているレベルで。


 材料にもモデルにもなっているイチワドリはここらでは一般的な家畜だそうだ。名前は別にニワトリをもじっているわけではないらしい。


 一羽で有精卵も産む。無精卵は非常食として巣穴に産んで貯めていく習性があるそうな。ただ有精卵も無精卵と一緒に並べる。


 カモフラージュするためではないかとも言われているけれど、お腹が空くと無精卵有精卵の区別なく、頑丈な殻をそれ以上に頑丈な嘴で突いて食べてしまう。


 ……なんていうか、残念な生き物だな。


「なんか無精卵を温めていることのほうが多いって話だぞ。イチワドリ自身には区別がつかないのかもな。だけどよ、イチワドリの有精卵は親鳥が温めなくても自力で温まり孵化するんだ。無精卵は逆に勝手に冷えて腐らないようになっているし、有精卵は勝手に温まる。わかりそうなもんだがな、温度差でよ」


「うーん。冷めていると思って温めているんじゃない?」


「なるほど。……でも、無駄手間なんだよなぁ」


「……だね」


 ニワトリみたいなのを想像していたけれど、ジョナサンの説明を聞くところダチョウに近いらしい。


 稀に雄と思われる一回り大きいキングイチワドリと呼ばれるものが生まれる。卵を産まず成長すると周りのイチワドリに突かれて喰い殺されてしまうんだとか。どこがキングなのか。民衆にタコ殴りに遭うのが王の末路という比喩かなのか。


 キングイチワドリだけは飛べるんだから、逃げればいいのにとジョナサンは言う。


 卵はボウリング球サイズ。無精卵は常温でも腐らず長期保存が可能。難点は一個の量が多いこと。一人暮らしではまず買わないとか。


 イチワドリの雛であるヒヨコ……じゃなくて、コヨヒは、見た目は可愛いけれどぴよぴよではなく、ゲコゲコと鳴くそうだ。


 ……本当に残念な生き物だな。


 ふむ。不思議なイチワドリの生態だけで結構時間が潰せてしまった。


 ジョナサンは食べるのは好きだが料理はしないらしい。


 携帯端末《デバイス・トリガー》から立体映像で地球の食材をジョナサンに見せていく。


 味やら食感なども説明したところ、僕の知っている食材と似たようなのがかなり存在しているようだ。そのままの名称が通じるものや名前が微妙に違うものもあった。そのまま名称が通じる時点でその食材にあの御方がなんらかのカタチで関わっているのは明白だ。


 ……なんかジョナサン、携帯端末《デバイス・トリガー》のほうに興味津々だな。振ってみると視線がついてくる。まあ、こんなのこっちにはないだろうからね。


 これは配給品だけど買うと数億円はするんだ。貸さないよ。登録者本人にしか反応しないんだし。


 山葵、お酢、みりん、味噌、醤油、ソース……ええっ⁉︎ お好み焼きソースまで⁉︎ ちょっとぉ、なにしてくれているんだよ、先生‼︎ ほかにもジョナサンから出てくる未知の食材や調味料の名の数々。


 ヤバい。この世界、豊富過ぎる。


 僕の知っている食材と調味料プラス知らない食材と調味料。


 まずい。口の中のコヨヒ饅頭は美味しいんだけど、まずい。やっぱりコレさ。ここの異世界では僕の料理チートの実現は難しいんじゃないかな……。


 地球とは異なる多種多様の動植物が生きる異世界。しかも奴隷がいるような現代日本より貧しい人々が多い世界だ。


 飢餓環境は勇敢な食材の開拓者《エクスプローラー》を生むことが多い。


 それに現代日本の一般人より金と権力を持つ貴族たちがいる。もし連中が食に趣味を広げたらどうなる? それで金持ち同士で見栄を張り合い始めたら?


 毎晩のように社交界で披露される贅を尽くした料理の数々。夜会は様々な食の情報を収集できて、切磋琢磨して競い合う場に。


 通販のようにお手軽にはいかなくても食材の確保も財力権力でなんとかするだろう。どうせコスト削減なんてやってないんじゃないか? かかった手間と費用も自慢のネタだ。いろんな人が関わることで経済効果まで大きそうだ。


 むしろネット環境がなく詳細な情報を得難いことが、逆に料理人たちの想像力を養って独創性とバリエーションを生んでいるのでは……。


 異世界は地球より食文化が劣っている。そんな勝手な先入観があって僕はこの世界の食文化を舐めてかかっていたんだ。


 どこ情報だよ。


 WEB小説だよ! 根拠なんて全くなかった。


 甘かった。


 口の中のコヨヒ饅頭はいい感じの甘さだけど、僕の考えはとんでもない致命的な糖度だった。


 さらにこの世界には魔法まである。……うわぁ。僕の知らない未知の調理法が存在する可能性もある⁉︎


 料理に魔法が活用できるとしたら、料理界にとっては素晴らしいことだ。喜ぶべきこと。だけれど、魔法が使えない僕には圧倒的に不利なことは間違いない。


「はわわわわ」


 この世界とそこに潜むまだ見ぬ料理人たちに恐怖を覚えていたら、ドアをノックする音にまで思わずビクッとなった。


 ガラドルさんだった。執務室へ向かうようにと知らせに来てくれた。


 最悪のタイミングだよ。


 だめだめ! 立て直せ!不利だからって諦めるのか? それでも料理人か? フードファイターか?


「……ふふふ。やってやるさ!」


 よし! 気合いを入れよう。ビジネスタイムだ。ふんだくってやる!


 まずはここでの取引。成功させる。この勝利を糧に僕は躍進する。


 そう。この震えは武者震いだ。


「なんだ? お前、緊張してんのか?」


「うるさいな。そりゃ緊張もするでしょ。相手は貴族サマだよ? 血筋でしか目線が合わない相手なんだから」


「ははっ! 違いねえ。でも今更なに言ってんだお前は。散々俺に舐めた口をきいておいて。安心しろ。今のアステア村に俺より偉い奴はいねえよ」


「はぁ? これから会うの代官なんだよ? 大領主の息子の奥さん! しかもその大領主の息子さんまで立ち会ってくれるらしいし! ここだけの話、ありがた迷惑だよ」


「ああ、知っている。これから会う代官はウチのかみさんだ。つまり、俺がバルバトス大領主の息子さん、ネイサン・ウルド・バルバトスだ。ほら、とっとと執務室に行くぞ。スグル!」

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