祝!レッドの初勝利&ボケとモンスター
ちょっと無口になったジャズを休憩させていたら、レンダが長過ぎるおしっこから帰ってきた。
四時間ぐらいか。
よく出し続けれたものだ。
前世はションベン小僧だったんじゃないだろうか。
さっそくレンダを特訓に誘って、僕のジャズと戦わせてみよう。
「ねえねえ、レンダ。僕のジャズと一対一で戦ってみてくれない? 大丈夫、ガラドルさんの許可はとってあるからさ」
「ああ、ならいいぜ。……なぁ、ジャズ。お前、いつの間にこいつのものに? ……どうした? なんかグッタリしてないか。大丈夫なのか?」
「……おいら、お前がいない間にスグルにいっぱいブチ込まれたんだ」
「!? ……そ、そうか」
勝負方法は一対一の真剣勝負。
地面についた状態の相手に強撃を一発与えたほうが勝ち。
真剣勝負だけど今回は剣はなし。
素手だ。
まだこいつら同士での特訓を真剣でやらせるのは怖い。
「では! ……始め!!」
「……来い! ジャズ!」
「うおおッ!!」
上手であるレンダは余裕を見せて初撃を譲る気らしい。
これはチャンスだ! 初っ端で勝負が決まっちゃうか?
気合いの篭ったジャズの初撃が繰り出……されない。
残念! 勢いよくスタートダッシュするつもりで力いっぱい踏み込んだのが仇になった。
勢い余って腐葉土を思いっきり掬ってしまったのだ。
後ろで見守っていた大人たちに腐葉土をブチ撒いて、顔面から転んでしまった。
「……なんだ今のは!?」
勢いで二転三転してしまったけれど、四つん這いでレンダに迫るジャズ。
どっちが獣人なんだか。
飛びつくようにして勢いが乗ったストレートを繰り出す。
迎え撃つレンダもさすがにジャズのスペックの変化に気づいたようだ。
油断なく身構える。
初手の失敗が悔やまれる。
大振りになって若干上から繰り出してしまったジャズのストレートに対し、レンダは腰を落として下から上へガードする。
体重差と重心の低さでジャズを跳ね除ける……ことができずに、ガードした腕ごと押し切られる。
全体重が乗ったフルスイング。
驚愕の表情のまま、レンダは地面に押し倒された。
レンダ、威力が読めない攻撃はまともに受けちゃダメだよ。
予想以上でも以下でも、次の行動に支障が出るからさ。
そういうときは、岩なり木なりなんでもいいから身代わりにして、当て馬にするんだよ。
あー。とどめを刺すために、ジャズは倒れたレンダに組み乗った。
バカバカ! 闘気で骨格や筋力は強化されていてもお前の体重は元のままなんだぞ!?
レンダは自分に飛び乗ってきたジャズの腹に下から拳を喰らわせた。
さらに数発。
ジャズも防御しようとする。
けれど、浮かされていては思うようにはいかない。
戦闘経験の差が出ているな。
強めのを食らって大きく宙に浮くジャズ。
「うおおりゃあ!」
レンダは身体を捻って起き上がり、ジャズのベルトを掴んで、その勢いのまま地面に打ちつけた。
「……あ! しまっ……ジャズ、大丈夫か!?」
おいおい、レンダ。
さてはあいつ焦って加減を間違えたな?
顔面から地面に激突したジャズの心配を始めた。
こいつも未熟だな。
まだ勝負の最中だぞ?
「まだまだぁ!」
「なにぃっ!? ……うわっ!!」
がばっと起き上がり、油断したレンダの足に飛びつくジャズはレンダを倒しにかかる。
さっきの失敗から学んだようだ。
レンダの身体を掴みつつ、下へ下へと潜り込む。
体内に満ちた闘気のおかげで、肉体の耐久性も今までより上がっているんだよ。
衝撃を闘気が受けて分散させているんだ。
ビリヤードのブレイクショットを想像してみるといい。
引き剥がそうとするけれど、ジャズの必死のしがみつきは振り解けない。
引き剥がしを諦めてジャズに掌底を食らわせ始める。
けれど、加減がわからないんだな。
少しずつ強くしていっている。
そんな余裕があるのか?
それでも堪え続けるジャズに対して、動揺を隠せずにいる。
うんうん。ちゃんと闘気が筋肉と関節を補強している。
これも僕から必死に逃げようとしているうちにコツを覚えたらしい。
……棚からぼた餅……いや! 全部この僕によって計算されていたことだ。
目論見通り。
僕は名トレーナーになれるね。
あまり気を込め過ぎると持て余すが、あれぐらいの気の量であればオッケー。
漏れ出させずに扱えるようだ。
コレは劇的な成長だよね?
ジャズの鳴り止まないレベルアップ音が聴こえるようだよ。
ドーピング? はっ、そんな言葉知ったことか。
ジャズが静電気に触れたようなビクッとするような反応を見せる。
その隙をレンダが襲う……が、ジャズの反応は素早い。
飛び退いて躱すが、飛び退き過ぎだ。
……ごめん、ジャズ。
勝負の邪魔しちゃった。
でも、僕の感知用の闘気との接触で起きた干渉を感じ取ることができたようだ。
ぷっ! ふはは! 見てよ、あの顔。
レンダは必死だ。
僕の弟子一号ジャズマークIIの劇的な変化に戸惑っているな。
ジャズは数段階向上している身体能力を全開にして翻弄を続ける。
持て余して自分も翻弄しているけど。
でもね、ジャズ。
それ、元の身体を酷使しているんだよ?
調子に乗ってフルスロットルし続けていると、突然アキレス腱とかがブチってことになってしまうんだからね。
きっとジャズは今まで経験したことがないような筋肉痛を明日の朝辺り味わうことになるだろう。
痛い目をみることも大事なことだ。
黙っておく。
そういうのを経験すれば、嫌でも配分の仕方が上達していくさ。
ジャズの戦闘スタイルは強化された脚力に頼ってヒット&アウェイ戦法に。
隙あらば取り付く気だ。
レンダのほうは組み合うのは危険、投げ技が有効と判断してカウンターで受け流し、地面に叩きつける戦法に移行。
守りに徹し始めたな。
ジャズの強化にタイムリミットがあることに気づかれたか?
経験値が上のレンダにジャズの攻撃がいなされること数分。
闘気の維持限界が迫るジャズが捨て身の特攻。
「うおおおおおおおおっ!!」
レンダのタイミングを合わせたカウンターを喰らう。
が、拳に耐えて、投げられる前にしがみついたジャズ。
レンダの攻撃に耐えながらの腹への一点集中攻撃。
殴る。殴る。殴る。
殴り続けて、ついにレンダが膝をついた。
そこにフルスイングの一撃。
倒れるレンダ。
闘気が尽きるジャズ。
その後も必死にレンダの腹を殴り続けているが、ジャズ、ルールを思い出そう。
審判役ジョナサンによるジャズの勝利宣言が行われる。
「おおお! そこまでだ! ははは! やったなぁ、ジャズ!! よくやった!お前の勝ちだ!!」
「ふん! ふん! ふん! うおおおおおお!」
「こらこらこら! 聞け!! お前まで俺を無視すんな。お前の勝ちだっつってんだろうが! これ以上殴るなら勝ちはなしだ。反則負けにすっぞ」
「うおお……お? え、やった!? や、やったの!? へへ! へへへ! 見てた!? ねえ! みんな見てくれた!? おいら、レンダに……レンダに、初めて勝った!! レンダに勝ったぞおおおお!!」
顔はボッコボコにされているせいで勝者には見えない。
ダメージ量ではレンダに負けているぞ。
だけど、まあ勝利は勝利だ。
おめでとう。
本人は全員の周りを走り回っているつもりだろう。
実際にはよろよろとみんなに寄っては突き飛ばされているように見える。
闘気を使い切って疲労困憊状態だからね。
みんなに乱暴に撫でくり回されて嬉しそう。
おや? 僕のところにだけ来ないぞ?
何故だ? 僕が近づくと立ち止まろうとして転び、這い蹲って逃げていく。
バランさんとジョナサンに捕まり、胴上げ。
二人の間をキャッチボールのように飛び交っている。
ヘイズさん、ガラドルさんも見ていて嬉しそう。
ふふふ。ジャズのやつ、あんなにはしゃいで。明日が楽しみだね。
対して、その間もレンダは呆然と倒されたまま動けずにいた。
「……待て! 今のは!? ……お、おい! どういうことなんだ!? ジャズのヤツ、今までとは全然……」
彷徨っていた視線がようやく僕に辿り着いたので、僕がレンダに種明かし。
すると胸元を掴まれて、左腕一本で吊るし上げられた。
「ズルいぞ。頼む! その特訓、俺にもやってくれ!」
お断りだね。
ジャズはそのために土下座をしたんだよ。
ジャズのときは油断して見惚れたけれど、お前はどこの不良だよ?
料理人であり美食家であるこの僕にこんなカツアゲ喰らわすとはいい度胸だな。
お前こそお空にサクッとあげてやろうか?
ブンブン揺すったってダメだ。
僕は神社の鈴緒じゃない。
頭だってギッシリ脳味噌が詰まっているからガランガランと鳴ったりもないぞ?
どんなお願いの仕方だよ。
せめて御賽銭入れろよ。
これじゃ頭を下げたことにはならないからな。
相対的にお前の頭は下がっているけれど、そんなの認めないから。
「脱げ! 抱いてやるから!」
「きゃああ!? だからどんなお願いの仕方なんだよ!? ああもうっ、いいよ! わかった! わかったよ! 胸貸して」
「え? あ、ああ……わかった。お前はジッとしていろ。すぐ終わる」
「ふっざけんな! 終わってたまるかっ!! やめろ、脱がすな! 僕がお前の中にブチ込むだけ!」
「……む。脱げばいいのか?」
「なんでだ!? 下じゃない! 上! 胸をはだけりゃいいんだよ!」
ったく! もうさっさと気をブチ込んでしまおう。
バカ犬め。
ヒィヒィ、言わせてやるわ。
「ぐっ……、熱い!? なんだ、これは? これが闘気なのか?」
「気だよ。お前の花火は何色なんだろうな? 獣人はジャズとは違うのかな?」
「ん! ……身体が……ア、ツ……イ……。ふー。フーッ!」
ちょ! 鼻息が荒いよ、レンダ。
くすぐったい。
おお? 獣人だからか?
結構入るぞ。
じゃあもっと押し込もう。
えい!
んん? 吸い取られている?
もっとか? ……え、うそ。
コイツの容量、僕より多くない?
それになんだよ?
この心臓にある関のようなモノは。
なんで二段式?
まあいいや。とりあえずそのうちの一つを満たしてみる。
「ウッ!? ウ、ウウ……」
……おや?
レンダの様子が……。
…………。
『……ん? ああっ!! しまった! スグル君、ストーップ! ストップ!! そうだ。そうだった! この子獣人だった! ……こ、こいつはヤバいことになりやがった……』
…… 先生。地金が出ているよ?
先生は見た目、猫というより二本足で立つフェレットで、愛らしく、口調もいつも礼儀正しい。
でも、実はこの猫型宇宙人、普段猫被っているんだよね。
なんか先生相手に使うのは変な言葉だけれど。
先生って本当は結構いい性格しているんだよ。
調子に乗ったり、没頭したり、テンパったとき、こうして地金が出る。
なにかしでかしたときにもね。
普段は本当に穏やかで面白くていい先生なんだけども。
『んんんがああああ、どーしようか、これ』
「ねぇ、先生」
『ハッ! …………あ、えっと。その、ですねぇ』
「先生。これ見えているよね。もうすでに目の前でロクでもないことになっているでしょ。答えもわかっているからね。ほら。だから恒例のアレ。いってみ?」
『…………』
「先生」
『う……ハイ。ここで残念なお知らせです……』
「グルル?……グルル……ウ!」
『ある特定の獣人は、心臓に大量の気を取り込むと』
「ウウウウウウウウウウ!」
「うん。心臓に大量の気を取り込むと?」
『獣化が始まります』
うん。だよね。
僕、アニメでこういうの見たことあるし。
ピタっと止まった身体が身震いをし始める。
毛が生えて。
逆立って。
身体が肥大化して。
防具や服が破けて。唸ってさ。
古今東西どこにでもよくある暴走シーンだよね。
きっと、そろそろ大声で吼えると思うんだ。
「「「レ、レンダァアアッ!?」」」
「グウウウ、ウガアアアアアアアアッッッ!!!!!」
レンダは獣化を無事完了。
仲間たちの呼びかけをかき消して、子供のものとは思えない野太い雄叫びを樹海中に轟かせた。
でもこれ、変身途中に蹴り飛ばせたよね。




