第3話 スグルの高天ヶ原での日常① 〜自称猫型宇宙人の暗躍〜
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「こにゃにゃちは〜。……って、キミ、この前の役立たずの妖精さん? なんでこんな街の西の果てなんかにいるの?」
ここにはコンビニくらいしかないのに。
あれ? なにその無反応。
いまさら普通の妖精さんのフリしても無駄だよ?
キミがリアクション返せる変わり種なのはすでに割れているんだ。
てか、僕のこと忘れているんじゃないだろうな?
ブッ飛ばすぞ。
僕だよ、ス、グ、ル。
この高天ヶ原の街に住む、ごくごく普通の超絶美少年のスグル君、十歳だよ。
ちなみに僕は学校の帰り。
ちょっと寄り道をしてこの先の崖まで行くところ。
お気に入りの絶景スポットがそこにあるのさ。
……え?
ついてくる気?
まぁ、追い払うのも手間だし、来たいなら勝手に蚊柱みたいについてきたらいいけど。
……っと、いけない。
ここのコンビニにも用があるんだった。
僕、ちょっと行ってくる。
妖精さんは……そうだな、その辺で待っていて。
暇だったら生えている道草でも食べて寄生虫に……あ、そう、ついてくるの?
いいけど、入り口の殺虫灯にやられても僕は助けないよ?
♫ピロリロリン♫
◇◆◇◆◇ーーーーーーー◆【新着メールです】◆ーーーーーーー◇◆◇◆◇
◇◇ 【題名/猫耳寄り情報。ただし、大人たちには御内密に】 ◇◇
◇◇ 【送信者/匿名希望の猫型宇宙人】 ◇◇
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「敵襲ーーッ!!」
「お嬢! やつが来た! 今すぐそこの壁を突き破って逃げて! ここは我らがーーぐああああああッ!!!」
「ネ、ネコババーーッ!! 邪魔だよ。アンタが突き刺さってどうすんだい!」
「アタリヤ様、ダメですよ。今は背中を向けちゃ危ない。どうしましょう。坊ちゃんのお目々が真っ赤っかです。今日は本気でウチらを殺ーーうっぎゃあああッ!!」
「タ、タカトビーーッ!! ハッ!? なんてこった、レジに追い込まれちまったよ!!」
「セイサンをさせてもらえるかな?」
「(精算……違う、コレ、凄惨だ!!)いえ、当店にセルフはございません。精算はこちらがさせていただきます。ネクタルが一点、世界樹の雫が一点、ウインナーお徳用が一点。お客さま、以上でよろしいですか?」
「あと、店員さんたちの首もください」
「非売品です。ところでお客さま、『里子申請』がまだお済みではないご様子。ご一緒にいかがですか? なんとぉ! 今、里子になられますと里親の方からもらえる毎月のお小遣いにオマケで最大5000PPがついてくるぅう!!」」
「「うっわぁ、こいつは大変お得だぁあ!!」」
「結構です」
「そこをなんとか! その功績さえあればアタシら晴れて恩赦を、自由を掴めるんですぅ!」
「「お願いしゃああああす!!」」
「要らないかなぁ」
「あ、イタイッ、イタイィッ!! 大変! 首が! 首が捥げるうぅう!!」
「ぎゃあああああ! 要る要る! この首は大事! お嬢も坊ちゃんもこれ以上引っ張らないで!!」
「お、お前たち!! ええい、ここは退くしかないか。次の機会には是非!! 合計でお会計税込み1680円になります。えっと……、さすがに昨日の今日、今回は現金でのお支払いですよね?」
「「ね? ね?」」
店員さんの問いに、僕は腰のホルスターから引き抜いた銃口を向けて答えてあげた。
「「「デスかぁあああ!!!(泣)」」」
よぉぉく狙って……引き金を引く。
ズキュウウウン。
◇◆◇◆◇
「「「一昨日来やがれ!!!」」」
店員さんたちから『お清めの塩』をバシバシと振る舞われながら、僕は外の発着場へ出た。
「……あれぇ?」
これはどういうことだ?
普通に会計を終えてしまったぞ。
手に握ったままの役立たずを壁や地面にガンガンと叩きつけてみても作動する気配はない。
「……おかしいなぁ。実装は済んでいるはずだけど」
履歴を確認。
……うん、今日の零時の時点で『実装済み』になっている。
なら、初期不良?
不具合報告の確認はあとでいいな。
役立たずをホルスターにしまい、発着場の隅にある休憩用のチェアに座る。
鞄から取り出したるはさっき買ったネクタルだ。
「ぷはっ! さすがは天然仙桃果汁2000%だね。メッチャ美味しい!」
重厚な甘味が口の中を蹂躙しまくって、店員さんを仕留め損なってややサゲ気味だった僕の気分をポジティブなものへと変えていく。
「帰りにもう一度寄ればいいか。……ん? 妖精さん、どうしたの?」
このネクタルがほしいのかな。
いいよ、蓋に少し注いであげる。
……飲んだね?
では、僕の愚痴を聞くがいい。
拒否権?
飲んだキミにあるわけないでしょ。
このコンビニにはね、昨日も来たんだ。
レジにいたあのお姉さん(里親支援施設からの刺客)ったら、そのとき、なにしたと思う?
なにをトチ狂ったのか、僕が銃口を向けたら通報ボタンを押してくれやがったの。
おかげで僕、駆けつけてきた警察の強襲部隊から三千発もの徹甲式麻酔弾を浴びさせられたのさ。
酷いよね。
確認も宣告も降伏勧告もなく、不意打ちで包囲からの一斉集中砲火だよ。
うん?
もちろん、防いだよ。
でもね、陽動だったんだ。
やつらの本命は、まるで出遅れたかのように偽装された伏兵の放った一発のほう。
僕、それを不覚にもオデコに喰らっちゃってさ。
うん?
そりゃあ痛かったよ。
不意打ちだったもの。
……あ、そういうことね。
妖精さんが気にしているのは、そのあとちゃんと御礼をしたか、だね。
大丈夫だよ。
あとはコンビニのお姉さんたちに御礼するだけ。
警察にはもう済ませた。
昨日、ここで部隊を壊滅させたあと、意識を朦朧とさせながらも警察署まで行って暴れてやった。
……あ、間違えた。
昨日、その場で部隊を壊滅させたあと、意識を朦朧とさせながらも警察署まで行って暴れた、らしい、だ。
だって、僕はオデコに喰らったときから意識がなかったことになっているからね。
え? 嘘じゃないよ。
酷いなぁ。
妖精さんまで倫理委員会みたいに僕を疑うの?
僕が意識を取り戻したときにはすでに倫理委員会の本拠地にいて、僕の身体は剛鉄製の柱に埋められていたんだ。
大人たちは寄ってたかって動けない僕の顔に落書きしながらお説教してきた。
話を要約すると、僕の報復…正当防衛に正当性があるかを疑われた。
警察署はその一帯ごと下の海へと崩落したらしい。
職員や勾留中の人たち、あと野次馬も一緒に。
気の毒?
まったくだ。
僕は店員さんに銃口向けて撃っただけなのにさ。
それを襲撃して拉致して拘束して説教。
これって虐待だよ。
……え?
気の毒なのは僕じゃない?
妖精さんはなにに対してそう思ったのさ。
崩落に巻き込まれた人たち……?
はぁ?
ちょっとこの妖精さん、なにをトンチンカンなことを。
その人たちはね、僕の間合いに入ってもボケっと突っ立っていた連中だよ?
危機管理意識に欠けている。
他人の善意やモラルや時の運、そんなものに自分の身の安全を依存してどうするの。
自分の身は自身で守るものだ。
いや、ここは普通の街。
違うって。
戦場ではないし、無法地帯でもない。
法律だってあるよ。
あってなきものというか目安みたいなものだけど。
いやいやいや、そこは仕方ないの。
この街には結構な数の人外が住んでいるから。
犯罪者に刑を執行しようにも、そいつらをボコれるやつが出張らないとどうにもならないでしょ。
弁護士や警察も人間だ、生命は惜しい。
法は、生きるために、生きていくためにある。
死んでまで守るものじゃない。
弁護士や警察にあまり無茶を言うと、『だったら自分でやれば?』なんて言われちゃうよ?
あっ、今度はウチの街を『修羅の街』とか思っただろ?
失礼な、そんな人外、住民の一割ほどだからね。
高天ヶ原の街には僕みたいな一般人だっています。
もぉー!
なんなのかな、この妖精さん。
珍しくリアクション返してくれると思ったら、常識が通じない。
そもそも、今回の件って僕のせいかな?
うん、……うん!?
なんでさ!?
発端を思い出してみて。
まず、始まりはレジのお姉さんの誤解。
僕はレジのお姉さんに銃口を向けて撃っただけ。
お姉さんに誤報されたからって確認もせずに特攻してきたアホ強襲部隊に非がないとは言わせないよ。
オデコに被弾した僕は途中…その瞬間から意識がなかった。
意識が戻るまでになにかあったとしてもそれはその事態を生み出した警察のせい、間違いない。
崩落に巻き込まれた行方不明者。
その大半は職員の退去勧告や避難誘導を無視したアホな野次馬たちだ。
社会見学でその場に居合わせた幼稚園児もいたけど、あいつらは全員自力で帰宅している。
ほらほらほら。
ね? 僕が咎められる理由がどこにある?
なのに、この街には僕のような美少年を疑う嫌な大人が沢山いるの。
その最たる存在が倫理委員会。
しおらしく反省する姿が白々しいだの。
本当に朦朧としていたのか怪しいだの。
連中は好き勝手に次から次へといちゃもんをつけてきやがった。
被害者たちの救助が難航していると言うけど、それ怪しいからね。
この街にはこんな制度があるの。
『被害者が行方不明・生存不明・意識不明の場合、不在の被害者が有する加害者への責任追求等の権利を一時的に倫理委員会が代行できる。』
ね? 絶対わざとだよ。
被害者どもを生死不明のままにして、僕が直接説得する機会を奪った。
説得によって被害者たちのあれやこれがポキポキ折れて、僕の無罪が成立しちゃうかもしれないから。
あー、汚い、汚いよねぇ。
大人は本当に汚い。
あ、そうそう。
駆けつけてきてくれた担当弁護士も酷いんだ。
僕を裏切ったんだよ。
『この子、警察署に向かう途中でお菓子屋さんにも立ち寄っていますね』
防犯カメラに映るようなヘマをこの僕がするもんか!
担当弁護士が新商品の試作品を提供しやがったの。
『過去の事象も遡って撮れるカメラアプリ』。
携帯電話、GPS、防犯カメラに続く、事件をつまらなくする余計な発明品だよ。
そんなものが世に出されてごらんよ。
今後どうやって犯罪者は罪を重ねていったらいいんだ。
酷い。
断固、世に出すことなく闇に葬るべきモノだ。
倫理委員会ですら今回は味方で、『ふざけんな! 子供たちが親の寝室を撮ったらどうする気だ!』とか怒っていたもんね。
ちなみに、今回は都合がいいので黙っておいたけど、大人たちが真夜中に寝室で鍵をかけてなにをしているのか、僕ら子供は把握しているよ。
子供に内緒でお菓子を食べているんだ。
親の寝室を漁ると高確率でタンスやクローゼットから『ドロドロでぬるぬるした液体』が入った容器が見つかるそうだ。
実際にそれを発見した子が子供会に提出した『大人の生態調査報告書』によれば、容器の中身は水飴に違いないとのこと。
残念ながらその子は口に入れる直前で見つかり、現物は取り上げられてしまったらしい。
親だけでなく、いつもは優しいお爺さんお婆さんや歳の離れたお兄さんまで『それは絶対舐めちゃいけない!』と言われ、夜はお兄さんと一緒に就寝することを強制されているとか。
僕も中身は水飴説を推す。
昔話の水飴和尚さん然り、大人がそこまでして守るものなど甘味以外ないだろう。
ちなみに、その子の両親はその後も内から施錠された寝室の中、朝方まで声を荒げて息を切らすほどの奪い合いを繰り広げていたが、ひと月前からぱたんと静かに寝るようになったらしい。
父親が毎朝足腰が軽いと活き活きしているのは夜間の暴食をやめた結果だろう。
問題は母親。
深夜の宴をやめたはずの母親の腹周りが日に日にふっくらとしていくらしい。
新たな甘味を開拓し、一人どこかで貪っている疑いがあるとのこと。
コソコソと病院へ行くフリをしてどこかへ出かけることが増え、時折、夕食が喉を通らず、吐き気まで催す日まであるそうだ。
続報が気になる。
『親が秘蔵する甘味を求めて、深夜の現場に乗り込む』
高天ヶ原っ子に伝わる儀式『大人の階段』のうちの一つである。
大人が隠匿する真夜中の甘味には興味があるけれど、親がいない僕には挑戦権はない。
大きな声では言えないけど。
実は、僕も寝室で夜通しお菓子パーティを催してみたことがある。
……。
あ、ありのまま、ありのままそのとき起こったことを話す。
22時まで残り5分に迫った頃。
僕は異常に気づいた。
不思議なことに時間経過とともにテーブルやクッションが僕の額に近づいてくる。
ついには、身体にへばりついて離れなくなった。
僕の周囲だけ重力が増していくのを感じた。
そして、気づいたときには……。
朝だった。
妖精さん、まだだ。
この話には続きがあるんだ。
どうか聞いてほしい。
げに恐ろしきは夜更かしの呪い。
あの晩最後のトイレに行く間もなく意識を刈り取られた。
次の日の朝、僕の下半身は……なんと、濡れていたんだ。
僕に夜更かしはまだ早かった。
深夜は樹界の深層よりもずっと恐ろしい魔境だったんだ。
おっと、話が脱線してしまったね。
昨日の倫理委員会の本部での僕へのお説教会も今みたいに脱線していったの。
忌まわしき新作アプリの実装を差し止めるべく紛糾。
それが揉めに揉めた。
僕が早々に釈放されたのは『子供は出ていけ!』って追い出されたからなの。
寝たフリをして黙って聴いていたのに!
勝手に拉致って拘束しておいて『お前にはまだ早い』だよ。
本当に、大人って生き物は勝手が過ぎるよ。
最終的に『元凶はこいつじゃね?』って結論が出たらしい。
ゴトンッ!
この携帯端末のことだ。
普段、僕の腰のホルダーに収めてあるコレ。
一見、銃口、引き金、グリップ、と、ちょっと形状こそ似ているけど、これは拳銃……ん、銃口…銃口? ……まぁ、いいや、これは拳銃じゃないんだ。
学校から無料で支給されている携帯端末はね。
僕の身分を証明する生徒手帳やお財布携帯も兼ねている、ポルラボ社製の最新型携帯デバイス。
支払いとか重要な決定時には、これで視界内UIに表示される『最終確認アイコン』を撃ち抜くアクションが必要なの。
それがなんか、レジの人に拳銃を突きつけているように見えちゃうんだって。
誤通報が相次いで通常業務にまで支障が出ているって、警察が騒いでいるんだよ。
頭のお固い倫理委員会も警察の味方。
近々、ポルラボ社に対し、連名で携帯端末の販売停止と自主回収を要求する気だ。
だけど、回収なんてできるんだろうか。
誰も応じないと思うけどね。
便利過ぎて、いまさら、携帯なしの生活なんて考えられないもの。
そもそも、未だに全容が知れないからって自主回収は横暴だ。
問題は、便利なもの以上に、傍迷惑な機能がやたら滅多にこんもりと盛り沢山なことでしょ。
だったら正々堂々正面からあの分厚い取扱説明書に挑んで地道に個別で改善要請していけばいいんだよ。
え?
携帯端末の傍迷惑な機能の中でも一番ひどいやつ?
……。
…………。
う〜ん、一番、一番か。
選ぶのは難しいよ。
どれもこれも酷いし。
僕も取扱説明書を全部読んだわけじゃないんだ。
見てごらんよ、この目次ページの単位。
不可説不可説転。
わけがわからない表記になっている。
これって赤ん坊から読み始めたとして、寿命を全うするまでに目次から脱出できているんだろうか。
一応、焼き尽くされると有名な『お節介機能』もある。
直接脳へ一括送信。
怖くてタップできない。
初回起動時の同期化でも一度僕は意識失って三日間ほど寝込んでいるんだ。
……妖精さん?
ねえ、今、僕のオツムの容量が少ないとか思わなかった?
違う? 違うならいいけど。
なんならキミに送信してあげようか。
絶対にイヤ?
だろうね。
まぁ、そんなわけだから。
多くは無理だけど、知っている機能でよければいくつか教えてあげるよ。
◆◇▼◇◆ーーーー【携帯端末の機能説明】ーーーー◆◇▼◇◆
【電話・メール機能】
【空間撮影機能】
【万能三分ハッキングツール】
【落雷一発充電機能】
この辺は省こう。
どこの携帯にもある標準機能だし。
【視界内UI機能】
これは各種情報を所有者の視界や脳裏に直接投影してくれる、ゲームでもよくあるUIのようなもの。
起動すると瞳孔や顔に紋様が顕れるから、使用中なのがバレる。
でも、某有名作品の瞳術使いや仙術使いの気分を味わえると大人気の機能だ。
【識別タグ機能】
注視した対象物の情報を、使用者の脳内から勝手に発掘。
それを視界内UIへ埋め尽くさんとばかりに表示してくる。
慣れないうちは過度な情報量に目と脳をやられる。
黒歴史を秘めた思い出の品を処分できずにお持ちの方はご注意ください。
決して、それを注視してはいけない。
危険物は目に触れない場所に埋葬しておきましょう。
【脳拡張補助機能〜先行試験運用版〜】
あなたの携帯端末内に厳重封…内蔵された得体の知れないAIを解き放ちます。
あなただけの脳内執事が、脳の情報処理を補助するだけでなく、指図、提案、余計な気遣いをし、操作ミスには舌打ちまでしてくれる。
試験運用段階の今は脳内執事は厳重な檻の中。
本来の機能のごく一部だけが解放された状態らしい。
本格実装は近日中を予定。
【常時稼働の全身生体モニタリング】
常時全身を隈なく舐め回すようにチェックしている。
僅かな体調不良の予兆の予兆ですら見逃さない。
個人情報保護を徹底する余り、面倒な手続きを通さないと本人にすら詳しい情報開示はしてくれない。
どうも心の機微まで計測し、どこかへ報告を上げているらしい。
致命傷を負わせると呼ばなくても警察や救急車が飛んでくることから、警察、救急機関、保険会社に情報をリークしている疑いが持たれている。
オフ機能はどこにも見当たらない。
【良い子の味方、悪い大人撲滅砲】
オートジャッジメント機構搭載の安全安心のセーフティー機能付き超荷電粒子砲。
子供に対し不適切な感情を抱いて近づく不届き者へ銃口を向けるとロックが解除。
有罪判断や磁場重力自転公転等の細かい調整は全て携帯端末がしてくれるので、使用者は視界内UI内の照準が合い次第、ただトリガーを引くだけでよい。
完全無料です。
使用後に請求や責任を問うことは一切ございません。
お気軽にご利用ください。
◆◇▲◇◆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー◆◇▲◇◆
あ、最後のやつ。
どうも初期不良の疑いがあるんだ。
今日一日試しまくっているのに、一度も発射されないの。
まぁこんなところかな。
……あ、大事なのを忘れていた。
ゴトンッ! ゴトンッ!
◆◇▼◇◆ーーー【続・携帯端末の機能説明】ーーー◆◇▼◇◆
【薬莢】
ポルラボ社製品を呼び出すのに必須な薬莢型の起動キー。
ポルラボ社製品は基本、この薬莢に標本化された状態での販売。
見た目は名前通り薬莢。
これを携帯端末の後装式薬室に装填すれば準備はOK。
引き金ひとつで狙った先の空間をドッカァアンッ!! とぶっ壊し、そこに、収容物の同位体を生成してねじ込んでくれる。
異世界モノによくあるアイテムボックス、あれとは似て非なるもの。
撃って出てくるのは収容物の複製。
複製できるのは、薬莢一つにつき一個体だけ。
標本そのものは取り出すことはできない。
あと、生成するときに、全損を想定した額を担保として先払いで用意しないといけない。
奪われた担保は同位体の回収時に消耗分を差し引いて返金される。
この仕様がなかなかに厄介。
そのかわり、標本化された時点で新品だったのなら、生成される同位体も常に新品状態。
つまり、ポルラボ社製品に面倒なメンテナンスは不要。
てか、こんなピーキーな地球外技術に手出しなんかできるか!
◆◇▲◇◆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー◆◇▲◇◆
ゴトンッ!
ゴトンッ! ゴトンッ!
ゴトンッ! ゴトンッ! ゴトンッ!
「ああもう、うるさいな。まだこの僕が説明している途中でしょうが!」
この、ゴトンゴトン、って音。
鳴らしているのは僕じゃない。
目の前にいるコンビニのゴミ箱だ。
さっきからずっと僕の行手を遮って、これをやっている。
狙われているのは、多分、今飲んでいるネクタルの容器。
店を出るとき、すでに外でスタンバっていたところをみるに、客の購入品を把握しているのだろう。
コンビニのレジにバックドアでも仕込んでいるのかな?
このゴミ箱は僕が近づくと離れ、離れると寄ってくる。
二十メートル弱の距離をずっとキープしているんだ。
……あ! この野郎、なんて姑息な手を……。
ブラスバンドの演奏やメガホンを打ちつける音で僕を煽ってきた。
やめろよ、お前、急にピッチを上げるな。
ここで、こいつを無視して立ち去るなんて選択はない。
なぜなら、それだと僕が臆して逃げたように映ってしまうからだ。
『S少年、ゴミ箱相手に敵前逃亡w』
そういう不名誉な見出しで掲示板に晒されてはたまらない。
この場にカメラは見当たらずともこの状況は例のアプリで未来からでも撮影できてしまう。
あれはつくづく要らない発明だな。
僕はネクタルの残りをぐいっと飲み干し、空のペットボトルを握り直した。
「……いいだろう。その挑発、受けてやる!」
そう宣言した途端、足元の地面がモコッと盛り上がった。
僕のじゃなく、あいつの足元が、だ。
なぜにマウントにキャッチャーのお前が立つのか?
頭上に浮かんだ『?』を頭を軽く振って落とす。
「口の中もお前も甘い。この程度の小細工で僕のペースを崩せると思うなよ?」
【さぁ、ピッチャー、スグル君】
「はい?」
【呼吸を整えて、狙いを定めるはゴミ箱の投函口】
「うん」
【今、ペットボトルを大きく振りかぶってーー】
「え?」
【投げましたぁ!!】
「え、ええっ!?」
くそ、なんてことだ。
思わず投げちゃった!
卑怯な手に不意を突かれはしたけれど、投球自体はちゃんとやった。
ペットボトルは勢いよく音速の壁を破ってゴミ箱の胴体へと吸い込まれーーなかった。
バイィンッ!!!
「な、なにぃ!? 打た…いや、弾かれただとぅ!?」
無情にも軌道を変え、僕の頭上を越えてすっ飛んでいくペットボトル。
「まだだ! キャッチさえすれば、まだーー」
それを追って慌てて振り返るとーー
「ぎゃふん!?」
振り返った僕の顔面に、ガツンッッ!!! と激突してきた。
コンビニか!
攻撃を受けたと勘違いしたコンビニが展開した対災害防壁で跳ね返ってきたみたい。
捕え損ねたペットボトルは僕と一緒に地面に転がり、カンコロコンと小気味いい音を鳴らす。
【ワァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!】
砕かれたプライドと鼻の痛みでその場に膝を折った僕を、いるはずのない観客の割れんばかりの歓声がなじるように追い討ちをかけてきた。
「い、今のは……!」
今のバリア。
あれには見覚えがあるぞ。
先月まで学校に出没していた変なゴミ箱。
普通のゴミ箱に扮しては投函者を何人も返り討ちにしていたあいつ。
あいつが使っていたバリアと似て……いや、今のは完全に同じものだった。
「お前、……まさか、あの辻斬りゴミ箱なのか!?」
思わず確認が口を衝いて出たけど、そんなハズはない。
あいつは被害者全員という最強の布陣でボコって撃破した。
その残骸も念入りにその場で拵えた即席溶鉱炉の底に沈めてある。
「なのに、お前、なんでこんな場所でのうのうと活動しているんだ!? どういうことだってばよ!? コレぇ!?」
だって、お前さ。
あのとき溶岩に呑み込まれていったじゃん!
それで無事?
あり得ないし、許されない。
そんな死亡詐欺をやって許されるのはどこかの不死軍団長だけだぞ。
「うっ……!?」
不意に左足首に痛みが走ってそれどころじゃなくなった。
「落ち着け、僕。こんなものはただの幻痛だ。フラ、フラ、えっと、なんとかバック」
【……I'll be back】
「それ絶対違う! くそ、この野郎。貝殻の小道具もなしに幻聴まで聴かせやがって……!」
冷静さを取り戻そうとするも、邪魔されて失敗。
僕の脳裏に、タケシに尻尾切りにされた僕の左足首と靴を掴み、道連れに溶鉱炉へと沈むあいつの姿と声が蘇る。
僕のお宝、プレミアの靴が片っぽ失われた、とても悔しく、とても痛かったひと月前のあの日の出来事。
あぁ、涙が出ちゃった。
「……てか、お前が無事なら僕のお宝は? 足はいいけど靴は返せよ!」
……ん? 待てよ。
そういや、昨日のニュースで観たぞ。
近々来る地球存亡をかけた最終決戦より前に起きてしまった、あの大惨事の真相に迫る特集を。
なんでも、街では相次ぐゴミの投函ミスによる残留物の散乱が問題視されているとか。
その担当となった責任者は対応に追われて頭を抱えていた。
ノイローゼの末、なにを血迷ったのか、あの人外に泣きついたという。
『助けて、ポルえも〜ん!』
ーーと。
それを口走った際、担当者はメガネまでかけていたというから、もう正気の沙汰じゃない。
いくら最近高天ヶ原に帰化したばかりの外人さんだったとはいえ、根っからのオタクが難問を抱えて心に余裕がなかったとはいえ、それは酷過ぎて言い訳にはならない。
その愚かな行動が招いた結果、それが先月の大惨事。
いきなり地球かち割られエンド『ほよよ事件』の真相だったのだ。
その番組の最後に倫理委員会から『我々は近々、新兵器を導入する』と宣戦布告があった。
……なるほど。
そうか、そういうことか、倫理委員会。
どうやら、僕らはまんまと新兵器の運用実験に付き合わされていたらしい。
おそらく、あの人外。
対策担当者に不快な思いをさせられたのも、地球かち割って怒られたのも、全てはゴミを散乱させているやつらが悪いと判断したのだろう。
一連の責任を逃れるため、僕らを生贄に差し出した。
街の大人たちサイドについたのだ。
こいつが作られた経緯は察したけど、さて、面倒なことになったぞ。
学校を荒らしていたあの強敵はただの試作機に過ぎず、目の前にあるこいつこそがその完成品。
だとしたら、あれの厄介さを、こいつも引き継いでいるとみるべきだろう。
【警告。今すぐ弾かれたペットボトルを拾って当ゴミ箱に直接投函し直してください。これを拒否、または逃亡を謀った場合、当方は、無様にも的を外した貴方の映像記録を投稿サイト上に公開。身元を暴いて晒す等の処置をとらせていただきます。繰り返します。いいからとっとと拾えや、ボケが! ダラダラしてっとマジでお前のアホ面と醜態晒すぞ。ああんっ!? 皆さーん、こいつ、ゴミ箱外しましたよぉー!】
ほらみろ、タチが悪い。
「くそぅ! 拾えばいいんでしょ、拾えばーーぶふぅッ!?」
痛ッ!?
コンビニ前、発着場の強化舗装を盛大に抉って転がされた。
言われたままペットボトルを拾いに行ったら、突如、横からの強烈な不意打ちを喰らった。
「くそっ、誰だ!?」
【ぱおお〜ん】
脳裏に容疑者としてクラスメイトの顔が浮かんでいたけど違った。
身を起こすと、そこに真犯人はいた。
トカゲに似たフォルムのバギー。
マジで誰だ?
僕を撥ねたのはこいつか。
追撃を仕掛けようと、嗎いななき? と爆音を轟かせてこっちに迫ってくる。
学校にいたゴミ箱にこんな追加武装はなかったよね?
横っ飛びでかわす。
こいつを呼んだと思われるゴミ箱は……上か!
さっき、僕と一緒くたに撥ねられて、天高く打ち上げられている最中。
「追い打ちチャンス!」
ーーと思ったけど、これはもうダメだな。
このBGM、すでに合体アバンに突入してしまったっぽい。
手が出せない。
◆◇▼◇◆ーーーー◇◆【高天ヶ原子供憲法】◆◇ーーーーーー◆◇▼◇◆
高天ヶ原っ子大原則、ひとぉ〜つ!
『合体は神聖なもの。始まったのなら邪魔してはならない!』
明るい未来のために頑張っています。
そっとしておいてあげよう。
現場に踏み込まない。
覗きに行かない。
興味を持たない。
毎日、決まった時間に就寝をしよう。
夜中、尿意・便意で起き、やむなく寝室から出る際はドアノブを強めに鳴らして開けてください。
床も一歩一歩踏み鳴らして歩きましょう。
ドン! ドン! ドン! と。
◆◇▲◇◆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー◆◇▲◇◆
大抵の法が免除される未成年な僕らにも守るべき掟は一応ある。
それが子供憲法だ。
危なかった。
高天ヶ原っ子たる資格を剥奪されるところだった。
街の修繕費用負担割引とか、傷害殺人罪の免除・減刑とか。
一度剥奪されたら、しばらくは諸々のお得な子供優遇が受けられなくなってしまう。
高天ヶ原っ子にとって、それは自由の翼を捥がれたも同然。
【メカフュージョンッ!!】
【ぱおぉーーーん!!】
黙って観ていると、落下地点で待機していたバギーがゴミ箱の掛け声に合わせて変形を開始した。
頭部を起こすと胸部に収納されていた両腕が出てきて、遅れ気味に左右へ展開する。
空いた腹部の収納空間に、落下してきたゴミ箱がガリリッと嫌な音を立てながら嵌まった。
合体した連中のフォルムはゴジラっぽいなにかに。
【ちょっとぉ、右肩なにやってんのぉ! 開きが甘いよ!?】
【ぱ、ぱお〜ん……】
「よし。もう攻撃していいでしょ?」
【あ、まだですよ。名乗り終えて背後で爆炎爆音上げて合体は終わる。せーの! 逆! 転! 不要ぉ!】
【ぱおおお〜〜!!!】
【違うでしょ! カンプゥゥゥ、ザウルスッツ!!】
【………】
【今でしょうが!】
【ぱ、ぱおおお〜〜〜おんッ!】
◇◆◇◆◇ーーーーーーーーーーー◇◆◇ーーーーーーーーーーー◇◆◇◆◇
つづく
【レジのお姉さん】
名前はアタリヤ。
里親支援組織工作員。
最近、行く先々のお店でスグルを待ち構えている女性レジスタッフ。
いつも目元をベネチアマスクで隠している。
女王様口調だが、どうも無理にキャラを作っているっぽい。
子分にお嬢と呼び慕う男二人を従えて、いつもトリオで行動。
二十九歳以降、福の神ごと新年を門前払いにしている自分は歳を取らないと主張している。
主張する際の血涙を伴う目力はどこの瞳術か呪術かというほどのヤバさ。
彼女に血涙と血反吐と自論を浴びせられながら絡まれて以降、スグルですらお姉さんと呼ぶようになった。
その実績が評価され、彼女はスグルの里子勧誘担当に抜擢された。
「ちょっ! ポルティオン本部長! 聞いてくださいな。今日もあのモジャっ子ったら、アタシにマジの殺気ブチ当ててきたんですぅ。チョー怖かった。あの銃、危ない。なんでまだ回収されてないんですか? もう恩赦はいらないからこんなところ撤退させて! これ以上ちょっかいかけるのは危険ですって! 日ごと向けてくる殺気がキツくなっていくんですぅ! 昨日なんて『キックだけでよければしてあげる。ただし、キック場所の指定は僕がする。さぁ逝こう、あの崖の先だ!』とか自分から言ってきて……、え? もちろんその場で断りましたよ。勧誘チャンス? モテる? いや、違う。絶対あれは違う。ねえ、ほんとお願いします。殺される前に!」
現在、白猫の下で捕虜(保護)扱いとして働かされているが、高天ヶ原と敵対する真国連の理事長の孫娘でそれなりにいいところのお嬢様。
真国連が開発した対天人用殺人ウィルスの抗体を保有。
なお、当ウィルスは天人を介し突然変異を起こし、天人以外にも感染するようになっている。
感染者は狂人化、自傷しつつも竜血を纏う。
【子分A】
名前はタカトビ。
鼻眼鏡をかけたひょろっとした見た目の男。
昔、お屋敷に忍び込んだ際に幼いアタリヤに匿われて生命拾い。
以来、子分をやっている。
【子分B】
名前はネコババ。
アイマスクをかけたゴリラのような大男。
昔、お屋敷に忍び込んだ際に幼いアタリヤに匿われて生命拾い。
以来、子分をやっている。
【未来園 豪】
里親支援組織の職員で、アタリヤたちの上司、役職は係長。
一見、瓶底眼鏡にボサボサ頭の冴えない中年男。
さりげなくアタリヤたちの行動を見守り、サポートしている。
実は高天ヶ原に潜伏している真国連のエージェントで、怪盗ランナーウェイとして諜報活動をおこなっている。
様々なギミックを操り、天人すら翻弄する。
敵ながらも高天ヶ原の子供たちに人気で、アタリヤも惚れている。
組織に実験台にされ使い捨てられた元部下であるタカトビとネコババは彼によって死亡と報告されている。
突然変異した天人用殺人ウィルスの数少ない克服者で、僅かに竜血への耐性と適性を有す。
【荷電粒子砲】良い子のための性犯罪撲滅最終兵器。
モラルに反した感情を抱いたまま1メートル以内に近づく者に対し携帯端末の銃口を向けると、安全装置が解除されます。
対象の局部に直径30センチほどの風穴を開けることで不審者を無力化、行動不能にします。
件の新型携帯端末をリコール対象とすべく動き出した倫理委員会。
それを牽制すべく、ポルラボ社は相次ぐ児童の被害事件における大人の不手際に狙いをつけ、携帯端末の有用性を訴える姿勢。
保護者が切望する児童の身の安全を盾にするつもりだ。
また、ポルラボ社は本オプション購入費ならびに使用費用を完全無料化、厳しかった取得条件まで緩和すると発表。
以下、廃止された高難易取得条件の一部。
・年齢制限(満十三歳以上)。
・地域自警団への参加経験三年以上の実績。
・地域住民五名以上からの推薦。
・倫理研修の必修義務。
・逮捕歴・違反歴なし。
先日、子供たちは学校で教えられました。
『大人を見かけたら、とりあえず携帯端末を向けて撃ってみましょう。』と。
◇◆◇用語◇◆◇
【ネクタル】
高天ヶ原の特産品である仙桃を丸ごと贅沢に使用した超濃縮ジュース。
アルコール成分は含まれていません。
注・飲む際は必ず水で割って飲んでください。
原材料の仙桃は元々高純度の気を大量に溜め込んでおり、本商品はそれをさらに濃縮した物です。
骨折程度であれば本商品を二、三滴ほど垂らしてコップ一杯に薄めて飲めば数分で治ります。
回復時の急激な栄養素の消費に備え、事前に十分な食事を摂りましょう。
なお、大会などで服用するとドーピング扱いとなります。
【世界樹の雫】
高天ヶ原に古くから出回る幻の飴菓子。
かつては神出鬼没な謎の行商人『おサルさんの屋台』からのみ入手可能だった品。
子供たちの間で裏取引などに用いられていたが、非合法の戦闘『賭け飴』が社会問題となり教育上よろしくないと倫理委員会が摘発、以降、コンビニで委託販売されるようになった。
味はメイプルシロップをさらに濃厚にした感じ。
ネクタル同様、尋常ではない高純度の気を含んだ劇薬。
服用することで気の補給ができるチート回復アイテム。
唾液に溶かしてゆっくりと時間をかけて摂取できるので、原液のまま一気飲みできてしまうネクタルよりは安全。
一粒がスイカほどの大きさで、持ち運ぶには結構嵩張り、保管に場所を取る。
耐湿耐熱性抜群の『絶交シート』で包んだ状態で販売。
世界樹に伝う蔦に葡萄のように鈴なりの実ると云われている。
口に入れて舐めるには割るしかないが、割った瞬間から急激に劣化を始める。
割ったカケラは黒曜石のごとく鋭利だが、心配はご無用、突き刺してもよく効くものなので、口の中を切ってもすぐに癒えます。
これをブッ刺して憂さ晴らしする通り魔や主婦や恋人が結構いる。
購入時に身分証明書の提出が求められます。
他人からの恨みに覚えがある者は近所の店の入荷情報には敏感になったほうがいい。
【妖精さん】
誰にも見えず、聞こえず、触れず。
興味を持った相手にまとわりつき、一方的に五感を共感し満足したら去っていく。
一時期、結構な数が高天ヶ原中をうろついていたらしい。
【幼児期のスグルと接触した特殊個体】
ドミノマスクを装着した光翅を背に生やすオコジョ妖精。
姿を晒すし、喋るし、触れられるといった特殊個体。
【スグルの妖精さん察知能力】
霊感ではなくただの体感。
幼少期にオコジョ妖精と触れ合い、感覚が鍛えられたのが原因とみられる。
正確な位置まで追えるわけではなく、自分の周囲半径一メートル内に入れば居るとわかる程度。
身に宿る竜霊剣が接近した妖精さんに僅かに反応する挙動をスグルは感じ取っている模様。
【妖精さんの正体】
その昔、子供らのヤンチャを心配する大人たちに頼まれたポルティオンが生み出してばら撒いた人工妖精。
正式名称は『妖精警察』。
子供たちに知られることなく寄り添い、保護者たちの密偵としてその行動を監視していた。
のちに天使と悪魔の如き甘言でもって子供たちの背を押していることが判明し、高天ヶ原からの根絶が決まる。
妖精&子供たちVS大人たちの対図で『妖精大戦争』と呼ばれる抗争に発展した。
子供たちはお菓子の供給を断たれて士気が低下し敗れた。
子供たちの純粋かつ必死の懇願もあり、妖精たちは生かされたままとある場所に幽閉されることになった。
当初はゲーム異世界転生の開催時に異世界限定で活動を許され、そのまま現地へ放逐される予定だったが、諸々の事情により異世界転生は実装延期のまま二十年が経過。
ゲーム中は、異世界を訪れる子供たちを監視するナビ妖精として活動することが計画されている。
高天ヶ原で子供を見守るその役割は、携帯端末の機能『常時生体モニタリング』に引き継がれた。
根絶したはずの妖精さんを見たと主張する子供はそれなりにいる。
どこで知ったか、事件を起こした子供がする定番の逃げ口上が『妖精さんに唆されたんだ!』である。
発言した子は問答無用で要監視・保護対象になる。
【妖精王】
白猫妖精たちの王。
白猫妖精をベースにして生み出されたポルティオンの分霊。
現地での細い調整役を任せるため、幾許かの力を与えて他に先行してゲームの舞台である異世界に送り込んである。
放逐予定の他の白猫妖精たちも彼に押しつける予定。
白猫と倫理委員会はこの行動に関し『あくまで現場への増援であり、決して扱いに困ったモノを異世界へ遺棄するわけではない』と弁明している。
現在、音信不通。
【警察】
世間一般が知る警察とは別物。
高天ヶ原の警察とは、武力で街の治安を維持する集団であり、保安官というか用心棒というか賞金稼ぎというか青年会というか元悪ガキというか、ヤンチャをする不良をシメる番長的なもので、必殺仕事人に近い連中の集まりである。
総本山として存在する倫理委員会が治安維持活動を委託している。
一般構成員の年齢は中学生〜三十歳くらい。
子供の時分にやらかして貯め込んだ負債を、警察として労働で返済している元問題児もいる。
警察官=冒険者で、警察署=冒険者ギルドという認識でかまわない。
署員は近隣住民から持ち込まれる嘆願書を分別し依頼書を作成、対応可能と判断した警察官に公募する。
警察官に求められるのは抑止力となれる強さや伝説で、現警察官の推薦があれば見習いには即時なれる。
正規警察官になるには弁護士資格の取得が必須。
その上で警察本部(高天ヶ原)による面接、文武試験、審査を経て、平和目的武力行使認可証『代紋』と特権『十手』が授与されて、初めて警察官を名乗ることが許される。
『十手』は、制服、携帯端末、飛翔機、護衛機、給与、衣、食、住、殉職手当、名誉の十種からなる。
警察官の収入は基本給+請け負った事件の解決報酬。
依頼料は基本的に依頼者の負担となる。
社会的影響や被害届などの申請が認められれば、高天ヶ原に支援金・見舞金という形で何割かを負担してもらえる。
スグルは警察署の治安能力評価を下げまくる厄介な存在。
スグル世代のヤンチャっぷりは住民にはすでに天災の一種として扱われているものの、彼らの法に抵触する行為に対して、警察は他の子供たちへの抑止力誇示のためにもお仕置きしないといけない。
【コンビニでの強襲戦〜警察署崩落までの流れ】
編成された強襲部隊は対スグル用に編成された精鋭チーム。
今回、同士討ち覚悟でスグルを包囲、弾丸は強力な竜血をも穿ち爆砕貫通する特殊麻酔弾を選び、超電磁砲による弾間隔縦横五センチ千発同時三百六十度面撃ち三連による不意打ちを決行した。
これをスグルは竜体で受けて弾道を流すことで同士討ちを狙った。
全体の約六割が沈黙。
しかし、今回強襲した精鋭部隊には一人の新人が混じっていた。
子供への射撃に怯んだ新人が射撃に遅れたことでスグルは受け流しに失敗。
オデコに命中させたその新人警官は一躍英雄となった。
強襲部隊は英雄を帰還させるために一人また一人と殿を務めて犠牲となっていった。
その後、意識朦朧だったと言い張るスグルの大技『灼土炮烙』により、英雄が逃げ込んだ警察署はその一帯ごと崩落させられる。
今現在生死不明の彼には二階級特進が約束されている。
【灼土炮烙】スグルの拠点強襲用広範囲殲滅技。
地中深くに撃ち込んだ竜血で巨大鍋を作り、大地をグツグツと煮込む。
地表面で融解を視認できる頃には手遅れで、半径数キロに渡るマグマ鍋は完成している。
地中に身を潜めて竜血鍋を熱し続けるスグル自身は己の竜血による加熱のため影響を受けない。
この技の難点は二つ。
仕込みに時間がかかること。
仕込み中は移動できないこと。
地中深くまで広範囲に竜血を広げているため、その場に縫い止められている状態。
あと、途中で降伏されても地上の様子がわからないので気づけない。
まず、冷えて固まったカレーが入った鍋をイメージしましょう。
そのカレーの表面中心部に攻撃対象が立っています。
鍋の底から熱していく。
初めに表面でグツグツし始めるのは鍋に接している外縁部から。
これを目視できた時点で手遅れ。
ドロドロと煮え広がるカレーに囲われてしまい、外部への退路がない。
融解は外縁部から中心部へとじわじわと広がり迫ってくる。
見えない真下からも融解は進む。
最後まで影響が出ないのが目標がいる表面中心部。
でも、大丈夫。
空中へ飛んで逃げましょう。
*警察署一帯の崩落は、鍋を熱し過ぎてコンロ台まで溶け落ちたと想像してみてください。
地下に限りがある浮遊陸で行使したスグルの選択ミス。
*下海に落ちた行方不明の被害者たちは全員無事。
冷えた溶岩に包まれた彼らは深海の海底に散乱しており、各々なんらかの手段で酸素を確保しつつ救助待ち。
先代八姫の海姫に応援要請がいき、再度の養子縁組チャレンジ権と引き換えに交渉中。
巨大スライムワダツミ様が迷惑がっておられるので、海姫が向かう前に撃ち上げてもらえるかも。




