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先生と僕の異世界デバック滞在記  作者: 野良大介
一章 厄災の帰還
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エマージェンシー

 治療のおかげで僕への好感度がかなり上昇したらしい。

 信用を得たようで、僕の待遇が目に見えて改善された。

 ちょっと治療しただけなのに案外チョロいね。


 ここ、魔法がある世界なのにちゃんとした回復魔法を使える人は少ないんだって。


 これから先出逢う異世界人とも治療を通して友好関係を築こうかなと思う。

 手頃な魔物を見かけたら殺さず追い払い、逃げた先に向かえば怪我人には困らないだろう。


 この喜びようからすると、大人たちもジャズの生命を軽んじていたわけではないみたいだ。

 こんな場所で開放骨折しちゃった人間の生存率は、この世界ではそれほど絶望的なものなのか。


 うん。やはり褒められるというのは気分がいい。

 もうちょい褒められたい。

 ちやほやされたい。


 ケモ少年の傷も治療してあげようかな。

 獣人の作りにも興味があるし。


 ………………。


 ケモ少年を気絶させるのにちょっと苦労した。


 獣人がタフなのかこいつが鈍いのか。

 加減が難しい。

 下手に本気出したら殺しちゃうし。

 段階的に威力をあげていって、結局、上手く気絶させるのに十数回も腹パンするはめに。

 上手くいったのか、蓄積ダメージで気絶したのかわからない。


 治したのはアサルトゴブリンにやられた傷とその止血のために負った火傷だ。

 それとあちこちの打撲。


 そのほかは診た限り、古傷はたくさんあれども完治している。

 今回負ったケガ以外は特に問題はない。

 ただ一つ。

 この子は心臓移植らしきもの受けている。

 完全に馴染んでいるし。

 高いのか低いのか、この異世界の医療水準がよくわからない。


 人間のジャズとは随分反応が違う。

 勝手に気を貪る。

 チョイチョイアシストするだけで火傷の痕跡も残らず完治していく。


 ケモ少年の肌はしっとりしている。

 独特の皮脂は傷薬に近い成分を含んでいるようだ。

 ベタベタはしない。

 ケモ少年を撫で回せばハンドクリームはいらないだろう。


 でも、おすすめはしない。


 すっごく獣臭いからだ。


 鼻をつまむタイプのニオイではない。

 ついつい嗅いでしまうタイプのニオイだ。

 動物好きならクセになるかもね。


 でも、僕は手を洗う。


 ケモ少年の治療を終えると、おっさんにも素直に喜ばれた。


 ……あ、あれ?

 ケモ少年を手荒く治療したおっさんへの当てつけのつもりだったんだけれど。


 ま、いいか。気分いいし。


 もっと浸りたい。


 このおっさんの首、隕石でも降ってきてへし折れないかな。

 治して治療代をふんだくってやるのに。


 上を見上げていたら雨が降ってきた。


 いや、降ってきたというより流れてきたというべきか。

 ここって、天井の樹々の葉で一旦受けてから落ちてくるからね。


 天然の雨だれによって集まり、蛇口を捻ったような小さな滝が、樹海に幾筋も生まれていく。


 雑草が生えてないような歩きやすい場所はね、理由があってそうなっているんだ。

 獣道だったり、今回のような地上に降った雨が河のようになって流れた跡だったりする。


 枯れ川とか言うんだったかな。

 僕らはこれから起こることを生き物に見立てて『みずちの遊歩道』とも呼ぶね。

 雨が降り始めたら早々に本来の主に道を譲らないと危ない。


 しばらくすると、僕らのいた場所に『みずち』が帰って来た。


 濁流の中、流木や岩が進路上を塞ぐ大岩にぶつかって爆砕する。

 木っ端微塵になった漂流物に遅れて、大岩も行進に参列。

 濁流に呑まれてゆっくりと下流に転がっていく。


 今僕らがいるこの休憩場所は、こういった自然の化身に巻き込まれない場所を選んであるよ。

 ここには空からの滝も注がない。

 周囲の環境変化の予兆も見逃さずにすむ場所だ。


 樹海の環境が安定するまで、ここで休憩することになった。


 ◇◆◇◆◇◆


 友好度上昇をきっかけに、彼らから得られる情報量が増えた。


 彼らが住んでいるのは街ではなく村なんだってさ。

 都会じゃないのか。ちょっと残念。


 現在、ゴブリン大量発生に伴い緊急体制が敷かれているらしい。


 大規模ゴブリン討伐が行われている中、敵に捕縛されてしまった少年兵二人とそれを救助するために編成された小隊四人。


 小隊のリーダーは、ハンサムなガラドルさん。


 少年たちが所属する共同体クランの『親方』さんらしい。

 お偉いさんが自ら下っ端を救助に来たのか。

 好感が持てる。

 第一印象は大事だね。


 それに比べてもう一人の頭と態度と性格と口が悪いおっさんのほうはダメ。

 和解しても、未だになぜか無性にムカつく。


 名前はジョナサンだってさ。


 名前の語尾に『サン』とつくせいで、呼び捨てても敬称っぽくなるのが腹立たしいよ。

 こっちでは通じない話だけれどさ。


 青年コンビは騎士団の若手エースたち。同期でライバル同士らしい。村に所属する領主に仕える騎士だけど、二人ともガラドルさんのとこ出身者で、後輩たちを救うため今回の救助隊に参加したらしい。


 年上には体育系の口調「〜っス」で話しているチャラい人がバランさん。


 干し肉をゴブリンに触れた手で渡してきた、面倒見はよさそうだけどエチケットにちょい欠けた無口な人がヘイズさん。


 少年兵二人の紹介は、彼らへばって休んでいるからまた今度だ。


 彼らから新たに得た情報をまとめると、今回のゴブリン騒動の全容はこうなる‼︎


 ◇◆◇◆◇


 約三カ月前、ゴブリンの大量発生を樹海内で確認。周辺には外出禁令が発令される。村の騎士団と冒険者ギルドによって討伐隊が結成されて対処を開始。


 討伐隊によって順調に駆逐は行われ終息に向かっていたが、足止めされていた貴族が再三の領主権限による制止にも関わらず禁令を破り、妻たちとメイドたち女性を含む大勢を引き連れて自領に向かって旅立った。


 数日後、貴族の騎士たちが命からがら村に辿り着いてしまい、救助要請を出してきた。彼らは足止めされた時間を取り戻すために無謀にも樹海を横切るという暴挙に出て、ゴブリンの群れに遭遇、壊滅したらしい。


 村と冒険者ギルドは貴族の救助要請を無下に拒否れず、樹海内に取り残された馬鹿貴族たちの救助のために、討伐隊から多くの人員を割くはめに。


 馬鹿貴族の救助に成功するも、妻たちを含む女性は全員死亡。全て潔く自決したと主張する生き残った馬鹿貴族。女性たちの遺体がなかったが、すでに手厚く葬ったと言ってその証拠になる遺体の開示、回収を拒んだらしい。王族の遠い縁者というその貴族の地位、それに不名誉、冒瀆と言われては一般冒険者ではそれ以上の追求はできず、冒険者たちは貴族から袖の下も受け取り、問題なしと報告してしまう。


 その一月後、進化したハイゴブリンの目撃例が次々と報告される。駆逐を行なっていた包囲網が崩され、作戦の見直しを余儀なくされる。


 領都からも援軍が増員されて討伐隊を再編成。


 今から一月前に第二次大規模一斉掃討駆除が開始。


 ケモ少年たちの部隊が馬鹿貴族の家紋付き鎧で身を固めたアサルトゴブリンを森で発見。報告のために撤退しようとしたところ、隊の冒険者連中が造反。発覚を恐れた貴族の息がかかった連中だったらしい。ケモ少年たちの部隊が半壊。


 そこにアサルトゴブリンが強襲。冒険者たちは全滅。ケモ少年たちは捕まった。


 事態を把握したガラドルさんたちは精鋭だけで救助隊を結成。アサルトゴブリンたちの痕跡を追い、ケモ少年たちを発見。そのまま住処を暴こうと追跡していた。


 ◇◆◇◆◇


 ……ということらしい。


 そこに謎が謎を呼ぶ勇者ライトニング(僕)の登場。


 で、今に至ると。


「全部バカ貴族のせいか!」


『ふむふむ。ここ数日の間、村の討伐隊とスグル君とでゴブリンたちの繁殖地を挟み討ちにしていたんですね。……でも、おかしい。彼らはどうやって少年たちが窮地に陥ったことを知ったのでしょうね? 少年たちの隊は少年たち以外全滅したんですよね? 探索中なら各隊には距離があるはず。対応が早過ぎる気がします。その辺りの説明がなかったですね。生存者がいたのならわかりますが、少年たちは彼らと合流後、一切ほかのメンバーの安否を確認していませんし、報告もしていません』


「うん。僕もそれ気になった」


 あと先生の視線もね。


 先生は僕の視覚を利用している。実は僕のほうでも先生が覗き込んでいるときには僅かな違和感を感じるんだよね。


 先生はジョナサンたちの影を一瞬だけど見た。僕にはなにかあるようには感じないけれど、彼らはなんらかの魔法を使っているのかな?


 ……そういえば、時折、自分の影を靴底でトントンと小突くんだよね。おっさんとガラドルさんの二人。念のため彼らの影には気をつけておこう。


『親方さんがスグル君に話したその情報ですが、おそらくすでに広く公開されている内容なんだと思います。治療でいくらか信用を得たとはいえ、さすがに口が軽過ぎますよ。むしろ彼らには広まってほしい情報なんでしょう。それに内容を聞いたスグル君の反応を見ていましたね』


 いいえ。僕の聞き上手なボディーランゲージの為せるワザだよ。反応を見られていたのは僕だって気づいていたよ? 本当だよ?


 さて。ここでエマージェンシー! 問題発生。


 彼らが懸命に探しているらしいアサルトゴブリンの発生点なのだけれど、それらしき巣穴を僕はすでに駆逐している。


 で、僕はそこの巣穴の最深部であるものを発見したんだ。


 そこのボスの寝床に大量に敷いてあった布だ。


 引き裂かれた女物の衣服だった。


 家紋っぽい金の刺繍が施されていて、元は上質の絹のドレスだったんじゃないかと思うモノ。血だらけで変な臭いがするから念入りには確認しなかったけどね。


 それらはそのまま現場に放置してある。


 これは教えたほうがいいだろう。教えてなくてもそのうち見つけるかもしれないけれど報告すべき。


 彼らに恩を売ろう。追加でお金がもらえるかもしれないし。もっと褒められたい。


 ただ、そこで問題が。


 僕、そこで見つけた装飾品類だけは戦利品として入手しているんだよね。


 僕の背負ったこのリュックの中に入っている。


「これさ、この人たちが欲しい証拠物なんじゃないのかな。どっかの家紋らしきモノが付いていたし。もしかすると没収されちゃう?」


『ゴブリンの進化に加担してしまったその貴族の行動に対しては国家反逆罪が適用されます。国家というか世界的に罰せられる行為です。見せしめとしても大々的に罰せられるハズ……なんですが。遠縁とはいえ王族に連なる血を汚したことになるんですよね。事態が終息した今の状況だと、国がその辺の事実を隠蔽、歪曲しようとするかもしれないですね。でも、それを突きつければ決定打となる動かざる物的証拠に。スグル君の背中で揺られながらここまで移動してきましたけどね。それらはいろんな使い方がある便利なアイテムですよ』


「えー。先生だってもらっていいって言ったじゃん!」


 闘気で念入りに洗浄してリュックに入れたんだもん。


 ヤダよ? 戦利品だよ。


 提出なんてしたくない。これはもう僕のものなんだい。

読んでくださってありがとうございます。

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