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先生と僕の異世界デバック滞在記  作者: 野良大介
序章 ポルティオン先生とスグル少年
1/56

第1話 スグルと妖精さん

 ◇◆◇◆◇ーーーーーーーーーーー◇◆◇ーーーーーーーーーーー◇◆◇◆◇



「こにゃにゃちわ〜」


 ……おや?

 妖精ストーカーさん、キミは新顔だね。

 なら、軽く()()()()をしておくよ。


 僕は、日向ヒナタ スグル

 この高天ヶ原の街に住む、ごくごく普通の美少年だよ。

 今年の四月四日で十歳になりました。


 僕のことは『スグル』でよろしく。

 そう、下の名前だけをカタカナで呼んでね。

 苗字の『日向ヒナタ』はあまり好きじゃないの。

 僕の戸籍を作るためだけに用意されたものなんだ。

 人工子宮で製造された僕に同じ苗字を名乗る家族や親戚はいない。

 将来結婚できたらお相手の苗字をもらって捨てちゃおう、なんて思っているの。


 下の名前の『スグル』もね、気に入っているわけじゃない。

 みんな、言ってくれるんだよーー



 ◆◇▼◇◆ーーーーーーー◇【三日前の回想】◇ーーーーーーー◆◇▼◇◆


『(う……うぐ……し、死ぬ……)』

『……ダメだ。首の骨が折れてる』

『そんな……まだ保険の受け取り先を私にしていないのに……!』

『あ、ごめんね。その人を助けちゃってもいいかな?』

『見ろ。こいつ、『世界樹の雫』なんて持ってやがるぞ! くそぅ、見せびらかしやがって!』

『いや、その人にあげようと思っているんだよ。おじさんたちもほしいならあげようか?』

『マジで!?』

『待て、早まるな。俺は騙されないぞ。きっと持ち上げるだけだ』

『ほ、本当だってば。ほら、落ちたのでよければあげるから食べなよ。あれ? あっ、この人吐いた、汚い! 殺していい?』

『……お前、本気で俺たち警察に施す気か?』

『うん』

『この惨状を拵えたの、自分なのにか?』

『うん』

『本当は『()()()()()()()()()だった』、そう言わせる気か? 鬼畜だとかそれ以上だとかそれ以下だとか散々俺たちに言われているお前が……』

『またそれ? ……ったく! 安心しなよ。このまま放置したらまた倫理委員会に呼び出されちゃうでしょ? 単にそれがイヤなだけだから。それより、この人何度やっても吐く。ハイ、バトンタッチ!』

『え、俺にやれと? しかもこっちから?』

『うん』

『(うぐぐ、みんな、騙されるな! このガキはなにか企んでやがーーぐあああああッ!?)』

『すみませーん、わたくし、高天ヶ原TVマルヒスクープの黄門オウド ヒラクと申します。事件ですか? よろしければ取材をさせてもらえーーややや!? イケメン警察官さん同士でナニをなさっておられる!? コレは大スクープゥッ!!! カメラさん、構わないから回しちゃって!! そう! その角度がいい! こちらも生で繋ぎましょ!』

『違う! もっと激しく! ときにはフェイントも入れて! ダメだよ。ちゃんと奥までズッコンズッコンと……あ! 今反応した!? だったら口で摂ったほうがよくない?』

『そうだな』

『(だ、誰か! 助けてくれ! くっそぅ! 首の骨だけじゃない。ご丁寧に顎や腕や脚、肋骨まで折られてる! やめろぉ! やめてくれぇ! それは今そこに突っ込んーーぬあああああああああ……アーーーッ!!)』


 ◆◇▲◇◆ーーーーーーーーー◇【終了】◇ーーーーーーーーー◆◇▲◇◆



 ーーうん、褒めてくれてありがとう。


 でも、その『優しい子』ってどうなの?

 だって読みは『スグル』でしょ?

 なんで真っ先に頭に浮かびそうな『優秀』をガン無視しちゃったのかな。

 僕、『優しい子』と言われるたびに『お前、優秀じゃねえなw』ってディスられた気分になるんだけど。

 どうしてみんなそんなに死にたがり屋さんなのさ。


 …………。


 はい、いつもの無反応スルー


「変種かなと期待したけど、この妖精ストーカーさんもハズレか」


 まぁ、()()()みたいなのがそうそう居ても困るけど。


 これが一般の妖精さん。

 姿を見せず、喋らず、触れさせず。

 ただふらっとやってきては勝手に他人の五感に便乗し、気が済めば去っていく存在。

 ・ピーマンを噛み砕く。

 ・トイレに駆け込む。

 ・キビヤックの仕込みを確認しにいく。

 妖精さんを撃退する方法は僕にまでダメージが入るものばかり。

 基本、いないものとして無視しちゃうのがベターだ。


 多分、妖精さんの正体は高天ヶ原の旧監視システム。

 昔、子供の安全を守る名目で人外の肉球《手》を借りて高天ヶ原中にばら撒かれていたやつだと思う。

 なんらかの不都合があって僕が作られるより前に全て強制撤去されたと聞いている。

 でも、こうして回収を逃れて野生化している妖精さんを見かける。

 取りこぼしを隠蔽しているのか、それとも、回収済みと偽って今も運用しているのか。

 野生化した妖精さんを高天ヶ原上層部は頑として認めていない。

 それどころか、目撃報告をした者に対し、専門家のカウンセリングを無償で勧めてくるというスタンス。


 僕もその被害者で、

 僕を不思議ちゃん認定し一部の大人たちから生暖かい目で見られている。


 許しがたい。

 なんとしても妖精さんが実在しているこの事実を証明せねばならない。


 あ、そうだ。

「妖精さん。コレ大事なことだから覚えておいて。僕、人前では妖精さん(キミら)の相手はしないから」


 こんなふうに察知できることは内緒。

 特にクラスメイトには知られてはいけない。

 多分、連中にバレたらーー


『さぁ、行け。お前と友だちになってくれるやつがこの宇宙のどこかにはいるぞ』


 ーーって、生温かくされるか、


『悪霊退散。ついでにこいつも連れて逝け』

 

 ーーって、味塩胡椒をぶっかけてくる。


 加熱も味付けも僕には不要。

 こうして実際にいるんだから。

 妖精さんは大人たちが思っているような、寂しい僕が生み出した幻でもなければ幽霊の類いでもない。

 ……。

 ぐぬぬ……歯痒い。

 わかっている。

 僕以外に知覚できない以上、払拭しようと足掻けば足掻くほど僕の不思議ちゃん疑惑は泥沼化する。

 やるなら決定的な証拠が必要だ。


「だから、あいつだ。あいつさえもう一度捕獲できれば全て解決できるんだ」


 人外に伝手ができた今の僕にはそれが可能。

 なんでここにいるんだろうって意味では妖精さんたちにも圧勝しまうあの人。

 実物持参で弱みでもぎゅうううううと握ってあげれば、快くあの肉球《手》を貸してくれるはずだ。


 あれ? 

 妖精さん、今、反応したよね?

 珍しい。

 ……もしかして、僕が言った『もう一度』が原因かな。


「あれれぇ、妖精さんったら気になるぅ? くっくっくっ。そうだよ、『もう一度』だよ。実は僕、過去に一匹だけ、キミらのお仲間の捕獲に成功しているもの。それも妙に個性を主張するレアなやつをね」


 まだ僕が幼い頃の話だ。

 僕のおやつをたかりに来る、変わり者の妖精さんがいたのさ。

 あの外道は、ほかのと違って姿を見せるし、さわれるし、食べるし、話しかけてもきた。

 見た目は、背中に光翅を広げたオコジョ、そんな感じだった。

 あと、変なお面もしていたな。



 ◆◇▼◇◆ーーーーーーー◇【幼い頃の回想】◇ーーーーーーー◆◇▼◇◆


『こにゃにゃちわ〜!』

『(それ、やめてもらえませんかね? 赤の他人ですから。ボク、キミの前で関西弁なんて喋ったことないでしょ?)』


『僕のお友だちになってよ!』

『(う〜ん、ごめんなさい。もう少し下心を隠して。その元ネタは知っています。その台詞に、そのポーズ。ボクを便利アイテムとして消費し切る気満々ですよね?)』


『僕と契約してお友だちになってよ!』

『(う〜ん、ごめんなさい。なんだろう。その元ネタは知らないのだけれど、それをかす輩とは絶対交わしちゃダメだとガン…僕のカンが言っている)』


 ◆◇▲◇◆ーーーーーーーーー◇【終了】◇ーーーーーーーーー◆◇▲◇◆



 ぐぬぬ……!

 思い出したらものすごく腹が立ってきた。

 幼な子からのお友だち第一号認定だぞ?

 それをあんなに頑なに固辞しやがって……!


 あ、誤解はやめてほしい。


 あのときの僕が初手から下手に出たのは、そのときちょっぴり弱気な状態だったからだ。

 今以上にお友だち作りに躍起になっていた時期だった。

 でも、いくら倒しても誰も仲間になりたそうに見つめてこないどころか、起き上がってもこない。

 HPを0にしちゃったのがいけないのかとも思い、工夫も凝らした。

 ギリギリ死の淵まで追い込んでから生きたままボールに閉じ込めたり、ドラム缶に詰めたり、港に沈めたりと。

 でも、全部失敗に終わった。

 そんなときに遭遇したのがあんなレアモノだった。

 だから、ついテンパっちゃったの。


 当然、幼い僕は固辞されたくらいで諦めたりしなかった。

 すぐにやるべきことを実行したさ。

 友だち作りに必要不可欠なアレだ。



 ◆◇▼◇◆ーーーーーーー◇【幼い頃の回想】◇ーーーーーーー◆◇▼◇◆


『……ヘルス・イズ・ヘブンッ!』

『(うわぁ、この子なんか末恐ろしいこと言い出したぞ!? まさか、その歳で沼に……?)』


 ◆◇▲◇◆ーーーーーーーーー◇【終了】◇ーーーーーーーーー◆◇▲◇◆



 そう、暴力、だよ。


 あれ? 妖精さん。

 今、僕のことを野蛮人だとか思わなかった?


 ブッ飛ばすぞ。


 心外だよ。

 僕が振るったのはただの暴力じゃない。

 想いをぎゅううう……! と込めた渾身の一撃だよ。



 ◆◇▼◇◆ーーーーーーー◇【幼い頃の回想】◇ーーーーーーー◆◇▼◇◆


『……ガァ……ギィ……グゥ……ゲェ……ゴォオ〜ッ!』

『(あ、それアレのパクリですね。よかった。でも、そんな紛い物でこのボクを掴み取れると思ったら……ぶふぅッ!? あれれぇ、な、殴ったぞ!? 二度も!? 違う! この子、ボクを掴み取る気なんてさらさらない。これ、ただのダブルスレッジハンマーだ! 撲殺するつもりだ!)』


 ◆◇▲◇◆ーーーーーーーーー◇【終了】◇ーーーーーーーーー◆◇▲◇◆



 『僕はお前をボコれる』

 『いつでもボコれる』

 『いつまでもボコれる』

 『死にたくなければ諦めちゃいなよ』

 『終わらないこの苦しみから逃れる方法はたった一つ、僕とお友だちになることだけだよ』


 そんな想いを込めてこれでもかとぶつけてやった。

 相手の凝り固まったプライドやら価値観やら交渉の邪魔となるものを、肉体ごと粉々にほぐしてやるんだ。

 コテンパンにしたら、あとは放置でいい。

 後日、自分で砕けた心のパーツとキャラを組み立て直して再登場するそうだ。


 この『お友だち』の作り方は昔の漫画で学んだ。

 確か、タイトルは『友♡誼♡王』だったと思う。


 漫画やアニメやゲームって素晴らしい文化だよね。

 面白いだけじゃなく、人生の教科書となって僕にいろいろと教えてくれる。


 読んで、遊んで、判明した衝撃の事実がある。

 お友だちには残念な性質があるらしい。

 

 『入手すると弱体化してしまう』


 考えてみれば当たり前な気がする。

 説得の過程で一度HPを0、もしくは、真っ赤になるくらいの瀕死の状態に追い込んでいる。

 その際に、お友だちの目が潰れたり、手足がもげたりしているとしたら?

 弱体化は当然じゃないか。

 気づくのに遅れた理由は漫画やアニメやゲームだとその手の表現は省かれているせいだ。

 『()()()()()』ってやつが関係している。

 どうも、本来自由であるべき漫画やゲームに大人たちが余分な制限を加えて表現を歪めているっぽい。

 情報公開を求めたけれど、大人たちは『十年早い』と言って一切応じてくれない。 


 開示請求は続けつつ、僕は独自に調査をおこなうことにした。


 その過程で、金を使って入手できるお友だちの類似品があることを知った。

 お金で殴った相手の口から『こんこ゛とも よろしく・・・』という言葉が出てきたら成功。

 ただし、この方法で得た場合はお友だちではなく『なかま』だ。

 なぜかそう呼ばなければならないという。


 お友だち入手のヒントになるかと、『なかま』を入手しようと思った。

 でも、ダメージに期待できるほどの量の金塊なんて用意するのは大変だ。

 だから僕は考えた。


 相手()()()シバくのではなく、相手()()()シバいたらダメかな、と。


 試してみた。


 実験はアクシデントの連続。

 大変だった。

 クラスメイトの隙と股間を突いて実験体を用意、そこまでは順調にことが進んだ。

 しかし、どこから嗅ぎつけたのか。

 救急隊に強襲され大事な実験体を掻っ攫われてしまった。

 連中は街の地面を割って出てきた宇宙戦艦の中に逃げ込んだ。

 戦艦には先乗りしていた警察がすでにいて、迎撃兵装を駆使し実験体の奪還の邪魔をしてきた。

 街は火の海となり……まぁ、その辺の警察との攻防はいつものことだし、省略する。

 問題は、猛攻を頑張って掻い潜って甲板に取り付いたあと。


 そこに実験体の母親が腕を組んで待ち構えていたんだ。



 ◆◇▼◇◆ーーーーーーー◇【回想(先月の出来事)】◇ーーーーーーー◆◇▼◇◆


『がぼぼグボばばぼ(くっ! なんて水圧だ。まともに動けやしない! まさか、これが海姫の十八番、悪名高き『水瀑アケロン』ってやつか!! かつては連日学校や街を呑み込んでいたとかいう。じゃあ、この人が【海姫】なの!? くそぅ、ハメやがったな!? クジラめ、自分の母親が伝説の化け物だなんて大事な情報を僕に黙ってやがった!! この人、『良い子の高天ヶ原での生存戦略(サバイバルブック)』の巻末『遭遇したら諦めよう(デットエンド)』に名を連ねているんだぞ!?)』

『あらあらあらぁ、可愛い。おしゃぶりなんて咥えちゃって。ふふ、冗談よ。今の子がその裏技よく知っていたわね。名札バッチを口に咥えると深海でも宇宙空間でも呼吸ができるでしょ? 実は内部にある小さな穴がどこかの亜空間と繋がってるの。子供たちの会話に聞き耳立てるための穴よ。あの人って、どうしてオーバーテクノロジーを駆使してるわりに微妙に狡くてアナログなのかしら。あ、そのバッチ、下海に落としちゃダメよ? そのまま放置すると次の日には干上がって叱られるから。懐かしいわね。お元気かしら、あのとき海の底にいた巨大スライム(ワダツミ)様』

『ブボぼぼ、バボボぼ(やるな、オバサン。さすが歳を取っているだけのことはある。だけど、この程度の攻撃で僕が折れると思ったらーーぎゃあああっ!! 折れた! 折れた! 指が! 腕が!!)』

『うふふ、噂に違わない子だこと。やっぱり子供はそのくらいヤンチャがいいわね。ウチの子はおとなし過ぎるのよ」

『ぼふゥ(お、お姉さん……)』

『あら、事実をありがとう。でも、『アイム ユア マザー』。これからは私のことは『お母さん』と呼んでちょうだい。というわけで宣言するわ。獲ったどー! 今日から坊やは私の子よ! さぁ、凱旋しましょうか、我が家に! あら? 腕がもげたわ。ふふ、坊やったら、蟹の遺伝子まで組み込んであるの?』

『バボ、ボバばばばぶぶぶっぼう(ちょっと、そこの潰れかけている警察! なにしているの!? そんなところで白目剥いている場合じゃないってば! 仕事してよ! 今の聞いたでしょ? この人、公然と児童虐待して誘拐を宣言した!)』

『この書類のここにね、合意の拇印がほしいの。治療ポットに漬けてあるウチの子が()()()次第、これを役所に提出して正式にウチの子のお婿さんに貰い受けるから。あ、ちょうどいいわ。この腕の指でやっておくわね』

『バッボうぼぼバボぼ(やめろ! ええい! こうなったらこのことを倫理委員会に通報してやる! いいのか!? そんな横暴、わからずやの倫理委員会は黙っちゃいないからな!?)』

『この話はその倫理委員会からいただいたのよ? どうぞ、って』

『倫理いいんかーーーいぃ!! ごぶ、ぶぼぶ(本当わからない。あの連中一体なに考えているの!?)』

『いやぁ、まさかこんなカタチで一姫二太郎の夢が叶うとは思わなかったよ』

『あら、ダーリン。おかえりなさい』

『ぶぼはぁ(隙あり! 喰らえ! 必殺! いきなり輝爆剣メガブレイクゥッ!! ……って、ぐあああああああッ!?)』

『こっちはこの通り順調。私の手を焼くどころか自分で自分を煮ているけど、もう少しよ。そっちは? いい感じの結婚式場は押さえられたの?』

『ああ、ハニー、万事上手くいったよ。先生がね、口利きしてくれたんだ。ついでにみんなへの告知や諸々の手配とかも全部やっておいてくれるそうだ』

『ブボふう(ぐぐっ、なんだ今の爆発は!? クソ! だったら、次は加減はしないぞ。全力でいく!! 必、殺! 裁断双刃トリニティ・エッジッ!! か〜ら〜の! 超、必、殺ぅ! 真・裁断双刃ジャッジメントォッ!! 今度こそこの一億度を軽く超えるかもしれない一撃で……って、うぎぃやああああああああああああああああッ!?』

『あ、キミ。ちょっといいかな?』

『ぶばあああ……ぼ?(ぐあああ…………って、なんなの? 今、僕は謎の反撃を喰らって忙しいんだけど!?)』

『それはごめん。でも、見ていられなくて。老婆心ながら忠告をさせてほしい。そんな高熱を発するような大技を水中で使っちゃダメだよ。武器が要るならこうやって周囲の水を閉じ込めて圧をかけるなりしたほうがいい。あと、いちいち必殺と叫ぶのもどうかな。こうして仕留め損なっちゃったあと恥ずかしいよね? キミ、今ほっぺたが赤いけど、それ、火傷だけが原因じゃないんだろう?』

『ぼぼぼ(ぐぬぬ…、卑怯だぞ、精神攻撃なんて! カテラリーのカケラ…ん? デリバリー? カネカシ? ……ええっと、とにかく、これだから大人は嫌なんだよ! 親切なフリしてズカズカと。てか、オッサンも地味に強い。奥さんを盾にすることに一切躊躇がないところなんて、なんだか痺れるよ。でも、その助言は怪しい。だって男に老婆心なんてあるがわけない。あるとしたらそこのオバさんのほうーーぎゃああああっ!! 今度は脚! 両脚が!!)』


 事前の情報収集は大事。

 それを改めて学んだ出来事だった。

 これもあとで知ったんだけど、クジラの両親は二人ともバケモノ揃いのウチのクラスの大先輩、それも初代卒業生(OB)だった。


 そんな格上を二人も相手にした迂闊な僕は絶体絶命。

 危なかったよ。

 あのままだったら僕はお持ち帰りされていただろう。

 でも、幸い、そこに救世主が現れた。


『スグルゥウウウウウウウウウッ!! どこだぁあああああ? 差し出せぇええ! お前のをぉお。絶対零度で分子分解してあげるからさぁああああ!!』


 怒れる実験体三号こと、海月ミツキ 久白クジラの乱入だ。


 治療ポットを内側から破壊し出てきたあいつは、そのまま宇宙船内で暴れまくってくれた。

 その混乱に乗じて僕は燃える街に逃げ出すことに成功した。


『やはり天才かしらね。クジラ、名案よ。というか、私ったらなんであの場で思いつかなかったのかしら。そうよね、息子の息子が無事だったからって諦める必要はなかった。あの子のほうをお嫁さんにしちゃえばいいだけ。さぁ、そうとなれば善は急げよ。ダーリンも手伝って。あの子をもう一度捕まえて潰しましょう! ……まぁ、ダーリン、なんて凶悪なお顔。素敵よ。あなたもあの子を気に入った?』

『うん。いいね、彼。見ていて飽きない。どんな手を使ってでも欲しくなったよ。こっそり海水に溶かした神経毒がさほど効果なかった。一応、巨大スライム(ワダツミ)様にも効果があったものなんだけど。養子になるのが嫌なら僕の助手になってもらえないないかな。でも、説得に苦労しそうだ。さすが現役の高天ヶ原っ子なだけあってなかなかの手練だよ。どうしたものだろうね。……そうだ。キミの水瀑アケロンで高天ヶ原の街ごと沈めちゃってくれるかい』

『ええ。こうかしら? でも、どうするの? あの子、名札バッチを持っているから息継ぎできるわよ?』

『ふふふ、子供を寝かしつけるだけなら溺死以外にも手はあるさ。おーい、クジラ。全力で凍らせてくれ』


 その後も被験体を変えて実験を繰り返したけれど、いずれも失敗に終わった。

 誰一人なかまにならないばかりか、被験体の母親の多くが息子の戸籍の性別変更手続きの準備を始め、僕に襲いかかってくる。

 僕がこの実験で誕生を望んだのは、あくまでなかま、オカマじゃない。

 これ以上は危険だと判断して、この実験は封印したんだ。


 ◆◇▲◇◆ーーーーーーーーー◇【終了】◇ーーーーーーーーー◆◇▲◇◆



 友だち作りが上手くいかない理由に一つ心当たりがある。


 頭蓋骨や胸骨。


 それらが僕の想いが伝わるのを邪魔している気がする。

 打ち砕いて心に直送ダイレクトアタックできればあるいは……。


 でも、心ってどこにあるの?


 脳? 心臓?

 それとも別の場所?


 少し変な言い方になるけど、もし当てても外したらアウトじゃないか。


 僕が友だちにしてやろうと思えるほどの相手となるとかなり希少な存在。

 それを半分以下の成功確率にかけて失うのはもったいない。


 オコジョ妖精(あいつ)

 

 貝を割るラッコくらい、ガガガ! ガガガ! と頭蓋骨や胸骨だけでなく全身隈なくやってやったさ。

 だけど、あいつはやたらと頑丈だった。

 当時の僕の実力ではどこも砕けずに終わった。


 それでも幼い僕は諦めたりはしなかった。

 サスペンスでいうところの『()()()()()()()()()()()()』の不屈の精神で頑張った。

 手持ちの技を順に試していき、なんと三つ目であっさりと捕獲に成功したんだ。


 『宇宙船地球号二世(お友だちボール)』。


 あいつを捕まえるのに成功した技の名だ。

 元々はお友だち(モンスター)をゲットしたらポケットに入れてお手軽に増やそうと思って編み出した技。

 理由は不明だけど、当時の僕は、なぜかどんなものでもポケットに突っ込んでブッ叩けばいくらでも増えると信じていたの。


 宇宙船地球号二世(お友だちボール)は難しい技じゃない。

 ①、土や岩とか近場にある物に竜血を込める。

 ②、竜血で土や岩を操り、ターゲットを包み込む。

 ③、転がして丸めつつ、追加しながら固めていく。

 あとは①②③①②③……と繰り返していく、ただそれだけの技。


 ポケットに入るほどに小さくはできなかった。

 球体はある程度大きくなると、以降はそれ自体が勝手に周囲から物を集め始めるから。


 あいつ、その技自体はかわしたんだよ。

 でも、なにを気に入ったのか、自分から出来たボールにしがみついて離れなくなった。

 その姿はフンコロガシみたいだった。



 ◆◇▼◇◆ーーーーーーー◇【幼い頃の回想】◇ーーーーーーー◆◇▼◇◆


『(……もぉー、地上に星なんか作っちゃダメ。みんなどこへ行った〜? この中ですよ! どうするんですか、コレ。圧縮が全然足らなくて、こうしてボクが抑えていないと手を離した途端に大爆発。この母星欠けて、どこぞの企業のリンゴマークみたいになっちゃいますよ。とりあえず補強して衛星軌道上に打ち上げておくか。よし! ……って、そこなにしてんだコルァーッ!!)』

『あ、三個目は待って。もうちょっとかかる』


 ◆◇▲◇◆ーーーーーーーーー◇【終了】◇ーーーーーーーーー◆◇▲◇◆



 当時の僕はまだ三歳の純粋な幼子だった。

 そうやって妖精さんの捕獲には成功したものの、そのあとの選択を間違えた。


 捕まえたあいつを研究所の大人たちに見せてしまったの。


 人体実験とか楽しそうにやっていたし、この変な生物をやればさぞ喜んでくれるだろう、そう思ったの。


 ところが、そこは妖精さん。

 僕が『いくらまでなら出せる?』と差し出した妖精さんは、僕以外の誰にも見えないし、聴こえないし、触れないものだったわけ。


 それからは検査漬けの日々が始まった。

 ムキになって妖精さんの存在を主張し続けたものだから、最後には欠陥品の烙印まで押されちゃった。

 僕の価値は大暴落。

 希少な研究対象モルモットとしてチヤホヤされていた立場から一転、無駄に予算を食うだけの研究所のお荷物扱いに。

 日に日に扱いが雑になって、十時と三時のお菓子は安物になるし、お友だち候補の紹介もしてくれなくなった。

 あとから聞いた話だと、僕は廃棄寸前だったらしい。

 いろいろあって研究所のほうが先に廃棄されちゃったけど。


 研究所の解体後、保護というかたちで放り込まれたのは孤児院。

 研究所と違い、そこはどうにも肌に合わなかった。


『キミは人間だよ』

『ほかの子とどこも違わないんだよ』

『生まれてきてよかったんだよ』


 孤児院の大人たちはそういうことを口を揃えて言った。

 僕の頭を撫でたり、身体を抱きしめたりしながら笑顔で。

 

『……あべこべ言葉ってやつ?』


 そう訊いたら、僕を部屋に閉じ込めて出してくれなくなった。

 起きてから寝るまでずっと誰かに付き添われ、抱かれ撫でられながらの言い聞かせはエスカレート。

 鬱陶しかったので『お触り一回、一万円だよ?』と宣言したら、目の前に札束を積まれて増員、さらにスキンシップは激しくなった。

 その頃、『先生』がやってきた。

 サービスで触らせてくれた肉球の触り心地に僕は魅力された。

 初回以降、お触り一回につき三万円だったけど、僕は無心で延長に延長を続け、それまでに稼いだお金を先生に全部持っていかれた。


 いや、だってさ。

 暴動まで起こして研究所をぶっ潰したのも、法改正で人造人間(僕ら)の研究や製造を禁止したのも、失敗作を仕分けして処分したのも、全部その人たちがやったことだって僕知っているもの。

 自分らで言っていること全否定してんじゃん。

 とにかく、言うことやることがいちいちチグハグで気持ち悪いの。

 指摘すれば長々と取り繕いに付き合わされるし。

 頭おかしくなるかと思った。


 だから僕、ついに我慢できなくなって飛び出しちゃったのさ。


 うん? 血塗れの孤児院?

 えっと、妖精さん、なにを想像したの?

 静岡……?

 なにそれ。


 僕をなんだと思っているの?


 違うって。

 孤児院の人たちの臓物じゃないってば。

 飛び出しちゃったのは、僕だよ。

 いやだから、僕の拳でもないし、竜血でもない。

 僕が、孤児院を、飛び出したの。


 それが半年前の話。

 今は一人暮らしで悠々自適な生活を送っている。

 ーーと言いたいんだけどね。

 必修科目を受けに授業に出て、合間にアルバイト。

 樹界探索やモンスター討伐や採取の任務で稼いだお金でなんとか生活できている。

 街から生活費は支給されているけど微々たるもの。

 そんなのすぐになくなる。


「……はぁ。研究所での快適なモルモット生活が恋しい」


 くそぅ、大人たちめ……。

 いらんことしやがって!

 なにが解放運動だよ、僕はあのままでよかったんだ。


 でも、真の元凶はあのオコジョ妖精だと思っている。

 だってあいつに遭遇してからだもの、僕の人生にケチがつき始めたのって。


 でもあいつ、最近はめっきり姿を現さないんだ。


 差し出されたことを怒ったのか。

 一円とて値がつかなかったのがよほどショックだったのか。

 孤児院で出る安物のお菓子には興味がなかったのか。

 理由ははっきりしないけど、今ではもう完全に音信不通なのさ。


 でも、いる。


 あいつは今でも僕のすぐ近くにいる。

 なんでかわからないけど、それがわかる。

 今だって僕にツッコミを入れたがっている。

 それなのに姿を見せない。


 ああもう! 焦ったいったらない!

 どこにいるんだ、あいつ!


 初めての妖精さんとの出会いと別れ。

 勇気を込めた友誼申請と拒絶。

 失われたかつての快適生活。

 未だに拭い去りきれない大人たちからの不思議ちゃん認定。

 そんなこんなの苦い経験もあって、普段の僕は『妖精さんなんて存在しない』という(てい)を貫いているってわけさ。

 協力するように!


 ハイ、終わり。

 僕の()()()()はこんなところだ。


 で、ここからが本題なんだけど。


「ねえ、新顔の妖精ストーカーさん。僕と取り引きをしない?」


 あいつを見かけたら僕に売ってほしい。

 生死は問わない。

 報酬は、世界樹の雫()でどうかな?

 五…、いや、三個融通するよ。



 ◇◆◇◆◇ーーーーーーーーーーー◇◆◇ーーーーーーーーーーー◇◆◇◆◇

                 つづく

?????『(……キミ、さっきから誰に話しかけているんです……?(汗))』


 *傍点が振ってある箇所は、スグルが勘違いして使っている言葉です。

 例

 『()()()()』(意訳・過去の失敗を語り、自分を知ってもらうこと)

 『()()()()()()()()()()()()』(意訳・不屈、やり遂げる、初志貫徹)

 『()()()()()()()()()()()()()()()()()』(意訳・死人に口なし)



今回のお話のまとめ。


・主人公は高天ヶ原に住む十歳のスグル君、ここではごくごく普通の美少年だよ。

・見えないし聴こえないし触れないけど、妖精さんはいるよ。

・お友だちの入手方法はゲームやアニメや漫画が教えてくれた。気に入ったやつがいたらボコれ! 全力で!


【過剰回復アイテムの投薬方法】

 スグルが参考にしているのは某有名作品のとある星での負傷者回復シーン。

 どうも投与の瞬間は詳しく描かれていないようで、『遅刻してきやがったダメ親父が首を折られて飲めない息子が無抵抗なことをいいことにお豆をお尻に座薬のごとく無理矢理突っ込んで治した』とスグルは記憶している。

 病欠明けのクラスメイトから聞いた、親から受けた愛ある虐待(治療)報告が強く印象に残っている模様。

 高熱などで寝込んで隙を見せれば親に突かれてしまう、と。


【気】

 世界に満ちるよくわからない活力の源。


【龍脈】

 どこにでも在る気が巡る循環路、気の大河。

 高天ヶ原の住民は自身を経由する龍脈を人工的に形成することができ、身体に気を集積、それを使役することができる。


【竜血】

 集めた気を支配下に置き、己の肉体の延長としたもの。

 竜血は体内外で手足のごとく自在に操れるが、ひとたび肉体との接点を失えばたちまち制御できず離れてしまう。

 完全に切断されたものとは再接続できない。

 竜血は他者の竜血と接触すると干渉し合い制御が難しくなる。

 制御を離れた竜血は激しく四散(爆発)する。

 優秀なスグル世代はただでさえ制御の難しい竜血を圧縮や励起させた状態で操っている。


仙術フィールドアーツ

 周囲にある土や風などを竜血を込めて操り武器とする二次干渉技。


【竜体】 

 竜血で形作る延長体の総体。


【ヘルス・イズ・ヘブン】

 全竜血を両手に二分集中したのち合掌。

 怪我しやすい組み合わせた指を竜血で保護カバーしたダブルスレッジハンマーの完全形。

 技名に続く文言『ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ』は両掌に集束した竜血を励起させるための気合溜めカウント。

 チャージは『ガ』の一段階目から始まり、五段階目の『ゴ』でMAX。

 一応、『合掌』『凝縮』『具象の』『限界へ』『到達(GOOL)!』の頭文字となっている。

 なお、圧縮を極めた結果、この技は掌中に圧縮限界に達した竜血『竜玉』(制御不可)が生成されるようになり自爆技へと進化した。


爆剣バーストエッジ

 竜血で形成した刃。

 高天ヶ原民なら誰もが使える技だが、スグルのは限界まで超圧縮されている。

 部分解放で局所的な爆発を起こして自身の推進力にしたり、剣閃の加速や補助に用いて威力を上げたり、剣筋の急激な軌道変化、連続爆破でラッシュ攻撃に繋げることが可能。

 音速を超えると発生するのがソニックウェーブ。

 スグルの剣閃を躱しても時間差でやって来るソニックウェーブに面打ちされる。

 すぐさまスグルの動きを追うとそれを背中や側面に喰らい、最悪、鼓膜がやられる。

 スグルのように竜体で全身を覆い鼓膜を守ろう。

 起爆は爆音と目眩しで威嚇や行動阻害を狙えるほか、爆発反応装甲のように防御にも使える。

 剣の形状した爆薬でぶっ叩くようなもの、扱う手元も負傷しないようしっかり保護しましょう。

 派生技に、爆拳バーストナックル爆槍バーストランス爆斧バーストアックス爆盾バーストシェルがある。


輝爆剣メガブレイク

 超圧縮した竜血で生み出された竜血刃・爆剣で標的をカチ割り、突っ込んだ体内部で刀身を全解放する大技。

 任意のタイミングまで刀身を維持し続けるのが一番大変。

 距離を取って逃げながら刀身を攻撃し続ければ、スグルは制御できなくなって自爆する。

 急加速+目眩し+超熱の斬撃+敵体内で爆破。


裁断双刃トリニティ・エッジ

 超圧縮、超高熱、超振動の三大奥義を無理矢理同時に発現させた二刀の竜血刃。

 二刀の形をした、周囲に衝撃波と数億度の熱を放ち続ける硬く凝縮された爆発物。

 相対する者は振動により脳震盪や麻痺状態で動けなくなり、大抵は刃が届く前に消し炭にされて粉砕されて吹き飛ばされる。

 (加速+目眩し+聴覚・触覚麻痺+超熱+斬撃+敵体内で爆破)x2。


真・裁断双刃(ジャッジメント)

 左右の手で握った裁断双刃をクロスさせた瞬間に全解放する超大技。

 スグルの持ち技の中でも斬撃?系最強の大技。

 未完成。

 本来は反物質化させた左右の竜血刃をぶつけて対消滅に巻き込む……という技。


水瀑アケロン

 『海姫』の十八番にして代名詞たる大技。

 直径数十キロのただの海水を竜血の膜で覆い操る大規模な仙術フィールドアーツ

 竜血で覆った水風船。

 ぽよんぽよんと揺れる様は遠巻きには愛らしく見えても内部は地獄絵図で、少し伸び縮みされるだけで荒ぶる海流を生み出し、水圧が乱上下する。

 この超水圧の大牢獄の中心にひとたび呑み込まれると脱出は困難を極める。

 竜血で抗おうにも接する水はただの海水で、防御や攻撃に竜血を用いれば自ら生んだ高熱化した水蒸気と超水圧で首を締める。

 竜血との干渉を利用し決壊させようにも、大海を覆う本体の竜血の膜は荒ぶる海流の外周にあり、揉みくちゃにされながらそこまで辿り着く必要があるし、海姫も黙って見てはおらず水風船を巧みに揉んで邪魔をしてくる。

 この巨大水風船の核たる海姫自体の撃破も可能なら解除方法として有効だが、別にこの技は彼女が内部にいる必要はないし、数十キロの海水を覆い、操り、長時間保持できる時点で察してほしい。

 実は、彼女は海水など用いずにその膨大な竜血を直接纏ったほうが強くなる。

 『海姫』の名は彼女の枷。

 優しい彼女が攻撃手段を比較的殺傷力の低い水を選び限定してきた結果。

 この技の真に厄介なところは、使用している海水の後始末である。

 今回の話で海姫は高天ヶ原でも有数の問題児スグルを相手にすべく、高天ヶ原の眼下に広がる大海から大量の海水を持ち込んでいる。

 海姫の支配を阻害すると、周囲に直径数十キロメートルに及ぶ海水をぶち撒けることになる。

 のちに残る塩害だけでも相当な被害。

 スグルに対し有効だったかは甚だ疑問だが、今回海姫にその気はなくとも、説得の舞台となっている街そのものが人質となっていた。

 また、その重量を持ち込まれた高天ヶ原はかなり高度を下げていた。


【海姫/海月ミズキ 水母クラゲ

 スグルが通う白猫教室の初代OBの一人。

 かつての天然ぽやぽやお嬢様も今では包容力抜群の巨乳ママン。

 目的だけを残し、それ以外は頭からおでかけなさるおおらかな人。

 高天ヶ原八大最強女子を指す『八姫』、その先代八姫の一角。

 前々から問題児スグルを我が子にせんと狙っていたが、本人の意思による養子縁組に拘る倫理委員会に名指しで禁じられていた。

 今回、機会を得てスグル争奪戦に参戦。


海月ミズキ 心蔵シンゾウ

 旧姓は鳥兜トリカブト

 白猫教室OB。

 相手の身体に直接竜血を打ち込んで人体破壊する浸透勁の達人。

 相性が悪過ぎる海姫に仕留められて早十数年、なんだかんだで幸せな結婚生活を送っている。

 天才獣医。蛇などの爬虫類が好き。


海月ミズキ 久白クジラ

 悪魔の実験に付き合わされたスグルのクラスメイト。

 運動エネルギーを抑え込む特殊な竜血を発現した稀少個体。

 彼の竜血に触れたものはことごとく熱を奪われて凍りつく。

 触れれば弾丸も停止するし、乗れば車のエンジンも動かない。

 クジラ自身この性質を制御できるわけではなく、あまり大量の竜血を操ると周囲の物が冷え過ぎて自分が凍える。

 自身の竜血による直接の影響は同調現象により受けないが、竜血が及ぼした二次的影響は受けてしまう。

 水中に落ちたりすると大ピンチ。

 寒がりで夏場でもこんもりと厚着。

 運動音痴(竜血に頼れない)なので足元が凍るとよく転ぶ。

 強力無比な反面、非常に不便な能力。

 蛇が好きなのに体質的に飼えないので、竜血で極寒蛇を作り、操って遊んでいる。

 夏場はお友だちに取り囲まれ、冬場は邪険にされる。


【ワダツミ様】

 高天ヶ原が浮かぶ亜空間『島なき大海』の領域主。

 棲家は海底で、滅多に姿を現さない。

 身体は領域核をすっぽり覆うほどに巨大。

 かなりの知性を持っており高天ヶ原の民とは敵対していない。

 スグルは海底に衝突した際に遭遇。

 彼を高天ヶ原に向かって撃ち上げてくれたが、単に消化吸収を拒まれた可能性もある。


天之沼矛(アマノヌノボコ)

 浮遊島高天ヶ原の中央下部にある超巨大レールガン。

 倫理委員会に呼び出された容疑者に多数決で有罪と判決が下ると懺悔室の床が抜けてチェンバーに装填される。

 元々は罪人を眼下に広がる大海の底へと撃ち込むためのもので、深海のワダツミに『コレ食べます?』と伺いを立てて罪を問う儀式に使われていた。

 今や処刑は数回の往復で済まされ、問題児を押し付け合う高天ヶ原⇄海底間の移動エレベーターと化している。


【宇宙戦艦ポルアーク】

 高天ヶ原に住むとある白くも腹黒い人外が地球に来たときに乗ってきた宇宙戦艦。

 八姫中最強の戦姫との決戦に用いられたのを最後に長らく所在不明だったもの。

 スグルの凶行の責任を追及された持ち主によってその封印は解かれ、街の真下より姿を現す。

 街中の地下にこっそり建造した地下施設三ヶ所に分割封印されていたのである。

 改良が加えられ、艦体をG・J・Pパーツに分け、分離・合体が可能になっている。

 街中で超低空合体を披露し近隣住民たちを喜ばせたあと、オペレーターの技能不足のためメイン動力炉の起動に失敗し徒歩にして0秒の現場に落下。

 スグルを迎え撃つ警察に兵装を、実験体に治療ポットを、救助隊と近隣住民たちにはシェルター兼観覧席を提供した。

 その後、大破した模様。

 高天ヶ原凍結中に起きた出来事であるため詳細は不明。

 本宇宙戦艦の大爆発を受けて高天ヶ原の凍結は融解したとみられている。

 大気圏外で戦姫との再戦がおこなわれた、隕石とぶつかった、新機構の暴走、人外による偽装工作……などなど、各地に散乱した残骸の様子からいろいろと憶測が飛び交っている。

 地下施設は押収、街や大海に落下した残骸も回収されて各所で技術研究、転用が進められている。


【倫理委員会】

 高天ヶ原の最高意思決定機関。

 お友だちが欲しいスグルが手を出した悪魔の実験。

 これには倫理委員会もかなりのオコで、一度里子を経験して甘やかされてこいや、と勢いで海姫にスグル争奪戦への参加許可を下すほどだったという。

 こうして『高天ヶ原コールドスリープ事件』は起こるべくして起きた。

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