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月光の奇術師

ザアアアア

春風が吹く中、美しい青年に目を奪われた椿はしばらく動けなくなっていた。

青年の手や肩には小鳥が乗り、一緒に戯れている。

しかし青年の空気は少し寂しげなような曇った色をしている。


コロコロコロコロ

目線に転がっていく林檎が入り、我に返る。

袋にの大きさとは不釣り合いな個数のりんごが詰め込まれていたため、一番上に乗っていたものが風で転がっていってしまったのだ。

慌てて追いかけようとした時にはもう、青年の足下までころがっていた。

「林檎?」

青年は林檎を足下から拾い上げると不思議そうな顔で林檎の転がってきた方を見る。

「これ、君の?」

「はい。ごめんなさい。勝手に転がっていっちゃって」

駆け寄ってくる少女を見て、青年は椿を認識する。

「はい」

「ありがとうございます」

椿は青年の手から林檎を受け取ると再び袋に戻した。

そして青年に再び目線を向ける。ただ座り小鳥と戯れている姿を見て椿は疑問を口にする。

「こんなところで何をしているんですか?」

「んー特に何も。暇だから小鳥と戯れてる」

「、、、そう、なんですか」

青年はこちらを見ず答えを返す。

会話の繋ぎようのない返答に会話終了かと思った瞬間、青年がまた続ける。

「、、、家にいるの嫌なんだよね」

「家族と喧嘩でもしたんですか?」

「いや、家族はみんな優しいしそういう訳じゃないけど、なんていうか居場所が無いんだよね。いつも自分じゃない自分を取り繕って、自由がない気がして。だからこうして小鳥と戯れている方がよっぽど楽」

青年の目は小鳥に向いているように見えてどこか遠くを捉えている気がした。

(なんとなくわかる気がする。居場所が無いわけじゃないけど私も家にいたくない。苦しむお兄ちゃんを見てると胸が苦しくなって、家にいないで呪いを消すダイヤを探してこないとって気持ちになるから。お兄ちゃんの苦しむ姿を見たくないから逃げ出したくなってしまう)

椿の脳裏には部屋で呪いに苦しみ悶える兄の姿が蘇る。

「ところで君は何してんの?」

「えっ、あ、私は、、、」

唐突に向けられた視線と問いに驚きを隠せない。

(流石に付き人を巻いて逃げてきたなんて言えない、、、)

「買出しを頼まれてて、、その帰りです!」

「ふーん。買出しってなにかお店でもやってんの?」

「はい!ここ近くのレストランで」

「へえー」

「もし良かったら、、、」


「椿様ー!!!椿様ー!!!」

椿の声を遮るように公園の入口近くの道路でニコルが椿を探している。

「わっ!ニコル!!」

「知り合い?」

「はい。レストランで一緒に働く従業員です。それじゃあ私はこれで」

早口とその急な勢いに先ほどまで表情を変えなかった青年の顔が少し驚きの表情へと変わる。

ニコルの方へ駆け出し層とした瞬間、何かを思い出したように振り返ると袋から林檎を取り出す。

「あっ、良かったらこれお礼にもらってください。たくさんお話出来て楽しかったです。良かったらレストランにも遊びに来てくださいね、それじゃあ」

椿は青年の手に林檎を1つ乗せるとニコルの方へと駆けていった。


「椿様ー!!勝手にどこかへ行かないでくださいませー!!」

「ごめん、ごめん、ごめんねニコル」

泣きながら訴えるニコルに謝罪をこぼす椿。


そんな光景を遠くで見ながら青年は手に握られた林檎を見て小さく微笑むのだった。



「遅かったな」

帰宅一番、ドアの前で待ち構えていた太一からお叱りの言葉を受ける。

「いいじゃない。ちゃんと買ってきたでしょ」

椿は何も気にすることなく林檎の袋と領収書を太一に渡す。

後ろでニコルはおろおろしている。

太一は林檎と領収書を受け取り、買い物を確認する。

「確に、、、それにしても今日は機嫌がいいな。いつもは買い出し頼まれたらイヤイヤ帰ってくるのに。何かいいことでもあったか?」

「うふふ、初めて年の近いお友達ができたの」


ガーーーン!!

話の後で椿と年の近い従業員たちが椿の言葉に打ちひしがれていた。

(初めて、、、初めて、、、)

(私たちは何?)

(お友達と思われてなかったの!?)

(しくしくしく)

「そうか、良かったな」

後ろの3人集をむなしく思いながらも興味な下げに太一は言葉を返す。


しかし、

「じゃあ私はこれで」

「あ、おい、椿!!」

ととととと、バタン!

例の椿は目の前にはもうおらず階段を登り、自室に入ってしまった。


「ーったく」

ため息を吐く太一心配するようにニコルが声をかける。

「太一様、、、」

「ああ。ありがとう。お疲れ様、ニコル」

「いえ」

先ほどとは違う優しさを向け、ニコルもそれに応えるように優しい笑みを浮かべる。


「すまない、椿のこと任しきりで。大変だよな。オーナーとして店を離れられないのも一つだが、やはり体が思うように、、、ーっ」

「太一様!!」

「わるぃ、大丈夫だ」

急な発作により、太一は足から崩れ落ちる。

「太一様、、、。」

汗をかいて苦しむ太一を心配するようにニコルは駆け寄る。そして立ち上がると

「太一様!」

「!」

「私の事は心配せず何なりとお申し付け下さい!私は太一様のことも椿様のことも大好きですし、何より慣れてますから。」

「ニコル、、、」

「だから大丈夫です!安心してお休みになってください。」

「はっ、、ありがとう、ニコル。」

苦しみながらも太一は感謝の笑みを浮かべるのだった。



(うふふ、初めて外で同じ年頃の人とお話できた。レストランのみんなも大好きだけど外で新しい出会いがあるのも嬉しいな)

椿はベッドに寝転がり、うつ伏せになり足をバタバタしている。

「あまり買出し以外で外に出ることないから今日はついてたなぁ!」

そう言うと椿は仰向けに寝返り手を大きく広げた。




「ついてない」

ふぁんふぁんふぁんふぁん


日が暮れ、外は真っ暗夜の空。

怪盗フェンナルお仕事の時間。街中にサイレンの音が響きわたる。


「なんて量雇ったのよー!!!どこもかしこも警察だらけじゃない!!」

叫びたくなるほど足元は警察とパトカー。

屋根の上にもライトに特殊部隊と逃げ道がない。

「抵抗はやめなさい」

「抵抗をやめて、おとなしく出て来なさい」

メガホンで下から警察が呼ぶ。

「やなこった!!」

ぼひゅーん

「うわっ、光玉だ!!!」

「大量サービスー!!失礼~」

大量の光玉を投げ、警察の視界を奪うと屋根を走り、飛び越え、猫道、裏道を進むなどして運動神経を遺憾無く発揮しながらフェンナルは夜の街を走り抜ける。

「追えー!!!フェンナルを追うんだー!!!」

ふぁんふぁんふぁん

パッパッ

ドタタタタ

パトカー、証明、特殊部隊で追うものの、逃げ足が早く、かつ様々な仕掛けを逃げながら行うフェンナルにとても追いつかない。


(ヘリがいなかっただけ救いね。特殊部隊までは計算内だったけど今度は考えておかないと)


たたたたたた

フェンナルは走り続けるものの静まり返った後方に異変を感じ屋根の上へと再び顔を出す。

(追っ手が来ない?いつもならしつこく追いかけてくるはずなのに)

(凄く静か、、、、)

そういい屋根の上に登ると美しい夜の街が眼下に広がる。

(綺麗、、、、)

ザアアアア

「っ!」

冷たい夜風が吹き抜け、マントをたなびかせる。

コツ

風を防ごうと下を向き目を閉じたフェンナルの前に済んだ声が響く。

「いい夜ですね」

「!!」

声に顔を上げると、自分が立つ屋根の前方、大きな建物の屋根に立つ人影。

満月の月光を背に立ち青いマントをたなびかせるその人はこの世のものとは思えないほど美しい。

椿はその美しさに目を奪われ、言葉を失う。

ただわかること、それは、、、


「こんばんは、美しいお嬢さん」


この人が月光の奇術師だと言うこと。


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