第2話 【さっそく加減を間違えたかもしれない】
ーー朝。小鳥の囀りと暖かな日差しを感じながら、僕は誰かに身体を優しく揺すられていた。
「…ウ様、…コーシス様。朝で御座いますよ?」
……正直、眠い。が、多分この人は僕が起きるまでひたすら粘る。いや、確実に。
「…ふぁあ、おはよう。リジィーさん。」
「はい、お早う御座います。コウ様。」
そう言いながら、静かに微笑む黒髪の落ち着いた雰囲気を醸し出しす女性。リズベルト=ナライアという彼女の愛称は、"リジィーさん"で通している。
リジィーさんは今年で12歳、らしい。とてもそうは見えないほど大人びているが。
付け加えるならば、かなりの美少女だと思う。いや、主観ではあるけれど。
「コウ様、本日の御朝食はコウ様の好きなミートパイをご用意しております。アリシア様とゼニス様はすでに食卓でお待ちですよ?」
「わかった。直ぐに向かうから、リジィーさんは先に向かってて?」
……アリシアというのは僕の今の母親、アリシア=ベルゼント。
そしてゼニスというのが父親であるゼニス=ベルゼントだ。
因みにだが、今世での僕の名前はコーシス=ベルゼントとなった。
髪色はやはりというか、前世での日本人っぽい黒髪からはかけ離れ、母親からの遺伝であろう銀髪、前髪の一部分に父親と似た赤よりも紅に近い髪が生えていた。
顔の造形も日本人の様なのっぺり顔ではなく、どちらかというとほりが深い、ややハーフに近いそんな顔をしていた。
……今世での自分の顔を見た第一印象は、『中二病を拗らせた奴』だったのは、仕方ないと思う。
それより、"コーシス"の愛称が"コウ"とは不思議なものだと思った。
まぁ、前世での名前と一緒だから違和感をあまり感じなくて済むので構わないけれど。
そんな下らない思考に浸っていると、リジィーさんから何やら強い視線を感じ、取り敢えず思考を中断する。
「……そういう訳には参りません。私はコウ様のお世話役であり、専属メイドで御座います。主人の着替えがまだですのに、先に向かうなど出来ましょうか。」
そう言いながら、僕の服を手に抱えこちらをじっと見るリジィーさん。
……いや、服くらいは自分で着れるのだけれど。
そうは思い、内心で溜め息を吐きつつも、僕は黙ってリジィーさんに身を委ねることにした。
何故なら、こうなったら彼女にはあまり僕の意見は通用しない。
というより、何かと僕の世話を焼きたがるのだ。
因みにこの着替えに関して言えば、既に数十回は『一人で出来るから、大丈夫だ』と意見はした。
……が、結局彼女が意思を変えることはなく、僕が折れざるをえなかった。
ーーホントに、どうしてこうなったのやら。
……まぁ何と無くだが、想像はつく。
彼女ら使用人も、それなりに愛想良くは接しきたつもりだ。
特に彼女は年齢が近いこともあったし、彼女の少々"特殊"な身の上に少しばかり親近感が湧いてしまい、別段よく接してきてしまった。
まず間違いなくその影響で、厄介なことに情を持たれ過ぎてしまったらしい。
……正直、加減を間違えた。とは思う。
いや、こればかりは最初に情を持ってしまった僕が悪い。
裏切り、裏切られてを予測して行動している筈なのに、僕という人間はほとほと甘っちょろい性格らしい。
(いやまぁ、彼女に関しては正直裏切りたくはないし、裏切られることもないとは思うのだけれど。)
僕の上着を着せ替えながら、何故か機嫌良さげに微笑む彼女を見て、自分が決めた意思を曲げつつある僕自身に、嫌悪感と少しばかりの安堵感を感じ、複雑な気分を味わっていた。