第1章 【魔眼の見せる異世界転生】
ーー『ラプラスの悪魔』という言葉をご存知だろうか?
ラプラスの悪魔(Laplace's demon)とは、主に近世・近代の物理学の分野で未来の決定性を論じる時に仮想された超越的存在の概念で、フランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスによって提唱されたものであり、彼は自著において次のように主張した。
[もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。]
簡単に言うならば、全ての原子の位置と運動量を知ることができる知性体が存在するとすれば、その存在は古典物理学を用いて未来をも予測可能とするであろう、という提唱だ。
この《ラプラスの悪魔》であるが、20世紀に入ってから提唱され始めた量子力学の登場により、[原子の位置や運動量は不確定なものだ。]とされ、その論争に終結を見せた。
……さて、長々と物理学における一説を説明したことには勿論意味があり、僕こと、矢神洸にはそれを可能とする一つの異能があった。
《ラプラスの魔眼》。僕はそれをそう呼称し、不確定要素とされる原子の位置や運動量、またそれらに付随するであろう謎の数値などが何故か見え、それらを把握し、何故か全てを演算できた。
ーー結果、未来に起こりうる事象を把握出来たし、見えうる全ての厄災から身を守り、また、高すぎる先見性から小さな頃は神童と持て囃された。
……が、そんな幸福な日々はある時突然終わりを迎える。
どうやら人間という生物は、自分に理解出来ない異物を排除、または理解できるまで研究しようとするらしい。
僕が高校生活を送る直前。所謂、進学における前の春休み期間には、周囲の人間から「悪魔」だの「忌み子」だのと疎まれ、蔑まれ、忌み嫌われ。
挙句には、僕が異能を使えない就寝時に拉致監禁され、モルモットとして扱われた。
結局はそこでの人権など完全に無視した実験の日々に耐えきれず、僕は14年の人生に幕を下すことになる。
『もっと上手く力を隠して生きていたら』という後悔と、人間への不信を盛大に抱きながら。
初投稿となります。
亀更新、稚拙な文章があり不快な思いをするかもしれません。努力しますので、何卒よろしくお願いします。