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黄昏diversion  作者: ぷぷ。
黄昏前のプロローグ
9/10

天を仰ぐタンジョウビ

 庸介が振り返った先、男は未だ倒れていた。


 しかし音がない。


 傷口は塞がっていた。

 赤く膨れ上がった肢体も、色と形が人間に近づいて戻っている。


 ようやく終わったのだろうか……などと思うことはできなかった。


「ははははははははは――」


 機械的に、狂ったように、男は声を上げて笑っているのだ。

 それは、狂気としか思えなかった。


「アンタ、誰だっけ。どっかで見たことあるんだよな」


 仰向けに夕空を仰ぎながら、霧島が庸介に語りかける。

 先ほどまでの獣臭さはない、普通の人間の話し方だ。


「俺か? 俺は……」


「ああ思い出した。あの店の店員だ。デカくて荒っぽくて、怖かったなー」


「だから、なんだよ……」


 頭の中で警告音アラートが鳴っている。

 逃げなければ死ぬと宣告している。

 しかし、逃げられるはずがない。


「アンタには感謝してんだよ。熱くて熱くて堪らなかったからさ。冷やしてくれて助かったよ。けど……正当防衛って言えるよな、ナイフで切られたんだからさ」


「クッ――!」


 殺さなければやられると踏んだ庸介は、相手が立ち上がるより先に斬りかかった。


「やべっ――!」


 しかし、振りかぶった庸介の腕から、ナイフはすっぽ抜けた。

 原因は、蒸気のもう一つの効果。

 ジットリと濡れた掌が、元より滑りやすい質のグリップを遠心力で制御の外へ押しやる。


 それを見た瞬間、後方で事を見守っていた黒壌弥が全力で逃げ出した。

 籠堂庸介もまた、彼方へ飛んでいくナイフを追う前に逃走を始める。


「なんだよ、殺らないのか? それだけの図体で逃げるなんてダッセェなあ」


「ウルセェ! 戦略的撤退だ!」


 背中に向かって煽る霧島顰に反論しつつ、庸介は全力で走る。

 未だ崩れ悶える群れを、迷いもなく踏み抜いた。

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