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黄昏diversion  作者: ぷぷ。
黄昏前のプロローグ
6/10

オチル天使。

 白くて、儚くて――。

 鮮やかな赤を散らした先に、白百合が咲いている。

 アタシは”ソレ”を見て、穏やかな気持ちで微笑んだ。


 ああ、ギター持って来なくて正解だったなぁ、なんて。


 ◇


 喉を焼き殺されそうになって、慌てて口を閉じる。

 目も蒸発しそうなくらいに痛かったけど、アタシは必死に見開いた。


 白雲の中を泳いでいるような広範囲かつ高温の水蒸気。

 交差点を全部飲み込んで、辺りには悲鳴が広がっている。

 黄昏の降りる雲から顔だけ出したアタシは、全体が黄金に輝くのを目した。


「ごほっ、げほっ……! デンデン、何が起きてやがるっ……!?」


 アッキーが下から叫ぶけれど、口を開いている場合じゃない。


 というか、"ソレどころ"じゃない。


 白煙の中で、2つの赤い光が見えた。

 ギョロギョロして、それから細めたりガン開いたり……。

 あれは……眼だ。


「ッ……!」


 それからまた光を歪めて……それは、アタシを見て笑っているようだった。

 

 ――瞬間、白雲を穿つ。


「笑っちまうね、ベイビー……」


 黄金の雲がポッカリ空いた先に、男。

 燃える男、蒸発男。

 全身が茹だったタコみたいに真っ赤で、身体は筋肉がブクブク膨れ上がっていて、目は充血しながらギョロついている。

 人間では、決してない。


「アハハ、目が合っちゃった。アタシこれ……」


 言い終わる前に、アタシの視界が翳る。


 男があの距離から飛びかかってきたんだと認識したと同時、身体の右側が後方に引かれた。


 やけにスローモーションで、男が通り過ぎるのが見える。


 そして、右腕を掴まれていることにも気づいた。


 刹那の流れの中、次いで来たのは――強烈な痛覚への刺激だった。



 腕が握り潰される感覚。

 骨が砕け、肉の内側を鋭利に突き刺している。

 血管が弾け、ブチブチと気色の悪い音と熱が広がっていく。


 瞬時の出来事を鮮明に記憶しようとしている自分の頭に、初めて嫌気が差した。

 音楽で育った自分は、こんな時まで音を生み出しているなんて。


 ああ――いいフレーズが浮かんでくるよ。


 更に強烈な引き付け。

 肩がガクッと抜けるような痛みを覚えながら、自分が投げられたのだと知る。

 風圧に押されて振り返ると、男はまだ宙に浮いていて、こちらを見ながら腫れぼったい顔を嬉しそうに歪めていた。


 走馬灯が、思考を加速させる。


 ――こりゃ、アタシ死んだよな。


 ――もう動かない右腕をクッションにしたら生きれるかな。


 ――ていうかアレ何、チートでしょ。無双ゲームだったらアイツが主役でアタシは雑魚兵だ。


 ――あの煙の下にはアッキーがいる。あの子くらいは逃げてほしい。


 ――他のニンゲンたちは、ホント、どうでもいいから。




 あ、それから――。






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