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黄昏diversion  作者: ぷぷ。
第一章「イケブクロ」
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色彩暴走

「でぇ、ヘビちゃんは左眼ヤっちゃったんだ」


「ああ。このザマだ」


「グロカックイイー」


 蒸発男事件から2ヶ月後、庸介達は池袋のとあるライブハウスを訪れていた。

 開店前で暗がりにあるステージの上、備えられた玉座とも言うべき豪奢な椅子に、痩せぎすの美男子が座っている。そして脇には、何人かのストリート系ファッションの若者がそれぞれ赤のバンダナを身に付けていた。

 白金の髪が唯一灯されたスポットライトに反射し、えも言われぬ神々しさを感じさせた。


「……ダレ? アイツ」


 電子が璃子に問い掛けると、璃子はスマホのメモ帳に書き記してそれに答える。


『池袋で活動してるカラーギャング"フェイル=D"のリーダー。スマイルって呼ばれてる』


「カラーギャング? へー、まだいんだねそんなの」


「ちょ、ちょっと、鍋牛……そ、そこに本人いるのに……」


 室内に響く電子の声に、弥が苦言を呈する。

 しかし、ステージの上でスマイルは愉快そうに声を上げた。


「タハーッ! いいねいいねぇ。ボクちんを前に物怖じしない人っぴ久しぶりだってばよー」


「ふーん。オッサン変な人だネ」


「お前が言うなよ……」


 電子とスマイルに同類めいたものを感じながら、庸介は頭を抱えた。

 穏健派なヤツではあるが、相手は仮にもギャングのヘッドだ。機嫌を損ねてしまったらこちらの思惑が台無しになる。


「まーまー。そんな気にしなくていーよ、ヘビちゃん。それからアマンダちゃんも、ね」


 警戒の色を強めていた庸介と、電子を窘める文面を見せていた璃子へ、スマイルは縫い跡の残る口元を歪ませた。あまりに笑顔が過ぎて、逆に悪意を感じてしまう。


「それとー……ボクちんオッサンじゃないレロ。まだ19歳なのらー」


「に、19っ……?」


 弥が思わず声を漏らす。

 オッサンと言うほど歳を取ってはいないのは明瞭だが、未成年だとは思わなかったようだ。

 修羅場を潜り続けると、それだけ歳を食った顔になる。


「で、用件は何? ヘビちゃん」


「悪いんだが、お前んとこの情報屋ルイ仕立屋カンナ、貸してくんねーか」


「いいよ」


「早いな」


「どうせ蒸発男への復讐に使うんでしょー。ヘビちゃん親友だから何でも用件聞いたげるよ。あの二人も会いたがってたしねー」


 会いたがっていた、と言われ、庸介は渋い顔になる。あいつらに会わなければならないが……まだ諦めてなかったのか。


「にっしし。ヘビちゃん相変わらず女の子苦手だねー。トラウマ引きずっちゃってー」


「オイ、余計なこと言うなよ」


「まぁウチのカワイコにゃん貸すのはいいとしてー。親友のオイラの頼みも聞いちくり?」


「やっぱそれか……」


 スマイルが庸介のことを親友と呼ぶときは、自分の用件を押し付けるための口実であった。


「……いくつだ?」


「二つ。あ、やっぱ三つねー」


「聞けるヤツだけな」


「じゃあ二つだケロ」


「……分かった」


 庸介の解答をもって、スマイルは片眉を吊り上げてまた笑みを作る。納得がいったようだ。


「ヘビちゃんさー、蒸発男以降あちこちでヘンなこと起こってるの、知ってる?」


「あ? まあ詳しくは知らねえが……怪事件連発で話題になってるらしいな」


「渋谷の蒸発男スチーマーから始まってー。新宿の透明地蔵ノンカラー、六本木の金降らし(ドリーマー)、ウチでは神出鬼没のライオン。死んだヤツはいないし大したことじゃないんだけど、その後にカラーズが勢力伸ばし始めてんだわー」


「……ギャングどもが関わってるってことか?」


「そゆことー。ヘビちゃんたちにはちょーっと他のカラーを探って欲しいのよねん」


 なかなか重たい案件を持ってきたな、と庸介は眉間に皺を寄せた。


「つーか"たち"って何だよ」


「だってグループっしょ? ヘビちゃん、デンデンちゃん、アマガエルちゃん、モグラちゃん。なんか並べるとちょっとキモいね」


「カッチーン! なんだと笑い男!」


 後ろで弥たちとじゃれ合っていた電子が、スマイルの言葉を聞き逃さずに反論する。正直黙っていて欲しかったが、そう言って黙るような凡人でないことは火を見るより明らかだった。


 そもそもアンダーグラウンドな連中と関わる際、言いなりにならないことが意外と重要なのだ。

 掴みどころがなく不躾とも取れる態度をするが、それでも人を惹きつけるカリスマ性。それを電子は持っていた。


「ごめんごめん。イメージ的にはアマガエルじゃなくてヤドクガエルだよね。ケロケロ」


 いやそういうことじゃないだろ、と庸介は心の中でツッコミを入れた。


「そうそう。アッキーは超毒舌なんだから」


「そ、そういう話なんだ……」


『オレはアマンダだっつの。後で憶えておけよ』


「あっははー! やっぱ気ィ合うねぇ、デンデンちゃん」


 カリスマ同士、訳の分からないところで気が合ったらしい。


「なんでもいいがスマイル、俺たちは別に組んだ訳じゃねえんだ。その案件は一人で請け負う」


「まーヘビちゃんが協力してくれんならなんでもええニョロ」


「そんで、もう一つの用件は?」


 庸介が耐えきれずに話を切ると、スマイルは眉を少しだけ動かした。その後、勢いよく立ち上がってステージの床を鳴らす。


「もういっこはー、君たちの失くしたモノ。ミーセーテ?」


「は?」


「見たいんだよねぇ。"異常"に灼かれたトコ。興味本意でさー。どんな形に焼けたのかトカどこまで深くイッたかトカどんな気分だったトカ、身体に聞きたいの」


「……きもちワルっ」


 鍋牛電子の声は、どこまでも率直にスマイルを貶した。


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