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最近ちょっとアレな事があって頭を悩ませている。
そう言うと、その場にいた金髪の少年と三つ編みの少女がどうしたのかと首を傾げた。
溜息をついたあと、あたしは愚痴るような口調でぶちまけた。
「ほんとう……なんなんだよあのクソ野郎共……!」
苛立ちのままにテーブルの上のオレンジジュースを一気に煽る。
「あ、あのクソ野郎共……って」
若干引き気味の三つ編みにそう問われる。
そういえばこいつにはまだ話してなかったか?
話したつもりになってた。
金髪は誰のことかわかっているので、何も言わずに空っぽになったグラスにオレンジジュースを注いでくれた。
「ああ……最近、母さんに言い寄ってくる奴らがいて……」
「へ? おばさんに……?」
「ああ、だいたい子持ちだってわかると自然と引いてくんだけど……あの二人、引く様子がねえ……母さんもうざがってるのに……」
「あらあ……」
最初は遅めのモテ期かよ、とお母さんも軽く笑ってあしらっていたのだけど、最近は彼奴らのしつこさに辟易としているのか、よく疲れたような顔をみせるようになった。
「ほんっと! うっざいんだよあいつら! 最近はあたしにまで絡んできやがる!!」
と声をひそめつつも叫んだところでこの部屋のドアがガチャリと開く。
「うおっ……どうしたんだよお前……」
と、言いながら入ってきたのはこの部屋の主である栗毛の少年だった。
先ほど菓子を取ってくると言った言葉通りに、手に持ったお盆の上には甘い香りをふんわりと漂わせるマフィンが乗っていた。
「いやまあ、色々? てゆーか何それ。うまそう」
「お袋とねーちゃんがせっかくだからって……」
わざわざ焼いてくれたのか?
それとも趣味で作ったものをおすそ分けしてくれたのか。
どっちにせよありがたい。
「うわやった。あとでお礼言っとこ」
「おう。それでお前はなんでシャウトしてたんだよ?」
盆の上のマフィンを各人に配りながら訝しげな表情をする彼にあたしは事情を軽く説明する。
「母さんが変な男達に言い寄られてんの。最近あたしにまで突っかかってくるからうざいったりゃありゃしねえ」
「おうふ……」
「ほんと、やんなる」
マフィンを頬張るとふんわりとしたバターの香りが口いっぱいに広がった。
「うまし」
相変わらずおばさんとお姉さんのお菓子は美味しい。
「そりゃあよかった」
栗毛も自分のマフィンを頬張りながらニヤリと笑った。
「それで、どんな人なの? その言いよってる人って」
と、三つ編みが聞いてきた。
「変人」
一言でばっさりと返すと、それじゃわかんねーよと栗毛が言ってきた。
「おばさんに言いよってるってことはお客さんなの? それとも全然違う?」
三つ編みの問い掛けに答える。
「あー……一応客。最近になって七界迷宮に挑戦するために来たっつー自称旅人と、なんか白い道化の仮面の魔術師」
旅人の方は何度か名乗られてるのだけど、無駄に長ったらしいその名前を覚える気がないのであたしはそいつのことを灰色の旅人と呼んでいる。
なんでそんなあだ名になったのかというと、目と髪と服が灰色だからだ。
道化の仮面の方は灰色の旅人がお母さんに言い寄り始めた一週間後くらいにふらりと宿屋に現れた男だった。
こっちはクラウンとかいう偽名であることを隠す気のない名前を名乗っている。
どうしてこの町に来たのかは聞いたことがないけど、ここに来たってことは多分灰色の旅人と同じ理由だろう。
ここに来る奴ら、うちの宿屋に泊まる奴らの大半がそう言う奴らだし。
「旅人に……道化の仮面?」
「ああ、旅人の方はチャラ男、ろくなやつじゃねえ。道化の方はよくわからん変人」
「変人って?」
栗毛がマフィンの最後のひとかけらを口にしながらそう聞いてくる。
「いつも仮面してるのもだけど喋り方もなんかおかしい……魔術師には変わり者が多いけど……あそこまで変なのは久々見た」
「へえ……」
「今の所、仮面外したところ見たことない」
「え? じゃあご飯は?」
三つ編みの当然の疑問にため息をつきながら返す。
「部屋で食ってる」
「うわ……」
三つ編みも栗毛も引いていた。