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小豆洗いの甘味処

作者: 亀梨名光

使用キャラクター


野沢明人(考案者:ガミさん)

40歳

汗でべたついた髪に、無精ヒゲをぼうぼうに生やした社会のクズ。

コンビニでアルバイトしつつ、借金を繰り返してギャンブル三昧の日々を過ごしている。

元天才少年ギタリスト。

小学校の頃に祖父が結成していたジャズバンドのギター演奏を見てから、業界に足を踏み入れる。

小中高、大学と夢中にギターを弾き続け、天才少年ギタリストとして世間を賑わせ、脚光を浴びた。

しかし、大御所バンドのメンバー全員が麻薬の常習犯&バイヤーであったことを現場に出くわしたことで知った野沢は、それを所属していた事務所「ハッピー・ソングス」のマネージャーに相談。

話を聞いたマネージャーが事務所の所長に相談したところ、野沢とマネージャーは強制解雇。

挙句、事務所の所長ひきいる連中に麻薬を部屋のいたるところに隠され、麻薬所持・使用の疑いをかけられる。

麻薬の入手ルート、麻薬売買をした物的証拠、麻薬を使用した痕跡が見られないことから、1ヵ月の拘留で釈放されたが、その事件自体が世間に与えた印象は大きいものだった。

音楽界の恥。麻薬常習犯。音楽とヤクに溺れたミュージックジャンキーなどと称され、野沢の居場所も生きる理由もなくなっていた。

積み上げたものは全て崩れ落ち、友人町の片隅でくすんだ毎日を送っている。


雨宮夏(考案者:音音さん)

・甘い物大好き

・一人っ子

・わりと勉強できる

・恋より食

・サッカー部


雪宮エリザ(考案者:亀梨名光)

(27)

日英ハーフの妖怪研究家。

いつか本物の妖怪に会うことが夢。

金髪の貞子みたいな見た目によらず超アクティブ。

たまに電柱の上から天狗とか探してる。

 お姉さんとの出会いは、ある春の日。僕が近所の甘味処で全メニューを制覇した日のことだった。

 店を出てきた僕に、お姉さんはいきなり、こう話しかけてきたんだ。

「やあ、少年。小豆洗いは見つかったか?」

 モンブランのマロンクリームみたいな金髪と、ブルーハワイのかき氷みたいな碧い目をした、とてもきれいなお姉さんだった。

 そして僕は。

 いままで恋愛になんて一つも興味がなかった僕は。

 よりによってそのミステリアスなお姉さんに、一目惚れをしてしまったわけだ。


 それから三ヵ月が過ぎた。僕はお姉さんに会うためにあの甘味処に向かう。毎週末、金曜日のサッカー練習が終わったあとのひそかな楽しみだ。

「やあ、夏少年。一週間ぶりだな!」

 お姉さんは奥の席から、僕に向かって手を振る。いつものことだけれど、お姉さんの周りの席には人がいない。せっかくきれいな色の金髪なのに、無造作に伸びっぱなしにしているために、どうやら不気味がられているらしい。

 お姉さんの名前は雪宮エリザ。イギリス人とのハーフで、妖怪研究家だ。何やら怪しげな職業だけど、一応、自称ではないらしい。正確には「妖怪に関する伝承を専攻している人文学のポスドク」らしいけれど、僕には研究の世界のことはよくわからない。

「今日も私のおごりだ! なんでも好きなメニューを頼みたまえ」

 そう言ってお姉さんは僕にメニューを差し出してきた。僕はメニューの味を一つずつ思いだしながら、どれを頼むか慎重に考える。

「じゃあ、暑いしクリームあんみつにしようかな」

「ふむ。わかった。私も同じものにしよう」

 お姉さんは女将のおばあさんを呼び止め、クリームあんみつを二つ注文する。

 そして、注文が終わると僕に向き直って、いつもの質問をぶつけてきた。

「それで、どうだ。小豆洗いは見つかったか」

 三ヵ月前、甘味処のメニューを全制覇した時には、ここのメニューを全制覇すると、妖怪小豆洗いが見えるようになるなんて噂、全く知らなかった。単にここのお菓子が好きだったので、全制覇しただけだ。

 それを、僕が噂目当てと思って、声をかけてきたのがお姉さんだった。

 結局誤解は解けたけれど、本当の妖怪と出会える日を夢見ているというお姉さんは、それから毎週僕に『小豆洗いは見つかったか』と確認しに来ている。

 そんなに興味があるなら、お姉さん自身も全メニュー制覇してみればいいだろうと思うかもしれないが、お姉さんは重度のキャッサバアレルギーで、どうしてもタピオカグリーンティーが飲めないのでしょうがない。

 まあ、僕としては大好きなお姉さんに毎週会うことができて、役得ではあるのだけど。

「それが、まだ……」

 僕がいつも通りの答えを返すと、お姉さんはがっくりと肩を落とした。

 本当は、嘘でも小豆洗いが見えたと言って、お姉さんを喜ばせたほうがいいのかもしれないけれど、やっぱり好きな人に嘘をつくのはよくないと思うんだ。

「ううむ、あれから三ヵ月経つのに見えないとなるとな……」

 考え込むお姉さんに、僕はぎくりと肩を震わせた。

 まずい、お姉さんが『小豆洗いのうわさはデタラメだった」なんて思ってしまったら、もう僕に会いにきてくれなくなってしまう。

「でも今週は見えなくても来週は見えるかもだし、そんながっかりしないで――」

 僕は思わず、お姉さんのほうに身を乗り出した。

「やっぱりこの店に裏メニューがあるという噂は本当だったんじゃないか?」

 そのタイミングで、お姉さんがガッツポーズをしようとしたので、僕の顎に拳がクリーンヒットする。

「す、済まない! 大丈夫か、少年!」

「大丈夫です!」

 サッカー部のヘディングで鍛えていなかったら、気絶するところだったけれど。

「それで、このお店の裏メニューって何なんですか?」

 僕はお姉さんに尋ねる。

「ふむ、その話、俺も聞かせてもらっていいか」

 突然隣から声がしたので、僕はびくりと飛び上がった。

 いつの間にか、隣の席に無精髭を生やした、死んだ目のおじさんが腰かけていた。

 お姉さんとの話に集中していたので、おじさんに気づかなかったのはしょうがない。けれど、それより、ぼさぼさの金髪でハイテンションに小豆洗いの話をしているお姉さんに物おじせず、隣に座ってきたおじさんって、やっぱりただものじゃないよな……?

「ふむ、御仁も小豆洗いに興味がおありか」

 お姉さんの目がキラリと光る。

「名を聞いてもよろしいかな」

「……野沢明人」

 おじさんがぶっきらぼうに答える。

「明人氏か! 気に入った! 私たちとともに妖怪小豆洗いをハントしようではないか!」

 お姉さんがおじさんの肩をバシバシと叩く。その様子を見て、ぼくは少し嫉妬を感じてしまった。こんなにいきなりお姉さんと仲良くなるなんて。

「御託はどうでもいい。それより、裏メニューの話を聞かせてもらおう」

「うむ、私が妖怪調査の過程で聞いた噂によれば、この店には、メニューに載っていない裏メニューが存在するらしい。夏少年に小豆洗いが見えないのは、あるいはその裏メニューを含めた全メニューを制覇していないからかもしれない」

 真剣な顔で、お姉さんは僕たちに言った。

「そんな噂が広まっちゃって、困ってますよ」

 厨房からクリームあんみつを持ってきた女将さんがため息をつく。

「うちが出せるメニューはすべてメニューに載ってます」

「あはは、ですよね」

 僕は曖昧に愛想笑いを浮かべた。

「ところで、今かかっている店内BGMは? ずいぶん昔の曲のようだが」

 よりによってその店の中で裏メニューの話を出すなんて、確かに迷惑な客かもしれないと反省したらしい。お姉さんも慌てて話題を変える。

「主人がバンドをやっていた頃の歌なのよ。棚の奥から出てきたら、なんだか懐かしくってね」

 女将さんが笑いかけた。

「へえ、旦那さん、バンドやってたんですね」

 僕は何度か店先ですれ違ったことのある旦那さんの顔を思いだす。こう言っちゃアレだけれど、めちゃくちゃ意外だ。

「結構有名人だったのよ」

 女将さんが顔を赤らめた。

「うむ、人に歴史ありとはよく言ったものだな」

 お姉さんもそんな話に感心していた。

 けれど。

 おじさんが一人だけしかめっ面だったのは、僕の見間違いだろうか……?


 それから一週間、僕は甘味処の裏メニューについての噂を集めた。

 小豆洗いまで本当かはわからないけれど、せめて裏メニューの噂だけでも本当ならお姉さんが喜ぶと思ったから。

 そして、金曜日の朝練で、僕はついに裏メニューの情報をつかんだんだ。

 情報源は隣のクラスの田中だ。

「甘味処の裏メニュー? ああ、その話なら聞いたことがあるぜ」

「本当!?」

 リフティングしていたボールを取りおとすのも構わず、僕は田中の話に食いつく。

「ああ。俺は甘いもの好きじゃないから、頼んだことないんだけどな」

「でも、女将さんはそんなメニューはないって言ってたけど」

「裏メニューは女将さんじゃなくて、旦那さんに注文しないとダメらしいぜ」

 旦那さんが出してる裏メニュー? それにしたって女将さんが全然知らないなんてあり得るのかな? うーん、裏メニューって謎めいてるなぁ。

「もしかして、注文する気か?」

 僕が真剣に裏メニューの話を聞いているのを見て、田中は急に深刻そうな顔になる。

「お前が甘いもの好きなのは知ってるけど、気をつけろよ。『裏メニューを食べると妖怪が見えるようになる』なんて噂があるからな」

「妖怪が!?」

 どうしよう、裏メニューの噂といっしょに、小豆洗いの話まで本当っぽくなってきてしまった。

 これはもう、裏メニューを注文してみるしかないじゃないか。


 その日の放課後。僕は仮病を使って練習をばっくれ、一目散に甘味処へ向かった。

 お姉さんが来る前に裏メニューを制覇して、びっくりさせたかったんだ。

 甘味処の前できょろきょろして旦那さんを探すと、ちょうど打ち水をしに出てきたところに出くわした。

「あっ、旦那さん! こんにちは」

「君は常連の夏君だったかな?」

 旦那さんは僕を見て首をかしげる。

「あ、あの。旦那さん。僕、このお店の裏メニューを食べてみたいんですけど」

「裏メニューを?」

 旦那さんの目が怪しくきらりと光った。僕は一瞬謎の寒気を感じる。

「ちょっと待ってな。今奥から持ってくるからね」

 旦那さんが店の裏側に引っ込んでいった。

 いよいよ小豆洗いを捕まえて、お姉さんのところに連れていくことができるかもしれない。僕は胸の高鳴りを感じる。

「ん?」

 ふと誰か見られているような気がして、僕は振り返った。後ろには誰もいない。

 気のせいだろうか……あるいは、小豆洗いの視線?


 しばらくの間をおいて、旦那さんが置くから出てくる。手に握られていたのは、小さな袋に入った白い粉。砂糖かな?

「はい、おまちどおさま。一万円だよ」

「い、一万円!?」

 いきなりとんでもない金額をつきつけられて、僕は面食らう。

「ええっ、僕、そんなにお金持ってないよ!」

 ただの砂糖に一万円なんて、冗談でしょ?

「おや、買えないのに注文したのかい? でも、この裏メニューは絶対の秘密なんだよ。それを見て買わないというなら、ただで帰すわけにはいかないねぇ!」

 旦那さんが徐々に語気を強め、僕に襲い掛かってきた。

 なんでかわからないけど、絶体絶命!

 そう思ったけれど、次の瞬間旦那さんの体が勢い良く横に吹っ飛んだ。

「え……?」

 横に吹っ飛んだ旦那さんの代わりに、そこに立っていたのは、先週のおじさんだった。

「おじさん!?」

 どうやらおじさんがタックルで旦那さんを弾き飛ばしたらしい。

「おい、小僧。この粉が何か知っているか?」

「え……?」

「知っているのかと聞いているんだ!」

 おじさんの剣幕に、僕はびくりと縮こまる。

「……知らんようだな。ならいい。警察には俺から話しておこう」

「警察?」

「ああ。先程通報しておいた」

 どうしよう、全然話がわからない。

「どういうことなの?」

「――夏少年!」

 首をかしげていると、突然、お姉さんの声が聞こえた。

 そちらを見ると、丁字路の角からお姉さんがこっちを心配そうに見つめていた。ここまで走ってきたのか、息が上がっている。

「無事だったか!? まだ裏メニューは食べていないな!?」

 お姉さんは僕を息が止まるほど強く抱きしめる。

「ちょ、お姉さんまでどうしたの!?」

「先週の時点で気づかなかった私が迂闊だった。裏メニューの正体はな、麻薬だよ」

「麻薬!?」

 あの白い粉が!?

「ああ。妖怪やら神やらとの交信は、たいていが薬物によるトランス状態のことだ。民俗学の世界では常識だが、本物の小豆洗いに対する期待のあまり、ついうっかりしていたようだ。夏少年を危険な目に遭わせて済まなかった」

 お姉さんの説明で、僕は自分が知らずに麻薬を買いそうになっていたことを知った。

「じゃあ、おじさんはそれを知っていて助けてくれたの?」

「勘違いするな。お前を助けたわけじゃない。ただ、こいつには昔、ちょっとした借りがあってな」

 おじさんは旦那さんを睨みつけて、吐き捨てるように言った。

 そこで、パトカーのサイレンが近づいてきた。


「じゃあ、小豆洗いは本当にいるわけじゃないのか……」

 一通り警察の事情聴取が終わって、僕とお姉さんは帰路についていた。少し落ち着いてくると、急に寂しさがこみあげてくる。すっかり沈んだ夕陽とひぐらしの鳴き声が、その寂しさをより加速させた。

 だって、小豆洗いがいないんだったら、お姉さんが僕に会う理由はもうなくなってしまうから。

「まあ、正直小豆洗いに関してはがっかりだが、私は夏少年が無事で何よりだ」

 お姉さんが僕の肩にそっと手を置く。

「その……これからはあまり無茶するなよ。――ほら、ここから別方向だったよな」

 いつも別れる交差点についてしまった。

 ここで別れたら、もうお姉さんと会うこともない。僕の目頭がきゅうっと熱くなった。

 そのとき、どこらか弦楽器の音が聞こえた。

「……誰かがギターでも弾いているのかな?」

「こんな時間に、何もない住宅街で……?」

 お姉さんがふと考え込む。そして、しばらくして、ぼそりとこんなことをつぶやいた。

「三味長老」

「しゃみちょーろー?」

 僕は訊き返す。

「三味線の妖怪だよ! きっとそうに違いない! やっぱり夏少年には妖怪を引き寄せる才能があるようだ!」

 満面の笑みで、お姉さんは僕を振り返る。そして、不意に僕のおでこにキスをして。

「これは三味長老の音色を聞かせてくれたご褒美だ」

 と、言った。

 イギリス人とのハーフであるお姉さんにしてみたら、深い意味はない友情のキスかもしれないけれど、それでも僕はドキドキが止まらない。

「これからもよろしく頼むよ、夏少年! しばらく甘味処は休業だろうから、来週の金曜日は、駅前のケーキ屋で落ち合おう!」

 そう言って、お姉さんは足早に去っていく。僕はそこからしばらく動けなかった。

 お姉さんの後ろ姿が完全に見えなくなって、僕はようやく歩き始める。

 そして、雑居ビルの陰に隠れた『三味長老』に、僕はお礼を言った。

「ありがとう、三味長老の『おじさん』」

キャラクター共有企画、小さい頃に友達と企画して企画倒れになったりしましたよね!?

こうやって大人になってからやってみると、新鮮な発見でいっぱいでした!

いわゆるなろう受けする作品ではない、というか身内受けしかしない企画ものでありますが、

供養のために置くだけ置いておきます!

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